その一閃は、今まで何よりも鋭かった。
彼の全身全霊。最もフォトンが集束し、敵の“虚”も完璧に捉えていた。防御も、回避も出来なかっただろう。ソレで居て、貫けぬモノは無いと自負する、最高の一閃だった。
「――――」
間違いなくその攻撃は【仮面】を仕留めていた。
「…………」
接触する手前で、フォトンの刃を維持できなくなったカタナは、無理やり流し込まれるフォトンに耐えきれず、炸裂するように刀身が砕け散る。
不運? 整備不良? この武器を使い過ぎた? どれも違う。しかし、その全てが当てはまるだろう。
【仮面】へ突き立てた一閃は、間違いなく完璧だった。唯一、完璧でなかったのは、磨耗した
本来のアークスの武器は、整備用のマニュアルと、不具合が出た場合や故障の恐れがある場合は、所持IDを通して自らの端末に告知されるようになっている。
しかし、シガの持つカタナは試験武器。耐久性の上限を測るために、その告知は無かったのだ。
限界を……見誤った。
【仮面】に触れる前にカタナは攻撃性を失い、刀身はフォトンの刃を維持できなくなったのだ。しかし、攻撃能力は失ってもシガ本人の突進は止まらない。
「――――」
先ほどの接近から、【仮面】は警戒するように、シガと入れ違うと距離を取った。そして、積もった雪に突き刺さっている
「っと」
シガも着地。そして使えなくなったカタナを鞘に納めると【仮面】へ視線を向ける。武器を手にした敵は、こちらの命を一撃で奪える。ここからの戦いは、一秒たりとも奴の姿を視線から外すわけにはいかない。
「形勢が――」
逆転していた。カタナはもう使えない。シガに武器は無いと判断した【仮面】は、彼へ眼にも止まらぬ速さで踏み込むと、コートエッジDを斜め下から振り上げていた。
「本気で、変わったと思うか?」
戦闘形態へ発動した
「…………」
動かない。【仮面】は
「あの時は不発だった。だがな……今はどうだ?」
シガの攻撃意志を表す様に指部へ、重なるように更に青色のフォトンの“爪”が展開された。
「『フォトン・エッジ』!」
音を立てて、コートエッジDは砕け散る。ソレによって、残った下半分だけを握り、退く事が出来るようになった【仮面】は後ろへ下がり距離を取った。
「逃がすか!!
シガは、コートエッジDの破片を捨てると、“爪”を横なぎへ。【仮面】はまだ、こちらの攻撃範囲内だ。
「――――」
しかし、“爪”がどこを裂くか読んでいるかのごとく、【仮面】は軌道を見切っていた。その場で低く跳び上がり、斬り裂かれる空間の“間”に身体を預けて躱す。
シガの前方には、五本の斬り裂き痕が、崖や木々を斬り裂いていた。
「本当に何者だ? お前は――」
距離が開く。“爪”は一旦解除するが、
「“
カタナの時は、多少は食らっても問題ない様子で躱していた。しかし、
“爪”は短く集束すれば威力と攻撃速度が出る。今のも相当だったのだが、大振りである以上、次は躱して接近して来るだろう。
「出力……30か。オレにしては、そこそこ出来るようになったよ」
しかし、オーラルとの研鑚を重ね、今は出力を30%で“爪”を展開できる。無論、それだけの出力でも両断できなかった物は今の所皆無。そして、それは――
「お前も例外じゃない」
「…………」
明らかに【仮面】はシガの左腕を警戒していた。これ以上近づけば、避けられないと悟っている様だ。
そうだ……よく考えろ。武器無しで、オレを殺すにはお前も命を賭けないといけない。
まだ、シガがカタナを使える状態で持っていれば、ソレを奪われる懸念もあったが、壊れている以上、この場の武器は
「いいのか? 騒ぎを聞きつけて、他のアークスが来るかもしれないぞ?」
シガの言葉に【仮面】は少しだけ反応した。そう、派手な一撃を見舞ったのも、それが狙いだ。今、この凍土には、六芒均衡の一人であるマリアがいる。
彼女がこの状況に気づけば、間違いなくこの場にやって来るだろう。
「――――」
すると、【仮面】は何を思ったのか、おもむろにコートエッジDの折れた断面に触れる。次の瞬間、生えて来るように折れた部分が再生された。
「…………ん?」
あまりの光景に、自分が圧し折り、投げ捨てた
「ソレも“ダーカー”かよ!?」
踏込み、振り下ろしていた【仮面】の重い一撃を左腕で掴み止める。あまりの攻撃力に片膝が折れて、雪の上に着く。
まずい……この態勢は脚に力が入らない……
押し潰されるような
「ったくよ……本当に勝てないか――」
出力……50%――
【仮面】の振り下ろしていたコートエッジDは吹き飛んだ。
左腕の攻撃力は侮れない。故に【仮面】は攻撃しつつも回避の事を常に考えていた。しかし……警戒していたにもかかわらず、武器は弾き返され、その所為で次撃に繋ぐタイミングを完全に止められてしまった。
「…………」
距離を取りつつ、【仮面】は
「こっちは、まだ……出力は50%以上じゃないと使えなくてな。しかも燃費も悪い」
退いた【仮面】に対して、シガは真っ直ぐ向き合うように膝を立てる。もはや目の前の敵を畏怖していた影は一片も無い。
「理由は知らないが、お前がマトイを狙ってるのは解っている。コレも何か理由があるんだろ?」
シガはこの場で拾った、例の武器の事を告げる。
「世の中、上手く行かないもんだ。オレ自身が身を持って体験してるからな」
そう、上手く行く事なんてそうそうありはしない。皆、なにかしらの壁に突き当たる事は多いのだ。ただ、
「今回ではっきりしたよ。お前も“死ぬ”ってことがな」
シガの赤い瞳には、得体の知れない敵だけが映っている。それは、臆することなく目の前の敵を“倒す”と決めた『戦士の眼』だった。
お前を倒す。覚悟しろ――
仮面さんの武器。どこで整備しているのか不明なため、ダーカーと言う事にしました。ちょっと無理がありすぎるかな?
ここで29話でチラッと話に出た新しい攻撃能力が発動しました。次話は、ソレを主体に【仮面】と攻防が繰り広げられます。
次話タイトル『Shock! 撃』