ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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34.Shock! 撃

 「…………ハッ!?」

 

 シガは意識が覚醒すると同時に、背中に響く鈍い痛みに耐えながら、仮想ルームの床から跳ね起きる様に立ち上がると即座位にファイティングポーズを取った。そして焦るように周囲に視線を巡らせる。

 

 「目を覚ましたか」

 

 少し離れた所にある備え付けのコンソールの内部をいじっていたオーラルは、シガの覚醒に作業の手を止めた。そして、コンソールの扉を閉める。

 

 「何やってたんですか?」

 「もうじきバージョンアップをするからな。基礎データの抽出を行っていた」

 

 他の惑星の原生生物の情報や地形データが集まってきているとの事なので、近々、ナベリウス以外のデータで仮想訓練も出来るようになるらしい。

 

 「……オレ、どれくらい眠ってました?」

 

 周囲を見渡すと、相手していたリサさんや、マールー先生とテオドールもいなくなっていた。

 

 「20分くらいだ。リサはつまらないから、生を撃ちに行くと惑星に降りていった。マールーとテオドールは、一緒にナベリウスに行っている。森林の自由探索許可を取るんだと」

 

 テオドールの手伝いか。アイツは、何かと弱腰だし、最初の内はその方が良いかもしれない。

 

 「シガ。お前は『アイン』をどのくらいまで制御できるようになった?」

 

 オーラルはシガの左腕――フォトンアーム=アインの様子を尋ねた。戦闘にも交えるつもりで、訓練でも良く使っているが、やはり無意識に出力を出すのを躊躇っていると自覚している。

 

 「えーっとですね。30%で『フォトン・エッジ』を使えるようになりましたよ。有効射程も10メートル近くに増えましたし」

 「だが、伸ばせば伸ばすほど、攻撃力が下がるハズだ」

 

 基本的に、フォトンを使う関係上、根元が高い出力を持つのは必然だ。10メートルまで伸ばせるとは言っても、その先端の攻撃力はそれなりの防御力を持つ敵は貫けないだろう。

 

 「無駄に攻撃距離を伸ばして安定しない形にするよりは、次の段階に移るぞ」

 「次の段階?」

 「元々、『フォトンアーム』は武器を介さずともフォトンを攻撃性に置き換える事が可能だ。その過程で、三つの攻撃パターンを想定してある」

 

 元より、防御に特化した義手を作ることは難しくない。しかし、義手の指部を損傷した際に両手仕様の武器が安定して使えなくなる懸念から、単独で武器に匹敵する攻撃能力を内蔵する意図で攻撃機能もつけてあるのだ。

 

 「その内の一つが、お前もよく使っている『爪』だ。この形態は指部の延長としてフォトンを纏う関係上、攻撃形状をイメージしやすい。お前もすぐに使えるようになっただろう?」

 「はい。まぁ、指の延長って考えれば――」

 

 シガはモノメイトを空中で放る。ソレを『フォトン・エッジ』を作り出し二本の爪で壊さない様に挟み込む。最初の頃は、攻撃する事しか考えていなかったが、今ではそれ以外の精密動作も、そこそこ出来る様になっていた。

 

 「形状のイメージが十分に出来る様になっているのなら、次はソレをぶつけるイメージを持て」

 「ぶつける?」

 

 オーラルの言いたい事を一言では理解できなかった。聞き返すと、実際に見せる、と目の前にガロンゴを仮想ルームに出現させる。

 

 「よく、お前が轢かれてる奴だ」

 「……恥を上塗りする為に、ソイツを選んだんですか?」

 

 目の前のガロンゴには良い思い出は無い。厄介で、近接武器しか持たない身としては中々刃が通らず、厄介な相手だ。

 

 「『爪』は基本的に形状とフォトンを固形化するイメージが必要だ。そのため、使用にはラグがあって、敵にも視認させやすい」

 

 ガロンゴは目の前でくるまると、車輪の様になりその場で回転を始める。

 

 「今から教えるのは『撃』だ。フォトンを拳、又は掌に集中し――」

 

 火蓋を切ったようにガロンゴは突進してくる。シガは轢かれないように、何気なく車線から外れた。

 

 「敵に叩き込む」

 

 オーラルは回転突進してくるガロンゴに正面から掌底打を叩き込んだ。勝敗は見なくても分かる。あの突進を止めるには、突進の衝撃に耐えるか、突進以上の衝撃で撃ち返すしかない。

 掌底打と、ガロンゴの回転してくる甲皮が接触した瞬間、破裂するような音が響いた。そして――

 

 「……マジですか」

 

 ガロンゴの甲皮が砕け、まるで一点だけが砕けて内側に凹むと、空箱の様に吹き飛んでいく。そして、行動不能になった事で仮想(バーチャル)のガロンゴは消えて無くなった。

 

 「フォトンは様々な用途として使われているが、極めて高い攻撃性を持たせるのがアークスの武器だ。そして、『フォトンアーム』も例外じゃない」

 「オレとしては、武器も無しに、攻撃性に変換したオーラルさんの方が凄いんですけど……」

 「72年も生きてれば、これくらいは出来る。とは言っても、仮想のガロンゴを吹っ飛ばせる程度だ」

 

 それでも、十分すぎる能力である。キャストのフォトン変換性能は、自然と長生きする関係上、高い技量を持つ事でも知られている。しかし、オーラルが見せたモノは武器を介さずに少ない周囲のフォトンを集めてガロンゴを吹き飛ばすほどの威力を持つと言う、常人ではそうそうに真似できない事だ。

 

 「話を戻すぞ。今ガロンゴに叩き込んだのが『撃』だ。『爪』と違い、こちらは物体の接触で生まれる反発作用――“衝撃”をフォトンで再現する必要がある」

 「つまり……『爪』の様に、“実”を想像して出来るものじゃないって事ですか?」

 

 形の無い、瞬間的に発生する現象。それを作り出せ、と言われても易々と出来ないだろう。

 

 「そうだ。形の無い“衝撃”を左腕に作り出す。最初は握り拳の表層か、手の平が良いだろう」

 

 早速、シガは左腕の拳に意識を集中する。フォトンの流れを操るのは造作もない。しかし、ソレを“衝撃エネルギー”に変換するのはどうもイメージが湧かない。

 

 「……難しそうですね」

 「だが、それだけの価値はある。『爪』よりも発動は早く、『撃』は“面”を破壊する事に適している。これから、別の惑星に行くのなら、『爪』だけでは必ず限界が来る。せめて、これくらいはフォトンを使いこなす意味合いで、挑戦してみるといい」

 

 

 

 

 

 左腕を前にする半身の構えは、『フォトンアーム=アイン』を盾にする様な構え方だった。そして腰を落し、中腰の姿勢で真っ直ぐ敵を見据えている。

 

 「…………」

 

 【仮面】はその構えが容易に踏み込めないモノであると悟っているのか、武器(コートエッジD)を構えたまま動かない。

 先ほどの荒れる様なフォトンの流れとは一変し、今は静寂に包まれている。シガも、出力を50%も解放している以上、集中力は長く続かない。このまま出力が沈下してしまえば、次に襲うのは疲労感だ。

 

 その針を通す間も無いほどに油断できない戦いの場では、ソレは決定的な隙を生みかねない。

 

 「……だな」

 

 自分の中で結論をシガは出す。そして、【仮面】に対し悠然と歩を進めた。

 

 「――――」

 

 その進んでくるシガに【仮面】は困惑する。先ほどまで、こちらの攻撃をしのぐ事しか出来なかったハズ。どういう事だ?

 

 「…………」

 

 だが、浅はか過ぎる。次の一歩で、逆に踏込み……叩き斬る――

 その呼吸を【仮面】は的確に捉えていた。シガの悠然と歩いて来る足運びは隙だらけなのだ。こちらが、得体の知れない攻撃に恐れて初手を許すと思っている事を“死”を持って正すつもりで――

 

 「――あら? 入れちゃったよ」

 

 その待っていた“一歩”は来なかった。シガは半身に身体を向け、出来るだけ接近の際の抵抗を減らし、持てる限りの瞬発力で【仮面】へ左腕(フォトンアーム)が届く距離まで接近していた。

 

 「――――」

 

 シガの狙っていた呼吸と【仮面】の狙っていた呼吸は、たった一歩の差である。シガが先に“虚”を突いていたのだ。僅かに遅れて【仮面】は武器(コートエッジD)を振り下ろす。

 

 「――――は……」

 

 先に振り下ろされたコートエッジDによって、どちらが早かったのかは明らかだった。白い積雪にシガの血が散る。ロジオより渡されていた記録機材ごと、右眼を縦に通る傷は間違いなく【仮面】の攻撃が当った事を証明していた。

 

 「……貴様――」

 「ようやく、喋りやがったな」

 

 シガは誘ったのだ。相討ちでは“負け”。だから、【仮面】が攻撃し、行動が硬直する“隙”を作らせた。あえて、ゼロ距離で敵の攻撃を右眼だけを犠牲にする形で、(ソレ)を掴みとっていた。

 

 「オレは越えて行くと言った!」

 

 地面を踏みしめ、歯を喰いしばり、『撃』を作り出した左腕を渾身の力で突き出す。

 

 「『フォトン・ショック』。接撃(コンタクト)!!」

 

 左腕が触れ、短く何かが破裂する音が響く。そして、次の瞬間――緑色のフォトンが弾けるように、辺りの木々を揺らし、積雪を吹き飛ばした。




 思考を持つ者同士、戦いの駆け引きは重要だと思います。特にタイマンですと、先に一撃入った方が有利でもあるので、その一撃を得るためにシガと【仮面】の意向錯誤を描写しました。
 そして次回は援軍が到着します。ストーリーをやってる人ならピンとくるあの二人です。

次話タイトル『Counterattack 合流』
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