3.Partner 相棒(☆)
『オラクル船団』
マザーシップと呼ばれる旗艦を中心に、多数のアークスシップで構成された船団である。
一つの惑星に匹敵する全長を誇る、マザーシップを守るように航行しているのがアークスシップと呼ばれる、基本的な活動拠点であった。
その、アークスシップを主軸に、外惑星へ調査に赴く事が目的の部隊がアークスと呼ばれる者たちである。
彼らは、『フォトン』と呼ばれる特殊な粒子をその身に宿し、エネルギーとして変換する事が出来る。だが、フォトン変換を誰もが持ち合わせている訳では無く、限られた適性者のみが選抜され、“アークス”となる事を許されるのだ。
未知なる惑星に、誰よりも自由に足を踏み入れる事が出来る一方で、数多の脅威に、矢面となって立ち向かう事も、アークスの存在意義であった。
『新たに誕生する「アークス」よ。今から諸君は、広大な宇宙へと第一歩を踏み出す。だが、こうして私の話を聞いている君たちには愚問な言葉だ。各々のパーソナルデータを入力せよ。我々、先人となる者達は、諸君ら――新たな
演説するかのように、此度惑星ナベリウスに向かうキャンプシップ全てに映像と共に流されていたのは、純白の外装を施された一体のアンドロイドからの言葉である。
重々しく、歴史を感じさせるその口調はアークス内でも知らぬ者が居ない程の有名人であった。
三英雄の一人――レギアス。
40前にあった、ダークファルスとの大戦――『
「歓迎する、ねぇ」
アークスになって初めて支給される
シガは修了生としてアークスシップに乗って、惑星ナベリウスへの到着を待っていた。
周りには自分とは違い、正当に数年間のアークス研修生として卒業した者達もナベリウスに着く時を、今か今かと待ちわびている。
「念願のってわけか」
そのような、数日前まで学生だった者達から見れば、映像と教本の世界に、今日が第一歩の日になるのだろう。
特別に裏枠で、このキャンプシップに乗っている身としては、その様な者達には少し悪い気もするが、オーラルさんは知識も戦闘力も十分実践レベルだと言っていたので、黙っていれば問題ないだろう。
「…………」
義手の調子も悪くない。オーラルさんは、外気フォトンに左右されて動きが鈍る可能性があると言っていたが、今のところは問題なさそうだ。
「肩の凝る話だよな? みんな、承知の上で来てるってのによ」
と、シガの雰囲気に共感した者がいたのか、少し気弱な様子で話しかけてくる少年が居た。中性的な顔立ちに、初対面にもかかわらず、気さくな様子で話しかけてくる。
シガのような一般的な耳を持つ
「おれはアフィンって言うんだ。よろしくな、相棒!」
と、同じくアークスに初期支給される
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
惑星ナベリウス。
澄んだ空。視界をまばらに覆う森林。時より流れる心地よいそよ風は、爽やかな雰囲気を一層濃くしている。
衛星軌道上からでも確認できる程の緑が生い茂ったこの惑星は、大きく森林エリアと凍土エリアに分けられていた。
森林エリアは、比較的に
二人一組として、別々の区画に転送され、シガとアフィンのペアが足を着けたエリアは、程よく拓けた広場だった。
風に合わせて揺れる木や、地面から伸びる草花が新鮮な空気を肺に入って来る。二人が転送されたのは、森林エリアでも特に安全が確認されている地域であった。
「すげーな。あっちもこっちも緑だらけ。なんだかワクワクしてきた」
始めて見る、人工物ではない生の大自然にアフィンは感動していた。
「うっお。こんなに、凄かったのか」
シガも同様に心震えるモノがある。
映像や、仮想訓練では決して味わえない、この場に居ると言う現状は、アークスでなければ一生感じる事の出来なかっただろう。
「昼寝してぇ」
上空から、さんさんと降り注ぐ陽射しも、いい感じに眠気を誘う。そう言えば、昨日の夜は緊張して中々寝付けなかった。明日へのワクワク感は、記憶が無くても全人類共通であるらしい。
「っと。相棒、おれたちは最終試験に来てるんだ。さっさとパスして、自由に行き来できるようになろうぜ」
アフィンの人懐っこい性格とシガの楽天的な性格は、いい感じに引き合っていた。初めて会話をして数十分にもかかわらず、二人は意気投合して修了試験に当る意気込みだった。
「そうすれば、昼寝し放題だな」
既に、別の目的が出来つつあるシガは、軽く欠伸をしながらアフィンと共に歩き出す。目的は特に言及されていない。調査との事だが、実際は歩くだけでも背中のDICSユニット(戦術サポートユニット)に、現場の情報が自動的に記録されるようになっている。
武器も所持が許されているが、ある程度歩くだけで“調査”としては問題ないだろう。
「お! ありゃ原生種だ。元気だなぁ」
大自然の中を道なりに、のんびりピクニック気分で歩いていた、シガとアフィンの前に、一匹の生物が現れた。
ナベリウスの情報に関しては、二人とも一通り目を通している。その生態系で、もっとも一般的な生物だ。
猿のような外見で、動きもソレに近い行動をする原生生物『ウーダン』である。
「確か、『ウーダン』だったよな? まいったなぁ。動物用の翻訳で何とかなるか?」
完全に浮かれ気分の二人に、意気揚々とウーダンは近づいて来る。
肥大化した両腕に、前かがみの全形。下半身が小さく、近づいて来る際も、両手を使った四足歩行だったところを見ると、普段から両腕を使う事が当然であると推測できる。
「ウホウホ」
試しにシガが、そんな言葉で話しかけてみる。当然、通じるハズも無く、むしろ縄張りを荒らされて怒っている様だった。
「ど、どう見ても、仲良くしましょうって雰囲気じゃねぇよな!?」
「おっかしーな。ウホウホで通じると思ったんだけどなぁ」
「全然意味わかんないぞ!? とにかく、迎撃しよう!」
ウーダンは、両手を拳に握り地面につけると、身体を振り子の様に一度振って、その遠心力で二人に両足をぶつけて来た。
「ウホウホ。やっぱダメか」
シガは最後まで真面目に対応しようとしたが、流石にガンスラッシュを抜き、アフィンはライフルを構える。二人は、向かってきたウーダンの攻撃を、左右に別れて躱すと、それぞれの武器を向けた。
「前もって、サインを決めておこう」
ウーダンと出会う数分前、シガとアフィンはお互いの武器を紹介して、簡単な
「おれのクラスはレンジャーで、手持ちの武器はライフルなんだ。相棒は?」
「オレはガンスラッシュだな。何と言うか知り合いに紹介された人から買った。でも、さっきいじってたら部品が取れちゃったんだけど……」
昨日の夜、出来る限り慣らしておこうと素振りをしていたのだが、その時に何か部品が割れる様な音を聞いた気がする。
「あーあ。これじゃ、近接戦しか出来ないな」
「マジですか」
ナベリウスの事はオーラルからも話は聞いていた。原生生物は、遠くから岩を投げてくるモノや、生半可な攻撃では傷を負わないモノもいるらしい。
「でも、相棒が良ければ前衛と後衛を分ける戦い方で行けると思うんだが」
アフィンの言いたい事は、シガも理解できた。
戦闘訓練では、左腕の慣らしを基本に行ったため、一般的な武器の扱いは未熟も良いところなのだ。
ガンスラッシュを選んだのも、汎用性が高いと言われたからでいる。前衛も後衛も出来る武器だが、そのどちらも決定打に欠ける事も多々ある。汎用性が高い分、器用貧乏な武器でもあった。
「それじゃ、ソレで行くか。オレは正直な所、射撃はかなりセンスが悪いんだ。そっちは任せるよ」
シガも元々は近接主体で戦うつもりだったのだ。射撃は使えても牽制程度。必然と距離が開いてしまった時に使うぐらいにしか考えていなかった。
「それじゃ、立ち回りとして――」
「オレが近接で押さえる」
シガは、背後を移動するアフィンに意識が向かない様にウーダンに近接戦を挑んでいた。
ウーダンは、基本的な飛び道具を持たない。だが、距離が開いていれば高い身体能力で一気に間合いを詰めてくる。故に――
「お前の距離だぞ」
近接による応酬。ウーダンのリーチと速度のある横殴りを躱し、下薙ぎに振り上げて、その身体を斬りつける。
「おいおい、不良品じゃねぇよな?」
シガのガンスラッシュによる攻撃は、ウーダンの毛皮さえ断つ事が出来なかった。本当に武器なのか? それとも、
「……ない。二つ目は絶対に無い」
感じない。この二週間のオーラルとの戦闘訓練で常に当てられ続けた、
「こんなところで躓いている場合じゃない。だよな?
射撃地点――ウーダンの背後に、回り込んだアフィンはライフルの引き金を引いていた。
そのタイミングで、シガは横に飛び退き、アフィンの射線から外れる。使用者のフォトンを変換した弾丸は真っ直ぐ、
ウーダンは短い悲鳴を上げると、天を仰ぐように両手を持ち上げて、そのまま仰向けに倒れて二度と動かなくなる。その様子を最後まで見届けた二人は武器を仕舞った。
「ナイス、射撃」
「ナイス、近接」
シガとアフィンは、お互いにお互いの役割を称賛し、ソレが重なった事に一度笑い合う。そして、こつん、と拳をぶつけ合った。
次は、ストーリーで最も重要な彼女が当時します。ていうか、一日前の出発前日の話。