目の前でショートして停止している“機甲種”の群との戦いは、まさに接戦だった。ランチャーという、取り回しのしにくい武器を主体に使う自分としては、この結果はまだ良い方だ。
「……身体機能……68%ダウン……」
近くの“機甲種”専用の転送ポートを見逃していたのがまずかった。早い内にそちらの機能を止めておけば、ここまでの損傷は受けなかっただろう。
「……まず……い……」
磁場を持つ特殊な砂嵐が近づいてきていた。両腕部を損傷しテレパイプも取りだす事が出来ない。このままで、磁場で機能を停止して、そのまま砂に埋もれてしまう。
それは、言うなれば“死”であった。
キャストはヒューマンに比べて強靭な肉体を持つ欠点として、火事場の馬鹿力なる底力を持たない。機能が停止して、誰にも発見されなければ周りの停止している敵の残骸と同じ様に砂に埋もれるだけ。
「…………」
砂嵐に視界が覆われる。なんとか……まだ意識がある内にせめて物陰に――
しかし、磁場の影響でモニターの映像にもノイズが入りブレ始めた。完全に砂嵐に取り込まれてしまったと悟り、意識も遠のいていく。
不確かな意識の中、砂嵐の中を小さな影が近づいて来る姿を見た。しかし、そこで彼女の意識は闇の中へ吸い込まれて行った。
38.Survivor 三度目の対話
「…………ここ、どこ?」
シガは、眼を覚ますと草花の生い茂る、庭園の様な空間に居た。色々な花が咲き乱れ、辺り一面を覆っている。今まで見た事の無い場所だ。
惑星は大方回ったと思ったが、こんな所が存在するとは。
「……いや、いやいやいや! まさか、天国とか言わないよね?」
自分の姿を見た。いつもの
寸分変わらない、いつもの自分だ。となれば、ここは現実の世界と言う事だろう。
「新たな、マターボードが産まれた」
と、まるで空間からすり抜けて出て来るように聡明な黒髪の女性――シオンがその言葉と共に現れた。
「久しぶりー。シオンさん」
シガは、街角で知り合いと久しぶりに出会った雰囲気で彼女に話しかけた。
「新たなマターボード……これは、貴方の行為が意味を為し……事象が好転した事を示す」
変わらずに淡々とよく解らない言葉を話すシオン。もう慣れてきたシガは、彼女の言葉から何か、目的を果たした様であると悟る。いつも通りに行動しただけなのだが、彼女にとってすればとても大きな意味があったようだ。
「って、言っても……ただ任務に出て、やられただけですけどね」
知らず内に彼女の依頼も着々と進んでいるようだ。彼女の依頼の一番の問題は、明確な説明が無い事だった。理由があるのかもしれないが、そう簡単には行かないと思っているので長い時間をかけて理解していくしかない。
「わたしと……わたしたちから、千の感謝を。易き道程でない事を……わたしたちは知り、それでもわたしは貴方を頼った」
任務先での負傷の事を気にかけているのだろうか? 確かに、ロックベアや【仮面】との戦いでは最後まで立っていなかったと思うが……それでも目的は果たす事が出来たのだから――
「気にしなくていいよ」
「……貴方の意志に、わたしは感謝する」
彼女の正確な意図は読めない。しかし、彼女から感じる罪悪感は疑いの無い物として感じ取れた。だから、この程度はアークスの仕事の範疇だと、笑みで返す。
「貴方の認識において……優先事象の習得が行われている。その過程で得た物は、貴方以外に得られぬ物となる」
事象の習得? マターボードは正直言って、説明しようのない“感覚”のようなものだ。今回、彼女が“新たに産まれた”と言う言葉から推測すると、パズル盤の様なモノなのかもしれない。
ピースの無いパズル盤。必要な
「故に、貴方が手にした武器について……わたしは知らない。知り得ない」
そう言えば忘れてた。今回の凍土での一件で、最も注目されていたのが、あの武器。【仮面】も狙っていたようだ。しかし、壊れているので知り合いに引き渡そうと思っていた。
「ていうか、何で知ってるの?」
ちゃんとした返答は帰って来ないと思いつつも、何故あの武器を手に入れた事を知っているのか尋ねた。
「その質問には答えられない事をわたしは謝罪する。ただ、貴方にとって、いずれわかる事象であると……わたしは知っている」
「まぁ……あの武器の残りの破片を見つければいいって事?」
彼女が意識させる様に、ワザと例の壊れた武器を話題に出したと察した。つまり、あの武器の完成が、彼女が望んでいる事なのだろう。少しだけ目的が見えてきた気がする。
「幾度となく、貴方を頼らねばならないわたしを……どうか、許してほしい」
「別に全然無問題ですよ?」
いくつあの武器の破片があるかは分からないが、美女の頼みだ。断る理由はどこにもない。
「こうして貴方と話すまで、一日の時を要いた。多くの者達が心配している――」
「――――」
シガは眼を覚ました。場所はメディカルセンターの病室。
見慣れた光景だ。身体には点滴と、口には呼吸器が付けられている。そして、両腕を使ってソレを外した。
「あの時は……片腕だったっけ?」
左腕は付けたままにしてくれたようだ。おかげで、ベッドから起き上がるのも――
「ん? 痛い!?」
簡単には行かなかった。脇腹からの激痛に思わず身体が硬直してしまう。そして視界も右半分が真っ暗になっている。
「あー、忘れてた……」
倒れ込む様に起こした上半身を再びベッドへ身体を預ける。
「あの野郎~」
両方とも【仮面】から受けた傷だ。思わず憎たらしく奴を思い浮かべた。最後の記憶では、奴の顔面に出力100%の『フォトン・ショック』を叩き込み、姿形も残らずに消し飛ばしたところまで覚えている。しかし……
「…………死んだよな?」
なんとなくだし、考えたくもないが……奴の命には届かなかったかもしれない。何故か、そう思ってしまうような不安が残ってしまっていた。
「……もっと強く……ならないとなぁ」
マトイを護れない。そして、自分自身も――
「今は、身体を治そう……」
とにかく、身体を万全に動かせるようにしなくては。現状を見るに、色々な人に迷惑をかけた様だ。
シオンさんの、お告げの様な三度目の邂逅は夢の中だった。だが、夢ではない。マターボードは確かに変わっている。
「新しく産まれた……か」
具体的な道は決まらないが、大筋は決まった。とにかく、今は彼女の言っていた武器を完全に修復する事を目的に動こう。
シガは、近くの机に置かれていた自分のアイテムポーチを見つけた。誰かが気を使って、置いててくれたのだろう。手を伸ばして中身を確認する。
「……やっぱり、じっとするのは苦手だ。痛てて――」
そして、胸についた心拍を図るセンサーを外し、点滴の針も取ると、近くのハンガーに吊るされた
マトイは、ロビーでいつもの様にアークスの入れ替わる様を眺めていた。
いつもなら、ここでシガが何気なく話しかけてきて、驚いたり、信じられないような話をしてくれる。けれど、今は――
「…………」
やっぱり、こんな精神状態では意味が無い。マトイは日課の観察を早めに切り上げて、シガの病室へ向かった。
自動の扉をくぐって、中に入ると顔なじみの看護婦や、仲良くなった老人たちが気兼ねなく挨拶をしてくる。
「マトイさん。なにかありましたか?」
フィリアは、先ほど外に出て行ったマトイが、すぐ戻ってきている事に首をかしげた。
「あ……シガが気になって――」
あれから丸一日。シガは相変わらず眠り続けている。いつ眼を覚ますか分からないと言われて、自分に出来る事は何も無いと解っていても、いてもたってもいられなかった。
「シガさんは、大丈夫ですよ。私やオーラルさんもついています。もちろん、マトイさんも」
「でも……」
「もし、シガさんの為を思うなら、彼が目覚めた時にちゃんと迎えられるように、日ごろの生活リズムを崩さない事が大事です」
シガの事で心配するのも分かる。フィリアにとってもシガは、出来の悪い弟の様なものだ。仕事に没頭する事で誤魔化して入るが、無理をして倒れてしまってはそれこそ意味が無い。
「…………」
それでも、マトイは納得しかねる様子だった。何か言いたげに俯いている。
「……そうですね。そろそろシガさんの点滴を交換するので、マトイさんも手伝ってくれますか?」
フィリアが仕方ない、と言う風にそう告げると、丸一日暗かったマトイの表情が初めて明るくなった。
「フィリアさん! 大変です!」
と、別の看護婦が、慌てて駆け寄ってくる。落ち着いて、とフィリアの冷静な声に看護婦は落ち着きを取り戻した。
「心拍に異常が見られたので、急いで確認したんですが――」
彼女の口から出た情報を聞いて、思わずマトイは駆け出してしまった。フィリアも看護婦に、二、三指示をして後を追う。
そして辿り着いた病室には――
「…………シガ――」
棒立ちするマトイ。彼女が見ている視線の先には、もぬけの殻になったベッドと、ピー、と無機質な心電機器の音だけが響いていた。
シオンとの邂逅三度目です。はっきり言って、初見の方では本当に何を言っているのか解らないとおもいます。ていうか、EP1とEP2のストーリーをすべて調べたを私ですら、何を言っているのか理解するのに時間がかかりました。
彼女がこうも回りくどい言葉を選んでいるのは理由があります。その理由が回収されるのは、まだ結構先になりますが。
次話タイトル『Your smiling face 笑顔』