ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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39.Your smiling face 笑顔

 シガはしばらく歩いて、病室から抜け出したことを少しだけ後悔した。

 予想以上に腹部が痛い。それに片目が見えないと言う事も、慣れない距離間で何度も転びそうになった。

 

 「なんだ、お主か」

 

 それでも、シガは気合と根性で、気落ちした刀匠――ジグの元へたどり着く。しかし、流石に立っていられる程の気力は無く、へなへなと近くの手ごろな段差に座る。

 

 「……どーも」

 

 ジグはシガの様子を見ても、さほど驚きはしなかった。アークスと関わっていて、この様にボロボロな人間とも幾重と関わってきたのだろう。

 

 「昨日、言ってた依頼を覚えてます?」

 「なんだ? 何か見せようとでも言うのか? 無駄だ、無駄無駄。そんじょそこらの武器では、わしの冷めきった情熱は――」

 

 あからさまに否定するジグの声は無視して、シガはアイテムポーチから例の武器の破片を取り出した。

 

 「な……なんだ……これは!」

 

 はい、と差し出した棒状の武器の破片を見て、ジグは驚く声と共に、とびついてくる。

 

 「無駄しかないようなフォルムで、その実は全てがかみ合っている! この形状、どうやって作って……いや! それよりもこれだけの物を、どうやって錬成したと言うのだ!?」

 

 アークス内でも存在し得ないと判断した、謎の武器の破片を見ただけで、ジグはどれだけの代物かを瞬時に見抜いていた。若干、シガは引き気味になるほどに。

 

 「一体……これをどこで――」

 「あー、はい。信じてもらえないと思いますけど、氷の中です」

 

 他に言いようもない。シガは手に入れた経緯を知る限り詳細に説明した。

 

 「なんだと……しかしこれは……ええいっ! 悩むよりも行動じゃ!」

 

 入手過程はどうでもいい、と余計な思考をジグは振り払う。

 

 「お主、この壊れた武器の一部を貸してはくれまいか?」

 

 予想通りの反応をしてくれてシガとしては嬉しい限りである。

 

 「いいっすよ。別にオレが持ってても何の得にもなりませんし、壊れたままよりは、使えるようにしてもらった方が良いですよね」

 「うむ! そうだろう、そうだろう!」

 

 誰が使うにしても、壊れたままと言うのは良い気分はしない。それに、この武器の完成形状はシオンさんの頼みでもあると解釈している。

 

 「む、お主。他にも壊れた武器を持っているのか?」

 

 次にジグの修理センサーが感じ取ったのは、シガが凍土の調査で壊してしまったカタナだった。どういう原理か分からないが、ジグじいさんには、気づかれてしまったらしい。

 

 「試作品の武器が破損しただけです。別に新しい物を支給してもらうので――」

 「ふむ。この件の報酬とは言わんが……気持ちとして、そのカタナを修繕し、更に改良させてくれんか?」

 

 壊れたカタナ。正規の武器ではない為、修理されずに破棄される事になるだろう。しかし、刀匠の眼からすれば、まだまだ修理して使えるとの事だ。

 

 「すみません、これの責任者はオレじゃないんで……その代わり、責任者から許可を取ったら修繕依頼を出したいんで予約でいいっすか?」

 

 正直、手に馴染んだ武器が一番だ。フォトンの伝達性も最も合わせやすいし、新品を受け取るよりも遥かに良い。このカタナが直ると言うのなら、是非ともお願いしたいところだ。

 

 「その必要はないよ」

 

 ハァイ。と片手を上げて歩いて来る一人のヒューマンの女性が居た。赤い髪にどこか楽天的で飄々とした雰囲気と立派な胸が特徴のアークス――アザナミだった。

 

 

 

 

 

 「なんだ、元気じゃない。シガ」

 

 ニッ、笑ってアザナミは座るシガへ見下ろす様に視線を下げる。アザナミさんも、相変わらず立派ですね。

 

 「刀匠ジグ。実は、貴方に依頼をしたくてね」

 

 アザナミは、ジグにブレイバーの武器となる“カタナ”と“バレットボウ”の量産の為の雛型を作ってもらうつもりで訪れたのだ。

 

 「え、じゃあ。認可されたんですか?」

 「んにゃ。生産ラインにも余裕はないから、量産が出来る様に、武器の雛型の手配も必要だーって言われてね」

 

 今ある数本のカタナとバレットボウは、アザナミがデータを集める為に無理を言って作った代物だ。当然、最低限のフォトンを伝達する機能しかついていないし、安全装置もない。彼女の今の目的は、その全ての性能を持った“カタナ”と“バレットボウ”の雛型を手に入れる事だった。

 

 「設計図なんかは全部そろってるんだけどさ。アークスじゃ当然、作って貰えないし、他の工房も無理だったんだよね」

 「難しい設計なんですか?」

 「お金がすごくかかる」

 「あー」

 

 途端にリアルな話になってきた。確実に正規クラスとなるのなら、スポンサーもいくつか付くだろう。しかし、ブレイバーは、未だ必要性の低いと見られている。武器の扱い的にもデータを集めているとは言え、まだ初期の初期も良い所だ。不確かで確立するかどうかも分からない試験クラスには誰も投資などしない。

 

 「だ・か・ら。気落ちしている刀匠さんに、作って貰おうと思ってね。ついでにシガの見舞いに寄ったってところ」

 「オレはついでですか」

 

 その程度じゃ、アークスは死なない死なない、とアザナミはシガの肩を叩きながら楽天的に笑う。痛てて、脇腹が……

 

 「ふむ。よかろう、アザナミとやら。お主の依頼を引き受けよう」

 「お、意外と話が分かるね」

 「ちょっと、アザナミさん……」

 

 この人、色々と発言が軽率なんだよなぁ。ここまで来てジグじいさんの機嫌を損ねるのは得策じゃないだろうに。

 

 「シガ、お主へのお礼は、この設計図を元に最新式に改良した“カタナ”だ。それで良いな?」

 「お、よかったね。シガ」

 「なーんか、アザナミさんは漁夫の利みたいな感じですけど?」

 「ブレイバー。早く正規で使いたいでしょ?」

 

 ニヤニヤしながら、アザナミはシガの反応を見ていた。なんとなく、のせられている気もしないでもないが、答えは決まっている。

 

 「当然です。オレのクラスはブレイバーっすから」

 

 (えん)。そんなモノがあるなら、きっとこの繋がりがそうなのだろう。

 

 「ふふ……ふふふ! 楽しみだ、楽しみだぞ! おまえさんの真の姿は一体どんなものなのか! わくわくが止まらぬ!」

 

 と、ジグじいさんのやる気に薪をくべるどころか、大炎上させてしまった様子に、アザナミとシガは思わず笑みを浮かべた。

 

 「シガ!」

 

 すると、名前を呼ばれて視線を向けると、そこには息を荒くしたマトイが泣きそうな眼でこちらを見ていた。

 

 

 

 

 

 「どこ……?」

 

 マトイはショップエリアへシガを捜しに来ていた。無理を言って、自分にも捜させてほしいと願い出たのだ。

 アークスには、自分の位置が解るようにIDの識別が出来るようになっている。ソレで、知り合いや待ち合わせ相手の位置が解るのだ。

 しかし、シガは病室にIDを置いて出ていってしまっていた。

 

 「遠くに……行かないで……」

 

 あの怪我だ。別のアークスシップや、まして、惑星(フィールド)に降りる事は考え辛い。フィリアさんはロビーの方を探してくれている。そう広くはない。居なければすぐにショップエリアに駆けつけてくれるだろう。

 

 「……シガ……」

 

 もし、気を失って倒れてしまって助けを求めていたら? 丸一日も意識を失う程の怪我をしているのだから、その可能性も十分に考えられる。

 慌ただしく走った。物珍しい姿をした自分に注目する眼にもくれず、近くの武器強化のカウンターに声をかける。

 

 「ふっふっふ。何用かね?」

 

 髭を生やした、年配の男性が慣れた様に返してくる。

 

 「あの……シガ……じゃなくて……黒い髪に赤い眼をした人を……見ませんでしたか?」

 「ふむ。それは患者服を着た青年の事かね?」

 「! はい!」

 

 シガの目撃情報があった事で、思わず声を上げてしまった。

 

 「そこの階段を下りていくと広場がある。恐らく、そこに向かったのだろう」

 「ありがとうございます!」

 

 お礼を言って、お辞儀をするとマトイは脇目も振らずに走り出した。

 

 「また来たまえ」

 

 

 

 

 

 「ハァ……ハァ……シガ!」

 

 声を振り絞って、マトイはシガの名前を呼ぶ。

 

 「マトイ?」

 

 その様子にシガは痛みを忘れて立ち上がり、彼女へ歩み寄る。そこからのマトイの行動は反射的だった。無事に眼を覚ました彼に、縋るように駆け寄って身を寄せたのである。

 

 「う゛!?」

 「良かった……眼を覚まさないかと思って……」

 「お、おう。まぁ、見ての通りだ」

 

 アザナミに、ヘルプ! と視線を送る。脇腹が痛いのと、番人(フィリアさん)から言われている事と、このまま思いっきり抱きしめたい事の、三つの狭間で思考が渦巻いていた。

 

 対してアザナミは親指を立てて、頑張れYO! と笑い、ジグと細かい打ち合わせをする為に去って行く。ジグも、じゃあの、と言って上機嫌で歩いて行った。

 

 「……ボロボロだよ。本当に情けないったらありゃしない」

 

 改めて、心配してくれるマトイに視線を移す。心配をさせてしまった事だけは謝るつもりだった。それに……一人の力で帰って来たわけじゃない。

 

 今回は相当危険な事をしてしまった。逃げる選択もあったのに、マトイを殺す、と言われた時は、どうしても退く事は出来なかったのだ。

 

 「でも……帰って来てくれた。わたしは……それだけで、いい」

 

 彼女は心から、彼の無事な帰還をいつも願っている。

 

 「…………」

 

 どんな言葉よりも心に響いた。彼はただ、【仮面】さえ倒せばマトイを護れると本気で考えていた。

 しかし、彼女の不安な表情を見て、ソレは間違いだった。本当にマトイを護ると言う事は、一度別れたら、次に同じように笑顔で顔を合わせる事なのだと――

 

 「ただいま。マトイ」

 

 それだけでいい……それだけで、マトイは救われる。

 

 「おかえり。シガ」

 

 そして、帰って来ても一人じゃと……そう教えてくれる笑顔を彼女は向けてくれた。

 

 

 

 

 

 「どうも、シガさん。手こずらせてくれましたね」

 「! フィリアさん!?」

 「フィ、フィリアさん!?」

 「マトイさん。先に戻っててください」

 「は、はい。じゃあね、シガ」

 「お、おう……」

 「では、シガさん。言いたい事はありますか?」

 「ノーコメント」

 「はい、では病室に戻りましょうか」

 「ノーコメント?」

 「重症の身でありながら、勝手に病室を抜け出すのは、流石に見逃せませんよ?」

 「ゴメンナサイ……」

 「謝って済むなら、法律はいらないんです」

 「ゴメンナサイ!」

 「別にどうこうするつもりはありません。ただ、必死にわたし達が捜している中で、のんきにマトイさんと抱き合ったりするは、いささかやり過ぎだと思いますが?」

 「…………」

 「さぁ、帰りましょう。病室に。今後は道徳を守って大人しく、治療に専念すれば……何も“変わらず”に退院できますからね」

 「はい……」

 「本当に分かっていますか?」

 「イエス! サー! 返す言葉もありません!」

 「よろしい」




 次から、ようやく動けそうです。公式ではEP4も始まっているので、そちらもぜひプレイしてみてください。

次話タイトル『Thought of the sword 剣として』
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