「ふーん。色々と伸び悩んでるのねぇ」
シガはアザナミと共にカタナのフォトンアーツの性能試験の為にリリーパへ降り立っていた。
「人それぞれで、もちろん目指す理由もあるってわかっているんですけど」
見せつけられっぱなしなのだ。
他を圧倒する力。他を護るための力。理論と経験によって現れる力。
色々な“力”が自分の周りには存在する。中には、生まれながらに強大な力を宿している者も居れば、努力し成り上がる者も居るだろう。
「オレが求める力ってなんだろうって思うんですよ」
『サクラエンド』で、向かって来るダカンを切り裂く。場所はリリーパでも小規模の採掘場であり、二人は『希少鉱石採掘任務』を受注し、今は採掘機の援護をしていた。
「求める力ねぇ。まぁ、第一にその“力”で何がしたいって話だよね? シガは敵を圧倒したいの? それとも味方を護りたいの?」
アザナミの言葉でシガの脳裏に、その二つの力を持ちそれぞれの道を歩む二人のアークスが映った。
ゼノとゲッテムハルト。
二人とも、シガに直接教示するのではなく、見せつける形で“力”の在り方を教えてくれていたのだ。
「剛と柔。あの二人は戦い方も対極です」
ゼノ先輩のような他を護る力を、ゲッテムハルトさんのように他を圧倒する程に持たいのが本音だ。
「…………」
相対する敵は自ずと強大で、もし次に【仮面】と相対した時、マトイが殺されそうになった時……オレは彼女を護れるか……? 結論は――
「――――最悪の未来を予想してしまうんです」
背後から襲うダカンを振り向きながらカタナで斬り伏せる。強敵と戦って、強者の戦いを目の当たりにして、このままではダメだと強く思うようになっていた。
「まぁ、あんたの考えには図らずとも理解できる所はあるけどさ」
アザナミはバレットボウで離れた場所に居るダカンを次々に撃ち抜く。
「それでも、無理な背伸びは必ずどこかで歯車が狂う。師も居なくて強い力を求めるのなら尚更ね」
自然な流れで、シガは周囲を警戒し、アザナミが採掘機の操作パネルをいじって採掘作業を始める。
「それって、誰かの受け売りだったりします?」
「えー、なんで?」
「いえ、アザナミさんがそんな事言うのは珍しいなって」
「ほほう?」
意味ありげな笑みを向けられて、シガは思わず口笛を吹きながら顔を逸らした。すると、肩を組む様にドカッと身を寄せてくる。
「わたしもさ、あんたほどじゃないけど、力が欲しいって思った事はあるのよ」
彼女の師は、最強のアークスと称される【六亡均衡】の一、レギアス。少ない期間とは言え、その傍で彼の強さを目の当たりにしてきたのであれば、憧れるのも無理はないだろう。
「あの人の“力”を他に伝えたい。それが、ブレイバーを創ろうと思った理由なんだよね」
アザナミさんの目的は、師の力を目の前で証明する事だった。ただ“強い”と言われているレギアスの力そのものを証明する為に“力”を求めた事がある。
無論、最強と言われているアークスに直接教示を受けたのだ。それに似合う実力を手に入れる事は難しくなかったのだが――
「でも、わたし一人が頑張ったって、いつまで経っても“あの人”がどれだけ凄いか分かってもらえるわけない。だから、形にする事にしたのよ」
それが、新たなクラス、ブレイバーの設立であると言う。自分の願いを自分で叶える。当然と言えばそれまでだか、ゼロから始めるには多くの障害があったはずだ。
「凄いですね」
「おーおー、もっと褒めていいよ」
ニコニコと笑うアザナミは得意げに語るが、その言葉の奥には絶対に揺るがない芯のようなものも感じ取れる。これも、自分にはない強さであるとシガは悟った。
「おっと、これで採掘任務は終わりだね。時間的にも許容内でしょ?」
「はい」
時計を確認するとコフィーに言われた時間内で任務を終える事が出来たので、これでようやく手に入れる事が出来た。
「はいはい。おねーさんに感謝しなさいよ?」
「ていうか、一人で行こうとしようとした所に割り込んできただけ――」
「なんか言った?」
現れたテレパイプへ向かうアザナミはシガに笑みを浮かべて問う。
「いえ、本当にアリガトウゴザイマシタ」
「ふふ。ま、何か考え事してるみたいだったし、そういう時こそ一人で惑星に降りるべきじゃないよ。一人で得られる力には限界がある。ソレが分かってれば、納得できる時が来るからさ」
そう言われつつ、シガもテレパイプに向かう。力は欲しい。それも、手に届く者達を護れる力だ。オレは急ぎ過ぎてるのだろうか? そんな自覚は無いけど……
「背伸びはしないって決めたけど、やっぱり……」
力への強い渇望は捨てられない。この答えだけは、自分自身で導き出さなければならず、シガはまだ辿り着く気配は無かった。
惑星リリーパの自由探索許可を貰ったシガは、なにか迷いが有る内は一人で降りる事は極力避ける様に、アザナミに釘を刺されて別れた。
シガは自分が不安定であると自覚している。しかし、彼の周りには手本となる“力”を持つ者達が多すぎた。短時間で、多くの“力”を垣間見てしまい、己が求める力を迷走してしまっているのである。
「どうした、迷っているのか?」
訓練にて、オーラルと対峙しているシガは、数撃交えただけで集中していない様子を看破されていた。
「いえ……私事なので」
「戦いに影響が出るなら尚更だ。一足一挙動が戦いでは命を左右するからな」
ソードを片手に持ったオーラルは、両手で構えながら接近する。振り上げて、振り下ろすだけの動作。だが、その動きにもオーラルの持つ洗練された一撃であると見て取れた。
「――――」
対するシガはそんな彼を見て重なる。凍土の地で向かって来る【仮面】に――
「当てつけですか?」
オーラルの意図から『フォトンアーム』を戦闘形態へ解放。振り下ろしてくる大剣を、左腕の表面へ滑らせる様に軌道を逸らす。
「ほう」
感心するような声を出すオーラルへ、二の撃――鞘に収まったカタナを至近距離で抜刀する。しかし、
「い゛!?」
パシッと、カタナの柄尻を押さえられて抜刀は鞘から半分抜かれた所で止められる。体格に物を言わせてオーラルはシガへ身体をぶつけて吹き飛ばす。
「うげ」
「身に入っていないぞ。これ以上続けても時間の無駄なだけだ」
情けなく後ろへ倒れたシガへオーラルは言い放つと、奪い取ったソードとカタナを消失させ、仮想戦闘を終了させる。
「オーラルさん」
「まだ、やるとは言うな。今のお前は、肉体よりも先に自分の考えをまとめる時だ。心と体が別々の事を考えていても、前に進めないどころか後退するだけだ」
「…………」
そう、だらだら目標が定まらないまま、技術だけ身に着けても何もならない。それどこから、先に進む可能性すらなくなってしまうとオーラルは告げる。
「オーラルさん。人が求める中で、一番の強い“力”ってなんだと思います?」
「
「…………納得ですか?」
「他人の出す答えは確かに納得できるモノを得られるだろう。だが、何か迷いが生じる度に、お前は他人に答えを求めるのか?」
「…………」
「悩め。迷え。お前の決める人生なんだ。
お前は、その為に
心のどこかで、焦っていると自覚していた。けれど、未だにオレ自身が求める“力”姿を捉えられずにいるのだ。必ず、また【仮面】と相対する時が来る。今までは、運よく命を拾っていたが、もし奴に大切な者を奪われたと考えると――
「…………」
マトイを護るためには、まだ奴の足元にも及ばない。せめて、相討ちになるくらいの実力を見に着けなければ……
「シガ」
「なんですか? オーラルさ――――!?」
と、視線を向ける先には、気を失って倒れているマトイと、それにソードを振り下ろそうとしている【仮面】が居た。
「何してんだ! テメェ!!」
有無を言わさずに、シガは『フォトン・ショック』を【仮面】へ向けた。衝撃に変換したフォトンが空間を通り振り下ろす直前の【仮面】を消し飛ばす。だが、更に追撃をかけようと踏み込んだ所で、
「少しは何か見えたか?」
肩をオーラルに掴まれて、ようやく我に返った。目の前の倒れているマトイが消えていく。仮想映像であったらしい。
「オーラル……さん?」
「すまんな。少し確かめたかった」
左腕に二撃目の『フォトン・ショック』を纏っているシガは、待機状態の衝撃フォトンを散らせる。
「お前は、そのまま強くなれる。蛇行したり、回り道したり、迷い、悩んで、自分に合う“力”を見つければいい。それに気がついた時、お前は誰よりも前に進めるアークスになっているさ」
包むような優しいオーラルの手はシガの頭に乗せられた。まるで、息子を見守る様な父性が向けられている。
「オーラルさん。髪の毛、ぼさぼさになるんですけど……」
「とにかく、無理に背伸びしても結局は一時的なモノに過ぎん。本当に護りたいモノは、いつか手をこぼれていく――」
その口調には、何か感情の入ったモノをシガは感じ取る。まるで、自分の様な間違いを犯さないで欲しい、と言っている様だった。
「余計なお世話だったな。忘れてくれ」
「いえ……少しだけ、わかった気がします」
うっすらと。だけど、マトイを護りたいという意志には偽り無い。だから、そこに求める“力”の答えがあるのかもしれない。
「それと、フーリエがお前の事を捜していたぞ。後で連絡してやれ」
「知り合いなんですか?」
「彼女は、教習所の元生徒だ」
ちなみにリサもな、とオーラルは付け加える。
次はようやく、メインストーリーが進みます。色々とオリジナルな展開も考えてあるのでお楽しみに。
次話タイトル『Analyze the Lilipur 砂塵の奥へ』