「これで、よしっと。お待たせしました、シガさん」
フーリエは報告書を作り終わると、ようやく目の前に集中できるとシガに告げた。
「今思えば、ずいぶん早い出発ですね。見た所、誰も来ていないみたいですし……早い時刻からの任務も悪くないですね!」
「うん? ああ、そうだね」
そんな彼女の声が聞こえない程に、シガは先ほど遭遇したホラーの事が頭から離れなかった。
「何か気になる事でも?」
「あ、いえ……ちょっと部屋の電気を消し忘れたかと思いまして」
例のホラーをフーリエさんは見ていない。あくまで、自分だけが目撃した事柄であるので、変に騒ぎ立てても頭がおかしいと思われるだけだろう。
「でしたら、もう少し探索して早めに切り上げましょうか?」
「そうしてもらえると嬉しいですね」
と、口では冷静を装い動揺を見せないように歩き出す。ダーカーが居ない理由がようやく分かった気がする。
奴が喰っていたのだ。ダーカーを。しかし、もしそうだとすれば分からない事が多すぎる。
味方だとすれば『オラクル』の制御下にあるのか?
敵だとすればアークスは攻撃対象なのか?
それに、姿を消した際の移動法は? 物理的に高速で移動した様には見えなかった。
転移をした? 何の装置も使わず独断で? そんな生物が存在するのだろうか?
と、考え出せばキリがない。幸い、例のホラー映像は持ち歩いている端末にも記録されているので、後で抽出してオーラルさんに相談しよう。
「あっ! シガさん、あれを見てください!」
その時、フーリエが何かを見つけ、ソレに歩み寄る。場所は先に進む為の通り道。その道の節々が黒く燃やされた様に変色しており、“機甲種”の残骸が点々と散らばっていた。一通りの戦いがあったようだ。
「見た所、戦闘の痕跡みたいですね。しかも
動かなくなっている“機甲種”の残骸は装甲の上から叩きつけられたように凹んでいた。その凹んでいる位置は全て弱点と言える中枢機関が、内部に存在する箇所である。
機能を停止し残骸となっている周囲の“機甲種”は、全て一撃で戦闘不能にさせられた事を物語っていた。
「相当な腕だ……あっ!」
残骸を見てシガはある事に気づく。致命傷は中枢機関の損傷だが、それ以外にも外装には損傷が激しいのだ。あえて、手や頭を破壊した後で、
今日はもしかして途轍もなく運の悪い日なのでは? と思ってしまう程に確信できる。
「結果は中枢を一撃みたいですけど……機体事態にも損傷がひどい。まるで痛ぶって倒したような――」
フーリエさんも“機甲種”の異常な残骸に思う所がある様だ。
「こんな戦い方をする人が、アークスに居ると思うと……なんだか怖いですね」
いやいや、フーリエさん。意外と多いですよ? 知り合いだけでも二人はいます。ちなみに一人は降下前にアークスシップで遭遇した方です。
「戦い方は人それぞれって言われてますし、こればっかりは慣れるか、避けるしかないからなぁ」
アークスは十人十色。波長の合う者同士は中々いない。相方が強い個性を持つ場合は、もう片方がソレに合わせるのが一般的だ。軍隊でもない限り、厳しい規律は枷でしかないだろう。
「いえ、アークスの在り方ではなく……こんなに暴れまわったら怖がられて逃げられてしまうと思いまして……」
今回の目的は、彼女が助けてもらったリリーパの恩人に会う事だ。しかし、こうも暴れ回っている者が居るのなら、逆に警戒して引っ込んでしまうのではないかとフーリエは懸念していた。
「リリーパって、“機甲種”とダーカー以外にエネミーは居ないじゃないですか? だから、この星で暮らしている“彼ら”にとって周りは全部敵として認識しているんだろうなって」
「……こんな現場が残っちゃあ、アークスも同じような対象として見られてもって事でしょうか?」
フーリエの言葉にシガも、なるほど、と共感する。
「……そうです。けど、それでも私たちは敵じゃないって教えてあげないと、交流も何もできませんよね」
第一歩。その一歩をフーリエは明確に決めているようだった。そして、直進的な性格も相まって、揺るがない意志として確立し妥協する事は考えていないのである。
「それに、せっかく会えたのに……仲良くできないなんて悲しすぎます」
相手がどんな存在なのか未だに姿を確認できない。それでも彼女は心を通わせる事を決めているのだ。
現地の生物にオレたちの事をちゃんと知ってもらうのもアークスの仕事であり、今回はいい経験になるかもしれない。
それに、なんとなく“彼ら”は姿を現すと確信がある。今日のリリーパは明らかに何かが違っている。慎重に進むべきなのだろうが……なんとなく、このままの行進速度で問題は無い気がしていた。完全な勘だが。
「はい。行きましょう!」
迷いないフーリエの歩みを頼もしく感じながら、シガもその後に続く。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「リリーパは久しぶりだな」
オーラルは砂嵐にはためく防塵コート姿に、専用の電波障害用の装備を身体の至る所に装着していた。
例え、電磁嵐に遭遇しても、いつもの様に行動できる装備であり、有事の際に備えて彼自身が自分で設計した非売品である。
「用意周到ですね」
その隣に防塵コートを着て、ゴーグルをつけた相方も同じように砂の上に足を乗せる。
「天候情報では、特に磁気嵐は無いようだが……何が起こるか分からん。長居はしたくない」
「位置は把握しているのでしょう?」
「ああ。ここから南西に5キロ圏内に居る。既に各チームが探索し見つけ次第、空間拘束する。そこからは
「…………」
「……躊躇いは“死”を生む。いつでもシップに帰って良い」
まるで置き去りにするようにオーラルは歩き出す。ただ、殺すだけの関係では無いと理解しているからこそ……彼女を思って、ここまでお膳立てをしたのだ。その上で、躊躇いがあるのなら関わるべきじゃない。
「いえ。行きます」
それでも、強い意志によって彼女の足はオーラルの後に続く。自らでやり遂げると決めた事柄。一時の感情で曲げるわけにはいかない。
「『マイ』は問題なさそうだな」
「この程度の砂嵐で性能不全とはなりません。問題なく戦力と数えてください。それよりも、アナタが使う武器の方が心配ですが」
今回、オーラルが携えた武器。様々な武器をその道の熟練者のごとく行使できる彼が、【六亡均衡】でも相対が危険だと判断した
「少し特殊な武器だが問題ない。その代わり、道中で遭遇した敵は全て任せる」
「それは構いませんが……」
彼の背に収まっている武器は何重にも封印されており、もはや元の形が分からない程だった。その様から相当危険な武器だと理解できる。だが、ソレ以上に、オーラルが扱いきれない武器がある事に驚きだった。
「一時的に“創世器”でさえ使いこなせるアナタが、それほどの封印をしなくてはならない武器がある事に驚きです」
「……この武器は、所有者が決まっている。そいつ以外には
「?」
使う為に持って来たのではないのか? ふと、そんな事を聞き返そうと思ったが、彼が使えると言っているのだ。今は、その事よりも相対する奴の事に集中する。
複雑な感情が心には渦巻いているが、ソレを一時的に全て切り捨てる。『マイ』を所有すると決めた時からずっと、そうやって生きて来たのだ。
「……絶対に逃がさない。ハドレッド――」
例え世界で二つと居ない存在を討つとしても、それだけは変わらない。それだけが、わたしに求められた事で、それだけが存在価値なのだから――
シガ、フーリエ、オーラルの行動は同時間帯で行われています。ただし、場所はかなり離れているので互いに所在の感知はしていません。
次はカスラが少し出てきて、シガ達は例の方と遭遇します。
次話タイトル『Border of the weak and the strong 道』