傍から見れば、どう考えてもその生物がリリーパに居る事はおかしな事態だった。
生態理論から見ても、現地の生物から進化したにしては絶対的にありえない外見。作物の育たず、無機質な惑星にはその巨体を維持するだけの食料すら存在していない。
「ハドレッド」
“ソレ”の骨と皮だけの痩せ細った体躯は、いくら貪ったとしても満たされる事の無い制限なき我欲に支配されていた。
「皮肉だな……
ただ、目に付いた
10年前の負の遺産。ソレにハドレッドは引き寄せられたとオーラルは推測していた。
対して、オーラルの姿を確認したハドレッドは、彼を敵であると瞬時に認識。巨大な咆哮と衝撃波を周囲に発生させる。
「……言葉さえも忘れたか――」
目の前に
「…………っ」
頭ではなく背へ突き刺す。その頭に巻いているアクセサリーを避ける様な反射的な判断は一瞬だけ生まれた躊躇いだった。だが、最低限の仕事は出来ていた。
簡単には引き抜けない為に
「……空間隔離起動」
『了解!』
オーラルは、一キロの感覚を置いて六つの特定の地点に待機している部下達へ通信を送る。次の瞬間、水をこぼした様に上空を緑色の壁がドーム状に覆った。
「――――」
本能で何かを悟ったのか、ハドレッドは空間転移を行って逃走を図る。瞬間、背に刺さった杭が反応し、バチバチ、と音を立てて身体を強く拘束する。その激痛は転移能力を妨害していた。
「無駄よ。これはお前を逃がさない
クーナは、肘から伸びる武器を構えながらオーラルと挟むような形でハドレッドを見据える。
「正常起動を確認した。後は待機。もし、
『了解です。オーラル室長、御武運を』
結果は装置を担当している一人から、その様な言葉を最後にオーラルは通信を切る。
「この件は、
場は整った。そして“姉弟の物語”に結末を添える為に戦闘を開始する。
その背に静かに躍動する“封印された武器”は、猛獣が獲物へ喰らいつく時を見定めるかのように使われる瞬間を待っていた。
キリタイ――――
ソレは、自然に生まれたものではない。
多くの要素と、結果によって生まれた“業”とも言える存在。ハドレッドは細長い腕に伸びる爪で、背後のクーナへ振り向きざまに斬撃を放つ。
「――――」
その時、クーナの姿が消える。爪は空を切り裂き、その余波で土煙が吹き荒れた。瞬間、ハドレッドの腕、脚、身体の至る所に、鋭い斬撃が走る。
「『ファセットフォリア』」
通り抜ける様に姿を現したクーナは、後ろ目でハドレッドの様子を伺う。その一撃一撃が、深く洗練された斬撃であり、並のエネミーは一撃で葬る一閃である。
しかし、ハドレッドは少し怯んだだけで、振り向くと口から散弾のような礫を広範囲に吐き出す。消えるクーナの様子から、“線”から“面”の攻撃に切り替えたのだ。
蒼いツインテールが揺れる。礫は、地面から伸びる過去の文明を撃ち砕き、瓦礫に変えながら広範囲を吹き飛ばす。
「『オウルケストラー』」
フォトンが肘のブレードへ通う。蒼色の軌跡がまるで舞う様に彼女のまわりを動く。ソレは自分に当る礫を見切ってブレードで丁寧に弾いている様が結果的に舞うような軌跡に見えているのだ。
「――――」
散弾を撃ち終わったハドレッドの一呼吸の間。その瞬間、クーナの姿は空間に呑み込まれる様に消失する。
再び姿が消えた様子に、ハドレッドは苛立ちを感じたのか、咆哮を交えた衝撃波で周囲一帯を吹き飛ばした。大気が震え、先ほどの攻撃で瓦解した瓦礫が吹き飛ぶ。舞い上がった土埃によって有視界が無意味と化す。
「『シンフォニックドライブ』」
クーナは消えると同時に跳び上がっていた。最も影響の少ない空中で耐え忍んだ彼女は、突進系のフォトンアーツを全身に纏う。
彗星の様に、蒼い
「――――!」
だが、ハドレッドは無傷だった。全ての攻撃は、確かに当っていたがハドレッドの周囲を漂うフォトンを通過する程では無かったのだ。
ハドレッドは視界にクーナを捉えると、ハエでも叩き落とす様に掌を振り下ろす。
「『青のナックル』、『ハートレスインパクト』」
腕をクロスして、衝撃に備えたクーナへのハドレッドの攻撃は、彼の足元を強靭な拳撃が襲った事によって外す結果となった。
「先行し過ぎだ。少し間を置け」
割って入ったのはオーラル。彼はナックルの衝撃だけでハドレッドの体躯を大きく怯ませて吹き飛ばしていた。そして、クーナが着地するまでの間に、更に追撃を行う。
「『青のパルチザン』、『セイクリッドスキュア』」
凝縮するフォトンを乗せる様に、溜めを入れたパルチザンを大振りに
「――――得意武器ですか?」
スタッと足を折り曲げて着地したクーナは、通常とは違う『セイクリッドスキュア』の挙動に疑問が浮かぶ。
『セイクリッドスキュア』は上空にパルチザンを投げ上げて敵に落すようなモーションが最も威力を発揮する。だが、それ以上の威力で直線的に投げた様子はオーラルの高いステータスを体現した一撃と言えるだろう。
まるで戦艦の主砲のような一撃。流石にハドレッドもただでは済まない。それどころか投げた『青のパルチザン』の方が心配だ。
「いや……やはり、適性が寄っていないクラスでは威力がだいぶ落ちる」
「だいぶ?」
思わず聞き返す。その瞬間、怒る様な咆哮が響き、周囲にダーカーが現れた。
「!」
「ある程度は、解っていた事だが……やはり、“ダークファルス”と考えて当たる方が良いか……」
ダーカーの召喚。それは
クーナは現れた多種のダーカー達へ警戒し、オーラルは自意識でダーカーを召還したハドレッドの警戒度を改めた。ここからは、目の前のダーカーに警戒しつつ、同時にハドレッドも相手にしなければならない。
「レギアスも連れてくるべきだったな」
それか、カスラを待つべきだった? 少なくとも分が悪いのはこちらだ。
こちらの姿を捉え向かって来るダーカーへ、クーナは肘のブレードを構えて、オーラルは『青のソード』を取り出す。
殲滅に向かって動き出そうとした時だった。現れたダーカー達は、何かに引っ張られるように一定の方向――オーラルが『青のパルチザン』で『セイクリッドスキュア』を放った地点へ引っ張られていく。
「くっ……」
「掴まれ!」
オーラルは『青のソード』を地面に突き立てて、体重の軽いクーナが同じように引っ張られ始めたので、その手を取りその場で耐え忍ぶ。
「今のは――」
「……これは想定以上だ」
昔から、その為に特化させた器官だったのだが……まさか、直にダーカーを喰らい、しかも己の力として確立させているとは思いもしなかった。
自らで召還し、自らで集めたダーカーを一心不乱に喰らうハドレッドは、次の瞬間、それらを自らの能力として昇華する。
翼。腕周りの装甲。
痩せ細っていた腹部にダーカー因子を蓄えている。
その姿に驚愕している二人の目の前で、不自然に浮き上がると、自らの持つダーカー因子を固形化した結晶が周囲に出現していた――
「! クーナ!!」
オーラルはおもむろに、手を取っていたクーナをそのまま離れた場所へ
「オーラル!!」
次の瞬間、降り注ぐダーカー結晶の雨に晒され、砂の大地がオーラルを中心に吹き飛んだ。
ハドレッドの能力は蓄え続けたダーカー因子が起因です。という設定で動かしています。
次で、この戦いに決着がつきます。どうなるかはお楽しみに
次話タイトル『Criminal 咎を持つ者』