オーラルはマザーシップの通路を歩いていると“同僚”の後ろ姿を捉えた。
普段は自らの研究室に籠りっぱなしの彼女が、珍しく出歩いている様を見て声をかけたのである。
「やあ、オーラル室長。こんなところに何の用かな?」
「それはこっちの台詞だ。大概はメールでやり取りを済ませるお前が、どういう風の吹き回しだ?」
オーラル自身も、彼女と何度か仕事をする事があったが、大半の打ち合わせに顔を出さずに、データのやり取りが大半だったので良い顔はしていなかった。
「失礼だな君は。私としても、己の意に沿わない事柄が行われれば重い腰を上げると言うモノだよ」
「ある意味問題児だ。お前は」
「君に言われたくないな。『フォトンガントレット』だったかね? 燃費の悪い武器であり、その他にも問題があると聞いているぞ?」
アキは腕を組んで告げる。彼女はオーラルが研究している新たな武器に関する情報を掴んでいた。そして、ソレが“失敗”したとも聞いている。
「人の意志を測りかねた。その代償が『ウタ』だった」
「苦労するのは互いだね。それでは私は野暮用があるので失礼するよ」
「そっちは総長の部屋だぞ?」
歩いて行く先は、めったに人の寄りつかない『
「ああ、間違いない。君は私の事よりも、待たせている児童の元へ向かいたまえ」
その言葉を残して歩いて行く背中へ、オーラルは“その計画”を始めてからの違和感を確かめる為に問う。
「……やはり龍族の生体データはお前の物か」
その言葉にアキは足を止めた。
「ルーサーは、創世器の研究をしているからな。急に別の部署に手を出してくるのは、おかしいと思っていたところだ」
あの総長が直接意見をしてくるなど、それなりの“要素”を手に入れたからだとオーラルは推測していた。そして、彼女がアムドゥスキアの龍族の研究をしていた事も知っている。
「……なぁ、オーラル室長。これは本当に――」
「『オラクル』の『
その言葉は、この『
「そうか……ソレを聞いて決心がついた。例を言う」
「……責任を感じているのならお門違いだ。お前はただ、結果を出しただけで勝手に流用したのはこちらだぞ」
「だが、始まりは私だ。卵が先か、鶏が先か。今回は明らかに私が発端だ」
だからこそ、自身の責任であると彼女は研究者としての意志を曲げない。
「そうでなければ、“仕方がない”と自身に言い聞かせて命を奪っていた龍族に申し訳が立たないのだよ」
「贖罪のつもりか? 責任の矛先を考える前に、自分に出来る事を見直した方が良い」
アキは背を向けたまま、オーラルの言葉に思わず笑みを浮かべた。やるべき事は解っている。ただ、今のままでは明らかに良い結果にはならないと解っているから、行動を起こしていたのだ。
「その助言は参考にさせてもらうよ。それでは」
「アキ、あまり思いつめるな。これは研究者が必ず通る道だ」
「ああ。知っている。だが、私は
振り返る事無く、
そして、アムドゥスキアの龍族研究の第一人者である同僚の白衣の姿を見たのは、ソレが最後だった。
59.Instructor officer アークスの指導者たち
「とりあえず、今はこれで全部です」
「おっけー」
シガは、アークスロビーでアザナミにリリーパでのカタナの収集データを渡していた。
砂塵地域における武器の出力増減とフォトンの伝達性の比率。その情報によって、クラスに適した調整が成され、武器にも適応し、ブレイバー独特の“特性”として確立されるのだ。
「ふむふむ、なるほどね。ヒット&アウェイは意識してたけど、取り回し辛い武器と相性がいいのは大きな意識点だね」
その場でデータを簡単に閲覧するアザナミ。シガとフーリエの立ち回りは、
ハンターの様に、その場で耐える前線では広範囲を破壊する事に特化したランチャーでは相性が悪い。レンジャーでも次弾を撃つまでの間を押さえつける能力に難がある。フォースでは、前線を護る関係上、どうしてもランチャー以外の武器を使わざるえない。
だが、ブレイバーは違う。前線で滑る様に軽快に動き、敵を翻弄する事で各個撃破する。集団が相手でも、その速度と攻撃力で強引に一対一に持ち込む事が最大の特徴だ。
だからこそ
「フーリエさんの腕がいいって事もありますけど」
「そんな事はないよ。シガもよく動けてるし、彼女も戦いやすかったんじゃないかな?」
誰かの役に立てた。そう実感できる言葉を貰い、不思議と笑みが浮かぶ。必死に前に進もうとしていた事もあり正当に評価されると嬉しい。
「そう言えば、アザナミさんの方はどうなんですか?」
実地データは問題なく集まっている。だが、有益な情報が集まっても、他のクラスの容認がなければ意味をなさない。
「今は他のクラスの責任者と、教導官の承諾を得てる最中。スムーズにいけばいいけど、中には癖の強いのも居るからねぇ」
「あー、分かります」
ちらっと、リサさんを見る。彼女は丁度、レンジャーのアークスに依頼を出している所だった。と、こちらの視線に気がついた所で視線を逸らす。
「――――そ、それで。オレが引き続き出来る事ってあります?」
咄嗟に目を逸らしたが、ギリギリ気づかれていなかっただろう。
「そうだねー、クラスの責任者にはこっちで接触するから、教導官の方に話を通しておいてほしいかな」
「教導官――」
と、再びリサへチラッと視線を向ける。この任務は彼女が一番の障害だろう。
すると、リサはクラスカウンターの前で、別のアークスへ依頼の達成報酬を渡している。
ん? さっきより近づいている様な……
「あれ、誰か知らない? ハンターはオーザ、フォースはマールー、レンジャーはリサで――」
「あ、いえ、知ってますよ? 大丈夫です。顔見知りですので」
そう……恐怖の顔見知りが――チラっ……
リサはシガに背を向け、ドリンクの関係者であるファイナと話していた。
ち、近づいてきている!?
「ファイター、ガンナー、テクターはバルハラだから――って聞いている?」
「え、は、はい! 聞いてマスヨッ!」
どこかで聞いた、メ○ーさんの怪談を彷彿とさせるホラー実体験(リアルタイム)に、声が裏返りつつも何とか返答する。
「じゃあ、よろしくね。前に責任者と話す時に、教導官の人とは話したけど皆良い人だったからさ。知り合いなら、スムーズに話も行くでしょ?」
「任せてください」
リサさん以外は……チラっ――
「――――」
「――――ふふ」
幽霊の様に立ち、こっちを見ている。眼が確実に合った。距離は5メートルを切っている!?
「仲も良さそうで何より。じゃ、よろしくねー」
シガに渡されたデータを持ってアザナミは去って行く。そして、その場で一人残された。周りにはアークス達が絶えず行き交っている。そう、一人ではないのだ。無いのだが――
「さっきからぁ。チラチラとリサを見ててますけどぉ。何か用ですかぁ?」
肩口から耳元にそんな声が聞こえた。
「――――」
速攻で走って逃げる。もう、何と言うか本能的な恐怖が完全に逃げろと言っていた。
例えば、恐い話を聞き、夜道を歩いていると感じる恐怖と同じだ。実際にいないと言い聞かせながら歩いた先でソレと遭遇した時の恐怖は半端無いだろう。
現状は、ソレと同じなのだ。そんな状況に遭遇したらどうするか? 大半の人が逃げる。中には対峙しようとする猛者がいるが、オレはその他大勢なので当然“逃走”を選択する。
「あら? あらあらあらあら。そう言うのって、あんまり良くないんじゃないですかあ? ふふふ」
走り出した瞬間、リサに襟首を掴まれてシガの足が浮く。そして、そのまま足を延ばして座る様な姿勢で、恐る恐る掴んだ本人を彼は見上げた。
「リ、リサさん……どうも! ごきげんよう! さようなら!」
恐るべき、キャストの反応速度とパワー。体格はシガより小柄にもかかわらず男性キャストとの性能差は殆ど無い。
「あらあら、ごきげんよう。リサは挨拶してもらって、とーっても嬉しいですよお」
「あはは。そうですか」
「そうですよお。でもぉ、人の顔を見て急に逃げるのは、失礼だと思いますねえ」
ハッ! リ、リサさんが真面目な事を言っている!? ど、どうなっているんだ!?
「人として、当然ですよお。後ぉ、思った事が声に出ているのも、いただけないですねえ」
リサはシガが逃げないと思ったのか、襟首から手を放す。変に注目が集まって来たので、シガは有無を言わさずに立ち上がった。
どうやら……オレは途轍もない勘違いをしていたのかもしれない。うん、きっとそうだ。だって普通に考えて、敵をいたぶって、悲鳴を聞く事が趣味の危険思考の変人が、クラスの教導官に任命されるハズがないのだ。
「すみません。オレ、リサさんの事、誤解していたみたいです」
こういう風に考えられるようになったのは、フーリエさんとの交流による所が大きいだろう。苦手なモノは少しずつ克服していかないとね。
「何だか知りませんが、お役に立てて、リサはとーっても嬉しいですよぉ」
ちょっと変な人だけど、本来は真面目で普通な女性なんだろう――
「では、リサは失礼しますよ。これからアムドゥスキアに行って、整備したライフルでぇ、龍族の四肢を吹き飛ばすんですよぉ」
「…………」
「最近は凶暴性が上がっている様なので、正当に撃てるんですねえ。おや? おやおや。シガさんも興味ありますかあ? リサは実の所、シガさんの方が興味あるんですよお。無駄に抵抗してくれそうですし~」
前言撤回。やっぱりこの人に対するオレの認識は少しも間違っていなかった。そして、絶対にフィールドでは彼女と遭遇しないようにしよう。
「いいか、決して精進を忘れるな! これから、色々な力の前に迷いが生じる事もあるだろう!」
ロビーのゲート前で、帰還した一つのパーティーから聞こえてくる声は、アークスシップでも馴染みのある声だった。
「だが、コレだけは覚えておけ!」
腕を組んで声を張り上げるのは、シガとは色違いの
「迷ったら、ハンター! これは、鉄板だ!」
「はい!」
「よし、俺が教示できるのはここまで。後は、各員で努力する様に! 解散!」
はきはきとした声の主は、実に満足そうに歩いて行く若いアークス達の背を眺めていた。
「ありがとうございます! やっぱりフォースに変えてよかったです!」
「む!?」
その時、背後でそんな声を聞き、バッと後ろを振り向く。視線に移ったのは、一人のヒューマンの若者が、背の低いニューマンの女性へお礼を言っている姿だった。
「貴方は三世代だけど、どちらかというとフォースの特性が強かったから。今までは無理に他のクラスで戦っていたみたいだけど、まずはフォースで基盤を作ってから他のクラスに挑戦すると良いわ」
クラスカウンターの前に居るフォースの教導官を務める小柄なニューマンの女性は、依頼の報酬をヒューマンの青年に手渡した。
「頑張ってね」
「はい!」
「ちょっと待った!」
そこへ、先ほどのヒューマンの男が割り込んでくる。その姿を見て、ニューマンの女は一瞥すると、もう行っていいわ、と青年を解放した。
「おい。一体どういうつもりだ?」
「……何の事かしら?」
少しだけ不機嫌な剣幕で、ニューマンの女は、ヒューマンの男を見上げる。
「彼は、数日前に俺がハンターとしての資質を見出してやったんだ。それを無理にフォースに勧めるなど、危険であると解らないのか!?」
「……なにそれ。彼は自分の意志でフォースが合っていると判断して私に相談したの。無理に不適合のクラスに誘導するのは、無理意地じゃない」
互いに互いを理解し合えないのは、互いを理解しようとしていないだけなのだが、この二人の場合は向かい合うだけで喧嘩になってしまう。
「フォースでは、彼は十全に戦えん! 塞き止めるがごとく敵の前に立つハンターこそが確実な特性だ!」
「ハンターはうるさいし、攻撃の射線を遮るし、もしかすればレンジャークラスもハンターの立ち回りを不満に抱いているハズよ」
バチバチ、と怒りの火花が散る。そこへ、
「あ、丁度良かった。お二人さん。ちょっと話が――」
「シガ!」
「……シガ!」
話しかけた瞬間に、勢いよく名前を呼ばれてビクッと反応してシガはたじろぐ。
「な、何ですか?」
「お前は、最も戦いで適したクラスはハンターだと思うよな!」
「何を言っているの? シガの法術特性はB。何よりもフォースの方が有益であると解っているのよ」
「あ、あの……」
「間違いなくハンター!」
「絶対……フォース!」
「ちょっと、二人とも――」
「「どっちだと思う!!?」」
オーザとマールー。
二人は周囲でも良く知られた互いに互いのクラスを批判している程に仲の悪い関係の教導官だった。
ようやくオーザさん出せました。どのタイミングにしようかと悩んでいましたが、ここで出せてよかった。
EP1-5の最初はオリジナル展開で行きます。
次話タイトル『I have a good idea 名案』