気がつくと、わたしは虹色の空間に居た。
まるで、身体が無くなったように意識だけが浮いて世界を認識している。フワフワとした感覚。あまり気分の良いモノでは無かった。
“いつから……だったんですか?”
それは彼の声だった。一番、傍に居て安心できる彼の声に、その場所に意識を向ける。
“彼女が……救われないと解った時からだ”
そこには、オーラルに向かい合うシガが居た。そして、シガの側には、違う服を着たゼノさんに、蒼い髪を持つツインテールの女の子が居る。
“
オーラルは何を言っているのか解らなかった。けど……何が起こっているのか、そして何が起こるのかは、私でも解る。
ソレは絶対に起こってほしくなかった事だった――
シガとオーラルが戦い始めた。
シガの持つ武器とオーラルの武器が互いにぶつかり合う。その度にフォトンが散って、そして――
やめて……
“シガ……本当に……お前は―――いい奴だったよ”
オーラルの攻撃が深くシガを切り裂いた。明らかな致命傷と言える一撃。誰が見ても解るその攻撃にシガは膝を着く。しかし、それでも彼は立ち上がった。
見たくない……これ以上、二人が傷つけ合う様は――
“『フォトンアーム』オーバーフロー!!”
今度は逆にシガの左腕がオーラルを貫く。装甲を撃ち抜いた一撃は、彼の胴体を貫通し、背後からフォトンが吹き出ていた。
“貴様の存在が! その意志が!
“オォォォォ!!”
至近距離でぶつかり合うフォトンは、二人の意志が形となり弾け合う。周囲の地形も変える程の激突。このまま続ければ、どちらかの命が尽きるのは時間の問題だった。
もうやめて……二人とも……もう――
「やめて!」
その言葉と共にマトイは思わず起き上がった。そして、荒くなった呼吸を整えながら周囲を見回す。
一瞬見覚えが無い場所だったが、瞬時に最後の記憶を辿る。シガの部屋だ。彼が用意してくれた大きめの服の上から毛布が掛けられている事に気づく。
「――――シガ」
夢の内容から彼を捜しに部屋を出る。すると、宴会をした部屋に壁に寄りかかる様に眠っているシガを見つけた。
電灯が落ちているが夜闇に慣れた眼で簡単に見つける事が出来た。
「夢…………」
何であんな夢を見たのか解らないが、ほっと胸をなでおろす。
デジタル時計に表示されている時間を見ると、深夜を回っている。彼が送って行ってくれると言っていたけれど、思わず眠ってしまったので起こすのを遠慮してくれたのだ。
しかも、自分が彼のベッドで横になっていた。普段シガはここで眠っている。悪い事をしてしまった。
「――――」
眠る彼の寝顔は、いつもからかって来る時に比べて無垢な子供の様だった。思わず微笑みが漏れる程の安眠に、はだけた毛布をかけ直してあげると――
彼の右眼を縦に通る傷が見えた。その傷は、凍土から帰った時に着いていた傷だった。
「…………」
凍土からシガ意識不明で帰ってきて以来、怪我をして運ばれたのがアークスだと聞くと、彼の事ではないかと怖くなる。
彼はいつも話しかけてくれる。わたしの事を気にかけてくれる。なんで、彼の事を疑う事も無く信用できるのか、私には解らない。
けど……凍土から運ばれた時から、そして……リリーパで怪我を負ったと聞いた時、彼を失うと思った時……本当に心が締め付けられるくらい怖かった。
「シガ……」
言えない。彼に……任務に出ないで、アークスを止めてほしい、と言えるわけがない。もしその意志を伝えたとしても、彼は笑って、必ず帰って来ると言うだろう。
その意志を……どうする事も出来ない。
「わたしは……」
わたし自身は進むべき道はまだ見えない。けど、彼はどんどん前に進んでしまう。きっと彼なら目指しているモノを手につかむ事が出来る。けど、その道中で倒れてしまわない保証はどこにもないのだ。
「わたしに出来る事……」
それはきっと他の誰でもなく、わたしが導き出さないといけない答えなのだ。
「だから……今は……シガが居るだけでいい……」
いつものように彼が話しかけてくれる日常だけでいい。それだけで……わたしは他には何も望まない――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「未練。妄執。苦悩。嫉妬。憤怒。孤独。アレに集約したモノは全て一人の存在が受けきれるモノではない」
オーラルは彼女と共に在る場所に向かって歩いていた。相変わらずオーラルは隻腕のままだが、戦意を強く纏っている。
「不可能ではないハズだった。少なくとも“鷲”は適応していた」
少し前を歩く彼女は、はんっと当然のように告げる。
「当たり前じゃ。“鷲”は妾の娘だったのだから、その手の加護は……産まれつき持っていてもおかしくない」
「だが……代わりに短命だった」
その言葉に、彼女はしゃべる事が無くなったように沈黙する。石畳を歩く音だけが響き、その道中ですれ違う者達は道を空けて会釈してくる。
「馬鹿者が……解っておったわ」
思う所があったのか、彼女は表情を見せず前を歩いたまま口を開く。
「望むままに生きてほしかった」
彼女は娘を傍に置く事を強く唱えなかった。
『サンゲキノキバ』を次に――ウタに継承して……
「
その言葉は後悔するような言葉であると同時に、数少ないオーラルの感情が読み取れる一言だった。
「……恨む……か。ウタもそんな事を言っておった」
“母さん……姉さんを殺した。必要だったとしても……間違った事をしたと思っている”
悲しみに押しつぶされそうな表情で語ったウタは、衰弱したように笑ってこの星を出て行った時とは別人のような雰囲気を纏っていたのだ。
「……一つだけ教えてくれ、ゼロ」
目的地と市街地を繋ぐ門の途中で立ち止まる。どうしても、彼の説明では納得いかなかった。
「何故……ウタを一人にした? お主なら……救えたハズだ」
「……
だから、終わらせるのだと、二人を迎えに行くのだと語る。それ以外に、自らの贖罪は無いと――
「“鷲”と“ウタ”を取り戻す。今は、ソレが第一優先だ」
その為にも、必ず“右腕”は取り戻す。計画はその為に動き出しているのだ。
「そうか……お主の事だ。今度は役割を見失うでないぞ?」
「言われなくても解っている」
そして、門を抜ける。月明かりが差し込む拓けた空間に出た。風が吹き抜けた風が彼女の髪を撫でた。
その場には見上げる程の巨体を持つ白い巨人たちが鎧を着て、空間の真ん中に存在する祠を警戒する様に武器を携えていた。
「流石に“黒”は居ないか。コト」
「はい。今回は白の者達で対応する事になりました」
重装備をした巨人たちの中で、一人だけ違う装いをしている者に声をかける。
「ここは“白”寄りの陣地だが……まったく、“マガツ”の関する問題の時は双族から戦士を出す事になっていると言うのに……」
頭を抱える彼女は、相変わらずの様子に恨めしそうに“黒の王”の居る方角を見やる。
「別にいい。今回は
「たわけ。図らずとも“災悪”を起こすのだ。貴様個人の問題では片付かんわ」
そう言いつつも、ソレを起こす事に協力してくれるのは、オーラルのみならず彼の部隊が、この星で数多くの貢献をしているからである。一度……封印の綻びによって解放された“災悪”を封じ込めた様が一番新しい出来事だ。そして、今でも気にかけてくれる『ブラックペーパー』の事は同族のように思っている。
「まぁ、腐れ縁の
彼女の言葉に、白の巨人たちは一斉に剣を抜き、オーラルは全身を解放する。
「機関解放。解放率――37%」
「解印――『
封印された刀を抜き放った彼女は、空間に泳がせる様に手放す。するとソレは近くにある災悪――“自分の断片”へ強く引き寄せられた。
「来るぞ! 皆の者!
竜巻のように黒い渦が回転していくと、少しずつ一定の形へ縮小。浮いていた刀は地に突き立つように落ちる。そして――
「――――」
「……ああ、そうだろう。お前は最後に、ウタの手で死んだ。だからコレは予想していた」
驚きに見開く彼女を巨人たちの中で唯一通常の思考で動いていたのはオーラルだけだった。彼はフォトンを背部から放出し、戦う能力を強く保っている。
突き立った『サンゲキノキバ』を掴み取った黒い渦は人。そして、その姿は寸分違わない娘のモノ――
“父上……私を愛していないのは知っている――”
空間に響くその声は、明らかに目の前で『サンゲキノキバ』を持つソレが発したモノ。
「大鷲……お前は死んだ。死んだんだ。スクナやコト……この場の者達――六道やジェネシスやウタは惑わせても、
“私の事は愛さなくていい……だけど……ウタは……ウタだけは、見捨てないであげて”
「黙れ。『フォトンショック』」
全てを払拭する一撃がオーラルから放たれ、空間がフォトンの光に包まれた。
これにて宴会編は終了です。次からようやくEP1-5本編に進みます。
次話タイトル『Right 助手』