ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

77 / 100
72.Magical girl 魔砲少女

 文明が存在すると言う事は、そこに文化が在ると言う事だ。

 文化は創り出した知的生命体によって繋がれており、今日まで脈々と受け継がれてきた。

 この火山洞窟もシガからすれば単に暑く、活動し辛いと言う認識の空間であり、精神的に不快感を感じる。実益の少ない、この場所に他のアークス達も好き好んで訪れる事はない。

 

 だが、この惑星の住人――龍族はその限りでは無いのだ。

 

 火山洞窟も、この惑星の一部で彼らにとっても適応した生活環境なのだ。ただ、彼らの中で火山洞窟がどのような立ち位置にあるかは、流石に知りようがない。

 少なくとも、罠が仕掛けられている時点で、相当大切な場所であると推測は出来る程度だ。

 

 

 

 

 

 「マジかぁ。いきなり現れるもんだな」

 

 シガは困ったように進行方向に突如として出現した“壁”を見上げていた。仕方なくルートを変えようと引き返した時、そちら側にも“壁”が現れ、今は閉じ込められる形となっている。

 囲うような“壁”の出現は、明らかに意図のある拘束のようなモノであると考えられた。

 

 「ちょっと戦闘は勘弁してほしいんだけどねぇ」

 

 左腕は相変わらず使えそうにない。壁もだいぶ頑丈で、生半可な攻撃ではびくともしないだろう。“爪”か“撃”が使えれば何とかできるだろうが……

 

 「右よし! 左よし! よし! 帰ろう!」

 

 閉じ込められて、ソレを突破してまで人捜しを続ける意味は無い。一度テレパイプでキャンプシップに戻り、そこから改めてこのエリアを探索しよう。

 アイテムパックからごそごそとテレパイプを取り出し、起動スイッチを入れようとした時だった。不自然に影がかかった様子から上を見上げる。

 

 「うひょ!?」

 

 壁を乗り越えて囲いの中に侵入して来たのか、龍族が剣の切先をこちらに向けて落下して来ていた。

 

 「んっとによぉ! このパターン多すぎだろ!!」

 

 転がって回避した姿勢から、元いた場所に降ってきた龍族を視界に入れる。

 水色の鱗に左眼が傷によって潰れて、剣と盾を持っている。龍族でも戦士にあたる存在である事は一目瞭然だ。だが、姿を見なくてもシガには感じ取れていた。目の前の龍族から漂い出る“気迫”はその辺りで遭遇する龍族とは一線を画するものであると。

 

 「こう言うのが、成長してるって言うんだな。わかるぜ。お前の強さは」

 

 幾度と死線を超えて来た。その経験が、シガの“獣の嗅覚”を引き上げたのである。その感知能力は今も成長を続けている。

 盾を構えて接近してくる龍族。シガも『青のカタナ』を抜刀の構えで迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 初めての戦闘だった。

 今までは、向かって来る敵に対して使える限りの手段を用いて撃破し、活路を開いてきたからだ。しかし、コレは今まで経験したことが無かった。

 

 知性を合わせた武器と武器を使った戦い。

 

 人と人で戦う経験はリリーパでしている。心身ともに圧倒的な負けだったが、ゲッテムハルトさんとの戦いは今でもいい経験として生きていた。

 今までの(エネミー)は、本能で喰らいかかって来るだけ。だが、今回相対したのは“龍族”である。

 確かな知性を持と文化を持つ星の戦士なのだ。こちらも剣を持つが、その刃を合わせる戦いは未だ無い。

 

 身軽な身体能力を使って、隻眼の龍族は飛びかかる様にこちらへ剣を振り下ろしてくる。体重を乗せた重剣。それを躱すことなく、シガはその場で迎え撃つ。

 

 抜刀で必要なのは、腕の力だけでは無い。鞘を滑らせる速度が速ければ速いほど、その切れ味は跳ね上がる――

 

 「合った――」

 

 一瞬、左腕(フォトンアーム)から、洗練されたフォトンが漂い出ると、飛びかかってくる龍族へ高速の抜刀が抜き放たれる。

 下半身の軸、腰の回転、柄を握る握力、肘の動き、肩の稼働。身体能力で全てが完璧に機能して今出せる最高の一撃が隻眼の龍族へ向けられた。

 

 「――――っ」

 

 どのような反射神経を持っているのか。隻眼の龍族はシガの渾身の抜刀に盾を差し込んでいた。

 未熟故か、それとも未知の硬度を持つのか、抜き放たれ青い刀身は盾を両断できず、その前面に当って止まっている。

 

 コレはヤバイ――

 

 シガは直感で隻眼の龍族が盾に角度をつけて、こちらの刃を逸らそうとしていると判断したが、既に身体は弾かれた状態へ――

 

 〔――――〕

 

 態勢を崩して着地したにもかかわらず隻眼の龍族の方が先に次の行動へ移っている。盾を前面に構えて、シガへシールドでタックルを喰らわせた。確かな感触を盾を持つ手に感じ取る。

 

 「……まさか、アイツのマネをする事になるとは思わなかったぜ」

 

 しかし、シガは向かって来る盾に足の裏を合わせると、その衝撃と共に後ろへ跳び下がっていた。

 ソレはナベリウスで【仮面】が見せた挙動。あの動きを知っていなければ、今の攻撃はまともに受けていただろう。

 

 再び納刀。開いた距離を隻眼の龍族は詰めようとしなかった。シガが悟ったように彼も悟っていたのだ。

 

 この敵は強い、と――

 

 「…………フッ」

 

 シガは変に力んでいる事を自覚し、構えを解いて少しだけ脱力する。らしく行こう――

 

 〔――――〕

 

 隻眼の龍族はシガの様子に、先ほど以上の警戒を抱く。鋭い戦気よりも、()()()の方が読めないのだ。

 

 「『ハットリンドウ』」

 〔!?〕

 

 無拍子。シガはその場で抜刀し、フォトンの斬撃派を飛ばす。隻眼の龍族は盾で防ぎきれない範囲の攻撃に回避を選択――

 

 「『シュンカシュンラン』」

 

 次の間に隻眼の龍族の眼前へ『青のカタナ』が迫る。狙いは頭――

 

 〔――――ッ〕

 

 隻眼の龍族は更に回避を選択した。僅かに頬を『青のカタナ』が掠めて傷を負うが、完全に間合の内側に入っていた。

 大きく伸び出したシガの『青のカタナ』の内側へもぐりこむ事に成功している。この間合ではシガは刀を(かえ)す事は出来ないが、短い刃を持つ隻眼の龍族の剣は問題なく機能する。

 シガの顔を剣が串刺しに――

 

 「これで、全部だ」

 

 その攻撃は装甲を持つ機械的な腕に掴み止められていた。

 明らかに生身では無い腕――フォトンアーム、戦闘形態。初めて見たその異形に、隻眼の龍族は衝撃と困惑から次の行動がコンマだけ遅れ――

 

 「『カザンナデシコ』!!」

 

 フォトンにより増幅された切れ味と長刃を『青のカタナ』は纏い、地の岩肌を両断する一撃が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 ただ、感じたのは驚きだった。そして、次に敬意であり、自分がまだまだだと思い知らされる。

 

 「……」

 

 至近距離での『カザンナデシコ』。ソレを隻眼の龍族は剣を離す事で逃げ延びていたのだ。片腕であったため質と速度が落ちたせいもあるだろう。だがそれ以上に、いまの回避は根本的に質が違っている。

 

 「こういう職業(アークス)だからさ。武器を手放すって概念はなかった」

 

 武器を捨てる。それが出来るかどうかで、戦士としての素質は大きく異なる。自らの武器に固執するかどうか。その選択が出来る者は“強い”のだ。

 武器とはただの敵を倒す手段に過ぎない。ソレを理解していても、捨てる、という選択は、なかなか出来るモノではない。

 

 打破すべき防衛本能――

 

 シガは確信していた。目の前の隻眼の龍族は、自分よりも遥かに先に居る戦士だ。

 

 〔……ッ〕

 「さて、どうする?」

 

 シガは奪った剣を捨てると、盾だけの敵に告げる。この戦いの優位性は剣を掴み持っているシガにあった。

 倒すなら今がチャンスだが、シガとしてはそのまま退いてくれればそれに越したことはない。出来るなら彼は斬りたくなかった。

 

 〔……〕

 

 だが、隻眼の龍族から戦意は消えていなかった。盾だけでも戦うと言った様子で身構えている。

 

 「そう言う事なら……仕方ない」

 

 壁が開かない上に、この龍族を倒さなければテレパイプを起動する隙もない。不本意だが倒させてもらおう。

 その時、横の壁から強力な爆発音が響いた。爆発は壁の向こう側から。まるで何者かが向こう側から叩いている様に二度三度と爆音が響き、ヒビが入って行く。

 

 「なんじゃぁ!?」

 

 洞窟が崩れるんじゃないかと錯覚する衝撃に天井の岩盤がパラパラと剥離して落ちてくる。そして、外側から吹き飛び、爆熱と煙によって視界が塞がれた。

 

 「ゴホッ、コボッ……ったく……一体、なんだって――」

 「なんだ? やけに固い岩だったなぁ」

 

 煙で若干せき込みながら、シガは聞き覚えのある声に気がついた。壁を爆破した張本人は、自分で起こした土煙の中をスタスタと歩いて、視界に映る距離まで近づいてきた。

 

 「ん? なんだ、貴様。貴様ではないか! こんなところで何をしているんだ?」

 

 いつもならヒューイが目付け役になっているヒューマンの少女。そして、アークスの頂点たる六人の内でも最上とされる三人の一人。

 六亡の五にして、三英雄の一角――三代目クラリスクレイスだった。

 

 

 

 

 

 「なんで、クララちゃんがこんなところに居るの?」

 

 シガは歩いて来るクラリスクレイスを見ていたが、視界の端に煙の中を失踪する影を捉えた。

 やべ――

 

 「おーい。なんだ、なんだ? こんなところで貴様は何をして――」 

 

 その時、クラリスクレイスの死角から煙を突き破る様に隻眼の龍族が彼女へ強襲する。拾い戻した剣はおろか、その接近すら気づいていないクラリスクレイスは素人丸出しで隙だらけだった。

 

 「? 何をしてる? 貴様は」

 

 隻眼の龍族は、剣を振り上げた所で停止していた。固定されて様に宙に浮いている。その様子に当人も驚き、身体を拘束する様に巻きついている“糸”の存在を確認する。

 

 「そうか。敵だな? そうだろ」

 

 クラリスクレイスは流石に隻眼の龍族を敵と認識し、背に持つ紫色のロッドを眼前の龍族へ向ける。

 

 「ちょっと待って!」

 「ん? なんだ?」

 

 走って来るシガの静止に、クラリスクレイスは視線だけを彼に向け、半ば反射的にロッド――灰錫クラリッサⅡから“フェイエ”を発射していた。

 意識がシガに向いたおかげで、フォイエは隻眼の龍族では無く、少し逸れて天井に向かって放たれる。

 洞窟が揺れる爆発と轟音が響いた。そして、次にシガが懸念していた事態が起こる。

 

 「なんとなく、こんな予感はしてたけどね!!」

 

 天井が音を立てて崩れて来たのだ。分厚い岩盤は瓦礫となって降り注ぎ、流石にその全てを“糸”で止める事など出来ない。

 シガは隻眼の龍族を拘束している“糸”を解除して、走り抜け様にクラリスクレイスを小荷物のように小脇に肩に抱える。

 

 「何をする!」

 「そりゃ、こっちの台詞だっ!! 黙ってないと舌を噛むぞ!」

 

 降り注ぐ瓦礫を躱しながら彼女の壊した扉を抜けて、瓦解の及ばない場所まで全力で駆けて行く。




 クラリスクレイスとの邂逅です。EP1本編では彼女とはマターのサブイベントでしか、かかわりがないので、オリジナルの邂逅となります。
 次はようやく彼女が出てきます。

 次話タイトル『Aki 賢人』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。