アキは資料片手にマザーシップを歩いていた。それは、純粋に自分の研究が『オラクル』の為になると信じていた頃の記憶である。
「おや?」
研究室まで
ソレは三つの影。
一人は同任者であり、違う部署の室長をしている黒い外装のキャスト。
一人はキャストの腰ほどまでの身長しか持たない青い髪を持つ少女。
そして、もう一人は仮面と左腕に特殊なユニットを着けた白髪の男。
三人の中で、仮面の男がこちらに気がつき、その奥にある青い眼をアキへ向ける。
「やぁ、オーラル室長」
男の動作と、アキの声で黒いキャスト――オーラルもそちらを見た。青い髪の少女は仮面の男の後ろに怖がるように隠れる。
「アキか。珍しいな。お前が研究室から出ているとは」
広間を行き交う研究員たちは、アキとオーラルの邂逅を物珍しげに一瞥するだけで早足に通り過ぎて行く。
「……隊長。彼女は?」
横に立つ仮面の男はアキを見てオーラルに尋ねる。アキは、仮面で籠った口調から白髪のモノは若人であると推測した。
「同じ研究者だ。とは言っても専門は大きく異なるが」
「私はアキと言う、しがいない研究者だ。君は?」
仮面に見慣れない少女。密かに噂になっているオーラルが率いる部隊の有無。その手の者達であるとアキは察していた。いたのだが、好奇心が優り質問を投げかけたのだ。
「オレは――」
「待て」
何か言おうとする男にオーラルは静止する。まるで、つい口に出そうとすることを意図して止めた様な口ぶりだった。
「悪い癖だ。“改めろ”といつも言っている」
「……すみません」
「クーと一緒にハドレッドの元へ行け。後から
白髪の男は一礼すると、こちらを気にする様にチラチラと見てくる青い髪の少女を連れて歩いて行った。
「気まぐれか。好奇心は科学者には不可欠だが……世の中には知らなくていい事もある」
「都市伝説のような噂だ。だが、君はこういうのだろう? 『白髪の者は雇っているアークスで、青い髪の少女は彼の身内』だとね」
「物分りが良い奴は長生きできる。これからも、他の事情に突っ込む事はせず自分の
「良い忠告だ。だが、君も研究者なら解るだろう? これは
それは“知らぬ事”を、知ろうとする――解明しようとする探究心。
研究者として持っていなければ、研究を続ける事が出来ないソレを当然のごとくアキも持ち合わせている。
その
「答えが欲しいか?」
オーラルは腕を組みながら、その
「ふむ。確かに
「探られる側としてはたまったモノではないがな」
「だが、その問題に時間を割けないのも辛い“問題”でもある。私が今、魅力的に感じているのは“アムドゥスキア”の全てだよ。それを上回る魅力は今の所、他の何にも感じていない。突発的な“興味”は出るがね」
「…………やれやれ。問題児だ。お前は」
「それは褒め言葉かな? それとも――」
オーラルは、どこかフッと短く笑ったような音声を出す。そして、
「アキ。お前の好奇心の範囲でいい。機会があれは、あいつ等を気にかけてやってくれ」
「それは、私にも都市伝説に関われと言う事かな? 悪いが断らせてもらうよ」
「気が向いたらでいい。お前は口が堅いからな。後で、ウタにもそう言っておく」
まるで父親のような雰囲気で、オーラルはアキに背を向けて去って行く。彼らの元に向かうのだろう。意外にも父性が漂うその背中に驚きを感じつつも、唯一解らなかった単語をアキは問う
「ウタ?」
「白髪の青年の名前だ。言っておくが、データベースで検索しても出てこない」
その意味は、より深い
一枚岩では到底維持できない程に『オラクル』は組織として相当膨れ上がっている。その様な者が居るのも秩序を守る上で仕方がない事だと、アキ自身も他人事だった。
「ウタ? ああ、なるほど。そう言う読み方も出来るな」
珍しいオーラルの頼みでもある事もあって、アキは記憶の片隅に、白髪と青い目を優先度の低い情報として記録しておくことにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「これは素晴らしい。これも回収しておこう」
アキは目的の地点に着くや否や、鉱石の収拾を開始した。連れ人を二人増やしての探索は、思いのほか軽快に事が進んでいる。ただし――
「アキさん!? ちょっ、手伝ってください!!」
「むー、やっぱり難しいな……難しいぞ!!」
“龍族”に襲われていなければ、だが。
今現在、三人は襲撃を受けていた。この場所に着くと同時に、待っていたように出現した“龍族”は敵意むき出しで明らかにこちらの命を
シガとクラリスクレイスは応戦し、アキはそそくさと収集を開始した。そのため、戦いは二人だけが行っている。
「むー、これでどうだ!!」
バッとクラリスクレイスが杖を構えると
「どうだ!」
ドヤッ、とシガを見るクラリスクレイス。ちなみに今の
「まだ、アウトォー」
シガは横の地面から飛び出してきた、四足歩行の龍族――フォードランの角を正面から『青のカタナ』で受け止めて、強引に向きを逸らす。
「くそ、さっきから体力ばかり奪われる……」
一人だけ、尋常でない汗を掻いているシガは、火山洞窟の暑さをいつもよりも数倍に感じ取っていた。そして敵は知性を持つ龍族。クラリスクレイスの火力を見て、迂闊に飛び込んで来ず、奇襲や距離を置いて攻撃を行って来る。
唯一の利点といえば、クラリスクレイスの攻撃によって広範囲に散ったフォトンだけだった。
「まったく、どうなってんだ?」
遠距離の龍族で視界に捉えられる者は全て“糸”で縛りつけて遠距離攻撃の数は減らす。だが、まともに戦っているのがシガ一人と言う状況は数によって押し込まれればもたない事を意味している。
その事に“
「だよな!」
地面から、高台の上から、眼につくだけでも50近い龍族が現れ始めた。質量で押し込むつもりなのだ。
いけるか? 糸で正面を封鎖する。だが、ソレでは遠距離の敵に対して何の対策もとれない。クララちゃんも、火力が強すぎて次は倒壊するかもしれないし……うーむ、これは――
「無理だね」
シガの頭の中を呼んだようにアキはライフル――『ヴィタブラスター』を取り出しながら、戦う意志を表す。
「終わりました?」
「いや、もう少しだ。これほどの“龍族”に関心を持たれるのは嬉しい事柄だね。私達は素晴らしい体験をしているよ!! まさに、私達は幸福の中心にいる!!」
アキはフハハハ!! と現状にとても満足していた。敵に敵意を向けられて囲まれていると言うのに。
「…………」
「なぁなぁ、シガ。アキは何と言っているんだ?」
オラクルの美人さんにはまともな人は居ないのか!? それとも……オレって女運が悪い!?
「どうしたんだ? そうか! この数を前に、やはりわたしの力が必要だな!! 任せるがいい!! まとめて爆破だ!!」
まともな女の子が居ない。やっぱり……フーリエさんやマトイは希少な存在なんだなぁ……
シガが現実逃避している横で、アキとクラリスクレイスは戦闘状態へ移行していた。
「何とも、この素晴らしい瞬間を永久に感じて居たいのだが……優先するべき事がある以上、退けさせてもらうよ」
ジャキッとアキは『ヴィタブラスター』を構えて発砲。出力を調整し遠距離に居る龍族を殺さないように気を失わせるだけに留める。
「爆破♪ ばっくっは~♪ さっきからスッキリしなくてもやもやしてたんだ!! まとめて消し飛べ!!」
ゴバッと地形が変わる程の爆発が、クラリスクレイスが掲げた『灰錫クラリッサII』から無数に発生。龍族を次々に呑み込み、吹き飛ばして行く。熱と衝撃に態勢を持つ龍族は、死亡するに至らず気を失う所で留まった。
「もー! ほんとっ! もー!!」
ヒュッと爆発で発生した煙の中を失踪するシガは『青のカタナ』を抜き放つ。すれ違い様に、出力を押さえた斬撃で龍族を無力化して行く。
三人は遠距離、中距離、近距離の適性距離で意図せずともかみ合い、見事に龍族の襲撃を受け続ける。だが、次々に出現する龍族はまるで無限に湧いていると錯覚するほどに制限がない。
その時、地面を潜って回り込んだ龍族がアキの背後から飛び出す。
「おっと――」
アキは反応してその龍族へ『ヴィタブラスター』を向けると――
「おや?」
その龍族は、もつれる様に倒れ、拘束された様に手足を縛られていた。良く見ると地面には網目状に緩く広く、フォトンの“糸”が張り巡らされている。
「大丈夫ですか!?」
最前線で後衛が動きやすいように敵を引きつけているシガが声を張り上げた。地中からの襲撃を読んでいたシガはアキとクラリスクレイスの周囲に網目状の“糸”を罠として仕掛けていたのだ。
「こちらに怪我は無い。安心したまえ!!」
アキも聞こえる様に大声で返す。そして、その龍族を撃って気を失わせると、次は“糸”を見た。
「……驚いたな。これは――」
そして、その“糸”の特性を瞬時に分析して驚きと同時に、この状況を打開できる過程を瞬時に導き出す。
「シガ君! 聞こえるかね!」
「なんすか!? 今ッ! 手がッ! 離せないんですけどッ!!」
“糸”と『青のカタナ』を使ってギリギリ戦線を維持しているシガは、受け答えするのも最後の余力だった。
「シガ! 任せろ!! まとめて爆――」
「わー! クララちゃん! ストップ!」
天井の強度は既に限界だった。次にクラリスクレイスが攻撃を見舞えば、間違いなく倒壊してくる。
「聞きたまえ、シガ君! このフォトンの“糸”は君が作り出したのだろう!!?」
「そうですよッと!!」
シガは横からのフォードランを撃破する。
「ならば、今君の前線にいる龍族達に“糸”を繋げることが出来るか!?」
「難しくは無いです! ですけど、何も意味は無いですよ!!?」
今考えるべき事は、どうやってテレパイプを起動するか、だ。僅かな隙でも見出すか、今手の空いているアキが起動してくれるのが一番なのだが、彼女は帰るつもりはなさそうだった。
「“糸”は視界に捉えていれば、対象の周辺にあるフォトンを物理化して、拘束する為の技術です!! 巻きつけないと意味がないんですよ!!」
しかも、瞬間的な強度は得る事が出来るが、長時間の拘束は不可能なのだ。今も、最初に拘束した遠距離の龍族は、自然にフォトンへと散った“糸”の強度が弱くなり、自力で引きちぎって立ち上がったところを、アキに撃ち抜かれていく。
「その方法は正しいが、現状では効率の良い事とは思えないな!!」
「なにか、打開策があるんですか!?」
止まることの無い龍族の増援。まるで意志を持つ津波を相手にしている様だ。動き回って捕まらないようにしているが、このままでは――
「後で説明する! 今は、出来るだけ多くの“龍族”に“糸”を繋げて、こちらから触れられる距離に“糸”を作ってくれ!!」
意味が解らないが、このままでいずれ押し込まれる。アキに何か考えがあるのだとすれば、根拠のない事ではないのだろう。図らずとも彼女は科学者であり、理論を元に行動を決めているのなら――
「――――」
シガは眼につく龍族に繋がる様に“糸”を作り出す。数が多くなる分、一体に対する本数も強度も大きく下がってしまう。だがアキを信じ、龍族につなげた“糸”を『青のカタナ』の柄に結び付けると、後方へ投擲する。
それは、アキとクラリスクレイスの中間の位置に突き刺さった。
「クラリスクレイス君! その“糸”が見えるな!?」
「これか?」
アキは前進しつつ、クラリスクレイスに向かって来る龍族を撃つ。クラリスクレイスは『青のカタナ』の柄から伸びる“糸”に触れた。
「それに、君のテクニック――フォイエを流し込みたまえ!!」
「こうか?」
クラリスクレイスのフォトンに呼応する様に、“糸”にはオレンジ色のフォトンが導火線のように走る。それは、この戦いを終わらせる一手だった。
武器を後方に投げて殺されるまで秒読みだったシガは、次の瞬間に龍族が次々に爆発した様を間近で確認した。
「うお!?」
まるでゼロ距離でフォイエを食らったように、龍族達は次々に倒れて行った。
連携技炸裂です。解説は次回にアキさんがやってくれます。
次話タイトル『Photon ability 特性』