5分だけ休憩した後に、シガは何とか動けるようになった。左腕も通常状態に戻し、頭痛もだいぶ良くなっている。
「悪いな……
それでも万全とは言い難く、何とか彼の肩を借りて先に進んでいた。流石に自力で立ち上がる事は出来ても、少しだけふらついたので彼の肩を貸してもらっているのだ。
「あまり無茶するなよ? それに、こっちの道で本当にいいのか?」
アフィンは嫌な顔をせずに肩を貸してくれていた。そして、シガが少しでも先を急ごうと、強く意見した為、不恰好ながらも進む事になっているのだ。
「ソレについては、特に理由は無いよ。どちらかといえば、同じところに留まり続ける方が良くないと思ってな」
ナベリウスに居るアークス全体に発令された“厳戒令”は未だ終息したとの情報は無い。つまり、他の場所では、まだ出現し続けているのだ。
神出鬼没のダーカー。同じところに留まり続けるは、敵を迎える事になるかもしれない。たった8体に死にかけた今の自分たちのステータスでは出来るなら会いたくない存在だ。
アフィンもソレを察しており、移動することに異論は無い様である。
「それにしても、その腕はすげーよな。ソレが量産されれば、ダーカーとの戦いは、一気に有利になるんじゃないか?」
「OFFにする度に倒れてたら話にならないけどな」
今回は僅かな時間だけの使用に留まったので、数分の休息で動けるまで回復できた。オーラルとの試験運用では、24時間で最大使えても1時間程度。無論、解放し続けた時間に比例して、解除した時の疲労度は大きい。
「それに、訓練場と惑星ではフォトンの濃度も違うからなぁ。100以上の出力が出る事もあれば、80しか出ない事もある」
その場のフォトン濃度に左右されるため、安定した出力も望めないのだ。現在は、ダーカーの出現によって必然とフォトンの濃度が高い。故に、基本性能の120%で出力は固定されている。
「しかも、使えば身体が動かなくなるおまけつきだ。一般に普及しても、敵の目の前でバタバタ倒れちまうだろうぜ」
強力に見える兵器ほど、その裏側はハリボテであることが多い。シガのフォトンアームも、ソレに当てはまる不恰好な武器なのだ。
「色々と訳ありなんだな」
「そーそー。だが安心してくれ。後一回くらいなら使えそうだ。囲まれた時はオレに任せろ」
「遠慮なく頼らせてもらうぜ。肩貸してるんだからな」
持っていた秘密を打ち明けて、更にお互いの信頼が深まっていた。
そして、二人が向かうのは森林の奥地。シガの選んだ道へ足を進ませている。その理由は
「…………」
急がないといけない気がしていた。何故なら、“あの声”は間違いなくこの先から、呼んでいたから――
森林エリアの奥地。その場に天蓋を作る程に大きく広がるように生い茂った枝を持つ大木だけが特徴の静かな場所だった。
時折聞こえる、鳥のさえずりの様な音以外は、流れるそよ風に揺らされた葉が、ぶつかり合って涼しげな音楽を奏でる。知る者達によってはとても心落ち着ける場所でもあるだろう。
そして、その場所は、シガが発見された場所でもあった。
「……ここにいたか――」
その場に辿り着いたのは、不気味な雰囲気を持つ仮面の存在だった。手には巨大な紫色の刃を搭載したコートエッジDと呼ばれる、アークスの武器を携えている。
彼は、見下ろしていた。彼女を――
「…………ようやく……解放できる」
そして、その場に倒れている少女に対して、武器を振り上げる。後は振り下ろすだけで、“全て”が終わるのだ。
「先に……逝っててくれ――」
彼女に振り下ろそうと、力を入れた、その時だった。
「たす……けて……」
その言葉に、思わず彼の手は止まる。何かを考える様に、僅かな戸惑いが生まれてしまう。しかし、それはほんの数秒だけ。ギリッと、歯を喰いしばる様な音が仮面の中から聞こえると、再び力を入れ直し武器を振り下ろした。
「――!?」
だが、咄嗟に横から飛んできた異物が自信の顔を狙っていた為、そちらを弾かざる得なかった。弾いた物体はガンスラッシュ。回転しながら飛んでいくと、近くの壁に突き刺さる。
「何してんだテメェ……」
奥地の入り口。そこに相方の肩を借りてガンスラッシュを投げた黒髪の青年が憤怒に染まった
シガの選んだ道を先に進んだ二人は、運よくダーカーにも原生生物にも遭遇せず、行き止まりまでたどり着いた。すると、そこで、二つの存在を確認する。
だが、ソレを認識する前にシガは咄嗟にガンスラッシュを抜き、仮面を着けた方へ投擲したのだ。
「何してんだテメェ……」
アフィンは、シガとは僅か半日の付き合いだった。その中でも飄々として、緊張感の中でも余裕綽々に立ち回っている様子から、普段からそういう性格であるとなんとなく察している。
だが、今は、まるで別人のような、自分よりも大切なモノを傷つけられたような“怒り”を纏っている。冷静な彼が、唯一制限なしに戦える
そして、
「なぁ、何してんの? お前――」
アフィンの肩からいつの間にか離脱していた。いつ離れたのか気がつかない程の瞬発力で接近し、仮面に対して戦闘形態となったフォトンアームを叩きつけていた。
仮面が、シガの攻撃を持っている武器で受け止めている。その接触で、フォトンが弾け、発生した衝撃は天蓋の枝や周囲の木々を大きく揺らす。
「アフィン! その子を頼む!」
「! 相棒は!?」
「オレはコイツを泣かす!」
キチキチと、金属質な音を立てて接触していた
「やはり……お前か……」
至近距離で、仮面はシガにだけ聞こえる様な声。まるで人のモノとは思えない、地の底から響くような不気味な声だった。
「親に教わらなかったか? 他人と面と向かって会話する時は――顔を出せってよ!!」
フォトン・エッジ。シガは、接触した状態から指部にフォトンの爪を展開。ダカンさえも容易く斬り裂いた一撃。この至近距離ならただでは済まないだろう。
「…………」
だが、今度は逆にシガが弾かれた。完全に力勝ちしていた状態から、仮面は僅かに足を曲げて、バネを作ると全体重を武器に乗せてシガを弾き返したのである。
「!?」
「相棒!」
野郎……重心だけで弾き返しやがった!?
フォトンアーツでも、武器の性能でも無い。不利な体勢からただ単純な体術で押し返されたのだ。
後ろによろけながら、アフィンを確認する。彼は倒れていた少女を何とか自分たちが来た道へ避難させていた。
「お前は先に逃げろ!」
「そっちはどうするんだよ!?」
「どの道、解除したらオレは動けなくなる! この場でコイツとは決着をつける!」
フォトンの吸引率120%。放出率15%。フォトンアーム
眼に見える程に周囲のフォトンを凄まじい速度で吸収していく。ソレだけで大気が鳴動し、持て余しそうになる“力”の濁流を感じ取っていた。だが、その全てを制御するのは一瞬だけで良い。
地面を砕かん勢いで踏み込む。仮面は逃げる様子も躱す様子も無く、迎撃するようだった。
嘗めんなよ……これは唯一、オーラルさんの装甲を傷つけた一撃だ。消し飛んでろ!!
「
その攻撃が敵に接触する瞬間だった。
『全アークスに通達。ダーカーによる空間許容限界の低下を確認しました。コードDの発令を解除。警戒レベルを引き下げます』
それは、フォトン係数が正常値に下がった事を意味し、フォトンアームの出力は途端に息が止まったように、その出力が消えてしまう。
「…………」
まるで、弾ける様に左腕に纏っていた膨大なフォトンが消え去る。そこへ、迎え撃つ仮面は、自らの武器を縦に振り、衝撃波を飛ばしていた。
向かって来る衝撃に何とか反応し、まだ戦闘状態になっている左腕で受けとめる。
「くっ……」
その威力は予想以上だった。踏ん張ったにも関わらず、身体が浮き、アフィン達の目の前まで弾き飛ばされる。
「相棒!」
やべぇ……左腕が――
そして、左腕も通常状態に戻り、途端に反動が襲ってくる。視界が暗転し、意識が途絶え――
「……ここで安眠する訳にはいかねぇよなぁ」
自らの生身の右腕の指の骨を折って、激痛に歯を喰いしばりつつ、何とか意識を繋いだ。
「…………」
目の前に悠然と立つ仮面。
ヤバイな。これは勝てない……どうする? どうする――
「アフィン。その子を連れて逃げろ。オレが時間を稼ぐ」
恐らく、
震える脚を何とか立ち上がらせた。それでも、虚勢にすらならないが。
「相棒はどうするんだよ!?」
「オレには……まだ奥の手がある。時間を稼いで、なんとか逃げ切るさ」
不安にさせない様に不敵に笑って答えた。もちろん、奥の手など無い。もう、立ち上がる事しか出来ず、ちょっとでも押されたら倒れてしまうだろう。
「ずっと……何か引っかかってたんだ。それが、ようやく解った」
「何が……?」
それは、自分がアークスを目指す意味。アフィンの質問には、大雑把に答えてしまったが、この場に倒れていた彼女を見て確信した。オレは……きっと――
「誰かを護る為に、アークスになりたかったんだ。だから……護らせてくれよ」
見ず知らずの少女。だが、この場で最も無力な
「…………死ね」
仮面が向かって来る。もう、時間が無い。
「アフィン! 頼むぞ!!」
覚悟を決めろ。どれほど絶望な状況でも必ず、生き残る為の道はある!
迫る凶刃。向かって来る“死”の一撃から、シガは眼を逸らさなかった。諦めていないその意志は最後の最後まで、生き残る活路を探していた。
しかし、
「……!!」
「おいおいおい……気まぐれでも、たまには任務に来てみるもんだなぁ。面白れぇ事になってるじゃねぇか」
アフィンの背後から飛び出した影は、嬉々としてシガを追い越し、仮面に向かって拳を突きだしていた。
\キャーゲッテムサマー/
この三人と遭遇するイベントを一度にこなすには、これしかないと思いました。ゲームにそって、何度も同じ場面を繰り返すのはあまり良くないと思ったので。
次話タイトル『Persona vs Baresark 強と狂』