「や、シガ。どうだった? 上手く行った?」
ライトの依頼である、アキの捜索。アザナミから振られた仕事を無事に終え、アークスシップに帰還したシガは市街地にある行きつけのカフェテラスで彼女と対面していた。
「大変でしたよ。ただの人捜しって言っても二転三転する事があるんですね」
シガはアザナミの目の前に席に座ると、適当にコーヒーを注文する。
「急ぎの依頼であればある程、その傾向が強いからねぇ。で、予想外の事って何が起こった?」
「70体近い龍族に襲撃されました」
「あっはは。よく生きてたね」
やっぱり、アレは死ぬ可能性の高い戦闘行為だった。アザナミさんは笑っているが、現場で対峙した身としては生きた心地がしなかった。
「アキさんの機転に助けられまして。ほんと、彼女が居なかったら――」
居なかったら……さっさと逃げてたんだよなぁ――
「うーむ。変人と上手く付き合えるようになりたい……」
「アキ博士は、アムドゥスキアを専門に研究している研究者で、龍族の生体理論の権威。アムドゥスキアに関する情報の大半は彼女の提供による所が多いらしいね」
アザナミは、その場でアークスの特権を使い、自前の端末からアキの事を簡単に調べた。
「あ、研究者って言ってました。それに、だいぶアムドゥスキアにご執心でしたよ」
「アークスとしても活動して、個人でフィールドにも降りてるみたいだね。色々と有名で、結構顔の利く人らしいよ。こりゃ、良い人見つけたね」
ブレイバーの容認として、今は功績と有力者による評価が求められている。現場での汎用性と依頼達成は当然ながら、その過程で一定の評価が必要になって来るのだ。
しかも、それは交友関係の強い人間からの評価では無く、他人からの
「アキ博士程のアークスが評価してくれれば、容認までだいぶ近道になると思うんだよね」
「確かに、今回の依頼でも良い印象を与えたと思います」
アキは、研究者の間では中々の有名人であるらしい。そんな彼女が、ブレイバーの実力を証明してくれれば、評価的にも大きな前進となるだろう。
「シガは今後、アキ博士の依頼を優先していこうか。他のはあたしがやっとくからさ」
「了解っす」
運ばれてきたコーヒーを飲む。アザナミに言われつつも、シガ個人としてもアキとの交流は別に苦では無い。寧ろ、彼女には色々と教えてほしい事があるのも事実だった。
その決定的となったのが、今回の依頼の帰り――キャンプシップでの彼女との会話である。
「限りなく“無色のフォトン”。それが君のフォトンの特性だよ」
キャンプシップでアークスシップへの帰路。アキはシガに説明する様に呟いた。
「無色のフォトン?」
シガは、『青のカタナ』の状態を確認している所だった。ちなみにクラリスクレイスは、疲れたのか別室で眠っている。彼女に関してはヒューイに迎えに来るように連絡を入れたので、キャンプシップの着港で出迎えに来る手筈になっている。
「君は疑問に思わなかったのかい? 何故“糸”は君に接触せずとも、視認している箇所に自在に発動するのか」
アークスの使う武器は、ライフルならば“弾丸”にソードならば“刃”に武器を起点に攻撃能力が展開されるように設計されている。
しかし、シガの使用する“糸”は、自らが接触していなくてもフォトンが一定数値存在し、視認で来ていればどこでも作り出す事が出来るのだ。
しかも、ソレは彼が自らで変換したフォトンでも無い。空間に存在するフォトンを操り、糸状に凝縮する事で“糸”として機能するのである。
「万能な能力だが、それ故に欠点もある。まぁ、これを使うのが君の特殊なフォトンだから出来る事なのだがね」
「無色のフォトンって事ですか?」
アキの分析では、“糸”はかつて『オラクル』でも研究されていた技術であるらしい。フォトンを遠隔で操作し、巨大な敵を捕える目的で考えられた。
だが、試験の過程で大きな問題が発生する。
より正確に空間のフォトンを認識し、更に拘束の造形イメージと、自らに色付けしたフォトン以外を操る特質が必要だったのだ。
これは、機械では代用できない。理論構築には膨大な時間と費用が掛かることから研究は見送られ、初期の試験だけで中止された。
「無色のフォトンを操る特性。近接にて敵との間合いを測る為に培われた空間認識能力。奇跡的に条件は揃っていた。その結果、君は“糸”を発動する事が出来るようになったようだね」
「偶発的に生まれたと思ってましたけど……」
「いや、寧ろ必然だっただろうね。逆に別の要素でソレは阻害されていたと見ても良いだろう」
「別の要素……」
それはまさか、“爪”と“撃”の事だろうか? 考えてみれば、その二つはフォトンを放出する。その所為で周囲のフォトンを消費し散らせてしまう事になっているだろう。
「それほどの特性は貴重なモノだ。無色のフォトンは逆に言えばどんなモノにも染まることを意味している。“龍族”を退けた時の事を覚えて居るかい?」
「はい。て言うか、数時間前の事ですよね?」
ああ、とアキは腕を組んで壁に背を預ける。
「アレは、君の“糸”にクラリスクレイス君のフォイエが伝わったのだ。とは言っても、70近くに分散しても、彼女の異常に威力のあるフォイエは、熱に強い“龍族”を失神させる程の威力があったわけだが」
シガの糸は単に捕縛するだけでは無い。その性質は空間に漂う自然なフォトンと同じモノなのである。作り出した“糸”は形を成しただけで自然なフォトンと同じ性質を持っているのだ。だからこそ、他の者が“糸”を介して攻撃を行う事も不可能ではなかったのだと言う。
「相方が居れば十全に機能する能力だ。ただ、クラリスクレイス君のように強力なテクニックの使い手に限るだろう」
敵に繋いだ“糸”にテクニックを流すだけで、ゼロ距離で炸裂する。防ぎようのない攻撃であると同時に、捕縛した状態では避ける事も出来ないだろう。
「やっぱり、一人じゃ捕縛する程度ですね」
それでも重宝するのだが、高レベルのテクニックの使い手と組む事で、戦術の幅が広がる。しかし、当面はソロでの使用で問題なさそうだ。
「だが、私には一つだけ解らない事がある」
「なんですか?」
「君のその特性は、後天的なモノではあるまい。フォトン特性とは生まれながらにして個人の持つ指紋のようなモノだ。大きく変わることはありえない」
「ああ。オレ左腕にフォトン特性を頼っているんですよ。その所為かもしれないです」
オーラルさんは、“あるアークス”のデータを元にフォトンアームは組み上げたと言っていた。シガにも扱いやすいように多少は変更されているかもしれないが。
「ふむ。君と話していると興味が尽きないね。私が言いたいのは、それほどの特性を持ちながら、なぜ放任されていると言う事だ。君の適性試験の担当者は誰だい?」
「オーラルって人ですけど」
「……オーラルか。ふむ、妙な縁だね。こういうのはあまり信じたくは無いのだが」
「知り合いですか?」
「それは愚問な質問だよ。『オラクル』の科学者でオーラルの名前を知らぬ者はいない。彼は一部の学術書にも名前が出てくる程に、技術躍進の先行者だ」
オーラルさんって、結構な有名人だったのか……身近でよく話をするのでそんな事は全く知らなかった。
「なるほど。さしずめ、その左腕の実験と言った体だろうね」
「オレも自覚してます」
この
「これは私の勧めだがね。あまり“糸”は他の者の前で見せない方がいい。無論、緊急事態では話は別だが」
「あまり、歓迎されない能力って事ですか?」
「どうなるかは察しが付くのではないかな? 今の生活を続けたければ、己の情報の露見に気をつける事だよ。他とは“違う”場合は特にだ」
アキはシガの事はイレギュラーな存在であると告げる。
シガも自分の装備は特殊なモノだとは自覚している。そして、自分が中途半端だと言う事も。だからこそ、ある程度立ち回れるようになったことで、今度は自分の立ち位置について考えなければならないのだ。
「アキさん。ありがとうございます」
一人では絶対に気づかなかった事だ。親身になって教えてくれた彼女に感謝する。
「なに、今後とも君とは接点を持って行きたいと思っていたところだったからね。近い内に依頼を頼みたいのだが――」
「あ、それは……ちょっと考えさせてください」
アムドゥスキアの溶岩の温度を測ってくれ。とか平気で言いそうなので、彼女の依頼は二重チェックしてから受注しよう。
スタイル抜群で美人なのだけれど……うーむ……依頼の過酷さと、つり合いが取れてるようで取れてないなぁ……
アキさんのセリフはどうしても考えるのに時間がかかります。考える分には楽しいんですけど、それが読んでくれる方に理解してもらえるかは別の話なので、気を付けています。
次はようやくストーリー『龍の病』が始まります。今までは依頼の前準備的な形だったので、ちょっと長かったです。少しオリジナルな展開も考えているので、ぜひお楽しみに。
次話タイトル『Know those who その病を知る者達』