命の強さ。
それは、生きとし生けるもの全てに存在する、世界に対する己の“存在証明”である。
己の住む世界で受ける多くの障害や軋轢。その中で、理不尽と戦い、また攻略し、その環境に適応して命は
種の生存本能として、“強い光を放つ命”は、そう易々と消えたりはしない。
アムドゥスキアの龍族も、そうだった。
熱に強い皮膚。高低差を物ともしない身体能力。武器を駆り善悪を判断する知性。
純粋な意志は対峙した者にしか分からない。彼らは常にまっすぐなのだ。故に、他に頼らず自らの力で問題が解決できると信じて止まない。
だからこそ、今回の“病”は解決できなかった。
種が滅亡の危機を迎えた時、新たな進化が必要となる場合もある。しかし、その進化が間に合わない程の脅威が訪れた場合……その種は滅ぶしかない。
いくら、命が強くとも。
いくら、知恵を絞ろうとも。
いくら、敵を倒そうとも。
己の理の中で生きる龍族には客観的に、“病”の本質を捉える事が出来なかった。
進化は、時として外界の力を要いなければならない。それに気づき、受け入れる事が出来るか否か。
独特の価値観を持つ龍族には難しい事だろう。
彼らの事を、彼ら以上に“知る者”が現れない限り――
フォトンが弾ける。青い剣線が無数の起動を描いで、対峙する“エル・アーダ”に向けられていた。
「『アサギリレンダン』」
シガは距離を瞬時に詰め、高速の剣撃を“エル・アーダ”に与える。一撃、二撃、と順当に刃は通っていたが、三撃目からは水中を泳ぐように移動する“エル・アーダ”から外れてしまった。
「やっぱり手数が増える分、威力が落ちる」
瞬間的な威力は期待できるが、敵に対して終始怯みが取れない。このフォトンアーツは正面から出なく、奇襲気味に使う方が効果的な様だ。
二つの腕に強力な詰めを宿すダーカー――エル・アーダは、飛行能力を備えたダーカーであり厄介な部類に入る。防御力はそれほどではないが、三次元移動による機動力と一撃で沈黙することもある強力な爪撃や突進攻撃は、まともにもらえば熟練のアークスでも一撃で沈むほどの威力がある。
対策としては翻弄しつつ、むき出しのコアを破壊するのが一般的だ。
エル・アーダは、一度反動をつけると、爪による横なぎの一閃を見舞う。シガはその一閃に“
「『シュンカシュンラン』」
高速接近による刺突。一撃目で突き、次に上段振りおろし、横なぎ、そして切り上げ、と言った一連の流れで“エル・アーダ”のコアを破壊した。
「地味に厄介な奴だ。どうやって浮いてるんだか」
ボロボロと崩れて死んで行く“エル・アーダ”の妙に良い機動性に疑問を抱きながら『青のカタナ』を鞘に収める。
「シガ先輩」
アキ達も、後方のダーカーを問題なく片付けていた。
コ・リウとの戦闘後、シガ達は更に火山洞窟の奥へと足を進めていた。
行先はアキの先行によって決められており、彼女もそれなりの確信を持って進む様子から、シガとしては特に反論も無い。
時折、周囲を端末で調べながら、ふむ、と考えている様を見れば、まだ自分達には断言できない何かを追っているらしい。
シガは、状況は確認はアキに任せて、パーティーの戦闘状況に気を回す事にしていた。
奥に進むにつれてダーカーの襲撃が多くなっていった。
アムドゥスキアに留まらず、最近は数多の惑星でもダーカーの活発化が著しいと聞いているが、こうも立て続けに出会う事になるのは流石のシガも初めてである。
「なんだが、ダーカーの数が多いですね」
ガンスラッシュを直しながらロッティも呟く。研修生である彼女でも気がつくほどに現状は異質らしい。
「本当は、ダーカーと短期の連戦は控えた方が良いんだけどね」
条件が揃えば無尽蔵に湧くダーカーに対しての消耗戦は絶対に控えなければならない。
大規模な掃討作戦のように後方の補給や支援が約束されているなら話は別だが、そうでない場合は極力、一対多数の戦闘は避ける必要がある。
奴らは止めどなく溢れる。アークスはダーカーの殲滅を主としているが、その際には“慎重”を常に傍らに置いて戦わなければならないのだ。
ある程度の情報は揃っていると言っても、ダーカーは常に進化している。今まで有効だった手が通じなくなると言った事も数多に確認され、連戦となる場合には特に、その挙動に気をつける事が大事なのだ。
「だが、これだけの敵を平然と凌ぐ君も、大したものだよ」
と、ライトと共に周辺の調査をしながらアキが会話に入って来た。どうやら、パーティリーダーとして、メンバーの実力はきちんと見定めているらしい。
「ロッティ君も、その身のこなしは将来有望だね。君はハンター志望だったかな?」
「は、はい! でも、シガ先輩が機動力のある敵を引きつけてくれるおかげで何とかなってる感じですけど……」
「そこまで謙虚なら危険な事はあるまい。だが、油断は禁物だ。君はまだ、アークスではない。戻ったら洗浄処置をきちんと受けた方が良い」
ロッティは研修生である為、惑星の踏査と戦闘行為が出来る最低限の装備しか支給されていない。なので、ここまで継続的にダーカーと戦闘行為を行う事は想定されておらず、ダーカー因子の蓄積もアキ達に比べてかなり多くなっている。
その事をシガも察して彼女には交戦を避けさせているのだが、予想以上のダーカーの展開能力の所為で有無を言わさずに戦わせる状況になってしまっていた。
「はい」
すると、ピピ、と短い電子音が鳴り、アキは再び調査用の端末に目を向ける。そして、ライトと何かを話し始めた。
「あんまり無茶はしないようにね、ロッティちゃん」
戦いになれば、戦える者の手を借りなければならない場面はどうしても避けられない。そして戦う以上は命の危機が付きまとう。
まだ、研修生である彼女にはそんな重荷を背負わせたくないのも事実だった。
「大丈夫です。無理をしても良い結果は得られないってちゃんとわかっていますから」
本当に良い娘だよなぁ。アークスに成り立てだったオレとは全然違う。
「君は良いアークスになるよ」
出来るなら、その純粋さをずっと持ち続けてほしい。片腕のオレとは違い、彼女はまっすぐ進むことができるだろう。
「もし、アークスになった時はぜひ、よろしくお願いしますね。って言っても、まだまだ先の話なると思いますけど」
「二人とも、ちょっといいかな?」
ライトと話を終えたアキが再び歩み寄って来る。少しだけ神妙な面持ちであった。
「ここから先に、強大な生命反応を感知した」
アキはより強いダーカー因子の反応を選んでルートを決めていた。
龍族は敵を倒している。ならばダーカーの集まる場所ならば必然と遭遇できると言う考えからの選択だった。
そんな時、今までの比では無いダーカー因子の反応を検知したのである。距離を置いても感知できる程に巨大な反応。近づけばもっと詳しい事は分かるだろうが、この反応は大型ダーカーと同義のモノだった。
「理由はどうであれ、戦う事に成れば命を晒すほどの危機に遭遇する事になる。君達は元々私たちとは別の意図でここに居る。ここで、帰ってもらっても構わない」
アキは、これから命を落とす可能性が強くなった以上、無理に付き合う事は無いと言っていた。
シガを選んだのはアキだが、彼は先にロッティの依頼を受けている。彼女が帰るのなら同行者である彼も帰るのは必然の流れだ。
そして、ロッティの依頼であるアムドゥスキアの調査は概ね達成できているだろう。ならば、これ以上の死地に関わる必要はない。これから命を落とす可能性が極端に高くなる事から、彼女を護りきれない事も考察に入っている。
「狂化した龍族の事もある。あの時以上の脅威にさらされる事は確実だ。だから、君達はもう帰りたまえ」
「断ります」
「お断りします」
同時に同じ意見が出たシガとロッティは思わず顔を見合わせた。
「ロッティちゃん。君は戻っていい。オレは君の依頼を途中放棄してフリーで降りたって事にするから」
「シガ君。それでは、君の評価に傷がつく。君は試験クラスの評価を任されているんだろう?」
依頼の失敗。又は、途中放棄は
「確かにそれもありますけど、だからと言って目の前でさらに“危険な場所”へ赴く人を見捨てる事は出来ません。少なくともオレは、そうである事がアークスだと学びました」
シガは分かっていた。アキのアムドゥスキアに対する気持ちは偽り無いモノだ。そして、彼女が龍族を殺す事に強い抵抗を持っている事も――――
「オレは役に立ちますよ? 最初の戦闘では不覚を取りましたけど、それを次で挽回させてください」
アキさんでは、龍族を殺す事は出来ない。短い付き合いだがそれだけは分かっているつもりだ。なら、その役目はオレが引き受けなければ。そうしなくては、
「わたしも、途中で“依頼”を投げたしたくありません」
ロッティも、強い意志を瞳に宿してアキと向き合う。
「少しだけ状況は特殊かもしれませんけど……これはわたしの初めての依頼なんです。絶対に邪魔はしません! 最後まで居させてください!」
アキの考えとして、ここらは予想を超えた事が数多く起こるだろう。予測できない道の先に踏み込むなど自殺行為も良い所だ。
しかし……ソレから逃げたりすれば同じ状況に陥った時にまた、逃げ出してしまうのではないか?
あの時、自分は逃げ出した。しかしだからと言って何かが変わる訳でもなく、更なる悲劇を生み出した。
“人の意志を測りかねた。その代償が『ウタ』だった”
同僚は、人の意志を測りかねて大切なモノを失ったと言っていた。しかし彼女には大切なモノなど無い。そう、彼女は思い込みたかった――
この星を救いたい――
「……ここから先は未知の領域だ。もしかすれば危険な事を君達にあえて強いるかもしれない」
「わたしは、レポートを提出しないといけないので! 絶対に生きて還りましょう! 皆で!」
ロッティの台詞に、命の賭け方がどこかズレているとアキは微笑を浮かべる。
「確信は無いんですけど……きっと、この中で誰か一人でも欠けてしまうと、この中の誰かが死ぬ。そんな気がするんです」
シガはここに自分たちが四人でいる事には何か意味があると思っていた。今は分からない事柄だろう。そして、科学的根拠もなにもない完全な勘だ。
「君達二人は……本当に不条理な思考を持っているね」
だが、それは……それこそが、私には
それが、正直羨ましい。
「手を貸してくれ。君たちの力が私達には必要だ」
「任せてください!」
「当然です」
ロッティとシガの強い意志を改めてアキは再認識した。
「では、ライト君。君はどうする?」
「と、当然、行きますよ!」
「では決定だ。諸君、もうすこしだけ、私の
この星を救うを決めた。それに賛同してくれる者達もいる。
「三人とも、ありがとう」
アキは、着いてきてくれる三人に改めて礼を口にした。
ライト君は状況的に断れないよね。
前回の予告タイトルを変えました。リアルが忙しくて今後もそんな事が度々起こるかもしれないのでご了承ください。オリンピックって2020年だろうが!
次話タイトル『Hi Roga ヒの標』