「龍族って戦士のイメージが強いですけど、やっぱり序列的なモノってあるんですか?」
感知した反応を目指して歩いている中、ロッティの素朴な疑問は、皆の中に漂い始めた緊張感を少しだけ緩和する役割を果たした。
「ふむ。では、シガ君。君はどう思う?」
答えを知っているアキは、一番前を先行しているシガへ尋ねた。
「何体か戦った事はありますけど、やっぱりそれなりの“格の違い”ってのは有るんじゃないですか?」
アキのおかげで、この短期間で龍族と濃い交戦を幾度と経験している。
中でも手ごわいと感じる龍族は数多に相対していた。中でも一線を画する実力を持ったコ・リウは龍族の中でも上位に存在する者だろう。
「なるほど。君は龍族の序列を弱肉強食のピラミッド型として見ているのだね?」
「なんか、強い奴が群のボス。みたいな感じですか?」
「そーそー」
なんとなく共感してくれたロッティにシガは嬉しそうに肯定する。
「確かに、そう思われていた時期もあったそうですが、龍族には文明社会が存在します。なので、少し異なる組織図になっていると言われています」
ライトもアキに就いている関係上、龍族については人並み以上に把握していた。
「そう、文明社会だ。例えば、私達が生活を預けている『オラクル』は
力による序列は強固な組織を創る事が出来る。だが、それは長くは続かない。知性を持つ存在は最終的にソレを悟り、崩れる事の無い組織図を模索するのだ。
「文明社会とは、力による
秩序という言葉の定義は様々で組織ごとに違いもある。しかし、理無き行動を起こす事だけは絶対にありえないのだという。
「シガ君。君が戦った龍族は、本来ならこのような場所に足を運ぶことは至極稀な者であるハズだ。強く有能な存在はどの社会でも貴重だからね。そう言うモノが動く時は組織全体が脅かされる程の脅威に遭遇している事を意味している」
龍族の希少な戦士とシガは意図せず数度、遭遇している。星でも、その戦士が本来に求められる場所を離れて、アークスでも自由に立ち入る事の出来る場所を徘徊しているのだ。龍族は現状の異変には気付いているのだろう。
「なら、龍族もダーカーの侵食に気がついているって事ですよね? 話はスムーズに通るんじゃないですか?」
「龍族の組織図はピラミッド型では無いのだよ」
思いついたように発言したロッティの言葉にアキは答えを返す様に告げた。
「多くの一族が存在し、その中でも“標”となる存在が一族の方向性を定めている。だから、情報の伝達が遅れる」
「ああ、なるほど。
ライトも当然のようにその事は把握していたが、シガはアキのその言葉で完全に理解した。
龍族の組織図。それは“ピラミッド型”ではなく、“蜘蛛の巣型”なのだ。
上と下が明確に決まっているのではなく、全ての一族が平行線の平等として認識されている。その為、どこかの一族が滅んだとしても龍族全体の滅びには直結しない。
ピラミッド型のように、全ての一族が重要な役職を担っているのではなく、一族ごとに完結した“個”であるのだ。
その代わり、龍族全体で動く際には時間がかかり、種全体の進歩が極端に遅いと言う欠点が存在している。
それでも脈々と種が続いてきた様を見ると、『オラクル』とは違った組織図の成功例と言えた。
「今回は、一族間の致命的な伝達の遅さが滅びに直結しているって事ですね」
なるほど。と、ロッティはメモを取り、シガは喉のつっかえが取れた様に納得する。
今までは気にかけていなかった要素によって、現在の龍族は滅亡の危機に晒されているのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「して、アザナミよ。お前さんはレギアスの弟子か?」
地下坑道を歩くアザナミは、通路で遭遇した機甲種を全て撃破し、一度『カタナ』を払って鞘に納めた。その動作を視た六道は、彼女にそんな言葉を投げかけたのだ。
「なんでそう思うの? 六道さん」
惑星リリーパ。アザナミはフーリエから地下坑道探索のマップ制作の依頼を請け負って、フーリエと六道と共にいた。
「『血振り』。実に懐かしい動作での。ジジィキャストが行うよりも花があるわい」
狭い通路で、挟撃を受ける形となったが問題なく処理していた。少しだけ息の上がったアザナミに比べて、六道は彼女の所作を見る程度に余裕があったらしい。
その六道の眼前には機能停止した『トランマイザー』の二体が、もつれる様に煙を上げて行動を停止している。
「本来は、フォトンの刃を展開する『カタナ』には必要の無い動作ですよね?」
敵の全滅と増援が無いかを確認していたフーリエはシガの動きを目の当たりにしていた事もあり、『カタナ』という非公式の武器については人並み以上に情報を持っている。
「継いでいくのなら絶対に怠れない動作なんだよね。もう癖みたいなものかな」
必要の無い無駄な事。他人が見ればそう映っても仕方ないだろう。しかし、レギアスに教示を受けたアザナミにとってすれば、彼より教えてもらった事全てに無駄な所作など存在しないと思っている。
「よき心得。あの堅物のレギアスが弟子を取るだけでも話のネタになるわい」
かっかっか、と六道は笑う。今回の依頼で偶然とはいえレギアスの弟子と噂されていた彼女と会い見える機会に恵まれた。
その動きは、寸分たがわずとは行かなくとも十二分に彼の動きを体現したモノ。良い弟子を得たものだ。
「六道さんは、レギアスと知り合いなの?」
「ま、腐れ縁ってやつじゃからの。背中を預けた事もある」
40年前の『巨躯戦争』に参加していた六道も、オーラルの元で動き、要所的に投入された戦力だった。その際に、レギアスや当時の【六亡均衡】とも顔を合わせており、顔見知り程度には交流がある。
「へー」
「参加している事は知っていましたけど、【三英雄】と知り合いだったんですか」
「うむ。とは言っても、自慢するようなモノではないわい。生き延びたのも運が良かっただけ。知り合いになったのも成り
六道は当時最前線で戦っていた者達を思い返し、自分もジジィになったな、と懐かしむ様に自覚する。
「時に人は“防衛本能”を打破しなければならん」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
〔間違いない〕〔この気配は〕
ヒ・エンが、自らの一族の“標”である、ヒ・ロガを捜して数週間。火山洞窟を歩きつづけ、遂にその存在を見つける寸前まで来ていた。
〔ロガ様〕〔一体、何があったのですか……〕
火山洞窟を駆けるヒ・エンはその気配のあった場所がどこであるのかを捉えていた。
火山洞窟でも有数の大広間。周りを切り立った崖に囲まれているが、溶岩の中を移動する事の出来る龍族なら入る事も難しくない。
溶岩の中から大広間に辿り着いたヒ・エンは、遂に捜し龍――ヒ・ロガを見つけた。
〔グォォォォ……〕
頭部と背部に生える猛々しい角。その身体を支える二つの脚は必然と大きな物となっている。一歩は踏み出す度に重々しい音を作り出す。長い尻尾の先には鉱石が結晶となってついており、見上げる程の巨体を持ち上げる大きな翼は、今現在は畳まれていた。
〔!〕〔ロガ様!!〕
ヒ・エンは声を張り上げた。なぜ、集落を? 一体、何があったのか? 彼に聞きたい事は多くある。
だが、そんな疑惑を語り合う事など無いと言っているように、ヒ・ロガは狂ったように強靭な足で地を蹴ると、ヒ・エンに向かって突撃する。
〔くっ……〕
単調な突撃だが、大きさが大きさだ。頑丈な龍族の身体と言えど、ぶつかればただでは済まない。ヒ・エンは大きく横に転がって回避する。
〔ロガ様……〕
自らの武器である戦杖を向けるが、その背中はかつて、他の族と戦った際に救われた背でもあった。
まだ、ロガ様から真意を何も聞いていない――
〔ガアアアアア!!〕
〔!〕
力任せに側面から襲いかかって来た尻尾は躊躇いなく、ヒ・エンを殺す一撃だった。
〔なぜ暴れ〕〔なぜ我々が戦うのです!?〕〔ロガ様!!〕
伏せる様に尻尾の横なぎをヒ・エンは躱す。一つ一つが躊躇なく、敵にぶつける程の一撃。一体、彼に何があったのか。ヒ・ロガを知るヒ・エンには、その答えが導き出せない。
一族の中でも誰よりも聡明で“標”として誇れるロガ様が――
〔グォォォォオオオオ!!〕
炎がヒ・エンの視界を覆った。ヒ・ロガの口内から吐き出された炎は、強力な衝撃となってヒ・エンを吹き飛ばす。
鉄を溶かす熱と岩盤をも粉砕する衝撃。それを同時に受けたヒ・エンだが、それでも熱と衝撃に強い龍族の肉体では致命傷には至らない。
〔ぐ……ロガ様……〕〔何故なのです……!?〕
だが、その一撃はヒ・エンの持つ“誇り”を大きく揺るがす一撃となって、彼の身体を縛る要因として機能する。
ロガ様はもはや、ロガ様ではない。ならば……我らが掟は――
戦士として、やらなければならない事をヒ・エンは理解している。他の誰でも無い……これはヒの一族である自分がやるべき事―――
「アキさん、ちょっと聞いて良いですか?」
その時、第三者の声にヒ・エンはそちらへ視線を向ける。この場所へ同胞以外に居るハズがない。
「あの、ヴォルドラゴンって“序列”的にどのくらいだと思います?」
「最高位か、その一つ下の龍だろうね」
そこに立っていたのは四人のアークス――アキ、シガ、ライト、ロッティだった。
次はヒ・ロガ戦です。ちゃんと描写していきますよ。
六道は巨躯戦争の参戦者ということにしました。公式がその頃の話を展開して辻褄が狂わない限りはこの設定で行きます。
次話タイトル『Overcome instinct 打破するべき防衛本能』