無駄のない瞬発力を生み出す中肉中背の体躯は、常人よりも高い身長をものともせずに素早い動作を実現していた。
そいつが、この場に訪れたのは偶然では無かった。
ナベリウスに居たのは、偶然だが、そこからこの場所まで歩を進ませたのは、異様なフォトンの流れを感じ取ったからである。
そして、その場に近づくにつれて、更に膨大なフォトンを、更に強く感じ、思わず足が駆けてしまったのだ。まるで、獲物の匂いを感じ取った餓えた獣の様に、フォトンアームからの軌跡に引き寄せられたのである。
「…………」
仮面は、突如として現れたアークスと鍔迫り合いをしていた。互いの
アークスは、鍔迫り合いで空いている片腕を、隙間に通す様に仮面へアッパーを繰り出す。仮面は身体を逸らす様に躱し、その攻撃は表面を掠めるにとどまった。そして、仮面は自ら半歩下がると身体を半回転させ横なぎの一閃がアークスに向けた。
しかし、お互いに、その程度では決着をつける事が出来ない技量を持ち合わせている。向かって来る横なぎを、アークスは潜る様に躱し、再び、己の間合いに仮面を捉えていた。
ゼロ距離。
「――――」
アークスが笑う。その表情は、背を見ているシガやアフィンには見えない。唯一、仮面だけが眼前のアークスが作り出す、餓えた獣の様な“狂笑”を見ていた。
間合いゼロから繰り出される、一撃は確実に仮面へ入った。重い音と、震動が響き、二人の距離は大きく開く。
「化け物だな。あの二人は――」
「え?」
膝を突きながら荒く息を吐くシガは、参入したアークスと仮面の技量を見て感嘆していた。
「拳に足を合わせて、後ろに飛びやがった」
躱せず、防げない、ゼロ距離の攻撃に仮面は足の裏を乗せると、その反動を利用して大きく飛び下がったのである。
「相棒、そこから……見えたのか?」
「んにゃ。予想」
二人の攻防は影になって見えないが、それでもどう立ち回っているかは動きで推測できる。今後、近接で戦っていく身としては、少しでも他の技量を吸収するつもりで学ばせてもらっていた。
「うまそうな獲物が二匹も同時に……くっふふ……ふはははははっ!」
アークスはワザと隙を晒して仮面を誘っている。しかし仮面もアークスの技量を察してか、間合いを取り警戒していた。
「……おい、シーナ。こいつらは誰だ? どこのどいつだ? さっさと調べろ!」
「シーナ?」
シガとアフィンは、彼が誰の事を言っているのか頭に疑問詞を浮かべた。気を失っている少女の事かと思った時、
「はい……」
「!?」
「うぉ!?」
いつの間にか、背後に居たニューマンの少女が声を発した。アフィンとシガは、気配も無くそこに存在していた彼女にビビる。
「……? ……あの、ゲッテムハルト様。そちらの方の情報は、どこにもありません」
端末を操作して、仮面の姿や生態パターンから瞬時にアークス全員の情報と照合。そして、導き出された解答は、『NO DATA』だった。
「なに?」
少女――シーナの回答に、アークス――ゲッテムハルトの意識が、僅かに仮面から外れた。
「…………」
その隙を逃さずに、仮面はステップで距離を取った。
「チィ!」
ゲッテムハルトは逃がすつもりは無く高速の踏込みで追う。だが、仮面の次のステップを追い切れず跳躍を許してしまう。そして、崖の上へ消えて行った。
「チッ、逃げやがったか。なかなか楽しめそうだったのによぉ」
ゲッテムハルトは振り向く。その視線はシガ達に向けられている。まるで次の獲物を見つけたかのような眼光だ。
「よぉ、そこのオマエ」
「は、はい!」
今まで、敵に向けられていた視線をこちらに向けられて、アフィンは思わず身体が強張る。
ソレもそうだ。このゲッテムハルトという男……得体の知れない
助けてもらってなんだが……なるべく関わり合いにはならない方が良さそうだ。
「テメェじゃねぇよ! 黙って隅っこで、プルプル震えてろ!!」
ゲッテムハルトは手を振って、アフィンには黙ってろと視線を向ける。
「オマエだ、オマエ!」
やっぱりか。シガは、なんとなく自分じゃないかなー、と感じていた。当ってほしくは無かったが。
「今のヤツ、オマエを狙ってたよなぁ? あいつは何だ? 何者だぁ?」
「……いや、オレにもさっぱり解らなくて。少なくとも、敵って事くらいですかね」
敬語になってしまう。だって、滅茶苦茶こえーもん。穏便に済むなら、それで良い。それに、元々、何も知らないのだから嘘は言っていない。
「……ふん。その様子だと、本当に知らねェみてぇだなぁ」
意外にも勘の鋭い方だったらしく、こちらの本心を言い当ててくれた。だが、ゲッテムハルトさんは、ジッとオレの様子を見ている。
「雰囲気は、そこそこだが……弱い。オマエと
まるで品定めするような視線。いや、彼にとって戦いとは狩りの様なモノなのかもしれない。奴との攻防は、まるで楽しむ様に嬉々とした様子だった。
より、今は楽しむために獲物を見定めている、という所だろう。え? オレ餌じゃない――
「……チッ、しらけちまった。帰るぞ、シーナ! とろとろすんな!」
「はい」
ゲッテムハルトは、
シガとアフィンは、一度、ビクッと身を強張らせるが、ソレに反してシーナは丁寧にお辞儀をし、
「……それでは、シガ様、アフィン様、失礼いたします」
丁寧に、そう言い残し転移ポートへ消えて行った。
「……ほんと、一体なんだってんだよ」
仮面、ゲッテムハルト、シーナが去った場には静寂が流れていた。先ほどまでの緊張感がまだ残っているのか、異様に喉が渇く。
「ふぅぅぅぅ」
そして、シガは大きく息を吐くと、ようやく身体の力を抜いて壁に背を預けて座り込んだ。フォトンアームの反動。すぐには動けそうにない。
「なんか……どっと疲れちまった」
流石にアフィンも、並みならぬ圧力に当てられ続け、心身共に疲れた様子だった。くたびれたように、その場に座り込む。
「オレは本気で死ぬかと思った……」
痛みをこらえながら、折った指を元の向きに戻す。この程度の怪我ならメディカルセンターで、数時間ほどで完治できるだろう。
「十数分すれば動けそうだ。ただ……」
シガとアフィンは、外傷はなく時間が経てば動けるようになる。しかし、最初に仮面が狙っていた少女は、様々な騒ぎが起こったと言うのに未だに瞳を閉じたままだった。
「大丈夫なのか? その子――」
少女に向けたシガの視線を追って、アフィンも彼女の安否を心配する。二人は医者ではない。気を失っているとしか判断できないのだ。
「気を失っているだけならいいけどなぁ。それより深刻だったら、手に負えない」
出血も無く、外傷も見当たらない。大丈夫だとは思うが、こんな所では無くちゃんと治療を受けさせる方が良いだろう。
「おっと、連絡が来てるみたいだ」
と、目の離せない現状の連続だったため、端末からの情報にようやく気がついた。
内容は『ダーカーの処理は完了。各員は安全を確認後、帰還』と言ったモノだ。ちなみに、シガとアフィンは、キャンプシップは別の組と同じだったので、今は待たせてしまっている形になっている。
「帰還命令だ。それもそうか」
今まで、惑星ナベリウスにはダーカーの出現は無かったと言われてる。ソレが破られた以上、修了をやっている場合ではなくなったのだろう。
「彼女の事は連絡して、救助してもらおう。アークスなら、すぐに身内がわかるさ」
アフィンの提案にシガも頷く。彼が連絡を取り、数分したら救助艦がやって来るとの事で、二人はソレに乗って還って来るように言われた。
「……ふー、よかった」
シガは、とにかく誰も死ななくて良かったと、本日で最も大きな息を吐いた。
ようやく、修了編が終わりました。正直、マターボード三つの出来事を一つにまとめるのにかなり試行錯誤し、後の流れを壊さない様に出来たと思います。
ていうか、厳しいのはこの最初の三者遭遇だと思いますので、なんだか山の一つをのりきった感じです。
次話タイトル『Matoi 君が後ろに居たから』