アキさんの気持ちは理解している。オレも同じ気持ちだからだ。
救えると思っていて、救えなかった時の事を思うと、いてもたってもいられない。少しでも救える可能性があるなら試すべきだ。
だからオレは迷わず走ったのだ。
やり方は同じ。道中で襲撃を受けた隻眼の龍族にしたように、侵食核とヒ・ロガの身体を分断する。それは、この場でオレしか出来ない。
ダーカー因子の集束体とも言える、“侵食核”を外す事が出来れば何とかできるハズだ。
「フォトンアーム、出力100%――」
最初から限界まで行く。
シガはヒ・ロガの身体を渡って正面に着地すると、その侵食核を
次にその視界を支配したのは暗闇。テレビの電源を落した様に、一瞬で何も見えなくなる。
侵食核はヒ・ロガの脳に繋がってしまった。
その所為なのだろうか、少しでもその侵食を抑える為にシガは行動を起こしたのだが、逆にヒ・ロガの内部へ意識が入り込んでしまったらしい。
「これは……」
意識がとんだわけではない。入り込んだヒ・ロガの精神は隻眼の龍族の時とは比べ物にならない程の先が見えない不気味な闇だったのだ。
なんだ……これが全部ダーカー因子なのか?
本来なら侵食したダーカー因子は外部からの攻撃で少しずつ対のフォトンで浄化していくモノである。これほど、深部まで侵されていたとは……
「ん?」
辺りを見回していると、ぽつりと浮かぶ光が目に入る。それは小さな炎。ひとだまのような小さな炎が浮いていた。
〔何奴……〕
その時、宙に浮く“炎”に話しかけられた。若干驚きつつも、ふとシガは思いついた事を“炎”に尋ねる。
「えっと、ロガさん?」
一緒に戦った龍族が言っていたヴォルドラゴンの名前を口にする。
〔いかにも……〕〔と言いたいが〕〔この無様な様ではそう名乗るのも屈辱よ〕
どうやらご本人であるらしい。なんともコンパクトになってしまったものだ。
「いえいえ。かなり強かったですよ? 何度も死を覚悟しましたから」
〔あのような戦は
「マジですか」
〔気に入らぬ事に〕〔今は別の意識に我が肉体が支配されてしまっている〕〔この意識も辛うじて残留しているに過ぎぬのだ〕
やはり、彼の異常な凶暴性はダーカー因子で確定らしい。道中で出会った隻眼の龍族も侵食されていた所を見ると、あちらこちらで狂った龍族が発生している可能性が高いだろう。
〔エンも奮起していてくれるが〕〔我の事は諦めよと伝えてほしい〕
「いやいや、諦めるのは早いって。少なくとも、諦めている人は誰も居ない」
ヒ・ロガは、己の意志が離れた肉体に既に見切りをつけている様だった。
すると、その奥でざわざわと動く何かに気がつく。
「?」
〔最後の“我”に気づいたようだ〕〔奴らにとって我は邪魔な意志にすぎん〕〔アークスよ還るが良い〕〔そして〕〔我の肉体をカッシーナの元へ〕
既に消えゆくだけだとヒ・ロガは告げる。シガとしてはそんなつもりは微塵もない。それどころか、まだヒ・ロガの意識が深層に残っていた事に希望さえも感じたのだ。
「いや……あんたは消させないよ」
ヒ・ロガを救う。それが今回の任務の集大成だ。その為にも皆、命を賭けて戦ってきた。
視界の端に赤い光が点々と不気味な光が灯る。シガは、ソレが何なのか瞬時に理解できた。
それはヒ・ロガを侵食するダーカー因子が形となって現れたダカンの群。
星の数ほど点々と赤く灯った光は、全てダカンのコアの光だ。それがシガに向かって押し寄せて来る。
「アキさん。急いでくださいよー」
武器は左腕しかない。シガは額に嫌な汗を流しながら僅かに残っている“
「先輩……」
ロッティは侵食核を左腕で掴んだまま動かなくなったシガへ心配する様に歩み寄る。
「ロッティ君。近づかない方が良い」
アキはシガの状態から彼が、隻眼の龍族と同じような事をしていると察していた。しかし……今回は分が悪すぎる。
ヒ・ロガの巨体に蓄積されたダーカー因子は比べ物にならない程の量と濃度なのだ。下手をすれば――
その時、侵食核に触れているフォトンアームが少しずつ錆色に侵され始めた。ダーカー因子の侵食がシガのフォトンを上回っているのだ。
「あ、アキさん!」
ソレは少しずつシガを取り込む様に侵食核からも煙のように溢れ出る。それは巨大な手のように、シガを握りつぶす為に――
「少し下がろう」
形が無ければフォトンの浄化も出来ない。アークスとはダーカーを浄化する存在では無かったのか? それが……今は見ている事しか本当に出来ないのか?
「…………ロッティ君。シガ君を援護する。君の力も貸してくれないか?」
「! はい!」
一人では無理でも三人なら出来るハズだ。アキは因子浄化キットを取り出すとその場で広げる。
必要な物は揃っている。そして、ソレをこの場で有効にするための知識も、私は持っている。
幾度と、シガ君が見せてくれたフォトンの軌跡。それはオーラルの情報と独自の認識で理解している。知識をフル稼働させ、この場で有効な手段を造り出せるハズだ。
キットを分解する。そして新たに組み替えるには、余っている
ガンスラッシュにあるフォトン伝達機構をキットの因子浄化設定と同調させる。その際に、自分に寄ったフォトンではダーカー因子に正面からぶつかってしまう。
それは、巨大な津波に正面から立ち向かうようなモノだ。だから、シガ君の“無色の特性”を一時的に体現させる。そうする事で、正面から津波に立ち向かうのではなく、水中を移動し、津波の向こう側に出れるハズ。
その為のデータも、オーラルから見せてもらったフォトンアームの情報から再現は可能だ。
「ロッティ君、これを」
出来上がったのは一つの『フォトン変換装置』。即席の装置で、耐久度も持続時間も不安が残るが少なくとも、今この場では有効な装置としては完成している。
「これは」
「私たちのフォトンを内部に通し、内側から彼のダーカー因子を浄化する。その為の装置だ」
侵食核は突出したばかりだ。だから完全に動いているわけだは無い。まだ、ヴォルドラゴンの体内に蓄積されているダーカー因子の“標”が存在しているハズだ。
「“病毒の標”を捉え、そこで私たちの本来のフォトン特性を解放し、内側から浄化する」
そうすれば、ヴォルドラゴンの命を脅かすことなく侵食核を滅ぼす事ができる。
しかし、問題はタイミングだ。無色のフォトンは他のフォトンに侵食されやすい傾向にある。外部からの浄化フォトンに対する抵抗をすり抜ける事は出来るが、その先にある“病毒の標”を捉えて、そこで解放しなければならない。
時間をかけ過ぎれば自分たちがダーカー因子に侵されて死に至るだろう。
「この作戦は生存率が絶望的だ。それでも……」
「行きましょう! シガ先輩はもう戦っているですよね? なら、私たちが助けないと!」
迷っている時間さえも惜しい。ロッティは今やるべき事を自然と口にしていた。そして、その眼も一切の迷いを見せていない。
「ああ。行こう――」
アキは『フォトン
数が多い……!!
ヒ・ロガの精神の中でシガは戦い続けていた。
向かって来るダカンの群。シガはフォトンアームで殴りつけるしか攻撃方法が無かった。ダカンの方もさほど強度は無い様子で、一度殴りつけるとそのまま塵となって消えて行く。
しかし、問題は圧倒的な数だった。倒しても倒しても湧き出てくる。いつもはカタナの一太刀で倒す。だが、今の武器は
「それでも狙いはオレじゃないのね」
シガはダカンの脚を掴むと、
〔なにをする?〕
「諦めるなって」
〔無駄な足掻きだ〕〔我はそう思っている〕
「オレはそう思った事は一度もない」
そんな気持ちも知らないし、同じような事を思い返す事も無い。記憶を失う前のオレも相当、怖いもの知らずだったらしい。
「お? いいぜ」
淡く、フォトンの光りを纏い始めたシガへダカンの群はそちらの排除を優先し向かって来る。
「上等!」
ただ、シガは不敵に笑った。
“糸”を展開。今までの澄んだフォトンの糸ではなく、錆色のダーカー因子を体現したような糸が出現する。そして、
「使わない方が良さそうだな……」
僅かに侵食し始めた左腕から、使えばこちらの方が不利になると察する。
向かって来る先頭の一匹を殴り倒す。次のダカンに組みつかれるが、引きはがし、その後ろにいるダカンに投げつける。
雪崩。抗う事の出来ない災害のように圧倒的な滅びが――
「く……」
向かって来る。一つを散らしても、次々にシガへ突撃し、まとわりつき、その意志を呑み込んでいく――
侵食されていく――
「フォトンアーム……
発動しない。既にフォトンを全て使い切ったのだ。辺りにあるのはダーカー因子だけ。もう、後は――
帰る……帰るんだ。オレはこんなところで――
「マ……トイ」
黒く、全てが塗りつぶされていく。思い出も、意識も、全てが――“深淵”の意志に――
「最後に彼女の名前が出て来るなら上等だ」
次の瞬間、
光の無い夜空に、一点だけ強く輝く星が現れた様に、シガにまとわりついたダカンが一瞬でフォトンへ反転したのである。
「カハッ! ゲホッ……」
息を吹き返した様にシガは呼吸を整えながら膝を着く。
「お前じゃ無理だ。お前じゃ彼女は守れない」
「お前は――」
顔を上げたシガの目の前に映ったのは、白髪の男。その顔につけている仮面は、表情を隠しているが、奥にある青い瞳だけがシガに向けられていた。
「
後二話ほどで終わらせる予定。年内までにはEP1-5を終わらせたいです。
既に88話とは普通に100話超えるなこれ。公式ではEP4も年初めには終わるらしいです。
こっちは、まぁ、たぶん公式のEP5が終わるくらいにはEP1が終わってます。はい。
次話タイトル『Warrior's Oath 誓い』