ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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 あけましておめでとうございます。お気に入り100人を突破しました。今年も、この小説をよろしくお願いします。


89.Warrior's Oath 誓い

 アキとロッティは黒い空間に浮いていた。

 地面も空も無く、平衡感覚も失いそうな空間は水中にいるような感覚を得ながら周囲を見回す。

 

「ここは――」

「どうやら、上手く言ったようだ。ここは、ヒ・ロガ君の中だろう」

 

 隣で同じように闇の中に浮遊するアキ。服装の後布が漂って空間の不思議な様子を表していた。

 

「これはダーカー因子だな」

「こ、これ全部ですか!?」

 

 ロッティは慌てて周囲と自分の身体を交互に見る。周囲にはフォトンは全く感じないと言うのに、自分はダーカー因子に侵食されていない。

 

「『フォトン変換装置』で一時的に誤魔化しているからね。しかし、長くは持たないだろう」

「シガ先輩は……」

 

 この場に居ないシガの安否を気に掛けるロッティは、せめて自分たちが居る事を伝えられないか考える。

 

「私達の行動に全て掛かっている。今は“標”を探す事を優先しよう」

「はい」

 

 フワッと既に移動の仕方を確立している様にアキは迷いなく闇の中を移動する。

 

「その、“標”がどこにあるかわかるんですか?」

「侵食核へ、全てのダーカー因子を収拾しようとするのなら、因子の流れに方向性が生まれる。その流れの逆を辿って行けばいい」

「流れの逆?」

 

 すると、突風のような流れが二人身体を通り抜けた。思わず攫われそうになった帽子をロッティは抑える。

 

「この先だ。急ごう」

 

 渦のような流れの中心を見出し、アキはその先へ向かって迷わず進む。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「行くのか?」

 

 研究者としてのIDを返したアキは『虚空機関(ヴォイド)』から去る当日に、オーラルと遭遇していた。

 

「ああ。未練はないよ」

 

 自分の研究は私欲な所もあったけれど、それでも『オラクル』の為になると思ってきたのだ。だが、ソレが利用されていたとわかった以上……『オラクル』で研究を続けることは出来ない。

 

「あの時には既に……私の研究は歪められていたんだな」

 

 アキは、オーラルがウタとクーと呼んだ者達を連れていた時の“ハドレッド”という言葉を忘れていなかった。

 

「…………」

「別に謝罪を求めるつもりはないよ。『造龍計画』は君が主任(チーフ)として行われるのだろう? 他の研究員が陣頭指揮をとるよりも幾許かは救われる」

(オレ)は聖人じゃない。お前の思っている様な研究者でもない」

 

 そう言う彼だがアキは、あの時の事を覚えている。傍らに居たウタという青年とクーという少女。二人がオーラルへ向けていた眼は何の不安の無い信頼したものだったのだ。

 

「そう言う事にしておこう。私は、私にやるべき事をするつもりだ」

「……(オレ)たち研究者は、いつか代償を払わなければならない」

「知っている」

「お前は、十分払った。それ以上に身を削る必要はない」

「……私は研究者としての生き方しかしらない。生憎にな」

 

 研究者は生涯“研究者”なのだ。

 何かを求めて、その過程を立て、そして解き明かしていく。そう言う人生しか自分は歩く事が出来ない。

 それが、探究すると言う事。そして、その道を歩き続ける限り、払うべき代償が必要なのも知っている。

 

「それに、まだ十分に代償を支払ったとは思っていない」

 

 代償を払い続ける。その先にある結末を薄々だが感じている。それでも、私は……研究者としての生涯を歩み続けなければならない。

 この手の平で奪った命の数だけ、歩みを止めるわけにはいかないのだ。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「責務だよ。アークスとして、そして……研究者(わたし)としての――」

 

 アキは、闇の中で渦を巻きながら流れを作っている黒い球体と相対していた。これが、ヒ・ロガを巣食い蝕んでいるダーカー因子の“標”そのものである。

 

「アキさん……あれが――」

「その認識は間違いじゃないよ。“標”だ」

 

 鼓動する様に空間が波打つ。まるで意志を持っているかのような不気味な鳴動は、まぎれもなくこちらに対して敵意を抱いている様を肌で感じた。

 

「怒っている? いや、これは……恐れか」

 

 長年の研究で『オラクル』ではダーカーには個の感情は無いと言われている。

 例外として、司令塔となる知性を持つダーカー――ダークファルスだけが知性と意志を持ちアークスにとって強大な敵として立ちはだかって来た。

 

 キィィィィィアアアアア――

 

「!?」

 

 悲鳴を上げるような音が響き、ロッティは思わず耳を塞いだ。不気味で心から恐怖を揺さぶられる断末魔。それと同時に目の前の黒い球体は揺れるようにヴォルドラゴンの姿へと形を変え始める。

 

「……消え去る。ソレを間近に控え必死になっている……か」

 

 アキは『フォトン変換装置』を停止するスイッチを取り出した。ここに肉体は無いが、神経は繋がっている。ここで行う意志は強く作用し問題なく起動するハズだ。

 

「アキさん!」

 

 形を成したヴォルドラゴンは黒い炎を口内に溜め、大きく動作をすると吐き出してくる。ダーカーの因子そのものを放ち、こちらを取り込もうと言う魂胆なのだろうが、もう遅い。

 

「こう言うのも変な気分だが……礼を言うよダーカー。おかげで新たに()()()()()も出来た」

 

 ずっと、一人で抱えて来た。だが、それではたどり着けない場所もあると知る事が出来た。

 

「意志のあるモノを苦しめたのだ。それ相当の代償を払わなければな。それはダーカーも例外では無いよ」

 

 アキは停止スイッチに力を入れる。暗闇がまばゆい光に包まれた。

 

 

 

 

 

〔……どうなったのだ?〕

 

 侵食核に触れたまま、動きを停止した三人の様子からヒ・エンは落ち着かなかった。

 素人が見ても侵食核という異質なモノは明らかに症状が進んだと考えても間違いではない。

 

「……帰ってきますよ」

 

 ライトは身体を起こして立ち上がる。フォトンもある程度安定して来たので自らに『レスタ』をかけて傷を回復していた。

 その時、侵食核にヒビが入ると勢いよく砕け散る。

 

〔!?〕

「先生!」

 

 吹き飛ばされるように倒れるアキをライトは支えた。ロッティはシガと同じ方向に吹き飛ばされ、彼に覆いかぶさるような形で倒れ込んでいる。

 

「……痛ッ――――」

 

 すぐに意識を取り戻したアキは頭を押さえながらゆっくりと眼を開いた。

 

「……ライト君? もう大丈夫なのかね……痛ッ」

「先生こそ、無茶し過ぎですよ! 緊急時とは言え、ダーカー因子に直接意識を溶かすなんて……下手をすれば先生が侵食されていたのかもしれないんですよ!?」

 

 ライトの言葉通りだった。アキとしても、あの感情的な行動はどう考えても自分らしくない。終始論理的に行動したと思っていたのだが、他から見れば相当無茶をしていたらしい。

 

「そうだね。次からは控えるとしよう」

 

 いつまでも支えられている訳にもいかず、立ち上がるが少しだけふらつく。これは戻ったら検査治療を受けた方が良いな……

 

〔……ぐ〕〔……これ……は……〕

〔!〕〔ロガ様!!〕

 

 その時、目の前のヴォルドラゴンがゆっくりと動き出した。その様子に、ヒ・エンも駆け寄る。

 

〔エン……か?〕

〔――――正気に……〕

「賭けではあったが……上手く行って良かったよ」

 

 ライトから肩を借りていたアキは、もう大丈夫だと彼から離れてヒ・ロガとヒ・エンの目の前に立つ。

 

〔賢しいアークスよ〕〔何をした〕

 

 ヒ・エンのその言葉には警戒心は無くなっていた。

 

「簡単な話さ。内部にいたダーカー因子を私達アークスのフォトンが完全に滅した」

〔……アークスの力か〕

 

 自分達では、なす術も無かった“龍の病”は、今までの龍族には無かった力でなければ対応できないとアキは身を持って伝える事が出来ていた。

 

「だが、安心は出来ないよ。これはただの始まりに過ぎない。これから、君達と同じような龍族はどんどん増えて行くだろう」

 

 まだ何も解決していない。目の前の有事だけを処理するだけでは意味がないのだ。

 

〔……我らに〕〔何を求める?〕

 

 アキの言葉の真意を察したヒ・エンは彼女の要求を問う。

 

「対話を……君達と()()()()()

〔…………改めて名乗ろう〕〔我が名は〕〔ヒのエン〕〔こちらは〕〔我がヒの標――ヒ・ロガ様だ〕

 

 ヒ・エンはヴォルドラゴンが自分たちにとって大切な存在であると告げた。

 

「私の名はアキ。こちらは助手のライト君に……」

「先輩!!? シガ先輩!」

 

 その声にアキ達は、声を上げるロッティに視線を向けた。彼女は涙を流しながら、倒れたまま眼を開かないシガを揺さぶっている。

 

「すまない。少し失礼する」

 

 アキは一言断ると、二人の元へ駆け寄った。

 

「アキさん……シガ先輩が――」

 

 涙目でロッティはアキに縋る様に声を出す。ライトはシガの様子を確認する。アキも用いる救急知識を使って彼の安否を測った。

 

〔そのアークスは……〕

 

 その後ろから、ヒ・エンがシガの様子を尋ねる。

 

「彼が居なければ、ロガ君を含めて誰も助からなかった。ライト君! シガ君の状況は?」

「脈は安定していますし、呼吸をしています。けど、彼も先生と同じようにダーカー因子に意識を溶かしていたとすると、ここでそう判断するのは早計だと思います」

「ライト君。テレパイプは使えるかい?」

 

 ライトは周囲のフォトンの乱れを確認する。荒れ狂っていた場のフォトンは正常値に戻っておりいつでも起動できるようになっていた。

 

「問題ありません」

「キャンプシップに戻り、アークスシップに帰還しよう」

「はい」

 

 ここではまともな治療が出来ない。キャンプシップなら簡単な検査は出来るし、異常が見つかってもアークスシップまで持たせる事が出来る。

 

〔還るのか?〕

 

 慌ただしい様子に、ヒ・エンは彼らの次の行動を察する。

 

「ああ。出来れば次の席を用意してもらいたい」

〔構わない〕〔こちらとしても同胞を失う痛みは知っている〕〔次に訪れた時にどの龍族でもいい〕〔“ヒのロガに話がある”と言えば〕〔数刻後に我が姿を現そう〕

「ありがとう」

 

 ライトとロッティが肩を貸してシガをテレパイプまで運ぶ。アキもその後に続いた。

 

〔シガ……と言う戦士に……彼に伝えてほしい〕

 

 ヒ・エンの言葉にアキは足を止めて振り向く。

 

〔感謝を〕〔ロガ様を救いし力〕〔その恩を決して忘れはしないと〕〔この言葉を戦士として偽りの無いものとして誓おう〕

「伝えておこう」

 

 そう返すアキも、テレパイプのポータルに乗ると光と共に消えて行った。

 

 

 

 

 この戦いでアキは龍族との会話と言う目的を成すことができた。

 しかし、彼女は知らなかった。この戦いで失った者がいたことに。そして、それに気づいているのは彼だけだったことを――




 二話掲載

次話タイトル『And he ... そして彼は…』
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