「中々斬新な意見だね」
「もめ事処理屋さんですか?」
地下坑道を探索し、最深部までたどり着いた六道、アザナミ、フーリエの三人は、自分たちの居る場所に充満する煙を見て、
「うむ。二人にとってアークスとしての活動はどのようなものだ?」
陽気な老人の印象をそのままに、六道は二人の若人に自らの意味を問う。先の戦いによって、煤のついた頬と額を持つアザナミとフーリエはそれぞれ少し間をおいて口を開く。
「あたしは“証明”かな。ここにいる、ここにあるっていう証明」
「私は“私に出来る事があるから”です!」
両脇に力を入れて、フーリエもその心に通る揺るがない芯を言葉に出した。彼女たちの答えに六道は歯を見せてニッと笑う。
「――二人とも、任務はこれにて完了。テレパイプでキャンプシップに戻るとええ」
「別にいいけどさ、六道さん。ここが最深部だとしても、まだ細かい所は残ってると思うけど?」
「そうです。まだ、私達も手伝いますよ」
まだ転送設備も繋がっていない深部。この場所は三人がそれぞれ活躍する事で見つけ、たどり着いた場所だった。
六道のフォトンの感知による地形把握で裏道を見つけ、アザナミの身軽な動きで高低差をクリアし、瓦礫の撤去にフーリエの発破知識を使ってこの場所を見つけたのだ。
同時に、ここを護る
「その気持ちは嬉しいがのう。若い
「あはは」
「私は気にしません」
笑うアザナミに、キャストとして十全なフーリエ。能力的には二人はまだまだ疲労の少ない。
「なんにせよ、一度戻って報告する方がええ。コイツの事もあるからのぅ」
六道は自分たちが立っている巨大な要塞の事を指摘する。それは停止した巨大な機械仕掛けの自立兵器だった。
『ビックヴァーダー』。
この坑道の深部に存在した防衛システムの一つである。艦を彷彿とさせる土台部は左右に無数の砲塔が存在し、後部に存在するミサイルポットからは絶え間ない弾幕が生み出される。そして、広いデッキに登るとそこをカバーする様に迎撃姿勢を取るクレーンロボは、見上げる程の巨体な本体だった。
一個部隊での攻略が想定されるその要塞を、六道、アザナミ、フーリエの三人はそれぞれの役割を持って完璧に制圧していた。現在は機能停止したデッキに乗っている。
「これほどの巨大兵器が必要なんて……ここには一体何があるんでしょうか?」
「それを調べる為にも、報告はこまめにせんといかんからのぅ。ひも解くのは上層部の仕事じゃわい」
「六道さんも一緒に帰るの?」
「ワシはもう少しふらついてから帰る事にするでの」
アザナミとフーリエは、六道の勧める通り一度戻る事にした。更に奥へ行き、これ以上のモノが出てこない保証はない。道に対して慎重すぎる事もまた、アークスとして必要な判断だ。
「じゃ、またよろしくね。六道さん」
テレパイプを起動し、キャンプシップに続くポータルの出現を確認する。
「無理しないでくださいね。何かあれば、いつでも連絡してくださいです!」
と、女子二人が消えるまで手を振る六道は、ポータルが消え去る様を確認した。
「どれ。まぁ、聞こえるものだのぅ」
六道には“ある音”が聞こえていた。キーンと、耳鳴りのような高音は呼んでいる証なのだとわかる。二人に聞こえていなかったところを見ると、やはり“彼女”に関わりのある者にだけ聞こえる様だ。
「因果か、それとも引かれたか?」
『ビックヴァーダー』から、軽快な動きで六道は降りると、同時に自分がこの空間に入る為に使った亀裂から人影が着地した。
「…………」
目の前に現れたのは――ダークファルス【仮面】。その場にいた六道の存在を見ても何の反応は無かった。
「ワシを知っておるのか? なら分かるじゃろう?」
六道はかっかっか、笑いながら歩み出る。それだけで、空気が避けるようにフォトンが舞い上がる。戦闘意思を感じ取った【仮面】は『コートエッジD』を取り出した。
「ほう。逃げんのか? それは正しい選択であり、同時に――」
次の瞬間、【仮面】は咄嗟に、その場で『コートエッジD』を振るった。何かに当ったような音が響き、『コートエッジD』大きく跳ね上がる。
「愚かな結末でもある」
六道が突き出したのは拳。空間を通してフォトンを【仮面】に間接的に叩きつけたのだ。その特殊なフォトンを受けた『コートエッジD』は、侵食されるようにダーカー因子から正常なフォトンへ反転して行く。
「…………」
【仮面】は迷いなく『コートエッジD』を捨てる。その僅かな挙動さえ六道にとっては決定的な“隙”として確定している。刹那には必死の間合いへ六道は踏み込んでいた。
「『ハートレスインパクト』」
拳が【仮面】にめり込む。先ほどの間接的攻撃とは比べ物にならない速度で、【仮面】の身体がフォトンへ反転して行く。六道が腰を構えて拳を引いた時には、ダークファルス【仮面】は完全にフォトンへと消え去っていた。
「…………童か? 面倒な真似をするわい」
六道は肩透かしのようにポリポリと後頭部を掻く。やはり、ダークファルスは揃うと厄介だ。今の内にどれか一つを潰しておければ御の字なのだか……
「ワシも報告に戻るかのぅ」
今の【仮面】も恐らくは奴らの――
「――――む」
すると停止している『ビックヴァーダー』が揺れ始めた。再起動したのか、空間を揺らすほどの震動に思わずふらついた六道は――
「! これは――」
事態の全てを悟り、周囲のフォトンを全て自らに集める。そして、拳を勢いよく地に叩きつけた。
「『フォトン・ストップ』――」
それは状況を打開する一手だったが、数瞬間に合わなかった。何かに“喰われる”ように『ビックヴァーダー』を含めた空間の一部ごと六道武念は消え去る。
不自然に抉られた様に円形の喪失痕だけが静寂と共に残された。
「あはは」
「あはは」
「さようなら」
「さようなら」
「「おじいさん」」
ソレを嗤って見ていたのは“双子の悪童”だけだった。
91.Extension mission at amduskia 次の席へ
「シガ」
シガがアムドゥスキアで負った侵食の治療の最終検査を終え、マトイと会話を楽しんでいると、そこへ声を向け歩いて来るキャストの姿があった。
「オーラル」
「オーラルさん」
黒いカラーが特徴のキャスト――オーラルである。
椅子に座ったままの二人は、親代わりと言っても良いほどに信頼しているオーラルへ好意的な反応を示す。
「すまんな、色々と事情が合って連絡を返すのに時間がかかってしまった」
ひと月ほど前からシガからのコンタクトはオーラルも把握していたが、先倒ししなければならない仕事が多く、直接会う事が今日まで伸びてしまっていた。
「いや、オーラルさんの大変な様子は知ってますし。オレも何とか乗り越えてますから」
シガは左腕を軽く見せるように上げながら告げる。
「よくみると、傷がいっぱいだね」
「ん? そうか?」
マトイは
「…………くっ」
すると、シガは不意に頭を抱える。
「ど、どうしたの!?」
「いや……せっかくマトイが触ってくれてるのに、何にも感覚が……ない!」
元々、フォトンアームには触覚は存在しない。物を掴む時に限り、その物質の圧力を感じる事が出来る程度の機能しかないのである。
「つけてやろうか? ただし、手術を――」
「いや、いいです」
オーラルの提案したその件を再び丁寧にお断りする。その二人の様子にマトイはクスッと笑った。
「なんだが、親子みたいだね」
「そう見えるか?」
「うん」
口調からオーラルもまんざらでも無い様子でマトイに訊き返す。
「なら、マトイはどっちが良い?」
「なにが?」
シガの問いに今度はマトイが彼に視線を向けた。
「姉か妹」
「え……うん……ええっと……どっち……がいい?」
どうやら、彼女の見ている家族には当人は含まれていなかったようだ。すぐに答えの用意できない問いにマトイは訊き返すしか出来なかった。
「姉だな」
「妹!」
同時にオーラルとシガは声を上げる。
「オーラルさん。オレの方がマトイより年上ですけど……」
「精神的にはマトイの方が落ち着いて物事を見ている」
「た、確かにそうですけど」
「早足になり過ぎるのはお前の悪い癖だぞ? その左腕も使えとは言ったが、そこまで浪費には相当な修羅場をくぐらなければ不可能だ」
キャストの装甲以上の強度を持つフォトンアーム。今の消耗具合を見ると数年は使い込んだように傷が入っている。
「…………私も、少しシガは早歩きだと思うなぁ」
「む、マトイもか……了解です。しばらくは軽い任務を基本的に動きます」
その言葉にマトイは嬉しそうに表情を作った。
アムドゥスキアでの任務は、綱渡りが多く、その分左腕には相当な負荷がかかってしまっているのも事実。ここいらで、少し調整して行こう。
「フォトンアームの改修を行いたいところだが、もう少ししてから自室の方に顔を出す形でいいか? まだ、片付けないといけない仕事があってな」
「良いですよ。ふむ、ではマトイは“姉”って事でいいかな?」
「ええ? その話……続いてたの?」
マトイは逸れてほしかった話題が生きていた事に恥ずかしそうに俯く。
「お姉ちゃん! 抱き着いて良い――」
「こんにちは。シガさん」
背後からの声に、時間が止まったようにピタッとシガは硬直した。動きの悪い機械のように首を声のした方に向けると、そこには、
「フィ、フィリアさん!!」
ニコニコと聖母の様な笑みを作るフィリアが立っていた。オーラルも彼女の存在に気づいて視線を向ける。
「久しいな、フィリア」
「マトイさんから聞いていましたよ。戻って来たなら連絡くらいはしてください」
と、シガとマトイの診察データをオーラルへ渡す。
「忙しくてな。この後、お前の所には寄ろうと思っていた」
シガとマトイの診察データはオーラルの方で改編されて報告がされている。その為、通信で記録が残らないようにデータは手渡しの方が都合はいいのである。
「それで、シガさんはどこへ行くのですか?」
オーラル話している間に、こそこそ逃げようとしたシガへ鶴の一声を向く。その言葉にシガはビクッと反応して身体を硬直させるが、
「あ、あはは。ちょっと、用事を思い出したので、それを片付けてきまーす!! マトイ、またな! オーラルさん! 後で連絡するのでタイミングがよかったら向かいます! それじゃ!!」
ソレだけを言い残すと、全力で逃げて行った。
「まったく……病院では走ってはダメだとあれほど……」
「あはは……」
フィリアは頭を抱え、マトイはその様子に苦笑いを浮かべた。
「……根は一緒か」
ぼそりと呟いたオーラルの言葉をマトイは聞こえていたが、それが何を意味するのか理解する事は出来なかった。
「後少しだったのに……」
メディカルセンターを後ろ目で見ながらシガは、あぶないあぶないと呟いた。
確かに、フィリアさんの言う事は正しい。間違いなく正しい。けど、可愛いものを愛でたくなるの仕方のない性だ。それが、意中の女の子なら尚更だろう?
「何かなぁ。やっぱり、好きなのかもね」
心から彼女の事が気にかかるのは、やっぱり記憶を失う前から知っているからなのだ。だとすればオレとマトイの共通点は何だろう?
「マジで姉弟だったりして」
ほぼありえない事を呟く。
「あ……そう言えば……まぁ、会う時にオーラルさんに聞いておけばいいか」
思わず忘れていた。記憶の中に出てきた“一本の角を持つデューマンの女性”についてオーラルさんに確認を取ってもらわなければ。
記憶に繋がる重要な手がかりだ。忘れないようにしておこう。
「ん? やあ、シガ君。丁度よかった」
自室に向かってロビーを横切っていると声をかけられた。
「アキさん」
そこに居たのは黒髪に眼鏡をかけた聡明美人――アキである。一週間前の任務で背中を預け合った仲間であった。
「元気そうじゃないか。治療はもういいのだね?」
「はい、おかげ様で。それよりも“例の件”はどうなりました?」
自分の事を気にかけてくれるよりも、そちらの方が気になっていた。
“龍族の病”。
アキを筆頭にして受けた依頼は思いもよらぬ死地を駆け抜ける事となった。それでも、皆が全ての限界を駆使して生きて還って来る事が出来ている。あの時、シガは最後に意識を失っていた事もあって結末は言伝で訊いただけだった。
「問題なく進んでいるよ。これから向かう所なのだが、君も来るかい?」
「一人で行くんですか? ライト君は?」
見回すと、また彼女は一人で歩いている様だ。後で助手のライト君が慌てて連絡をかける様に同情する。
「彼はデータをまとめてもらっている。私もいつも無断で出るわけではないよ? 今回は招待だからね。危険な事は何一つない」
「なら、オレは必要ないんじゃないですか?」
アキ自身も相当な実力者である事は直に戦いを見て理解していた。彼女はリサさんと同じかそれ以上の射撃技術を持っている。
「あの時、君は気を失っていたからね。“
「そう言う事なら褒められに行くのもやぶさかじゃないですけど……本当に戦力として、あてにしないでくださいよ? ちょっと色々あって、前みたいな大立ち回りは控えるように言われてるので」
それ以上に、フォトンアームの性能も最低限のモノしか用意されていない。“糸”も使えなくなっているし、オーラルさんの調整が入るまでは“爪”も“撃”も使えない。前のように立ちまわる事は不可能なのだ。
「病み上がりはお互いだからね。向こうにもその事は気をつけるように言ってある。まぁ、野暮な事にはなるまい。依頼ではなくパーティーを組んでの自由探索になるから依頼料は何も出ないが」
アキさんはそう言うが、シガとしては同行に問題は無い。オーラルさんの所に行くまで時間があるし、時間を潰すのにちょうどいい。
「いいですよ。同行します」
「それは助かる。だが一応、武器は持ってきてくれたまえ」
EP1-6開始です。不定期になりますが、お付き合いいただければ幸いです。
次話タイトル『Proof 力の証明』