岩城監督からDVDを渡されてから二日が経った。
その休みを利用してDVDでも見ようかなぁなんて軽い気持ちで再生していたのだが――
「ねっむ……」
ついつい夜更かしをしてしまった。
理由は単純。単に俺が夜中までDVDを見ていたからに過ぎないのだが、その内容が思っていた以上のもので驚いたのと、レオナルド・シルバに対して面白いという感情を抱いてしまったのだ。
とても同年代の選手とは思えないほどに完成されたテクニック、パワーそしてスピード。そのどれもが今の江ノ島高校サッカー部に所属している誰よりも優っていると言っても過言じゃない。加えて、トップ下での司令塔としての働きも十全にこなしている姿を見ると、つい興奮してしまって寝れなくなってしまったんだ……。
こう、憧れの野球選手に会った小学生が昂ぶり過ぎて夜眠れなくなってしまったような感じ。もっとわかりやすく言えば、遠足前の小学生みたいな。良く漫画とかでも使われるフレーズだね。
「ヤス、なんか眠そうだね」
「うむ……昨日、夜更かししちまってな」
「えぇ……これから練習だってのに、大丈夫?」
「まぁ、多分大丈夫だろ」
本当であれば大丈夫じゃないだろう。
こんな状態で激しい運動なんてしたら、怪我や故障の原因に繋がるかもしれない。
でもまぁ、睡眠不足を除いて俺が体調不良に陥るってのはまずないだろうが。子供のころから風邪すらかかったことがない。それはそれで今後年を取ってから水疱瘡とかに掛かるかもしれないっていうフラグだったりするのか?
「ふ……はぁ……」
ダッシュ後に、思わず欠伸がでそうになったところでなんとか噛み砕いて近藤先生の方を一瞥する。他の部員に指導している様子を確認して一息吐いた。教師の中でも厳しいと噂されてるだけあって、少しでもおかしな事をするとすぐに注意をされてしまう。
……さすがに欠伸で怒られたくないからな。
「余裕そうだね」
「んあ? のっぽ君じゃねぇの」
「のっ……そ、そういう君だって結構背は高いじゃないか」
そうやって
「俺は良いんだよ」
「なんだそれ……康寛君」
「ん?」
「僕は絶対にレギュラーになる。君は僕とはポジションが被ってないから大丈夫だと思うけど……絶対に、僕は」
高瀬はそのまま駆のところに行ってしまった。
一体なんだったんだろうか? 思春期にありがちの自分の力を過信してるみたいな感じなのかな? だとしたら結構可哀想な高校一年生って烙印を押さざるを得ない。残念だが。
まぁ、と言うのは冗談で、妙に決意染みた言葉とともに宣戦布告をしてきた高瀬であるが、恐らく同じことを駆にも言いに行ったのだろう。駆と高瀬は同じFWだから、レギュラー発表されるときどうしてもポジションの奪い合いになる。
そうなるとFWだけじゃなく、どういうフォーメーションで行くかによってポジションも変わってくるわけだが……そうなると俺もレギュラーになれるか微妙な感じになってくるわけである。果たして俺はレギュラーになれるだろうか?
「不知火君」
「監督……」
「あのDVDは見てくれましたか?」
「はい。お陰様で寝不足になってしまいましたが」
「はは……そうですか」
他愛ない話をする。
こういう事でも監督とコミュニケーションを取るのは重要な事だろう。と言うが、監督が話かけてきてくれたのは完全に用があったからなんだが。
「どうでしたか? 君と同年代のあの選手は」
「そうですね……とても同年代とは思えないほど完成された選手でした。テクニック、パワー、スピード。どれも凄まじいの一言ですね」
「それで、どうですか?」
と言うのは、俺があのDVDから何か覚えられることはあったかと聞いているんだろう。
「学ぶことは多かったですね……あの選手のポジショニングやスペースを埋める動きとか、足元のテクニックとか。とても一回観ただけじゃ自分のものにはまだできてないと思いますけど、まぁ、足業に関してはこれから練習していくしかないと思ってます」
「ふむ……なるほど。では、君はこれから技術向上も含め、何の練習をするのが一番良いと思いますか?」
「えっと……とりあえずシュート練習ですかね?」
「え?」
え? じゃないよ。
前の試合、初めての試合で何本かシュート蹴ってみたけど一本も決まらず。枠内に行くことはあっても、どうしても威力を抑え気味にしてしまうせいかキーパーに止められてしまう。とは言っても、キーパーは少し後ずさりしてたのを見て、威力を抑えないといけないってのは自覚したけど。
ボールの蹴り方も調べてみようかな。
「一応、未経験者だったもので、どういう風にボールを蹴れば良いのかとか、習いたいことは多いんですけど……」
「あ、はは、そうでしたね! ではそういう事にしましょうか!」
そこからは他の部員たちとは別のメニューをすることになった。
高校のサッカー部で基礎の基礎からメニューをこなしてるのは俺以外にはいず、全員普通にサッカーを少なからず知っているようだった。いや、俺みたいに基礎から教えてくれって言うのは少ないのかもしれないが。
「では、まずボールに慣れるところから始めてましょう」
「うぃっす」
岩城監督のもと、基礎練習が始まった。
まずは姿勢を正した状態でボールを蹴ること。
そしてボールに体重を乗せることが無いようにして、全身を動かしつつリズミカルにステップを踏みつつボールタッチをする。
するとあら不思議。いつの間にかボールがまるで自分の体の一部のように懐いているではないですか!
なんて言いながら軽くドリブルをして見せる岩城監督を見つつ、同じように動く。
DVDや動画のように、画面越しで見てると距離感や感覚、ボールの動き、細かい息遣いや体全体の筋肉の動きだとか、色々なものを感じる事ができないから自分のものにすることができないのだ。
……考えれば、見取り稽古と言ってもちょっとした制限があるんだろうか? もっと凄い人だったら動画でも何でもコピーして自分の物にできるんだろうが。
まぁいいか(適当)
見取り稽古できるだけ良い才能だと思うし。
それしても、なんか皆ボールを足で撫でるように転がしてると思ったらドリブルの一種にあったのか……しかも基礎の応用でできるようになるなんて。
「そうです、良い感じですよ! 次にボールの蹴り方ですが、インサイドキックというのがあります」
足の内側(インサイド)の部分で蹴るキックで、ボールに当たる足の面積が大きい分コントロールがしやすいキックのようだ。ショートパスもこの蹴り方で蹴れば、思った方向にボールを蹴り出すことができるそうだが、今まで何も考えずに蹴ってた俺はどうなるんだろうか?
「これが基本の形です」
説明しながら岩城監督は俺にパスを出してくる。
そっくりそのまま同じ動きでボールを返し、返されてくるボール。少しづつパスの速度が上がってる気がする。
まぁ、細かい話は無しにしようじゃないか(震え声)。
「最後に、シュートの蹴り方ですが」
そして、最も知りたかったカーブをかける方法。
それは、インフロントキックという蹴り方で変化に富むボールを蹴ることができるようになるらしい。蹴り足の親指側をボールの下に差し込むように当てて、体をひねって体全体でボールを蹴る。
実際に岩城監督が蹴ってくれたシュート、約20メートルの位置から放たれた軌跡は緩やかな弧を描いてゴールネットの右上隅に決まったのだった。
今はまだ練習だから綺麗に決まったと岩城監督は笑っていたが、それでもこんなに簡単に見えて、しかも綺麗にゴール隅に決められるだろうか?
そして、俺は今の監督のキックをしっかりと見ていたから、同じようなシュートは蹴れるだろう。そうなったらフリーキックとかで偶に見る、直接ゴールにボールを叩き込む事だって可能になる! それこそチートみたいなもんじゃないかとワクワクしてる自分がいる。
俺はしばらくの間、皆の練習を気にしつつも自分の練習に励むのだった。