俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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よろしくお願いします!


第13話

 さて、GW(ゴールデンウィーク)も終盤に差し掛かり、サッカー部の練習も良い感じに纏まりを見せ始めていた。岩城監督になってから一部の先輩が不安そう……と言うか、不満気にしていただけに一時はどうなるものかと思ったが。

 それもこれも、実力はあるのに不摂生をしてしまう荒木先輩のせいなんだが。

 

「さて、今日は練習を早めに切り上げて、来週から始まる公式戦に向けた、ベンチ入りメンバーを含めた20人のメンバーを発表します」

「……」

 

 岩城監督から言われたそれは、スタメンの発表をするという事。

 誰のものか分からないが、喉が鳴る音が聞こえる。眼だけ動かして周囲を見渡すと、皆が皆、同じように緊張感を醸していた。それはいつもお気楽そうに自信満々なプレイをしている荒木先輩も同じようで、今日ばかりは少しばかり緊張しているみたいだ。……いや、緊張というより、楽しみにしているのか?

 

「荒木先輩はどうなんですか?」

「は? スタメンのことか?」

「そうですけど」

 

 はっ! 馬鹿言ってんじゃねぇよと目を瞑って溜息を一つ。

 

「俺が10番以外に選ばれるわけねぇだろが」

「いや、まぁ……俺もそう思ってますけど。先輩、言っちゃなんですけど、デブじゃないですか」

 

 近くで聞いていた数人が噴出した。マコ先輩の耳にも入ったのか腹を抱えて大爆笑している。

 いきなりのデブ呼ばわりに荒木先輩もプルプルと震えている。いや、事実だし。

 

「でっ……お、お前……言ってくれるじゃねぇかよぉ」

「俺は別に10番になりたいとは思ってないんで良いですけどね」

「ふぅん? じゃあ、お前はどこが良いんだよ」

「そうですねぇ……DFなんて面白そうですけど」

「DFねぇ」

 

 お前だったらFWなんて面白そうだけどな、と一言残して続きを話そうとしていた先輩だったが、岩城監督から江ノ島の戦術について話していくということで、一旦そっちの方に耳を傾けることにした。

 

「以前、僕たち江ノ島高校は二つのチームがあり、二つのフォーメーションの練習をそれぞれがしてきました。SCは3-5-2を基本にし、退却型(リトリート)DFからのカウンター攻撃に徹するシステム……3バックというよりも変則5バックでした」

 

 一息おいてマグネットを張り替えていく。

 今のがSCの説明だったから、今度はFCのものだろう。

 ……そういえば、今までどんなフォーメーションでやっていたかなんて気にもしてなかったなぁ。

 

「これに対してFCは、荒木君が抜けていた間はボランチを二人置く3-5-2でしたが、先日の試合で荒木君を投入した後はボランチ1枚下げ、トップ下に荒木君を置いた4-4-2の典型的な中盤ダイヤモンドの形でした」

 

 そこから駆や中塚がよく動きまわって激しいポジションをしてSCを攪乱していたわけだ。SCは左右の動きと言うか、織田先輩の攻撃の起点を生かした縦の動きを重視していた感じ。

 なるほど……思った以上にSCとFCで違う動きをしていたわけだ。

 

「そしてこれからお話をするのは、FCとSCの良い点を生かしたフォーメーションです。基本的には2-5-3。SCの退却DFを生かし、わざと守備に『穴』を空けたように見せ、ボールを奪って攻めに転じる――所謂、ブービートラップフォーメーションです」

「な、ホントかよ岩城ちゃん!」

「ほ、本気ですか、岩城監督」

「本気も本気です。これは、君たちがそれぞれのチームで培ってきた練習を思い出せば、君たちならできると信じています」

 

 俺はFCで少ししか練習してないからよくわからん。

 ただ、このフォーメーションだと隙ができやすいし、上手いこと機能するかどうかでこのチームの行方も決まるかもしれない。

 

「それでは、このシステムに合わせた総体(インターハイ)予選に向けてのメンバーを発表します。

 まず、GK(ゴールキーパー)から。

 3年、()秋俊(あきとし)君。2年、紅林礼生君。藤堂(とうどう)慎太郎(しんたろう)君」

「おーし、1番!!」

「すぐに取り返してやるからな!」

「続いてDF……

 (はま)雪蔵(ゆきぞう)君。海王寺(ごう)君。堀川明人(あきと)君、そして不知火康寛君」

「はい」

 

 俺の名前が呼ばれた。

 しかも今まで練習したことのないDFで。いや、DFでも大丈夫だろうとは思っていたが、いざこうしてDFに指名されるとドギマギしてしまう。周りの先輩からの視線も気になるってか痛いし。

 

 監督の元まで近寄り、ユニフォームを貰う。

 2番と書かれたそれは、確かにスタメンだという事を示していた。

 そして、俺と一緒にバックで守備をするのはどうやら堀川先輩らしい。右サイドに入ってのスタメンらしいが、今の今までそれらしい練習はしてないんだが……適当に堀川先輩と監督と話をして連携を取れるようにしないと。

 

 それからMF、FWと呼ばれて行き、今まで違うポジションでやっていた的場や中塚も呼ばれ、そして駆もベンチ入りとしてだが最後の20番として呼ばれていた。その時の安堵した表情はかなりのものだった。

 

「駆、おめでとう」

「康寛も、最初からスタメンなんて凄いじゃん!」

「ぬぅ……駆が眩しい」

「ど、どういうこと?」

 

 いや、単に俺がスタメンなのにベンチの駆に声をかけたらまずいかな、なんて心の小さい男の話はもう良いんじゃよ。

 

 

 

 それからすぐに紅白に分かれての練習が始まった。

 スタメンの攻撃陣とベンチの守備陣、スタメンの守備陣とベンチの攻撃陣で紅白戦。と言うわけで、俺と堀川先輩でスタメンの攻撃を守備する事になったわけだが。

 

「的場!」

「うん!」

「こいやぁ!」

 

 スタメンの的場がボールを持ってサイドを駆け上がってくる。

 ドリブルのスピードはかなりのもので、体格が小さいことを生かした機動力を見せている。テクニックもあるから、そのまま一気に俺の横を抜けようとしていたが。

 

「残念」

「くっそ!」

 

 巧いことボールだけに足を当ててボールを奪取。

 そのまま一気に前線にいる高瀬のところに蹴り上げた。

 身長の高い高瀬はそのボールをそのまま強引にドリブルしていき、守備に当たった海王寺先輩に強く当たっていった。ギリギリファールじゃない、大きな体を生かした良い攻撃になってる。

 しかし、それは二人、三人とDFが下がってきた時にも強引に突破しようとしたせいで周りのDFにボールを奪取されてしまったが。

 

 こうしてみると、何かを思いつめたような表情になってる高瀬って結構怖いな。

 

「ドンマイドンマイ! その調子で行け!」

「……うん」

 

 DFの俺が声をかけてもこの調子。

 どうせだったら何も考えないで実直に行きゃ良いのに。

 

 まぁ、その問題が彼にとって重要なのかどうか、完全にプライバシーの問題になってしまうから俺から行くことはないけども。どうせだったら駆に全部任せてしまおっかな。

 

 ――練習終了。

 しかし、少しばかり一年生……俺の同級生の機嫌が悪いんだが。

 

「どうしたんだよ、的場」

「不知火……いや、なんでもないよ」

「どうせ高瀬の事なんだろ? 練習中のファール」

「えっと……まぁ、ね」

 

 俺は直接見てなかったが、的場が後ろに下がってボールを奪ってドリブルとかをしてた時、後ろからユニフォームを掴んで倒したらしい。岩城監督が止めに行った時に言っていた通りなら、イエローカードものらしく、危ない行為だったらしい。

 

 と、憤った感じにも見える的場の様子を見て、このまま放っておいたら何時か喧嘩に発展しそうだ。どうしたもんかなぁ……と顎に手を当て周囲を見渡し、駆の姿を見つけた瞬間、押し付けてやろうと思ったわけだ。

 

「駆」

「あれ、どうしたの康寛」

「ちょっと、的場の相談に乗ってやれよ」

「え? え? 何、なんなの?」

 

 体格の小さい駆の肩を組んで的場の所に引き寄せる。

 てか、確かに俺より小さいけど流石に軽いなぁ……嗚呼、これもチートのせいなんだろうか?

 

「的場、悩み事があるんだったら誰かに相談すりゃあ良いんだ。何も一人で考え過ぎる必要はない。全部喋って愚痴って、鬱憤はため込んで潰れんじゃねぇぞ?」

「うん……そうだね。不知火、いや……康寛って呼んでも良いかな」

「おう、薫って呼ぶか」

「康寛、ありがとう」

「おう」

 

 うむ。青春だ。

 これ以上ないくらいに青春をしてるぞ。

 

 そして巻き込まれた感じになった駆は終始オロオロしてたようで、後から俺が状況を説明したのだった。

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