俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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UAが10万を超えていた…何が起こっているのか分からねぇが、とりあえず喜ばしい事なんだろう(震え声)
よろしくお願いします!


第15話

 いよいよ今日から高校総体(インターハイ)神奈川県予選。

 初戦当日を迎えた俺たち、江ノ高のメンバーは試合の会場になる慶早大付属湘南高校のグランドに向かっていた。

 全員が全員、表情に違う感情を思い浮かべている。

 自信満々そうなもの、緊張しているのか固い表情をしているもの、自分の中で気持ちを整理しているのか、目を閉じて瞑想しているもの。様々な感情が渦巻くこの場所で、俺は欠伸を一つ浮かべていた。

 

「どうしたの、ヤス」

「いやぁ……ちょっとばかしバスの中で寝すぎたかな」

「はは、ずっと寝てたもんね。緊張しないの?」

「うぅむ……今のところはな」

「そっか……僕なんてベンチからなのに緊張しちゃって」

「何、初戦の相手はそこまで大した相手じゃないんだろ? 適当にアップだと思えば良いじゃねぇか」

「そ、それはさすがに……」

「そうかぁ?」

 

 監督が言ってた情報だと、初戦の相手には軽く3点以上取れるだろうと。そして守備に関しては完全にシャットアウトしてほしいとも言ってたな。

 だから俺は心配してないんだよな。まぁ、実践では初めて使うシステムなだけにうまく立ち回らないといけないんだが、何とかなるだろう。

 

 会場に入る前に中学の頃の同級生、佐伯祐介(さえきゆうすけ)が応援に来てたらしく、駆と公太、奈々に話かけていたが、さすがにそこまで友好の無い俺は傍で見ているだけだった。と言っても、すぐに集合があったりと話かける暇もなかったのだが。

 その場を離れる際に視線を感じた気もするが、無名のままのはずだから……もしかしたらそれで逆に気になったのかもしれないな。

 

 

 ――実際に会場に入り、試合直前。

 コートに出て挨拶をしようとしているところであるが、相手の擬似イケメンが非常に喧しい。喚いているわけじゃないが、観客の女子に手を振ったり笑いかけたりと大分余裕をかましている中島と島谷と言う二人。こいつ等の存在が爆発してくれないかなって、心の黒い部分がダダ漏れしてしまうよ。

 

「ヤス、一応あいつらはジュニアでやってたからそれなりにやるぜ?」

「マコ先輩……でも、荒木先輩ほどじゃなさそうですし、問題ないですね」

「ははっ! 結構言うじゃねぇか!」

「まぁ、事実ですし」

「確かにな……ま、お前なら大丈夫だろ、頑張れよ」

「はい」

 

 

 

「えー、それでは高校総体サッカー神奈川一次予選二回戦、江ノ島高校対慶早大付属湘南高校の試合を行います」

 

 一列に並んで開幕の挨拶。

 その最中でも観客の女の子に一々反応を返している相手の様子を横目で見て、苛立ちが湧き上がってくる。

 ……子供っぽい感じはするかもしれないが、流石にこっちを舐めすぎじゃないだろうか。そう思いつつ俺は監督の顔を見る。

 視線で訴える。ヤっていいですかと。

 監督は苦笑しながらも頷いてくれた。まだシュートの精度に納得しているわけじゃないが、SC対FCの頃のシュートよりも断然精度は上がっている。

 DFの俺がシュートをすることは早々ないんだが……ロングシュートであればどこからでもシュートを決めることができる。俺の脚力で放たれるボールはかなりの速度だと思うし、キーパー殺しの一撃になるだろう。

 それ以外にもフリーキック、ピーケーなどシュートを蹴る場面があるが、荒木先輩が蹴るだろうし。

 

 キックオフと同時にFWの中島が走り込んでくるものの、そこには堀川先輩が走り込み、後ろから織田先輩が詰めている。相手はボールを戻して攻撃の時を見はからっているようだが、江ノ高のブービートラップフォーメーションは隙だと思ったところは全く隙じゃない。

 今もまたFWの中島へパスを上げたが、それを織田先輩がカット。一気に攻撃へと移っていく。

 流れるような江ノ高メンバーの攻撃に翻弄され続ける湘南メンバー。

 そして、最後は薫からのスルーパスをしっかりと股抜きで決めた火野先輩の1点が先制点となったのだった。

 

 そしてしばらく、荒木先輩のミドルシュートが決まって前半10分にて2点差が付いたのだった。

 最初から油断していた相手は流れをつかめないまま時間だけが過ぎていき、ついに無失点のままうちは前半を終えたのだった。

 

「しっかし……ここまでは問題なし、か」

「どうしたんだ、ヤス」

「マコ先輩……いえ、前半は相手が油断してくれてましたけど、後半はさすがにあの二人が頑張りだすと思ってっすね」

 

 そう言いつつ、未だにピッチの真ん中でこちらを睨み付けている中島と島谷がいた。

 もともと能力値が低いわけじゃないから、油断さえしなければ普通に点数を奪ってきそうな感じなんだが。

 

「それに、荒木先輩もそろそろ息切れが凄いですし……このメンバーだと後半は攻撃力が落ちるでしょうね」

「なるほどな。でもまぁ、それが岩ちゃんの狙いなのかもしれないな」

「……荒木先輩のスタミナですか?」

「お、分かってるな」

 

 確かに、今はふとやかな体型の荒木先輩だが、スリムの時ですら体力に難ありと言われていただけあって心肺機能があまりよろしくないんだろう。それを克服するための荒治療にはなるが、今の体型で付いている脂肪を生かしてスタミナをつけさせようって魂胆だ。

 荒木先輩の動きは鈍くなってしまうものの、それを初戦のうちに克服させ、他のメンバーにはしっかりとカバーできるようにしたい。それが監督の狙いだろう。

 

「ま、何とかなるんじゃないですか?」

「自信ありか?」

「いざとなったら僕がロングシュート決めますよ」

「言うなぁ……」

 

 ――そして後半開始。

 有利に進めていた前半とは違い、後半は激しい攻防が繰り広げられる。

 特に荒木先輩と、サイドで進退を繰り返していた八雲が足に来ているようだった。

 

「行け、中島!」

「行かせねぇよ」

「くっそ! またてめぇかよ!」

 

 島谷から中島へと縦のラインが機能し始めているが、しっかりと対応を続ける。

 ジュニアで培ってきたんだろうフェイントを駆使しして抜こうとしてくる中島に、浮かせるパスで巧いこと中島にシュートを撃たせようとしている島谷だったが、向こうで突出した選手はこの二人だけ。

 堀川先輩もしっかり守ってくれてることもあり、俺は普通にボールカットを続けては荒木先輩にボールを回している。

 

「くっ……しっかり働いてくれるじゃねぇか!」

 

 無理矢理荒木先輩を動かし、スタミナの増強を図る。

 チラと監督の表情を見て、小さく笑みを浮かべていたのを確認し、予測は当たっていたことを確信。そして、これからも荒木先輩の補助を続ければなんとかなるだろう。

 

 が、右サイドの八雲が抜かれ、一気に中島が駆け上がってくる。

 集中。右、左にフェイントを考えてる中島の動きをしっかりと見据える。

 

 ――左!

 

 少しだけ動かした左足がボールを捉える。

 そこからスナップを効かせて右足に引き寄せ、体勢を立て直してすぐに荒木先輩にボールを上げる。

 悔しそうにしている中島を一瞥し、内心で安心する。今のを抜かれていたらそのままシュートを決められていたかもしれなかった。

 

 それを言ったらうちの荒木先輩もかなり悔しそうな表情を浮かべてプレイをしている。恐らく、体力がないだけでここまで動きが鈍るなんてと思ってるに違いない。それぐらい思ってないと監督も起用はしてないだろうしな。

 

 しっかし……俺も攻撃に参加できればしてみたいもんだが、今のメンバーだとそういう動きは厳しいだろうが――

 

「6番八雲選手、9番火野選手、11番工藤選手に変わって16番中塚選手、19番高瀬選手、20番逢沢選手!」

 

 と、ここで選手の入れ替え。

 守備的な選手ではなく攻撃的な選手を投入してくるあたり、まだまだ監督は荒木先輩を扱き使っていく気だろう。

 それはそれで面白い状態だ。

 守りを固めるよりもより点数を取った方が安心もするし、相手の動揺も誘える。

 

 ま、チャンスが巡ってくるまではDFとしてしっかりと働こう。

 ボールカットボールカットとしていると、極限状態で集中力の高まった荒木先輩から駆へのキラーパス。駆の裏どりに反応しきれなかった相手DFに、駆の正面に来てしまった相手GKは駆のトラップに対応しきれず、1点を許してしまう。

 これで、3点差。後半も20分を過ぎたところだった。

 こうなってはもう江ノ高の嵐のような攻撃が続くのだった。

 交代したばかりの3人が動き回り、中央では動きは鈍くなったものの足技で相手を翻弄する荒木先輩。少し後ろでカバーするマコ先輩と織田先輩。もう完璧な布陣じゃないか。

 

 後半35分を過ぎ、江ノ高メンバーの意気は更に高まっていく。

 中島島谷ペアの攻撃以上の人数をかけて重圧な攻撃を仕掛けていく。

 そして5分後。薫から上がったクロスに高瀬が反応。長身の高瀬の最高点から繰り出されるヘッドが力強くネットを揺らし4点目。

 

「うぉぉおお! やった……やったぁっ!!」

「ナイスヘッド高瀬!」

「そ、そんな……」

 

 残り少ない時間。決定的なシュートすら撃ててない相手の士気はどん底も良い所のようで、絶望的な表情を浮かべていた。無情にもそのまま時間は過ぎていき、試合は終了。4対0と言う完勝も良いところ。

 結局俺の活躍の場所はなかったのだった。

 が、今はこの勝利を純粋に喜ぶことにしよう。

 

 ――で、観客席からめっちゃ見てくる佐伯君の隣に立ってるあの人は誰なんだ?

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