前半も20分が過ぎようとしていた。
どちらも攻め手が決まらず、互いに無失点のまま時間だけが過ぎていた。
金がスローインで一気にボールを上げてくるという戦法を取ってくるものの、一気にゴール前まで下がることで相手の攻撃を防ぐ俺。スローインはオフサイドに適用されないって聞いたときは冷や汗をかいたものだが、実際に試合をしてみてわかったのはそこまでDFが前に上がることは無いし、相手FWがいきなりDFラインを無視して上がり始めたら何かあると思うから何とかなったが。
しかし、これをずっと続けられるってのは少し面倒な気はしている。
――後ろをチラッと見る。
「お? 何だ何だ? 俺の事が気になるのか?」
「くそ……」
意気揚々と紅林先輩の近くに立っている相手FWが非常に厄介だった。
確かに俺は自陣からでもシュートを蹴ることはできるけども、相手FWがこうもオフサイドを気にしないような位置にいるのは精神的に問題だ。身体能力を生かして、ギリギリヘッドでクリアできる位置にはいるが、もし相手にスローインのチャンスが渡ってしまえばその瞬間に相手FWの所まで下がらないといけない。
しかし……それだけ何度も俺にスローインを見せてくれるってことは、金の超ロングスローを覚えても良いって事なんだよな(錯乱)
それにしても相手の類を見ないような戦術に皆参っているようだ。
攻め上がろうとする荒木先輩に詰め寄るMF、DFは大体3人。サイドにいるはずの選手がほとんど中央に集まっている。だからサイドから攻め上がれば良い。そう思っても今度は金のロングスローインが来るんじゃないかと恐れてサイドから上がれないでいる。
さて、いざ江ノ高の攻撃に移ろうとしているときの事だった。
『あぁっと!? ここで火野、一枚目のイエローカードを出されてしまった!』
何気にうちで一番切れやすい先輩があの火野先輩ってのが一番の問題だ。
相手のパスカットの時に何を言われたか知らないが、突然いきり立った様に相手にスライディングを仕掛けてしまった。それが完全に足にいっていたことで火野先輩はカードをもらってしまったわけだが……何をそんなに苛立っているんだ?
メンチを切りあっている二人を見て、審判の様子を窺う。
ギリギリのところで織田先輩が止めに入っていたが、悪ければこれすらファウルになる可能性もあるんだから落ち着いてほしい。
悔しそうに顔を歪めている火野先輩に、ちょっとした心配がわいてしまった。
相手のフリーキック。
またしても金がキックの位置まで上がってくる。それを見てゴールキーパー近くまで上がってくる相手FW。だが、フリーキックしかできないからそこまで下がる必要はない。まるで俺は何かを企んでますよって顔をしてるが、ここで俺が下がったのを見てボールを上げてこようとするって算段だろう。
「おいおい。俺がこんなところにいるってのに余裕だなぁ?」
「ああ、お前なんて余裕だよ」
「……嗚呼?」
実際、相手の中で一番能力が高くて厄介なのが金だからな。
それ以外はたいして何も思っちゃないんだ。それを他の皆が分かっているかどうかは別問題だが。
素早いフリーキック。
金の右足から放たれたボールは精確にうちのDF陣の間に飛んできた。
相手MFが一気にボール目掛けて走り出している中、一番近くにいた堀川先輩が距離を詰めるが、あと少しの所で相手がボールをキープしてしまった。
それを見て俺もボール奪取のため動こうとするが、後ろの方で相手のサイドバックが動き出しているのを確認し、その場で立ち止まる。もし俺が相手MFに飛び出していけば、全力で駆け上がってきている相手サイドバックにパスを出されて突破されてしまう。かと言って近くをウロウロしてた相手FWを無視して良いわけでもない。
……誰がシュートを打ってきても対応できるよう、この場で動向を観察しておこうじゃないか。
『おおっと!? DF不知火、ワントップの長谷川が手を挙げてボールを貰いに行っているのを見ても動こうとしないぞ!?』
喧しいわ!
別に少しくらい距離を詰められたところで何とでもなる!
それよりも問題なのが――
「何やってんだ不知火!? しっかりマークつけよ!」
「……来たな!」
「はっ!?」
俺の様子をうかがいつつも相手MFは直接ゴールを狙ってくることはせず、がら空きになっていたサイドにパスを出した。相手センターバックがオーバーラップを仕掛けていたのだ。俺はちょうど相手の真ん中辺り。センターバックまでそれなりの距離が空いている。
そのままペナルティーエリア内でシュートを放つが、瞬間的な加速によって一気に距離を詰めて出した俺の右足がボールに触れたことで軌道がずれ、大きく後ろの方に飛んでいった。
『これはナイスセーブだぁ! 不知火、辻堂の組織的な攻めに対してしっかりと対応できているぞ!』
「へっ! 助かったぜ、不知火。さすがに今のは俺もまずかったぜ……」
「いえ、まだまだこれからですからね。何とか仕事はしますよ」
「しゃぁっ! 俺もお前みたいに頑張るぜ!」
前半も残り10分を切ったところ。
相手はこんなにもチャンスを作り上げているというのに、うちは未だに決定的なチャンスを創り出せないでいた。
金のコーナーキックは精確にペナルティーエリアに上げられたが、紅林先輩がこれをキャッチ。江ノ高ボールとなり、一気に織田先輩から荒木先輩までボールがあげられる。
またしてもサイドががら空きになっているが、その空白が罠かどうかに悩んでいた荒木先輩だったが、手を挙げながら一気に駆け上がる火野先輩に向かってスルーパスを蹴り出した。相手MFの足がギリギリ届かない位置を通るボールだったが、前からスライディングを仕掛けてきた相手MFに倒されてしまった。
が、うまい事ボールにいっていたためファウルにならず。
しかし、あのMF……さっき火野先輩が強引なスライディングを仕掛けた奴じゃなかったか? 嫌な予感が――
「てめぇぇっ! 不破ぁっ!!」
怒声、そして首元に掴みかかってしまった火野先輩。
そしてホイッスルが鳴り響いた。
『これはいけない。江ノ高FW、火野淳平。エキサイトして辻堂学園の不破に掴みかかってしまった。この行為に対して審判はイエローカードを出したが……この試合で2枚目という事は』
「退場しなさい!!」
「……く」
前半も残り5分少しと言う所で、ストライカーの火野先輩が退場。
これでうちは10人でこれからを戦っていかないといけなくなってしまった。そもそも攻めあぐねているってのに、ここで攻めの人数が減るのは本当に痛すぎる。もし俺が前回みたいにFWとして動いたとしても、今度はDFが手薄になってしまう。
別に海王寺先輩や他のDFの方を信用していないわけじゃないが、今回は相手が相手だから……
『ここで前半終了! 攻めあぐねていた江ノ高はエースストライカーを失い、人数も一人少ない10人になってしまった! 未だにノーゴールのままだが、後半からは10人! 江ノ高はどうやって戦うのでしょうか!!』
ホント……俺は別に前みたいにどこでも使ってもらって構わないけれど。
そうしたら一人少なくなってしまったこの戦況の中でどういう選手の起用を取るのかが気になるところ。
バチン!
結構な音に驚いてその方向を見てみると、退場をもらってしまった火野先輩を近藤監督がビンタをしているところだった。さっきのラフプレーに対して怒っているらしい。
それに対して火野先輩も愚痴をこぼしているが、近藤先輩から渡されたスコアブックを見て呆然としている。今になって呆然とするとか……よほど先入観に任せて辻堂学園の事を見ていたみたいだ。
何故か今回の試合において気勢が小さい岩城監督も席を立ってしまった。
人数が少なくなってしまったことで江ノ高ベンチの雰囲気が少し悪くなってしまっている。果たして、岩城監督はどんな気分転換をして帰ってくるのだろうか。