俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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よろしくお願いします!


第21話

「後半、出たい方はいますか?」

 

 休憩から戻ってきた岩城監督は、控えの選手に唐突に話かけた。

 火野先輩が退場になってしまい、俺たちは10人で戦わなければならないんだが、それでも精神的には出たいと思わないだろう。そもそもいきなりすぎるってのもあるんだが。

 

 しかし、休憩がてらに出て行ったときと比べると大分明るい表情になってる。

 髪が少し濡れてるから顔でも洗ってきたんだろうけど、それにしてもこのビフォーアフターの差が激しい。一体彼に何が起きたというのだ(意味深)

 意味深と付すだけで何気に卑猥に聞こえてしまうこの不思議。

 

「出ます」

「お、俺も俺もー……」

 

 皆が戸惑いを隠せないでいる中、勇敢にも手を挙げたのが駆だった。

 誰もが戸惑いを見せる中、積極的に手を挙げる駆に釣られて中塚も手を挙げた。

 そして、静かに手を挙げている一人の選手。3年生のGK、李秋俊(りあきとし)さんだった。GKのサブとして登録されてはいたが、今まで紅林先輩がスタメンとしてずっと活躍してきただけあって李先輩の活躍の場所は一切なかったのだが、いつも紅林先輩の後ろでイメージトレーニングをしていた李先輩の能力値は結構なものになっている。

 経験は紅林先輩の方が高いけど、反射神経と身体能力は李先輩の方が実は高いんだけど。

 まぁ、その事を知っているのは今の所俺だけだろうし……さて、岩城監督はこの逸材の存在をどうするのだろうか?

 

「ほう? 李くんもですか」

「はい。不知火がしっかり守ってくれてますが、俺は奴らに点数を与えません」

「……なるほど。では、後半の頭から紅林君と交代です」

「はい!」

 

 やる気十全の李先輩の後ろで何とも言えない表情をしている紅林先輩。

 まぁ、この大会を通してみてみればまだ一点の失点も無いわけだから、ここで交代させられるのは少し引っかかるものがあるのだろう。でもまぁ、確かに俺が頑張ってゴール枠に入ってる感じのシュートを全部防いでいるってのも大きいと思うが。

 

 しかし、李先輩が言葉通り相手のシュートを全部止めてくれるって言うんだったら、俺ももう少し前に出られる。その点も含め、やる気に満ちている李先輩を選出したに違いない。

 

 岩城監督が後半から交代して出る選手に声をかけていっている。

 李先輩、駆、中塚へと声をかけていき、そろそろ後半が始まろうとしているとき、監督が俺に話かけてきた。

 

「不知火君には、後半からも頑張ってもらう事になるんですが……」

「えぇ、分かってます」

「前半、無失点で終えることができたのは君のおかげです。後半からは人数が減ってしまいますが」

「と言ってもFWが減っただけなんで何とかなるかと。それに、駆と中塚が後半から頑張ってくれますよ」

 

 幾分か驚いた表情を浮かべる監督の顔を見て、思わず笑ってしまう。

 愚痴を言われなかったことだろうか。それとも二人の事を切り出されたからだろうか。

 

「中塚は分かりませんが、駆はいつも俺と一緒に練習してるだけあってそれなりに上手になってますよ。それに、あいつらだって俺たちと同じ部活仲間です。ちゃんと信じてますよ」

「……そうですか。それでは、後半もよろしくお願いします」

「はい」

 

 ――他の部員に声を掛けながらDFラインに向かっていく。

 今回の試合で俺がFWとして動かされる可能性がどれくらいあるかどうかはわからないが、今の所の俺の動きは前半と大して変わらないんだから、適当に頑張っていこうじゃないか。

 

 

 

『後半のキックオフは辻堂学園からのスタートとなります! さぁ、前半で退場になってしまった火野選手の穴をどう埋めていくのか江ノ島高校! 未だゴールの無いこの試合の行く末はどうなるのか!!』

 

 後半が始まった。

 前半と同様、相手FWがどんどん前線に上がってくるが、これに関しては監督に一つアドバイスを貰ってる。と言っても、前半で少し気にしていただけのこいつの存在を完全に忘れて、普通のDFとしての働きをしてくれと言われただけなんだが。

 まぁ、前半でボールの奪い合いでぶつかり合ったことがあったけど、チート性能を如何なく発揮するこのボディが難なく空中戦を制してくれたけれども。

 

「おいおい、良いのかよ俺の事無視して? またスローインで一気にここまでボールを投げられたら面倒だぜ?」

「……」

「はん……それで前半得点を奪えなかったくせに良く言うぜ。でかいのは図体と言葉だけで、実力が全く伴っちゃない」

「んだとぉ?」

「確かに金のスローインは大したもんだし、ドリブルも巧い。だけど、それ以外の奴に関しちゃ頑張っちゃいるがそこまで巧くはない。それなのに、まさに荒くれ者どもの辻堂が勝ち上がって来れたのは、ッと」

 

 中塚がボールを奪いにピッチギリギリに詰めていったのに関わらず辻堂MFはバックにパスを出した。まさにスローインを狙うための好機であるにも関わらずだ。そいつの能力値をみれば、金以外の辻堂選手の能力値の平均辺り。これを見るに、やはり辻堂の選手は足元の技術に自信がないのだろう。

 が、バックパスを受けた選手に詰め寄った沢村先輩の隙を見て足にボールを蹴り出し、そのままボールはピッチ外に。それを見て俺はボールに集中し始める。少し離れたところにいる金が動き始めてる。

 金の位置からゴールまでは約40メートル。

 

「不知火! ワントップは俺が何とかする! それ以外のFWのオーバーラップを警戒だっ!」

「了解!」

 

 金の手からボールが放たれる。

 一本の白い直線を描いて飛んでくるボールはそのままゴール前まで飛んでいき、相手ワントップのFWと李先輩の一騎打ちに。

 

「もらっ……」

『あぁっとぉ!! 李だ、高い!』

「しゃぁぁぁ!!」

 

 結構大きな体の相手FWとのぶつかり合いにも負けず、ガッチリとボールを掴んだ李先輩はそのままロングフィード。

 これが李先輩のフィジカルの強さだな。経験ある紅林先輩でもフィジカルで相手に勝てていたかはわからなかった。それを李先輩の鍛え上げられた体幹と筋力で空中戦をものにしたということ。

 イメージトレーニングは馬鹿にならないんだね。

 

 敵陣へと切り裂いていくボールは駆の所へ。

 高瀬は守備に回っていたために、駆がボールを受けてマコ先輩か荒木先輩に落とさなければならない。今の駆のドリブルでは一騎打ちに勝てるとは思えなかったし、あいつも自覚はしてるだろう。

 

「させるかよっ!」

 

 そこへ相手のMFが飛び込み、駆とぶつかり合った。

 勢いよく飛び込んできた相手とのぶつかり合いに、駆はそのままピッチに倒れ込んでしまった。頭同士の競り合いだ。もしかしたらどこか痛めてしまったのか?

 

 ――瞬間、駆の能力値が一気に跳ね上がった。

 

「は?」

「だ……大丈夫か駆!?」

 

 マコ先輩が心配して近寄っていく。

 しかし、あれは本当に駆なんだろうか? 流石にあんなに急激に能力値が跳ね上がる事なんて転生してから一度たりとも見たことがない。……もしや、あれは傑さんの心臓が?

 

『金がドリブルで仕掛けるぞ! 両サイドに新堂と瀬田、そして中央にはスペースに飛び出しを狙う長谷川もいる。立て続けにピンチだ江ノ高!』

 

 ドリブルを続ける金に堀川先輩と織田先輩が詰めていく。

 それを見て後ろから上がっていた新堂にパスを出す金。

 しかし――

 

「なに!?」

『あっと、これをインターセプトしたのは逢沢だっ!』

 

 そのパスを狙ったようにボールをカットした駆。

 少し前までぶつかり合いで倒れてしまった奴の動きじゃない。それに、一気に自陣のエリア前まで戻ってきた動きも一直線で、まさにここと決めつけてきていた。これじゃあ本当に駆じゃない……。

 

「てめーのドリブルの欠点は分かってんだよこの一年が! もらったぁ!」

 

 金と新堂がプレッシャーを仕掛ける。

 前後からの仕掛けに、しかしながら駆は後ろに目が付いているかのように飛び上がり、フェイントを仕掛けて相手FW新堂を抜き去っていく。瞬間、俺の方を一瞥した。

 

「ぅお」

 

 脳裏に湧き上がったゴールまでの軌跡。

 そしてそれを決めたのは俺で、今ドリブルで上がっていく駆がラストパスを出している。

 

 いつの間にか俺は走り出していた。

 何かに突き動かされているかのような、そんな感覚だった。いきなりの走り出しに堀川先輩の突拍子もない声が耳に入ってくるが、それを一切無視して前へ前へ上がっていく。ただ一直線に。

 

 駆が相手MFを左右の揺さぶりからの股抜きで一気に駆け上がる。

 後ろからまたしても金が詰めていく。相手DFと挟まれた駆。近くにいる高瀬もDFが付いているし、左サイドをオーバーラップしている中塚にパスを出した所でシュートを狙える形にはならない。

 

「止めるっ」

『10番、金がタックルにいったぁ! これを逢沢……な、パスだ!』

 

 中塚でも高瀬でもなく、完全にゴールを狙ったパス。

 

『このパスに、不知火が飛び出してきている! DFラインから一気にオーバーラップしてきた不知火が一気に飛び出してきたぁ!』

 

 相手GKが反応できない、それでいて普通の奴なら飛び出してからギリギリボールに届くまでのラストパス。荒木先輩でも良かったであろうこのパスは、しかしながらあの体型の先輩じゃほんの少し届かなかったかもしれない。

 ――だからこその俺か。

 

「うおぉっ!」

『DF不知火、飛び出しからのダイレクトォ!』

 

 力強いパスを、強引に軌道を変えてやる。

 左足で蹴ったボールは一直線に相手GKの股を潜り抜け、そのままゴールネットを揺らしたのだった。

 

『ゴォォォル!! 後半始まって10分といった所で試合が動いた! 先制点を決めたのは江ノ島高校一年、不知火だぁ! 前の試合でハットトリックを決めた男がまたしてもこの試合で点数を決めたぁ! そしてそのアシストをした逢沢の動きもまさに電光石火でした!』

「ふぅ……まさか、な」

 

 シュートを決めたことの安心感と、拭い切れない違和感を胸に、江ノ高イレブンの抱擁を受け入れるのであった。

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