俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第25話

 さぁやって参りましたなでしこジャパン対SFフランクフルトの親善試合。

 ただの女子サッカーの試合だったらそこまで興味は沸かないかもしれないが、今回は奈々が一選手として試合に臨んでいることを思えば見たくなっても可笑しくない。そもそも、幼馴染がこうして国際的な試合に出てるって考えるだけで結構なことだと思うんだが、そこまで駆は考えてるんだろうか?

 

「セブン……大丈夫かな」

「なんだ、奈々の事が心配なのか?」

 

 ボソッと聞こえてきた駆の呟きに返事をしてやると、焦ったような照れている様な表情になる駆。お前が奈々に恋心を抱いてるのは大体わかってるからそこまで焦らなくても大丈夫だぞ、と天使の様な微笑をもって駆に話したらどんな反応をするんだろうか。

 ……気になるがやめておこう。

 

「うぇっ!? う、うん……セブンがなでしこジャパンで活躍してるなんて知らなかったから」

「奈々がお前に隠し事をしてたのが気にいらないんだろ? もう付き合っちゃえよ」

「いや! 僕とセブンはそういう関係じゃ!」

「ないのは知ってるから早く公の関係になれと言ってるんだ」

 

 あわあわして手を振り回したり顔を赤くしたり、一人百面相をしている駆の様子を少し見て、それからピッチ上に立っている奈々に視線をよこす。そこには周りのなでしこジャパンのメンバーに話かけられている奈々の姿があった。

 あれだけのテクニックを持ってる奈々の事だ。少しなでしこジャパンの一員として活躍してればその能力がすぐにわかるだろう。俺たち男子に交じってやり合ってもフィジカルで負けることのないそのテクニックに。

 

『ミーナちゃぁぁん!』

 

 薫や高瀬が奈々の話をしてるのを横で聞いていると、いきなり後ろから男子どもの大歓声が響き渡った。ちょうど真ん前で聞いてしまった俺は非常に顔を顰めている。カットカット……手で耳を抑えながらピッチに出てきたフランクフルトのメンバーを眺める。

 

 そこには、昨年度優勝したメンバーがいる事に変わりはないんだが、そのメンバーの先頭に立って観客に手を振っている一人の女性の姿が目に映えた。

 

「ミーナ・マイヤー……か」

「そうだ。日本じゃほとんど海外の選手は知られてないかもしれないが、そんな中でもあいつは別格だ。一人のサッカー選手としてもそうだが、ヨーロッパじゃアイドルみたいな存在だからな。ドイツ代表で次期エース。それにファッションモデルもやってる」

 

 駆の隣にいつの間にか座って観戦しようとしていた日比野が事細かに教えてくれた。

 少し前までオランダにいたという日比野の言葉だ。ずっと日本で暮らしてる俺たちよりも情報を持ってても可笑しくない。

 

 しかし、駆と日比野の二人はどうしたんだ?

 たぶん奈々の事を見てるんだろうが、2人して目を細めて……まるで眩しい物をみるかのように。なんだ、日比野も奈々に惚れてるとか想いを抱いてるとか、そんな理由じゃないだろうな? さすがに俺の近くでそんな昼ドラ的関係に縺れ込んでほしくはないんだが。

 

『この大歓声の目的はミーナ・マイヤーだった模様ですね。彼女は日本に来る前にファッション雑誌に登場するなど、日本でも人気の上がっている選手です。所謂女子サッカーにおけるシャラポワと言われる選手です』

 

 18歳にしてドイツの次期代表ってんだからそのテクニックはかなりのものだろう。

 そのスタイル維持してなお雑誌に載るだけの意識を持ってるんだ。普段からかなりの努力を重ねているんだろう。これが英国人だったら周囲に努力してる事がばれないように隠れてやってるのかもしれない。あの国は、頑張って何かしてるところを見られたいとは思わない種族だからな。

 日本人のように普段から残業までしてあからさまに『頑張ってます!』オーラを出すことを良しとしない国民性だからそうなってもしょうがないんだが。かく言う俺も昔はそんなブラック性の強い男だったかもしれない。決して日本男児とは言えないが。

 

 ――試合開始。

 

 最初は日本から。

 身長からして負けている日本は足で。つまりパス回しで隙を作って前線にボールを持って行こうとする試合展開を考えているんだろう。一番背の高い選手でGKの福田選手で178cm。

 それに対してドイツの中心的選手のミーナで184cm。他の選手もほとんどが170cm台で、160cm台の選手は二人しかいないという状況。はっきり言ってフィジカルで日本は負けてるからテクニックで何とかするしかないのだが、そもそも海外の選手もテクニックは高い。こうなると最終的には気持ちの問題になってしまうんだが、それで勝てるほど世界は甘くない。

 

 奈々に渡ったボール。

 それをドリブルで持ち上がろうと動き出した奈々だったが、そこに仕掛けたのがミーナだった。観客席から見ても細いその身体だが、そのユニフォームの下に隠されているしなやかな筋肉はどれほどのものだろうか?

 

 奈々の足元のボールを、近くにいたフランクフルト選手に奈々の意識が行った瞬間にボールを奪ってしまった。

 

「180cmを超える長身ながら無駄のない細身の体で、飛ぶように軽やかなプレーを見せる彼女に付いたニックネームが『Ein Schwan auf dem Rasen』」

 

 ――ピッチの白鳥。

 

 一足で一気に奈々のボールを奪い、ピッチを駆けていくミーナの姿は確かに綺麗なのかもしれないが、だからと言って女子に白鳥というニックネームをつけるのはなぁ……観客は良いかもしれないが、それを受けてプレーをする彼女は……

 

 あ、そもそもモデルやってるからそこまで恥ずかしいとも思わないか。彼女のことだ。逆に光栄なことと思ってるか、自尊心が強ければ私にこそ当たり前に似合ってると思ってるかもしれない。それとももっと良いニックネームを要望してるかも?

 

 でも、そういう気概のある選手こそ強くて当然だし、これからの代表として主張ある選手として活躍できるだろう。

 

 奈々に近づいた選手とワンツーで一気にドリブルで上がっていく。

 それに対する日本のDF陣のまとまりがあまりない。バラバラとドリブルを仕掛けてくる選手に集まろうとしているだけの動きだ。そこにミーナはアーリークロスを上げようとする動きを見せ、一瞬その場に留まるが、つい引きつられて動き出した日本DF陣をあざ笑うかのようにドリブルを再開し一気に駆け上がる。

 一人、二人。直線的に日本のDF陣営を切り裂いていくミーナはそのままミドルシュート。右足から放たれた迷いないシュートはゴールの左隅へと決まったのだった。

 

『ゴーォォォル!! 0対1、フランクフルト先制!』

「そんな……セブンがあんなにあっさり」

「おいおい、確かに奈々は抜かれたがあんなことでへこたれる様な奴じゃないだろ?」

「……確かに」

 

 リスタート。

 何故か日比野から大きく頷かれはしたものの、今度は奈々が気張ってドリブルを仕掛け始めた。周囲を見渡しながらドリブルを仕掛ける奈々。そこにプレスを仕掛けるフランクフルトMFだが、それをヒールリフトであっさりと躱してしまった。

 

 あそこで躊躇いなくヒールリフトができる奈々が凄いと思わざるを得ない。

 テクニックが必要になるだけでない。ありゃぁ、派手なフェイントだけあってDFを引き付けやすくするって言う欠点もある。しかし、ボールの行方を見ることなく相手DFを引き付けようとしている奈々には驚きだが。

 

 そして、またしてもミーナが奈々にマークとしてついた。

 同じようにボールが奪われるかもしれない。そんな不安もあってか、チラと一瞥した駆の表情にはありありと感情が漏れ出ていた。

 

 ――奈々が仕掛けた。

 身体を一回転させるそのフェイント。俗にいうルーレットだが、ミーナもそれを見てからしなやかに体を動かしルーレットで行く先を潰してしまった。が、奈々はそれ以上の動きを見せてくれた。

 

『出たぁぁぁぁぁぁ!! あれがですよ、あれが……彼女がデビュー戦でいきなりハットトリックを決めたときに見せた、彼女の代名詞ともいえる"ウィッチターン"です!』

 

 先回りしようと動き出したミーナの事が背中で見えていると言わんなばかりにボールを操り、その逆の方へとドリブル。突破して見せた奈々の姿に動揺し、動くことができなかった相手GKを嘲笑うかのようにシュートを決め、あっという間に1対1。試合を振り出しに戻してしまったのだった。

 

 手に汗を握る試合とはまさにこのことだろう。

 それを演出してるのがまさか俺の幼馴染だとは思うまい。それに、良いものも見せて貰った。男子相手だっていうのもあったのか、それとも単に忘れていたのか。ウィッチターンなるものを。

 

 ――これでまた、皆を驚かせるネタが一つ増えたわけだ。

 ニヤリと、どうしても上がってしまう口角を抑えきれず、そのまま試合の観戦を続けるのであった。

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