俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

31 / 97
第29話

『江ノ高! 残念ながら先制点を奪うことはできませんでしたが、不知火が見せた跳躍力には驚かされます! 誰も寄せ付けず宙を舞う姿には凄まじい気迫を感じさせられました!』

 

 なんて放送されちゃいるが、単に俺がファールの概念を忘れていただけに過ぎないっていうね。恥ずかしくて穴があったら入りたい気分だ。……それにしても、確かに今回は相手DFを思いっきりペナルティエリアでぶっ飛ばしたが、本当はファールになるんだろうか?

 そういえばと、笛が鳴ったときの審判の位置を思い出し、混戦の最中にいた俺と日比野の姿は見えていなかったかもしれないことを思い出す。

 

「ドンマイドンマイ! その調子でどんどん行けよ!」

「うっす」

 

 マコ先輩に励まされ、少しぶすっとした表情をしてる荒木先輩からは軽くどつかれた。なんだかんだ丁度良い場所にボール来てたし、チャンスを一つ潰してしまったからなぁ……できれば決めてほしかったんだろう。

 

 とりあえずリスタートは湘南からという事でポジション修正。

 FWという事で中央付近でボールの行方を追う事に。何気に4本の矢の全員が俺の事見てるようなきがするんだが。気のせいであってほしいが、とりあえず俺がすることは変わりなしという事で、ボールを奪いに行きましょうかね。

 

 ボールの落ちる場所に走り込み、ボールを待つ。

 相手MFが競り合おうとしてくるが、そんなものはお構いなしに飛び上がりヘッドでボールを落とす。荒木先輩から織田先輩、そしてマコ先輩へ。江ノ高の攻撃は止まることを知らないかのようにパスがつながっていく。さすがに今回は相手MFをぶっ飛ばすことにはならなかった。てか、そうしようとも思ってなかったんだが……日比野も結構良い感じに筋肉が付いてて体重あると思うんだが、どうして俺に吹っ飛ばされたんだ? やっぱりこれもチートのせいなんだろうか。

 

 しかしながらさすが4本の矢と言うべきか。

 他のMDやFWは釣られて動いたりしているが、4本の矢はその隊形と言うか、陣形を維持してパスコースを潰している。そのためか、前半部分であったようにFW全員がマークされ、完璧に崩せず強引にシュートするしかない状況を創り出されているってのが現状になっていた。と、俺的にしてみれば過去形に終わらせようという魂胆をありありと見せつけてやろうと思ってるんだが。

 

 果たして、その思惑は荒木先輩にボールが渡ったところで空論のままだった考えを実行してみようと動き出す。

 

「ヘイ!」

「っ、行けぇ!」

「くっ!?」

『おぉっと! ここで不知火が動き出した! 少し遅れて荒木が不知火にループ気味のパスを出したが、しかしこれは少し大きいパスなのでは!?』

 

 実況君が言うように、確かに俺がいる位置からしてみれば少しパスは大きく見える。

 近くのMFが付いてきていて、前方にはDFがいる状況で荒木先輩がそんな適当なパスを出すか? 否である。

 俺と相手DFのちょうど真ん中ぐらいに落ちたパスはバックスピンが掛かっており、前に転がっていくことなくその場に留まる。試合開始直後に見せたチョップキック程の回転は無いものの、それでもこの精度のパスからのバックスピンと考えればさすがとしか言いようがない。

 

 左足に力を籠め、一気に駆け上がる。

 ボールまでの距離を相手DFよりも早く詰める。それだけで相手が驚いてる雰囲気がありありと伝わってくる。その一瞬の動揺を見逃さず、俺はボールを前に蹴り出す。

 

「……なっ!?」

「残念だったな」

 

 ボールは相手DFの右足の内側に当たり、奥へと転がっていく。

 その事に思考が追いつかないのか、それとも体が追いつかないのか。全く動く気配のない相手DFを置き去りにし、人数の少ない右側から相手ゴールへと向かって走り出す。そして、点々と転がりつつあったボールは無事俺の足元へと収まった。

 

『不知火! 一気にDFを抜き去り前に出たぁ! これで残るはGKただ一人だぁ! い、いや!?』

「俺が行かせねぇ!」

 

 横から追いすがってきたのは日比野だった。

 完璧に意表を突いたと思った荒木先輩と俺の動き出しに日比野ただ一人だけ感覚的に察することができたのだろう。しかし、いきなり動き出したことで息が上がっていた。それでもこいつは俺に追いつこうとしたわけだ。

 

 …………。

 

「おもしれぇ……」

 

 踏み込み、左足を振り上げる。

 右側から迫ってきてる日比野を無視するように、あからさまなシュート体勢。

 

「させねぇ!」

 

 それでも日比野はスライディングでボールをクリアしてこようとしてくる。

 ともすれば直接足に当たってしまうかもしれないが、そこはしっかりとボールを狙っているのだから大したものだ。が、俺は口角が上がってしまうのを自覚してしまった。

 

 スライディングしてくる日比野よりも早くに振り下ろされた左足をボールに当たる寸前で止める。日比野の足がボールに当たる直前、左足でボールを掬う様にして斜め左へと浮かせるように蹴り上げた。

 

「なぁっ!?」

 

 結果、ボールをクリアしようとした日比野は体勢を崩しただけに過ぎない。対して俺はと言うと、浮かせたボールを追いかけるために日比野の足をジャンプで躱して前へと進んでいる。さすがにあの体勢から強引に動くことはできないだろう。

 目の前にはGKただ一人。丁度ペナルティエリアに侵入しようという所、今度こそ俺はシュートの体勢へ入った。

 近くには俺を止めうる可能性を秘めたDFは誰もいない。本当の一対一。

 GKはうまい事シュートコースを消す動きをしようとしているが、それでも俺には数か所狙って蹴ることができるコースを発見してしまっている。その中でも一つ。抜くことができれば完璧に決めることができるコースへと向け、俺は左足を振りぬいた。

 

 日比野のキャノンシュートと同じぐらいの速度で放たれたシュートは一直線に飛んでいき、GKの股下を抜けていった。一拍遅れて反応したらしいが、すでに股の下にはボールは無い。GKが体勢を落としたのと同じタイミングで、ボールは白線を超え――ネットによってその勢いを止められたのだった。

 

 ――前半25分。鉄壁と名高い湘南の門番を今、俺が破った瞬間だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。