俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第30話

『先制点を決めたのはこの男! 江ノ島高校の不知火だぁ!! 前半25分と言う所で均衡が破れました!』

「しゃぁっ!!」

 

 ボールが点々とゴールネットを揺らし転がるのを確認し、左手でガッツポーズ。

 股抜きからのフェイント、そして股抜きとか……やり遂げた感が半端なく胸の奥からこみあげてくる。荒木先輩の凄まじい個人技を見せつけられてからの俺の個人技とか、目も当てられないぐらいに霞んでないだろうか? それでも1点。先制点を挙げてるから荒木先輩よりも凄い。これは確実に言えることだね。

 

 と、集まってくる皆の中に交じってる荒木先輩を見つけ、どや顔を一つプレゼント。

 目に見えてイラッとする荒木先輩の表情を見て更に口角が上がってしまうが、しょうがないんや。予想以上の達成感と優越感で鼻息も荒くなるってもんですわ。

 調子に乗って両手を鼻の高さまで持って行って指を動かしてたら叩かれた。当たり前だね。

 

「くっそ……調子乗りやがってぇ!!」

「あだ……パス、あざっした」

「けっ! 良く決めたぜホント」

 

 フェイントに股抜きを加えたらもうね、最強ですわ。

 しかしながら、もし自分がまた抜きされたら……もう相手の事を敬うしかないな。今の俺の肉体的なスペックを考えると、すぐに反応できてしまうだろうという予測ができるが。だからこそ余計そう思う。

 

 湘南からのリスタートで始まる直前。向こうのベンチで動きがあったらしく、一人の選手が下がっていく。7番MFが下がり、13番のゼッケンを着た選手がピッチに入ってきた。

 

『ここで湘南大付属は一人メンバーを代えてきました。守備的MFとして先発した7番、拓磨淳に代えて2年生、ゼッケン13番。九十九豊を起用します』

 

 なんでも今回の総体予選では初めての出場となるそうだが。

 実況の言う通りだとすれば困ったときの秘密兵器になるんだろうが……能力を視ることができる俺からすれば一目瞭然。彼は純粋なサッカー選手ではないようだ(・・・・・)

 

 何も情報が無い状態で彼の登場の意味を考慮するとすれば、彼が『5本目の矢』という事になるだろう。が、俺の目に映る彼の能力値――異様に低いテクニックに異様に高いスタミナ。九十九って選手は積極的にボールに絡んでこない変わりに、相手選手を攪乱することが目的なのではないだろうか?

 

 今の所江ノ高がガンガン攻めてるってのもあって湘南は一切攻撃に移れてない。

 このままある程度九十九って選手の動きを観察させてもらおうかな。

 

「ヤス!」

「はいよっ!」

 

 湘南からのリスタートだったが、マコ先輩が相手MFのパスをカットしてボールを奪取。すぐまた江ノ高の攻撃になったのだが、ボールの行く先行く先に現れる九十九選手のせいで江ノ高はパスをせざるを得ない状況を創り出されていた。

 しかし、やはりと言うか。

 九十九選手は多分陸上の選手なんだろう。スタミナが異常に高い事を考慮すれば種目は長距離だろう。ただただボールの方へ走ってる様子を見てると、本当にそういう趣旨の指示を監督から言われているに違いない。

 

 だからこそ俺が少し下がってパスを受けれる位置まで来たんだが、マコ先輩からボールを受ける事に成功したわけだ。

 

「行かせねぇ!」

「君にはこれ以上仕事をさせられない!」

 

 何も言わずに走ってくる九十九選手に加え、相手MFに日比野の3人が一気に詰めてきた。おいおい……なんで俺に3人も人数かけるんですかねぇ。と、周囲に意識を向けてみてもしっかりと江ノ高FWにはマークがついてるし、荒木先輩にも本田選手がマークについていた。

 さすが鉄壁。守備がしっかりしてますわぁ。

 

「そぉい」

「くっ!?」

 

 一番左にいた九十九選手の右足にボールを当て、股下を通して強引にドリブルを敢行。

 九十九選手と日比野の間に体を滑り込ませ、足に当たったことで軌道を変わったボールを足元に納める。さすがに日比野もただで通そうとするわけがなく、恐らくファール覚悟で止めようとしているのだろう。がっつり腕で抑えに来ているが、それで止まる俺じゃあないんだぜ?

 

「俺を止められると思うなよぉっ!」

「な、んだとっ!?」

 

『不知火が、なななんと3人のマークを強引に突破してしまったぁっ! これはまたしても不知火がシュートを決めてしまうのかぁっ!?』

 

 左右から高瀬も薫も上がってきてる。

 しっかりマークがついてはいるが、逆に言えば今の3人を躱した以上、前にいるのはGKただ一人。

 

「まだまだ!」

「お前にゃ止めれん!」

 

 九十九選手……陸上選手なだけあって戻りが速い。

 が、それだけ。ボールに絡んだ動きができるわけでもないし、それが分かってしまった俺からすれば普通にドリブルをするだけで前に行ける。……シュートの時に身体で止めようとして来たらどうしようもないがな。

 だが、そこまでディフェンスの練習はできてないのか、距離を詰めてこない。ペナルティエリアまでもう少し。なら、このまま一気にドリブルで持っていける!

 

「ぜぇぇっ!」

「づぅっ!?」

 

 そう考えた瞬間を狙ったように後ろから日比野が我武者羅にスライディングをかましてきやがった。しっかりとボールを狙ってはいたので、スパイクの裏が直接足に当たることは無かったもののそのまま倒されてしまった。この間欧州のリーグ戦の試合を見たんだが、まさに外人張りの突撃である。つまりはファールの狙いと言うところ。そんなに痛くはないが、適当に足が痛いふりをして表情を歪めて両手で足を庇ってみた。

 

 ピィー!

 

「俺が、ファール!?」

 

 イエローは出なかったものの、今のスライディングがファール判定に軽い抗議をしてみせる日比野。こいつはオランダの方に留学してサッカーをしていたらしいし、DFとしての技術も磨いてきたんだろうが、ここではうまい事行かなかったようだ。審判に詰め寄り抗議をする日比野を止めに入ろうとする湘南メンバーだが、それよりも早くに審判が動いてしまった。

 

「なっ……」

『おぉっとぉ!? イエローだぁ! 日比野、ここでのイエローは痛い!』

 

 そう、DFにとってイエローってのは非常に大きい事案だ。

 一回は許されるファールも、次は無い。つまり、一回は少し危険なスライディングになろうとも相手のチャンスを潰すことができるのだから。しかし、一枚イエローカードを出されてしまうとそれができなくなってしまうのだから。しかも日比野は湘南でも一番の点取り屋なのだからより一層動きにくくなるだろう。

 

「不知火、大丈夫か!?」

「えぇ……何とか大丈夫ですよ。普通に続けられます」

「そうか……それなら良かったぜ」

「それと、今回のフリーキックは俺が蹴りますからね」

「は……?」

 

 マコ先輩の手を借りて立ち上がりつつ、荒木先輩に意味深な視線を送る。

 不可解な表情を浮かべる荒木先輩の顔を見て、次に岩城監督を見つつ、左腕を上げ親指を立てた。すると、岩城監督も笑みを浮かべ俺にグーサインをしてくれたのだからOKだと判断しよう。

 

「荒木先輩! 俺が、蹴ります!」

「はぁっ!? おま、ここは俺だろうが!」

「ファールを貰っちゃったのは俺なんで。今回は俺に蹴らしてくださいよ」

「ファールは関係ねぇだろが! ……しょうがねぇ、今回だけだぞ!」

 

 その言葉とともにボールを頂戴し、ファールを貰った位置へとボールをセットした。

 最中、日比野が物凄い形相でこっちを見てくるもんだから内心ひやひやもんだが、実際に何か問題が起きたとしても肉体的には問題ないんだろうが。

 

「よっし……FWとしての活躍、ここに極まりってのを見せてやるぜ」

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