俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第32話

 さてさて、ついに日比野の大砲フリーキックが炸裂するときがやってきましたとさ。

 実際、日比野のシュートの威力はとんでもないものだし、昔の俺だったらこうやって相対するのも嫌だった。一発喰らっただけで意識飛ぶんじゃないだろうか。

 

 そんな日比野だが、ボールを前にして凄い形相で俺たちを睨んできている。

 鬼もかくやと言わんばかりの表情だが、そこまで憎しみを込めなくてもボールは蹴れるぞ? あれだ、ボールは友達だと思った方が良いんじゃないかな?(すっとぼけ)

 

 一歩、二歩と下がっていき、十分な距離を取ったところで日比野が止まった。

 誰かの息を飲む音が聞こえてきた。それなりに距離があるとは言ってもあの日比野のフリーキックを真正面から受け止めたいと思うほど酔狂な奴はいない。てかホント、あれを蹴るためだけに筋肉つけてきたんじゃないかって思うくらいのシュートだから、どうしても少林寺サッカーが脳裏に浮かんでしまうのは可笑しくない話じゃないだろうか(白目)

 

『さぁ! 湘南、日比野のフリーキックだぁ!! 距離は約30mといったところでしょうか!? これは直接狙ってくるでしょうか!』

 

 狙ってくるだろうね。当然。湘南のストライカーは日比野みたいなもんだからな。

 こうやってゴール近くでファールを奪う事を念頭に試合をしてるようなもんだ。

 

 ホイッスルが鳴り響く。

 運命の一発。日比野のフリーキックがあと数秒先に放たれることを、目に見えてわかるほど一層深くなった眉間の皺が如実に表していた。

 

「うぉおおおおぉぉおぉっ!!」

 

 怒声に近い叫び声がピッチ上に響いた。

 巨躯が一気に加速し、走り出した。ボールの前で急停止し、そこから振り上げられた右足に全体重を乗せ、鞭がしなるように振り下ろされた右足がサッカーボールを捉えた。瞬間、凄まじい力が加えられたボールが歪み、一直線にボールが放たれたのであった。

 体感的にはゆっくりと動き出す世界の中、ボールの軌道からどこに飛んでいくのかを予測する。弧を描くことなく直線的な軌道を描くであろうボールは、確かに俺の所を狙っていた。日本人の平均的な体格に比べ大柄な俺の体では、このボールはGKから死角になっていた。だからこそ、俺はこのボールを避けるわけにはいかない!

 

「ふ――しゃぁっ!!」

 

 少し首を後ろに逸らし、一気に前へと振り下ろす。

 ちょうど顔よりも少し下あたりに飛んできたボールを額で打ち付ける。

 一瞬の接触。予想以上の衝撃が体中に伝播していく。空中で勢いを殺しきれなかったせいか、体が少し後ろに飛ばされるような感覚。しかし、ボールは確実に前へと飛ばすことができていた。

 

「な……」

 

 驚愕に歪んでいる日比野の表情を見て、口角が吊り上がるのを自覚した。

 

『す、凄まじい音が放送席にいる私の所まで聞こえてきたぞぉ!? 果たして、真正面から日比野選手のフリーキックを受け止めてしまった不知火選手は大丈夫なのかぁ!!』

 

 まだボールはピッチの中を転がっているため、俺の所に駆け寄ってくる仲間はいなかったが、心配そうにこちらを見てくる仲間たちに左手で親指を立ててやった。紛れもなく、俺は大丈夫である。

 一転、各人安心したような表情を浮かべると、そのまま攻撃に積極的に参加していったようだった。俺が日比野のフリーキックを止めたっていう事実が皆に火をつけたのか、前半よりも一層攻撃が濃くなってるような気がする。

 その中に駆もしっかりと混じっていけているようで安心だ。

 日比野と相対してシュートを打とうとするときにどうしても怪我をさせたことがトラウマになっているのか、しっかりと打ちきれないでいたようだが、それも日比野の一喝によって解消……とまでいかなくてもサッカーをする上でシュートを打てないという決定的な欠点を克服できたようだ。

 

 敵に塩を送ってるだけにしか見えないが、幼馴染として、試合相手として全力を尽くせてない駆を見るに堪えなかったんだろうか。まぁ……おかげで攻撃が更に厚くなって全く湘南攻撃陣が攻撃できてないっていう状況になってしまったが。

 確かに湘南は日比野のフリーキックを中心として、あとはガッツリ守備に人員を割いてゴールを守り抜くっていうスタイル何だろうが、相手が悪かったな。

 

 後半約25分に駆が3点目を。

 後半約35分に荒木先輩が4点目を押し入れた。

 

 そもそも湘南は攻撃に移れてないからなぁ……

 

『試合終了のホイッスルが鳴り響く! 江ノ島高校、湘南大付属を相手に4対0! 鉄壁と名高い4本の矢(フォーアロウズ)を物ともせず高い攻撃力を見せてくれました! 江ノ島高校、ベスト8進出っ!!』

 

「いやぁ……今回も適当にDFでやってこうと思ってたんだがなぁ」

「ヤス! やったね!」

「駆……もう、日比野とは大丈夫か?」

「うん! て言っても、全部スッキリ出来たわけじゃないけどね」

 

 そう言って、握り拳を作って右腕を上げる駆に合わせて、俺も右手を握りこんで軽くぶつけ合う。この試合に勝利したことと、駆がまた一つ強くなったことに対して。

 

「しっかし、駆のあの『φ(ファイ)トリック』って言われてたあれ。ここぞって時に発揮したな」

「うん! これもヤスが特訓に付き合てくれたからね。しっかり決めれたよ」

 

 そして嬉しそうに奈々のところに駆けていく駆の後姿を見ていると、なんだか尻尾があるように見えてきてしょうがない。あいつは犬か何かなんだろうか。

 ……しかし、こうしてみると駆の成長具合は凄まじいものがあるな。何だかんだで今日も1点決めてるし、ストライカーとしての資質があるだけじゃなく、しっかりと点を決めに行くだけの成長も見せる。

 

 これが伸びしろってやつですか(白目)

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