「おいおい、何だよありゃぁ!? すげぇ奴だぜ!」
「あんなヘッド、普通じゃできないなぁ……」
「うっす、あざっす」
確かに、クリアしようと蹴られたボールをそのままヘディングするとか見たことない。
とは言え、飛鳥がしようとしていたのはクリア、と言うよりも前線にいる味方へのパス気味のボールで、そのままカウンターに持ち込もうとしていたような感じのする方向に飛んできた。そこに俺がうまいこと走り込んでいただけで、飛鳥からのボールを華麗にゴールしてやったというわけだ。
動体視力、反射神経、身体能力が高かったからできた業だね。まさにチートの権化です、ありがとうございました。
さすがに今の動きには驚いたのか、まだ呆然とした雰囲気をまとっている飛鳥だが、俺が見ていることに気づくと悔しそうに口角をあげていた。そして、チラと駆を一瞥。
得点を決めたのは俺のヘッドだが、あそこでしっかりとボールに走り込んでいた駆の事も気にしているのかもしれない。まぁ、俺はDFだから? 基本的に後ろで守備を頑張ってますけど何か?
その後、リスタートと同時に果敢に攻めてきた葉蔭ではあったが、時間が少なくなっていたことと俺が何回かパスカットをし、ボールを奪ったりを繰り返したこともあり、そのまま試合の折り返しを迎えたのだった。
『さぁ、1対0となったまま前半戦を終えました! 両校ともに素晴らしい攻めを見せてくれましたが、現在江ノ高が一歩リードしています! いやぁ、葉蔭学園の飛鳥選手の指示も的確でしたが、それ以上に凄まじい動きで先制点を決めた不知火選手をどう攻略するのか! 後半も見ものですねぇ!』
前半の動きを見る限りでは、今までの高校と同じように葉蔭の攻めは止められる。
つまり、この試合も無失点のまま勝ち進む事ができるという事。このまま次の準決勝も勝ち進むことができれば、晴れて神奈川県代表として全国大会に進出することができるが……
ここで勝ったとしても次の試合相手は鎌倉学館。例の鷹匠先輩がいる高校である。
鎌倉学館と言えば、そこの中等部に俺や駆が通ってたもんだ。
中塚とかもいたらしいが……あんなトゲトゲな髪形だったら覚えてそうなもんだが、性格的な問題だな。あいつの事を覚えてなくても仕方なかったんや。
取り合えず、後半戦に集中しよう。
今まで通りに無失点でいけるかもしれないが、葉蔭学園は何といっても飛鳥が特に注意されているが、その他の選手の基本的な能力もかなり高い。鬼丸と言うスピードに自信のある選手以外に突出した選手はいないものの、欠点も無いという組織力を売りにしている。
それを飛鳥が司令官として動いているのだから油断はできない。
「――では、後半も君たちの活躍に期待しています。ここに勝って、全国に江ノ高サッカー部の強さを見せつけましょう!」
『おぉっ!!』
後半に向けてのミーティングも終わり、いざ葉蔭との決着を付けようと言う場面。
戦略は前半とさして変わらず、前半と同じように戦うことに。俺は変わらずDFとして配置。前半のように、いつでも攻撃に参加してもいいという許しを監督から受けたものの、いつもの事ではないだろうか? ……まぁ、全員攻撃参加型の戦略を取ってる江ノ高で、岩城監督だからこその言葉なんだろうが。
と、後半が始まろうとしている中、いつも通り力を抜いて立っていたら不意に視線を感じてしまった。結構な数の観客がいる中で感じた視線を不思議に思い、ふとその方向を見ると一人の男性が。
そこにいたのはレオナルド・シルバその人だった。
あれぇ?
あの人前に駆にちょっかいかけてませんでしたか? なんで俺の事みてるんですかねぇ……そのまま大人しく駆に集中してくれればいいんですけど。
と、そんな淡い期待が叶ったのか、それともこの広い観客席で俺と目が合って気まずくなって外したのかは分からないが、取りあえずはこの一瞬の緊張から逃れることはできたわけだが。その次の瞬間、またしても誰かからか視線を感じてしまった。それもレオナルド・シルバよりも強い視線を感じてしまったのだから締まりが悪かった。
こんな後半の始まる直前でこの視線の強さ。これから試合に集中しようとしている中で気を散らすような視線の主は誰だと少しだけ気になり、一瞥だけする事に。
そこで見ていたのは鷹匠先輩だった。
「うぉっ!?」
「? ……どうしたんだい?」
「あ、いえ……何でもないです」
少し離れたところにいた堀川先輩に心配されてしまった。
いやだって、凄い形相でこっちをみてるんだもの! 睨んだだけで目からビームが出るんだったら本当にビームで焼かれるんじゃないだろうかってレベルで!
一瞬で視線を切ったから向こうが気づいているかどうか知らないが、あの表情はヤバイ。
あんな表情で見られたら、鎌学の今の後輩たちはどんな見られ方をしてるのかと不安になってしまうレベルで。
そんなことはないんだろうが。
『さぁ、注目の後半戦。ホイッスルが今鳴り響きましたぁ!! 前半を1対0で終えた江ノ高ではありますが、前半の勢いを保つことはできるのかぁっ!!』
さて、強烈に叩きつけられる視線を無視して後半のキックオフに集中する。
後半は葉蔭学園のキックオフでスタートした。
両校ともに前半と同様の布陣を敷いているが、飛鳥と鬼丸の雰囲気だけが少し浮いているような気がする。これから何かを仕掛けようとしている感じだ。
が、何をするか分からない以上は基本的なDFをするしかない。それで飛鳥……葉蔭の思惑に対応することができれば越したことは無いが。当然、こちらの考えの裏をかこうとしてくるに違いない。
「っけぇ!!」
相手MFがドリブルを仕掛けた。
それに対応するマコ先輩だが、あと少しでボールを奪えるという所でパス。ボールを受けたのが飛鳥だった。
「中塚ぁっ! 9番チェック!!」
「お、おう!」
後半から交代で入ってきた中塚に鬼丸をチェックさせる。
テクニックは無いが鬼丸よりも足の速い中塚。冷静な表情をして何を考えているか分からない飛鳥の事だ。鬼丸を起点に攻撃を仕掛けてくるのは目に見えていた。すぐ近くは織田先輩の守備範囲になっているし、そっちは大丈夫だろう。
江ノ高はどちらかと言えば攻撃よりの布陣になっていると思う。だから、葉蔭のような組織だった守備はあまり得意とはしていない。故に一人一人が各選手に注意してほしいんだが、中塚みたいな馬鹿野郎は指示してこそ輝く奴だし。
飛鳥の精密染みたパスが鬼丸の元へと飛んで行くが、そこに走り込んだ中塚によって巧くパスを受けることができなくなると思いきや、そこで鬼丸がテクニックを見せつけた。
少しボールの方に近づき中塚に一瞬の戸惑いを持たせ、一気に跳躍してヘッドでボールを前に落としてそのまま自分で持っていくという荒業をやってのけたのだ。が、その前には織田先輩。後ろからは中塚が追いかけてきてることから無理せずパスを出した。
そのまま飛鳥までボールが回った。
コートの中央付近、ゴールまで約35メートル。
俺のポジションはゴール近くだが、どんなシュートにも対応できるような位置を取っていた。それを分からない飛鳥ではないと思うし、そこからシュートを蹴ってくることはないだろう。
だからこそ、そこで左足でシュート体勢に入った飛鳥を不審に思ったし、それが左足だったのも尚更それを思わせる。
「っ! 中塚! しっかり9番チェックしとけぇ! 李さん、9番注意っ!」
「へ?」
「っ!?」
李先輩はしっかりと反応してくれたのに対して、気の抜けたような反応を返してきた中塚は、動き出しが遅れてしまった。
その間、飛鳥の左足から放たれたボールは回転を掛けられてゴールに向かって飛んできた。それに気を取られた李先輩ではあるものの、俺がいることもあってそのまま鬼丸に意識を割いてくれた。
と、俺が懸念した通り、回転が掛かったボールはゴールから逸れて鬼丸がいる方へと飛んで行った。気の抜けた反応を返した中塚だったが、それなりに鬼丸を警戒していたようで、距離を開けられることは無かったようだが、一瞬反応に遅れてしまい、結果鬼丸に突出される形になってしまった。
ゴールラインまでほんの少し。
江ノ高の守備的MFの皆さんが葉蔭イレブンをしっかりマークしているが、あそこからシュートまで持っていく選択が多すぎる。DFとは言え、下がり気味の飛鳥にも気がいてしまうし。
俊足の中塚に追いつかれるかどうかと言ったギリギリまで見極めた鬼丸が、ラインすれすれの所からマイナス気味のボールを上げた。
奴の表情を見る限り、味方FWを信じて適当に上げたボールには思えなかった。
それこそ、何か策があるような……
――そうかっ!
「っうおぉぉぉっ!!」
マイナス気味のボールには回転が掛かっていた。それも、直接ゴールを狙ってくるような軌跡を描いて。このダイレクトプレーには驚いたものの、李先輩はしっかりと反応してくれていた。少し飛び出してしまっていたものの、跳躍。からの真っ直ぐ体と腕を伸ばし、指先でボールに触れたのだった。
ほんの少ししか触れていなかったようだが、しっかりとボールを弾き出し、この危機を乗り越えることができたのだった。
「不知火……助かった」
「いえ、李先輩こそ流石です」
まだ後半5分も経っていない。
前半とは打って変わって攻めに転じてきた葉蔭。今の江ノ高イレブンで打ち返せるのか?