「凄いじゃない、康寛!」
「おー久しぶりに慣れない事したから疲れたぜー」
練習が終わり休んでいる俺のところに奈々がスポーツドリンクを持ってきてくれた。
「……ねぇ、本当にサッカー経験無いの?」
「あん? だから何回も言ってるじゃねぇか」
その追及には無いと返すことしかできない。
ズル使ってない? なんて事を聞かれたらなんて答えようか困るがな。
確かに今回の練習を思い返してみれば、1アシストにスライディングで先輩からボールを奪ったり。
とてもじゃないが初心者の動きでは無いような気もする。
が、まぁ……適当にゲームで見たからとかテレビで見たからとか言っておけば大丈夫だろ。
「不知火君、少し良いですか?」
「はい?」
ここにきて岩城先生が話かけてきた。
「確認したい事があるんです。君の動き……パスにしてもスライディングにしても、明らかに未経験者のものじゃなかった。でも、最初に堀川君にスライディングをされた時の反応は完全に初心者のものだった。それが、二回目にスライディングされたときは完璧にかわしてドリブルをしていた……この差は、とても一回の練習で埋まるものではないはず」
「つまるところ先生は、俺が未経験者じゃないと言いたいわけですか?」
俺もそう思います(小並感)
「え……いえ、そこまで責めるつもりはないんです。君が本当に未経験者でもそうじゃなくても、こうしてこのクラブに入ってくれたことは喜ぶべき事ですから」
「まぁ、良いんですけどね。あと、サッカー始めたばかりなんで特に希望するポジションは無いんで、ってか、ポジションの名前も分からないんで後で教えて貰えませんか?」
「え? あ、はい」
「駆が確か、
「わ、わかりました」
できれば真ん中あたりが良いかな。
練習中に駆に出したパス……あの軽い感じのパスを出すんだったら真ん中が一番感触が良い気がする。
守備的な位置で後ろのポジションとなると、そこまで守備に慣れてるわけじゃないし動き方も知ってるわけじゃない。それを言ったらどこも慣れないポジションになるんだが。
が、真ん中だったらどこからでもボールを受けれるし、どこへでもボールを出せる。
まだまだ技術が足りないような気もするが、その自信が俺にはある。
「ふふ……良い目をしてますね。君ならどのポジションでもやっていけそうですね」
「はぁ」
どんな目をしてるんですかねぇ(白目)
とりあえず期待をされてるみたいだから頑張ろうかな。
それから別の日。
学校の授業がすべて終わった後の放課後、俺は江ノ島市民競技場までサッカー部員たちと一緒に連れてこられていた。
どうやらこの競技場で今度の土曜、試合をするそうだ。
試合内容は少し前に聞かされたのだが、江ノ島高校にある二つのサッカークラブのうち、一つの代表を決める試合らしい。
特にそこらへんは思い入れがあるわけでもなかったから深い事情は聴いてないんだが。
「それじゃあアップを始めましょう!」
その言葉に俺は適当にストレッチを始めた。
他の先輩や駆はボールを使ってパス練習などをし始めた。……これが経験者と元帰宅部の違いか。
そこで岩城先生……いや、もう俺もサッカー部なんだから岩城監督か。も、アップをし始めたのだが、予想以上にボールの扱いがうまかった。
その足業を見させてもらえて良かった(小学生並感想)
「みなさん、アップしながら聞いてください」
「今日は6対6のハーフコートでのミニゲームをしたいと思います」
「お、12人いるからちょうど出来ますけど……不知火も出すんすか?」
「いえ、最初不知火君には練習を見てもらいます」
そう言いつつ俺に不適な笑みを見せる岩城監督。
……もしかして俺が見取り稽古擬きをしてるの分かってんのかな?
「じゃあキーパーはまた監督がするんっすか?」
「いえいえ、今日は中学でキーパーの経験がある三上君にやってもらいます」
「えー? それじゃあ今日は5対5になってんじゃん」
「荒木だっていないんだしさぁー」
その荒木ってのは誰のことだろうか。
言い方的に先輩なんだろうが、どれぐらい上手い人なのかもわからないが……もしや、相当上手い人なのか?
と、気づいたら監督がゲストなる人物を呼んでいた。
その特別ゲストとは、謎のサッカープレーヤー『宇宙人マスク』の事だったのだ!
……なんだろう、その胡散臭いマスク。一応ここに来るまでに軽くボール捌きを見せてくれていたが、素人目に見てもうまいことがわかった。あれは俺でも少し練習しないといけないかな?
俺がポケーっとしてる間に話は進み、そのまま6対6のミニゲームが始まった。
ちなみに件の宇宙人マスクは赤チームになり、駆も同じチームだった。
……今、何気なくマスクが駆に耳打ちしてたような。マネージャーの奈々がここに来てないってのは、もしかするとそういうことなのか?
――いざ、キックオフ。
例のマスクがボールを持ったままゲームが始まり、挑発されていた兵藤先輩が仕掛けるが、マスクは華麗なボール捌きでそれを避け、どんどんドリブルで進んでいく。
そしてマスクが右手を上げ、サインらしきものを出すと駆と火野先輩が動き出した。
少し飛び出た形の駆には堀川先輩がディフェンスに付いているが……あれじゃあオフサイドにかかるだろうからパスは出せないだろう。
ちなみにある程度重要なサッカーのルールは覚えましたよ。
オフサイドはパスを出すポジションの選手にとっては重要なルールだからな。
おっと、駆が動き出した!
しかもあれは、自分からオフサイドになりに行くような形だ。
なんでそんな動きをするんだ?
マスクはボールを大きく蹴りだした。
まるで駆にパスを出すかのようなボールに堀川先輩が「オフサイドだ! 明らかにっ!」と声を荒げた。
そうなんだよなぁ……このままだと間違いなくオフサイドになるんだが。
――結果的にボールはゴールネットを揺らした。
しかもオフサイドにはならない。しっかりとした一点。
しかし、それはマスクの得点になったのだが。
マスクが蹴りだしたボールは、動き出した駆の足元にうまい具合に吸い寄せられ軌道を変えた。駆が蹴って軌道を変えたわけではなく、シュートに回転がかけられていたせいで地面に落ちた瞬間その軌道を変えたのだ。
当然、オフサイドになると思い込んでいたキーパーはそのシュートを止めることはできず、得点になってしまったというわけだ。
……しかし、よく考えられた作戦だなぁ。一度見てしまったらさすがに二度目は通用しないだろうけど、高校生の意表を突くには十分な作戦かもしれない。
「くそ……そういうことだったんだな! くそっ!!」
「おいおい……なんだよ今の連携は」
「いきなりコンビネーションとれてんじゃん。誰だよあのグレイ君は」
確かに。
いきなり出てきた割にはコンビネーションが取れすぎてる。あのサインとか前もって言わなきゃわからないはず。となると、やはりあのグレイは駆の幼馴染の美島奈々なのでは!?
……なんて少し探偵気分で適当な事を言ってみるが、今も何か話をしてる駆とグレイの様子を見るに察する事はできる。別にそれでどうこう言ったりするわけじゃないが。
そしてミニゲームは前半戦を終了し、後半へと突入しようとしているところだが、隅っこで体育座りをしていた俺に声がかかった。どうやら俺の出番らしい。二年生の遠藤先輩と交代し、ピッチに立った。チームは堀川先輩と同じ……つまり、駆とグレイの敵となる。
――一瞬、監督が俺を見て微笑んでいたような気がする。
単に腹黒い監督にしか見えなくなってきてしまったのは気のせいか。とりあえず、俺に対する挑戦状だと思って思いっきりやるとしよう。
「行くぞ駆……ボールへの嗅覚は十分か?」
某赤い正義の味方っぽく決めてみたけど、本当の試合でも何でもないんだなこれが(白目)
とりあえず、ミニゲームは普通に楽しみました。