俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第40話

『さぁ、逢沢選手のシュートによって3点目を得た江ノ高! 点差は2点と広がりましたが、どちらが準決勝への切符を掴むことになるのでしょうか!? 熱い展開が繰り広げられることを期待しています!』

 

 後半も折り返しを迎えてはいるものの、点差は2点。

 葉蔭イレブンの決定力と組織力を考えるに、まだまだ安全圏内じゃあない事は江ノ高イレブンの全員が理解していることだろう。意気も十分に高まっている。

 油断さえしなければこのまま勝ち進むことが出来る。確信に近い思惑が、俺の頭を過ぎっていた。

 

「荒木先輩……調子に乗ってないッスよね」

 

 マコ先輩と話していた荒木先輩に失礼極まりない一言をかけた。

 不機嫌と不可解を足して2で割ったような表情をする荒木先輩と対照的に、俺の絡みに面白そうだと笑みを浮かべるマコ先輩。

 

「あん? 不知火ぃ……そりゃぁどういう事だ?」

「いや、江ノ高で一番調子に乗りやすい人なんで、まだ葉蔭相手に油断しないでほしいなぁと」

「て、てめ! さすがに俺だってんな事考えねぇよ! ……どんだけ信頼されてないんだか」

「荒木、そりゃ普段のお・こ・な・いって奴だな!」

「うるせぇよ!!」

「お前らは黙らんかぁ!!」

 

 ずんずんと近づいて来ていた織田先輩を察知していた俺は、マコ先輩に荒木先輩の矛先が向いた瞬間からフェードアウトしていたため、直接雷が落ちる事は無かった。

 

 リスタートまでの短い時間、皆の様子を窺ってみたが、特にこれといった心配はしなくても大丈夫そうだ。

 普段通り後輩に絡まれて愚痴を漏らす荒木先輩に、そこに茶々を入れ始めるマコ先輩。そして喧しくなった集団を締め上げる織田先輩。意気は十分に上がっていることに加えてこの団結力。

 ……心配するとすれば、団結力はあっても組織力で負けているってところぐらいか。鬼丸や飛鳥といった一部の選手が突出している葉蔭に比べ、うちの選手は一人一人が秀でている。そこで何とかカバーできれば勝てるだろう。

 

 ――いや、勝つ。

 

『葉蔭からのリスタート! 残り20分と言う時間でどのような戦略で攻めるのかぁ!!』

「いくぞ!」

「応っ!!」

「なんだぁ……!?」

 

 葉蔭イレブンは、飛鳥を中心にほとんど全員の選手が上がってきたのだった。

 まさにその陣容は背水の陣と言ったところだろうか。2点差まで離されて焦ることもないだろうが、そうでもしないと点数を奪えないという考えだろうか。事実、中心で指示を出しつつ攻め上がってくる飛鳥の表情に、焦りと言う感情は見受けられなかった。

 こいつぁ……全力でボールを奪いに行かないといけないみたいだ!

 

「行くぜおい!」

「くっ……!」

 

 後の事を考えていないとばかりの全力ダッシュでボールを追いかける。

 FWとしては守備に貢献し過ぎなのかもしれないが、それでも俺の体力が尽きる事は無いだろうし、問題ない。しかも、DFじゃなくてFWだからボールを奪った瞬間、そのまま相手ゴールに向かって駆けあがることもできるしな。

 全力でピッチを駆けボールを追い回す俺に加え、織田・荒木・マコ先輩方が能動的に動いていることもあって、中々最前線までボールを出すことが出来ていない葉蔭イレブン。

 飛鳥は精神的に強いだろうが、そのほかの選手はそうはいかない。

 中々前へとボールを出せないことで焦り出したのだろう葉蔭MFが、安易なパスを出してしまい、そこを荒木先輩がカットしたのだった。

 

「不知火ぃ!」

「はいっ!」

 

 相手DF陣のほんの少しの隙間、まさに針の穴に糸を通すような精密さで飛んでくるボール。相手が触ることが出来ない、それでいて受け手側もギリギリ足を伸ばせば届く場所に出してくるパス。

 これぞ荒木先輩の得意技、キラーパスだ。

 オフサイドギリギリのポジションから一気に飛び出し。ギリギリではあるものの、俊敏さを生かして普通にパスを受ける。

 相手守備陣の数名が手を挙げてオフサイドを主張しているが、フラッグは上がらない。

 

『オフサイドは無し! 葉蔭、一気にピンチに陥ってしまったぁ!!』

「く、待て……!!」

 

 待てと言われて待つ阿呆がいるかってんだ!

 必死に追いかけてくる飛鳥だが、ドリブルをしながらでも俺の方が足が速い。

 俊足の鬼丸もこっちに向かって走り出しているようだが、距離が開き過ぎていた。

 ゴールまでは約40m。まだまだシュートするには遠いポジションではあるが、またしてもGKと一対一の場面になったのだった。

 

「ヤス!」

 

 後ろから駆も同じように飛び出して来た。

 少し俺よりも飛び出すのが遅れたものの、二人目のFWの飛び出し、追走というのは葉蔭DF陣にとっては厳しい状況になる。パスにシュート、連携ができるようになったんだから。

 

「くそっ……来やがれぇ!!」

 

 と言いつつもあまり前に飛び出すことの出来ていないGK。

 残り35m程度。別にここから日比野のキャノン砲もどきをぶっ放しても良い訳なんだが、それでシュートを外したりGKの手で弾かれてもなぁ……少々恥ずかしくなっちまう。

 従って、俺はこのままドリブルを敢行。

 飛鳥の足じゃまだ俺には追いつけないだろうし、追いつかれても駆にパスを出せば良い。まぁ、駆の方に鬼丸が行ってるみたいだから簡単にシュートはさせてくれないだろうが。

 

『不知火選手! そのままドリブルだぁ!! このままシュートを決めれば葉蔭との差は3点! 加えてハットトリックも達成してしまうのかぁっ!?』

「行くんだ! 不知火君っ!!」

「監督……へへっ」

 

 岩城監督が立ち上がり、口に両手を当てて大声を出していた。

 あんな精一杯監督にまで応援されちゃぁ自分で行かないわけには、いかねぇよなぁ?

 

 どんどんとGKとの距離が近づいていく。

 飛鳥との距離はそれなりに離れている。俺がドリブルで近づいてくることに焦りを感じているのか口元が歪むGKを目に、フェイントを仕掛け始める。

 右に左にフェイントを仕掛け、どこに動くのか、シュートするのかを困惑させる。この一対一の場面において、俺がGKの右を行くか左を行くかは半々なわけだ。味方からの援護を得られないGKはどうしても止まってしまう。

 

「そこだ!」

「なっ……!?」

 

 戸惑い、両足を止めてしまった相手GKの股下を狙い、シュート。

 少しして沈み込んだGKだが、既にボールは股下を完全に通り過ぎていた。ボールを遮るものは無く、そのままゴールネットを揺らしたのだった。

 

『ゴオォォォル!! 江ノ高、4対1!! そして不知火選手は何とこれでハットトリック達成だぁ!! 予選においてもハットトリックを達成していた不知火選手ではありますが、まさか葉蔭学院がこのまま準々決勝で敗退してしまうのかぁっ!?』

 

 煽る煽る。

 放送席の一生徒が生実況でそこまで煽って良いものなのか。

 

「うぉおぃ!! ハットトリックってよぉっ!?」

「とんだ一年生だぜこいつぁよぉ!!」

「流石だな」

「うっす、あざッス」

 

 皆が祝福してくれる。

 駆の奴は点数に絡む動きが出来なかったと悔しそうにしている感じだったが、それでもおめでとうと声を掛けてくれた。こいつ、何だかんだで良い奴なんだよな。それに身長差も相まって小動物みたいだし。

 しかし、こいつもこいつで飛び出してきてたから相手が守備に戸惑ったというか、俺一人だけをチェックすることが出来なくなったんだぞ? 良い動きしてたんだがなぁ。

 

「駆、お前が飛び出したからあいつがシュートを打てたんだ。お前も良い動きだったぜ」

「先輩……ありがとうございます!」

 

 俺も駆に声を掛けた方が良いのだろうかと逡巡していると、先に荒木先輩が声を掛けていた。いやぁ、なんだかんだ言っても面倒見の良い先輩ですからねぇ。パスを出した本人だし、今の駆の飛び出しもしっかりと見ていたのだろう。あれには監督も含め、良い動きだと褒める事間違いなし。

 

 さて、またしても葉蔭学院からのリスタート。

 後半も残り10分少々。ロスタイムを含めたところでそう大した時間にはならないだろう。ロスタイムの悪夢なんて言葉もあるようだが……この3点差はそうそう覆すことはできない。

 それでも双眸に炎が宿って見える飛鳥の精神には驚きを隠せないんだがな。

 

『葉蔭学院のキックオフから試合は再開されます! その点差は3点! ハットトリックを決めた不知火選手に1点決めている逢沢選手! それ以外にも決定力のある選手が多い江ノ高選手の攻めをどう攻略していくのか! 今、キックオフです!!』

 

 

 

 ――長いホイッスルの音が響いた。

 試合は、4対1。猛攻を仕掛け始めた葉蔭を相手に江ノ高は全力で守備に当たり、結果、江ノ島高校サッカー部が勝利を納め、準決勝に進出したのだった。

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