俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第40.5話

 神奈川県でも強豪の一角、葉蔭学院を相手に4対1という3点もの差を付けて勝利した江ノ島高校サッカー部。その部員の数名が岩城監督に呼び出され、部室に集まろうとしていた。

 

「はぁぁぁ……昨日葉蔭に勝ったばかりなんだからよぉ。少しは休んでたって良いじゃねぇかってんだ! なぁ、駆ぅ」

「ははは」

 

 僕と荒木さんの二人は、葉蔭戦の次の日に岩城監督に呼び出されていた。

 葉蔭学院との試合に勝った僕たちの次の試合……鎌学との準決勝は5日後に控えている。その事に関するミーティングだったら全員呼ばれるだろうし。とすれば、個別に何らかの指導でもあるのかな?

 僕は帰りのHR(ホームルーム)が終わった後に監督に呼ばれたんだけど、荒木さんとは部室に着く少し前に合流した。が、先輩も監督に呼ばれていたようだった。けど、それなら何で教室で皆に言わなかったんだろう? ヤスも公太も教室にいたのに。

 

「にしても駆、お前不知火の奴と一緒じゃねぇのか?」

「えっと……僕が教室を出る前にはもういなかったので」

「ふぅん……先に行ってるかもしれねぇか」

「はい」

 

 軽く雑談しながら部室に向かう。

 面倒だのマック食いてぇコーラ飲みてぇだのと愚痴やら願望やらを(こぼ)す先輩に笑いつつ「セブンに聞かれたら締め上げられますよ?」って言ったら「だぁっ!? 少しぐらい良いじゃねぇかよ!?」って叫んでた。

 苦笑するしかなかったけど、そんなにセブンって……ドS、なのかなぁ……

 

 そんなこんなで僕と荒木さんは部室に着いた。

 先に入ったのは僕で、メンド臭そうな表情のままの荒木さんが後から。試合明けの日は基本的に練習無しで、体を休める事に専念するように言われてたから尚更だ。

 まぁ、それでも僕はセブンに夜練習に付き合ってもらったりしてるんだけどね。

 

「お」

「なんだ、荒木も呼ばれてたのか」

「マコ……それに、織田に海王寺、キャプテンまで」

 

 そこにいたのはスタメンに選ばれてる人に加えて、僕や公太みたいにベンチ入りに選ばれた人たちだった。試合の事についてなのか、何か部活の事で大事な話でもあるのか。

 

「あれ? 駆、不知火の奴は?」

「え? ……あれ? そう言えば……」

 

 中にいる人の中にはヤスはいなかった。

 と言うよりも、ヤス以外のメンバーだけがここに集められたの?

 まだ監督の姿が無いし、もしかすれば、これから監督がヤスに声を掛けてここに呼び出すんじゃ。

 

「ああ、皆さん。もう集まっていましたか!」

 

 と、部屋に入ってきた監督とセブンの様子を見て、ヤスはここに来ないだろうと勘付いてしまった。何せ、今監督は皆さん(・・・)って言ってたし。何より、セブンが一緒にいるのに何も言い出さないなんてあり得なかった。

 

「えぇ……でも、まだ不知火が来てないっすよぉ」

「そうです。監督、皆と言うのであれば、不知火もここに来ていないとおかしいのでは?」

 

 マコ先輩に織田先輩が異論を唱える。

 確かに、ヤスだけが監督に呼ばれていないことになる。けど、笑顔の監督と対照的にセブンの表情が、いつもに増して真剣さを帯びていた。

 いつもと変わらない笑みを浮かべていた監督が、真剣みのある表情を浮かべた。その瞬間からもう、何かあるんだろうなと感覚的に実感していた。

 

「今回、君たちを呼んだのは他でもありません。その不知火君の事なんです」

 

 監督の切り出しに、部屋にいた全員がどよめき出した。

 ヤスはもう、江ノ高のサッカー部において群を抜いて巧くなった。それも、普通じゃ考えられないぐらいに。そりゃ、サッカーを始める前から結構運動もできたし、中学の頃からの友達だったから同じ部活に誘ったんだけど。

 

「ああ、皆さんが心配されるような事は一切ありません。例えば、不知火君が不祥事を起こしたとか、部活を辞めるとか。そういった類のお話ではありませんので」

 

 と言う監督の一言で、半分ぐらいの部員が安心したとばかりの表情を浮かべていた。

 確かにヤスって、初めて会った時から結構身長は高かったし、体格も良かったから怖いなぁって思ったけど。あれで目付きまで凄かったら話しかけられなかったかも。

 

「今回、不知火君を呼ばなかったのは、皆さんにお聞きしたいことがあったからです」

「……それは?」

「このままで良いんですかと、私は問いたい」

 

 監督の隣りに控えていたセブンが動き出した。

 部屋の照明を消し、既に立ち上がっていたPCを操作し始めた。その様子はスクリーンに映っており、何かの画像を映そうとしているのは理解できたけど……

 

 と、少しして画面に映ったのは江ノ高の今までの試合結果だった。

 また皆がざわつき始めた。いきなり監督に呼び出され、見せられたのが今までの江ノ高の記録なんだから。でも、少しだけ……ヤスの事に関してって言ってたし。つまりは、そういうことなんだろうか?

 

「この結果を見ていただいて分かる通り、我々は快進撃を続けてきました。ロングスローを武器にのし上がってきた辻堂。鉄壁の守備と日比野君のフリーキックを決定力としていた湘南。そして、遂には優勝候補の一角である葉蔭学院」

 

 ゴクリと、誰かが息を飲む音が聞こえてきた。

 

「大会を通しての失点は1点。たったの1点です! これがどういう事かわかりますか? どんなに守りの堅いチームであっても失点は免れないという中でのこの結果」

「えっと……江ノ高が強かった、って事でしょうか?」

 

 ベンチ入りしている先輩が一言、手を挙げながら監督に向かって零した。

 バン! と大きな音が監督の方から。つい、ビクッと体を動かしてしまったのは僕だけじゃないはず。

 

「まさかっ! まさかですよ! 確かに君たちのサッカーに対する情熱は大したものだ。それに、個人個人の努力も認めます。ですが、それだけで葉蔭学院を相手にここまでの勝利を収めることができましたか?」

「そ、それは……」

「良い、藤堂。監督、つまり、不知火の事を言っているんですか?」

 

 言い淀んだ藤堂先輩の言葉を継ぐように織田先輩が監督に言葉を掛けた。

 

「はい。私が言いたいのは、今回の試合は特にそうなんですが……不知火君が一番の活躍をしているのは皆さん、一緒にいてご存じの通りですが。このままで良いんですか?」

「え?」

「正直、不知火君についてはDFではなく、最初からFWとして活躍してほしい。そう考えてますし、今度の鎌学との試合においてはFWとして先発してもらおうと考えています」

 

 そう言う監督の横でセブンが新しいスライドを表示した。

 

「これが、次の試合のフォーメーションになります」

 

 江ノ高と鎌学のフォーメーションを模したスライドには、僕の名前は無かった。

 

「鎌学はトマホークを武器にして攻撃を仕掛けてくるでしょう。鷹匠君を先頭に、世良君、佐伯君。この3人が一直線に並んでいる特殊な攻撃陣です。ですが、世良君についても佐伯君についても、個人での決定力を持っています。そして鷹匠君は言わずもがなです」

 

 動画が再生される。

 セブンが試合を録画しにいった、直前の鎌学の様子が映っていた。

 高い位置からのヘディングや、後ろを向いた状態からのシュートを決める鷹匠さん。パスを出すと見せかけ、決めるところで決めてくる世良さん。そして、3列目からの飛び出しで一気にミドルシュートを決める祐介……

 

「見ての通り、鎌学の決定力の高さは高校随一です。これに対抗するには不知火君がDFとして活躍していただきたいところですが……」

 

 顔に手を当て、消沈したとばかりに下を向く監督。

 心なしか、セブンの表情も少し曇っているようだった。

 

「皆さんは……本当にこのままで良いんですか?」

「監督、はっきり言ってください」

 

 強い口調で監督に申し出た織田先輩。

 荒木さんやマコさん、キャプテンも頷いていた。

 

「――では、言わせていただきます。このままでは江ノ高は負けてしまいます」

「なっ!?」

 

 驚いて声を上げてしまったが、皆もほとんど一緒の反応をしていた。

 そんな中でも荒木さんとマコさんだけは笑みを浮かべながら監督を見ていた。

 

「岩城ちゃん……そりゃ流石にはっきり言い過ぎじゃねえか?」

「そうだぜ。俺たちだって鎌学相手だって勝って見せるぜ」

 

 睨み合う監督と先輩方。

 一触即発とまでは行かないものの、少しばかり重い雰囲気が漂っている。

 が、それも監督が空気が抜けたように背中を丸めた事で霧散した。

 

「……はぁっ。いえ、別に皆さんを無理矢理苛立たせて士気を上げるなんて事をしようと思ってこんな事を言ったわけじゃないんです」

「では、どういう事なんですか?」

「君たちは少し、不知火君に頼り切っていると言ってるんです」

 

 途端、数名が顔を伏せたり周りを見回し始めた。

 

「これまでの大会の結果を通して、不知火君はDFとしても大きな活躍をしてくれましたし、FWとしても9割ほどの得点を決めています。ですが、今回の葉蔭との試合を経験して体感した方もいるでしょう」

 

 これには誰も何も言い返すことが出来なかった。

 全てをヤスに頼ってきたわけじゃないけど、でも……確かに江ノ高の中心として活躍してるのはヤスなんだ。DFとしても、FWとしても。

 

 ――悔しいなぁ。

 

「不知火君がいれば確かに鎌学にも勝てるかもしれない……ですが、皆さんは本当にそれで良いんですか!? ここは、江ノ高サッカー部は、皆で楽しむサッカーをする所です! しぶとく最後までボールを追いかけて、ゴールを決める。どんなに泥臭くったって、皆さんが楽しまないとこの勝利に意味はないんです!」

 

 その叫びには、監督自身の悲しみのような感情が入り混じっているような気がした。

 

「へへっ……当ったり前じゃねぇか! あいつだけ良い思いさせようなんざ思ってねぇっす!」

「確かに俺たち、不知火の事頼りすぎてたかも知れないな」

「あいつがいたから、今までゴールを守れた……」

 

 皆が思い思いに言葉を口にしていく。

 僕は、僕は――

 

「ヤスが、サッカーを楽しめてれば、それで良いと思います!」

 

 それだけ、ヤスにはサッカーを楽しんでほしい。

 そんな思いで言ったんだけど、一気に静かになってしまったことに「あれ?」とドギマギしてしまった。

 

「そうだよな……俺たちだけじゃねぇ。あいつだって江ノ高サッカー部の一員なんだ!」

「ああ。あいつにはいつも助けられてばっかりだが、一緒に楽しまねぇとな!」

 

 一時は重かった雰囲気も、ここにきて明るくなり始めた。

 同じ部員、仲間として、感情を分け合えないって……寂しいし。

 

「それでは! 今日のミーティングはここまでとします。次は不知火君も一緒に、次の鎌学の試合について話しましょう」

「はい!」

 

 かくして、ヤスを抜いた話し合いは終わった。

 

 

 

「――っくしょいっ!! ……誰か噂でもしてんのか? ったく……」

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