さて、葉蔭学院を4対1で下した次の日、部活動は休みになり各々体を休めていた。かく言う俺も……なんて言いたいところだが、あれだけ走り回ったというのに筋肉痛すら無く、いつも通りに学校で授業を受けたり体育の授業で運動したりしていた。
さすが我が肉体……そうそう簡単に疲労状態に陥ることはないという事か。
で、その翌日には部室でミーティングをするとの事だったので、放課後真っ直ぐ部室へ。その最中、同じ部員の連中から意味深な視線を投げかけられたのには何か意味でもあるのだろうか……? 特にベンチ入りの選手の中でも数人は嫉妬だか憧憬だかよう分からんような眼で見てくるし。
なんだ……一体何があったんだ?
ちなみに李先輩はいつも通り『漢』って感じの佇まいでしたとさ。
「――では、スタメンとして不知火君にはFWとして動いてもらいます」
「……DFではないんですか?」
「はい。葉蔭でも途中からFWとして動いてもらいましたが、守備的な動きもしっかりこなしてくれてましたので、同じように動いてください」
「はぁ……了解です」
まさかの開始からのFW宣言。
スクリーンの図を見てもその通りの位置に俺の名前が書いてあった。
と言うか、一番最前線。3人いるFWのど真ん中に配置させられていた。まぁ、それもいつも通りの事なんですが、開始早々からCFWとして起用されるとは……
しかもDFとしての動きも期待してるっぽいから、かなりの運動量になるんだろうなぁ。
「あいや、出来れば最初はDFとして動きたいんですが」
「え? 何故ですか?」
「あぁー……えっと、鎌学のトップは鷹匠さん、じゃないですか。なんで、一度自分の目で鷹匠さんの攻めを見てみたいって言うか体感してみたいと言うか」
……あれ?
見れば覚えられるかもしれないから進言してるのに、これだと何か意味深な発言をしてるようにしか思えないのはなんでだろう? 単に、俺の心が薄ら汚れてるせいなのか。
「……なるほど。その点については考えてませんでした」
「うぇ? 今ので分かったんすか?」
「はは、まぁ……今までの不知火君の活躍ぶりを見てきましたので、それなりには理解しているつもりです」
「あ、そっすか……」
それだけ色んな人の模倣してきたからな。
辻堂の金のロングスローイン。湘南、日比野の大砲フリーキック。葉蔭は、飛鳥のDFとしての動きが少々学ぶべきところがあったというところだが。
荒木先輩のフェイントに駆のφトリック。能力値が跳ね上がった時の駆のドリブルとかとか。
DFとしてよりもむしろFWとしての動きの方がより多く吸収してると言うか……華がある動きってのはやっぱり点に絡んでくる動きだろうし、ドリブルで相手を抜いたり、確実な決定力で点数を重ねたりだとか。
そう考えると大っぴらにこれまでやってきたなぁとしか思えない。
てか、これ本当にサッカー高校デビューとか言ってて大丈夫なんだろうか?
「ですが、既に皆さんにFWとして起用すると伝えてしまっているので、FWとして活躍してください」
「あっはい」
「でも、鎌学は鷹匠君だけではありません。海外に行き技術を培ってきたMFの世良君。同じくMFとしてその才覚を伸ばしている佐伯君。DFにはスイーパーとして名を馳せている国松君。それ以外にも鎌学には優秀な選手がたくさんいます」
「つまりは、FWとして見える物もあると?」
「そうです! 特に鎌学のDFの動きなんかはFWとして動いた方がより体感できますからね」
「なるほど」
確かに。
何もDFとしてじゃなくても相手の動きを見ることはできる、と。
しかし……今まで通り最初はDFとして、途中からFWとして動いた方がより多くの攻め方を肌で感じられるんだがなぁ。
「岩城ちゃん、不知火がそう言ってるんだったらDFでも良いんじゃない?」
「え?」
「そうだぜ。無理にFWにしなくても大丈夫だろ。そもそもうちには強力な攻撃陣が揃ってるわけだし」
突然の申し出に吃驚してしまった。
声を掛けてくれたのは荒木先輩にマコ先輩の二人。
先輩方の中でも特に可愛がってもらってるっていうか、仲が良い二人と言うか。
「最初は不知火をDFにして、途中からFWになるとして。前後半で役割を変えるとか、不知火が鎌学の攻めを体感し終えたらFWになるとか。そういう感じで良いんじゃないっすか?」
「ふぅむ……それで行きましょうか」
あれぇ?
チームの命運を分けると言っていいフォーメーションがこんな簡単に決まって良い物なんだろうか? もっとこう、真剣みを帯びた白熱した展開に――いや、織田先輩以外にそこまで熱血染みた論争を起こしそうな人はいないか。
入部して間もない1年生が信頼されてると前向きに捉えよう。
「監督! それじゃあ納得がいきません!」
「君たちは……」
そう叫び出したのはスタメンから外されてしまった先輩方だった。
ほとんどの先輩方から俺は嫉妬の炎に塗れたような視線で睨み付けられていた。1年生は何も言わず黙っているかと思いきや、黙っているだけで彼らも俺の事を睨んでいた。
よく見てみるとその人員ってのが、元SCとして近藤先生指揮下に入っていた人たちだった。元FCのメンバーはそういう目で見てこないのが幸いだ。でもまぁ、俺を睨んでいる先輩方を逆に睨んでいる人もいる。特に火野先輩とか(怖い)
しかしながら、彼らの気持ちが分からんでもない。
高校からサッカーを始めたばかりの俺と違い、中学かそれ以前からずっとサッカーを続けてきてたんだろうし。ポッと出の1年生がそんな適当な感覚でポジションについて良いのか? って疑問を抱いてもしょうがないだろう。
「ですが、不知火君が今大会において江ノ高の立役者なのは理解しているはずです。江ノ高サッカー部は実力主義。例え1年生であろうが実力ある者を起用します」
「ですけど!」
「ふぅ……私の主義については監督として就いた時にお話ししたんですが」
手を額に当て、困ったと言わんばかりに眉を下げる監督。
俺は俺で何も喋っちゃいないが、どうすれば良いのか判断付かず単に黙ってるだけ。さすがにこんな部活内での揉め事に対応するだけのトーク力は無いんだ。それも俺が当人になってる話だし。
「岩城ちゃん。ならさ、こいつと模擬戦させれば良んじゃない?」
「模擬戦、ですか?」
「そうそう。この部活は実力主義! その実力ってのを今まで散々見てきたと思うけど、鎌学と試合する前に各々メンバーの実力を把握するのもアリなんじゃないっすか?」
てか、各々の実力が前々から分かってなかったら監督としてどうなんだろうか。
でも……こうやって揉め事になりかけてる高校生男子を大人しくするにはそれも有り、か。
ここで隠れて練習を積み重ねていた選手が突出してくれれば選手発掘にもなるわけだ。まぁ、さすがに一朝一夕に技術が向上するとは思えんが(自分の事を棚に上げる)
「わかりました。では、二組に分かれて模擬戦をすることにしましょう。4日後には鎌学との試合を控えていますので、激しいチェック等には十分に気を付けてください」
「はい!」
あらまぁ……嬉しそうに俺を見てくることで。
我先にと部室を出ていく部員たち。まだ模擬戦についての詳細を一切聞いてないんだがなぁ。血気盛んな男子高生たちだこと。
部室に残った面々を見渡すと、そこにいるのはベンチ入り含めたスタメン組全員と元FCの面々だけ。綺麗に元SCのメンバーが出ていったようだ。結構頑張ってたんだけどなぁ……そんなに俺の事気に入らなかったのか? それはそれで悲しい気持ちになるんだが。
「彼らの多くは元SCの子たちが多いようですね」
「す、すみません」
「いえ、織田君が謝ることではありませんよ。こういう部内でのぶつかり合いと言うのも青春の一つ。最後に綺麗に丸くまとまれば良いんです」
「へへ、岩城ちゃんおっさん染みてきたんじゃない?」
「な! 私はまだ若いです!」
やんややんやと言いあう監督と選手たち。
俺の気を紛らわそうとしてくれているのか、素なのか。どっちもあるんだろうが、ここは素直に仲間たちに感謝の言葉を贈ることにしよう。
そして行われた模擬戦は、結局SCとFCの二つに分かれて行われることになったのだった。織田先輩やキャプテン、高瀬もSCメンバーだったこともあり、人数的に少ないFCではあるものの、こっちのメンバーは既に昔のFCの戦力ではない。
荒木先輩にマコ先輩、薫に駆。現江ノ高サッカー部のメンバーとして活躍しているメンバーの協力は非常に頼もしかった。
――それにしても現スタメンとして活躍している方々以外のメンバーが酷かった。攻めも中途半端、守りも中途半端。真ん中の中継点になるのが精一杯って面子が多々見受けられた。
それを考えると一層今回問題を起こした先輩方に苛立ちが。
前半をDFとして動いてはシュートのことごとくを止め、後半にはFWとして全力を尽くし、先輩方の自信を粉々にしてやらんばかりの快進撃を続けた。
途中、空中戦でまともにぶつかった高瀬とか、体を張ってシュートを止めようとしたキャプテンには申し訳ない気持ちで一杯だったが。
結果、6対1の大勝。
後半開始直後に織田先輩、キャプテンのコンビに1点を許したものの、荒木先輩と駆が1点ずつ。そして俺がハットトリックを決め、試合終了直前にもう1点ダメ押しでシュートを決めたのだった。