一応、確認したつもりですが、誤字等ありましたら申し訳ないです。
――まさに『圧巻』の一言に尽きた。
『4対1! 鎌倉学園、ここまでで江ノ高にかなり突き放されてしまったが、この後どのように対応するのかぁっ!!』
全国の高校の中でも特に実力の高い部類に入る鎌学の部員たちすら寄せ付けることのない個人技に、観客の全員は息を呑んだ。一瞬の空白。のち爆発。
空気が震える。
止まらない歓声に中てられることなく、注目の的となっている選手を見続ける選手がいた。
「あいつがレオの言ってた日本人か?」
「ああ……本当は違うんだが、ここまで見せつけられて違うというわけにはいかないな」
「おいおい、あんな奴が他にもいるわけないだろ?」
そう言いつつ苦笑いを浮かべるリカルド・ベルナルディ――リッキーの様子に、改めて不知火の様子を見る。直前に決めたシュートに、仲間から祝福されている姿がそこにはあった。
逢沢傑の弟――駆の雄姿を確認するためにここにやってきたわけだが、まさかここまでの
そもそもが駆の中に眠っているであろう傑の魂を見るためにここに来たというのに、彼は……不知火はそれ以上の可能性すら見せつけてくれた。正直、何故俺がピッチに立って彼とサッカーをしていないのだろうかという嫉妬さえ感じていた。
駆にしか見出すことができないと思っていたものは、確かに不知火が傑の動きをしていたという事実によって打ち壊されていた。そして、新たに駆に感じていた以上の興味が湧いてきていた。
「だが、あんな奴と一緒にサッカーができるってのは楽しみだろ?」
「ふん! あんなクレイジーな奴、味方だったら良いだろうがな」
「はは、素直じゃないなぁ」
が、確かにと思わざるを得ない。
味方ならこれ以上ないくらい頼もしい男だが、実際に敵になると面倒な敵になる。
不知火のポジションはDFとして登録されてるのかもしれないが、FWとしての動きも群を抜いているし、恐らくMFとしても動けるだろうという確信があった。
つまりはどこでも動けるんだろうという結果に、そんな考えを抱いてしまった自分と、そんな考えに納得してしまっている自分に苦笑した。
――敵になったらこれ以上面倒な相手は……高校サッカーの中でも多くない。
「……レオ、本当に日本に来るつもりなのか?」
「ああ。あんな奴がいるんだ。1年日本でサッカーするのも悪くないだろう?」
「だが、それならドイツにだっているだろ。あいつも大概おかしい奴だが」
「あいつは何もしなくても世界に出てくるだろう。その前に、日本のサッカーを肌で感じておきたいんだ」
「はぁ……レオがここまで言うんだ。俺が何を言ってもかわりゃしないか」
「はは、よくわかってるじゃないか」
深く溜息を吐いたリッキーを横目に笑みがこぼれる。
視線をピッチに戻す。
たった一人の選手にいいようにシュートを決められてしまった鎌学だったが、未だに諦めてはいないようだった。全員、悔しそうに表情を歪めているように見えるが……
特に鷹匠君は不知火にかなり固執しているように見える。
同じFWとして活躍している彼の事をあまりよく思ってないのかな?
鷹匠君もかなりの選手だとは思うが……とてもとても、不知火のいる領域とは比べようもない。と、言うのは自分にも当てはまることじゃないかと思ってしまう。
あれでサッカーを今年から始めたばかりなんだから笑ってしまう。
彼なら、もしかすれば
これからも成長するだろう彼の様子を見ているだけで胸が熱くなる。早く一緒にサッカーをしてみたい。
リスタート寸前、鷹匠君がこっちを見上げていたような気がした。
一瞬目が合ったような気がしたけど、それよりも不知火と駆の方が気になっていた。不知火の活躍で陰になっているけど、駆も今までの試合でしっかりとシュートを決めている。
確かに不知火の働きによるものや荒木君の動きによるものも大きいけど、それでもしっかりとシュートを決められる選手は多くない。あの裏に抜ける様な動きと、相手の意表を突くフェイントができる選手だ。
そう考えると江ノ高はかなり厄介な選手がいると言って間違いない。
「鎌学の鷹匠って奴、また一人でドリブルしてるな」
「ああ、彼はフィジカルが強いからね。一人でボールを持って上がるのも苦じゃないだろう」
江ノ高の選手が鷹匠君にプレスを仕掛け行くが、物ともせずにボールをもって上がっていく。さっきと同じような展開。これを見て不知火が鷹匠君に詰めようとしてる。
このままだと完全にさっきの攻撃の二の舞になるが……さすがにそんな愚を犯すほど鷹匠君は馬鹿じゃないだろう。
「てめぇに、好きにさせてたまるかぁっ!!」
フィジカルで押し返そうとするも、不知火を押し返すことができなかった鷹匠君がボールをコントロールして味方へパス。パスを受けたのは世良。海外で試合を経験しているらしいが……最初にやった織田へのファールで不知火が強気になったような気もする。
江ノ高の絆と言えばいいのか。精神的なつながりというものが非常に強いように見受けられる。逆鱗に触れてしまったような形になってしまった世良には、少し相手の情報を見るようにと指示せざるを得ないが……確かに彼のテクニックは高い。
鎌学の監督はそれを理解して彼をチームに入れたんだろうけど。こと今回に関しては欠点になってしまった感じだね。
「くっそがぁっ!!」
パスを受けた世良は、エリア外からのシュート。
回転が掛かったボールは完璧に枠内を捉えていたが、江ノ高の守護神である李がそれを阻む。間一髪のように見えて、しっかりとゴールを守る彼の働きはかなりのものだね。
それに加えてFWでありながら守備にも貢献している不知火の動きは値千金。今回も、世良がシュートを打つ寸前にプレスをかけた動きも繊細な動きだった。
普段の世良ならプレスされたらわざと倒れるだろうが……これは江ノ高の熱に当てられてしまったか? それとも不知火に対抗心でも抱いているんだろうか。
プレスされた状態ではシュート方向は制限されてしまうし、何より威力も落ちてしまう。世良はそんな状態で良いシュートを打てていたが、しかしその程度のシュートは簡単に止められてしまった。
そのまま李の手から直接不知火へとボールは渡ってしまった。
今の彼の調子を考えると、このままだともう1点追加されることになるだろうが……果たして今の彼を鎌学が止められるかどうか。
「行かせない!」
「ふっ!」
「くっ……」
横からプレスを掛けようとした鎌学MFだが、さっきの鷹匠君のように一人でドリブルを仕掛けていく。しかし、その動きは鷹匠君のように荒々しさはなく、繊細なボールタッチでどんどんと進んでいく。
残り10分。
マークが不知火に集中し始めたところでパスが出た。
白線が真っ直ぐに伸びていき、逆サイドを走り上がっていた兵藤へと渡った。そこから荒木へと流れるようにパスが回っていく。
鎌学DF陣はなんとか攻撃を食い止めようと追いかけているが、プレスされる前にパスを出すことでしっかりとボールをキープしていた。
「これは、江ノ高が勝ってお終いだね」
「ああ……さすがにここまで離されたらどうしようもないだろ」
さすがにここまでの大差になるとは思っても無かったけどね。
もっと接戦になると思ってたけど、不知火の実力があまりにも違いすぎる。
『荒木選手が自分でボールをもって上がっていくぅ! 前には不知火選手と逢沢選手が走り込んでいるぞぉ!? さぁ、どちらにパスを出すのか、それとも自分でシュートを決めてしまうのかっ!!』
エリア外中央でボールを持った荒木は、鎌学DFに厳しくチェックされながらもシュート体勢を取った。
少し体勢を崩しながらのシュートは、狙いすまされたようにゴールの右上隅に曲線を描いて吸い込まれ、DFが必死で伸ばした足を嘲笑う様にゴールが決まったのだった。