あれからすぐに3日が経った。
桜井という監督の連絡を受けた日、夕食が豪勢なものになったり、次の日学校に行ったら行ったで岩城監督に喜ばれるなど、過剰に喜ばれることになったのは良い思い出だ。
その時俺以外にも駆と荒木先輩が招集されていることを知ったのだが、周りにいたクラスメートに知られてからが大忙し。
「ヤスも代表に呼ばれたの!?」
という純粋な駆の一言で一気に教室が盛り上がり、仕舞いには別のクラスの連中まで駆けつけてくる始末。最終的には岩城監督が収拾を付けてくれたことで何とかなった。が、元凶になった駆には軽く拳骨を落としてやったが。
そして合宿開始となる当日。
3人で合宿場所まで来た俺たち。
俺は事前に聞いていた通りDFで招集されているんだろうが、駆はFWで荒木先輩はMFか? と、聞いてみたところ何も聞かされてないらしい。駆は両親からまた聞きしたと言うし、荒木先輩は桜井監督とは知り合いらしいし、恐らくMFとして使われることを確信しているようだった。
「ふぅぅ……ドキドキするな。今日からこの合宿場所で1週間、他の代表候補と過ごすんだもんね」
「おいおい。そんなに緊張してたって変わりゃしないんだから堂々としてりゃ良いのに」
「ヤスのいう通りだぜ。しっかし、前にも呼ばれてる俺にヤスは分かるが、お前まで呼ばれるなんてなぁ」
「あ、あははー……そうですよねぇ」
監督室前まで来てドギマギし始める駆の様子には苦笑せざるを得なかった。
が、確かに『日本代表』という肩書きにはしり込みしてしまってもおかしくはないか。
「まぁ、さすがにヤスは堂々とし過ぎだけどね」
「はっ! ヤスだから、としか言いようがないなぁ! ま、確かにお前さんはお前さんで場慣れしてる感が出てるってのは気に食わん!」
「ははっ、そんなこと言われたって俺は普段通りにするだけですからね」
さすがに鷹匠さんみたいな人がいるのは勘弁だが。
「かぁ~っ!! そんなん言えるお前が羨ましいわ!」
はははと乾いた笑みを浮かべる駆。
ぐぎぎと歯を噛み締めて睨んでくる荒木先輩。
その二人の対照的な姿に苦笑しかできないが……
「あだっ!?」
だべっていた時に急にドアが開き、すぐ目の前に立っていた駆が運悪くぶつかってしまった。今のはドアの前につったっていた駆も悪かったと思うが、それでも顔からぶつかってしまった駆にはご愁傷さまの一言を送りたい。
……ああ、鼻から血が出てら。
ソッとポケットからティッシュを取り出して手渡した。
「……! 逢沢駆か」
「は、はひっ」
「それに、荒木に不知火康寛か。よし、すぐに更衣室で着替えてグラウンドに行くんだ」
「え、すぐですか?」
「遠くの奴は昨日から来てとっくにアップしてる。お前らが最後だ。さっさと出てこい」
「はい!」
元気よく返事する駆。
その少し後ろで不敵な笑みを浮かべる荒木先輩は、グラウンドに集まってる強豪を思い浮かべてるんだろう。結構、変態的な笑みに見える。へへって感じがさらにそういう雰囲気を出している。
もちろん口には出さないが。
――そんなこんなでグラウンドに。
そこには数十人のサッカー選手らしき人物が集まっていた。
「うわぁ……何人いるんですかね」
「おいおい、たしかAFC U-16選手権の登録人数は23人だったはずだぜ」
そういう荒木先輩の疑問ももっともだろう。
監督の指示に従ってグラウンドに行ってみると、そこにはかなりの大人数の選手が集まっていたのだから。これはもう数十人ではなく、百人ぐらいの人数がいるんじゃないだろうか?
見た感じ知ってる奴が数人。
葉蔭の鬼丸に鎌学の佐伯に世良。それと駆の幼馴染の日比野まで。
それ以外にも知ってる奴がいるかもしれないが、見た感じではそれぐらいだろうか。駆が佐伯や日比野と話している最中、桜井監督の隣にいた人が大きな声を出したことで視線が一気に集中した。
「――桜井だ。お前らみんなやたら数が多いんで面食らってると思うが、心配するな。合宿が始まる今日からは宿泊所は30人分しか用意してねえ」
この言葉に周囲のサッカー選手たちがざわつきだした。
さらに監督は言葉を続けていく。このグラウンドに110人もいたことに驚いたが、この人数を10チームにわけて15分のゲームを行うというのだからまた驚いた。
まぁ、それでこの人数を振り分けていくのには何も思わないが、たった15分の間で一人一人の選手の能力を見極めることはできるのだろうか?
「甘えてんじゃねぇぞガキども! イメージしろ!」
という切り出しから語り出し始めた桜井監督のイメージは、0対0の状況で残り15分。AFC(アジアサッカー連盟)U-16の大会において準決勝という状況での交代。
そんなシチュエーション。
「見せ場を作れ、結果を出せ。チャンスを潰せ、点をやるな!」
――その言葉で締めくくられ、一気にチーム分けの指示が出された。
何と運が良い事に、11人のチームの中には江ノ高3人がまとめられていた。普段通りの実力を少しでも出せるようにと言う監督の意図なんだろうか。それとも単純にそういう組み合わせになったのか。
ポジションはいつも通り俺がDFで、荒木先輩がMF。そして駆がFWといういつも通りの布陣。
相手に見覚えのある選手はいないし、実力も選抜されて集められた選手なだけあって平均的に高い能力値を出しているが、しかしその程度。荒木先輩どころか、まだまだ駆にもおいついていないという状態。
他のチームで世良とか佐伯とか。それ以外にも凄い長身のGKとかがかなりの能力を誇っていただけに苦戦を強いられることになったんだろうが。
まぁ、相手に日比野がいる時点で少しは戦えるんだろうけども。
「いけぇ!」
「くっ!?」
相手チームからのキックオフで始まったミニ試合。
しかし、相手の選手の一人がドリブルで上がろうとしていたところをビタリと止める荒木先輩。今の先輩の能力値、体のキレはかなりのものだからなぁ。
相手選手はテクニックに自信はあったんだろうが、今の荒木先輩をドリブルで突破するなんて無謀な話だった。
ドリブルを続け、前線に上がっていく荒木先輩を止めようとした相手選手の裏を突く形で前に突出した駆が荒木先輩のパスを受け、そのままシュート。何とか追いついた日比野がクリアをするが、ギリギリでといったところ。
とまぁ、こっちの二人がいつも通りの実力を発揮してくれているおかげでDFは何もしてなくても大丈夫だろう。
相手のパスコースを潰してはシュートを打たせないように立ち回っていると、前線でボールを受けた駆が後ろから潰されてしまい、ファールに。
残り23mくらいの所だろうか。少し左前でファールを取られてしまったことに悔しがっている相手MFだったが、俺的には何も問題ないだろう。
「不知火!」
なんて考えていたら荒木先輩に呼び出された。
「はい?」
「フリーキック、お前が蹴るんだ」
「は?」
いきなりのご指名に、ふと桜井監督の方をチラ見してしまった。
が、特に何か指示だししている感じはなかった。つまりは荒木先輩の独断なんだろう。
というか、誰がキッカーになるかなんて監督言ってたか?
そういう話も何も聞いてなかったが、それは選手で決めろとでも言うのだろうか? さすがにそれは無いと思うが。
時間は残り4分。
別に点数を何点取る取らないの問題ではないが、得点差も評価に結びつくだろう。と考えるならば、DFであろうともここはボールタッチすることができるという喜びだと思うべきか?
0対0の状況で、岩城監督が俺にフリーキックを任せてくれたと思って蹴っておこう。桜井監督にインパクトを持たせるために……
「ふっ!」
「へっ! てめぇのシュートなんて止めてや、なぁっ!?」
ふわっと蹴り上げたボールはそのまま枠に向かって飛んで行き、それを止めようとした相手GKだったが、しかしそのボールは無回転。GK手前で軌道が一気に右に逸れていき、そのままゴール。
呆気に取られた表情を浮かべる相手だが、無常にもボールはネットを揺らしていた。
「よし」
「しゃぁっ! さすがだぜ!」
長身の日比野が飛び上がったときに掠りそうになったのはさすがに焦ったが。
その後、何とか日比野ともう一人の相手MFが粘った守備をしていたが、俺から駆への縦パスで1点を奪取。それ以外は荒木先輩がフィールドの中央でフェイントを織り交ぜたドリブルを魅せつけていた。
結果、向こうのチームから点を奪われることは無かった。
15分で一度だけ相手にファールを与えてしまい、フリーキックは大砲でお馴染みの日比野が蹴ることになったのだが、それを俺がしっかりを止めたのだった。
前回試合をした際よりも若干威力が上がっていただけに足が少し痛くなったが、何とかクリアすることができた。その際、何故か味方から変な目で見られたのは気になったが。
ピ、ピ、ピーーッ!
かくして、U-16日本代表選手の選抜セレクションは幕を閉じたのだった。
選抜されたのは俺を含めた29名。予定として語られた30人よりも一人少ないが、110人という全国のサッカー選手からの選抜だ。
そもそも選りすぐられた選手たちだったが、さらに粒ぞろいの選手たちになったのだった。
全国から来て、その場限りとは言え短い15分でしっかりとした結果を残したこのメンバー。GKの彼なんてかなりの体の使い方をしそうだし、これは結構面白いことになるんじゃないかな。