俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第50話

「か、監督……」

「うむ」

 

 110人という16歳以下の選手を全国から集めてのチーム戦。

 アジアでの大会だが世界。世界での戦いであることに変わりはない。

 これまで以上に多くの人々が観客として訪れ、得点を決めた国の選手をもてはやす。しかし、点数を決められてしまい、負けてしまったら……国全体から代表選手全員の事を悪く言われるだろう。

 

「あいつは確定だな」

「はい。それと荒木も」

「だな」

 

 そういった環境下でしっかりと自分の働きをできる選手を集めたかった。

 フィールド以外の環境下においての精神力。そして、たった15分という時間設定において自分の実力を明確に発揮しようとするやる気、負けん気を出してくれる人材を欲していたのだが。

 

「不知火康寛、か」

 

 つい先日まで開催されていた神奈川県大会において優勝した江ノ島高校に所属する選手。荒木とも同じ部員なのだが……江ノ高が優勝した選手の立役者が、彼の存在にある。

 もちろん守備の要としても積極的に動き、失点数を最小限に抑えたこともさるものながら、攻撃の要としても要所要所でしっかりと点に絡み、そして自らもシュートを決めていく。

 本来のポジションはDF。しかし、それ以外にもFWとしてもこれ以上ないぐらいに活躍をしていた。それも、今大会においての得点王である。

 

「それ以外にもしっかりと攻撃に参加している逢沢駆。奴も良い動きをしている。DFの意識がボールにいった瞬間に裏をついてやがる」

「そう、ですね……これはちょっと、相手のチームが可哀想ですね」

「ああ。だが、これでも全国から来てるんだ。どうにかして対処できないようでは今後やっていけないだろう。そう考えるとあの日比野ってDFもしっかり対応しているな」

 

 江ノ高と同じく神奈川大会に出場した湘南大サッカー部所属。

 その時は、江ノ高に負けてしまったと聞いている。その時の下馬評では江ノ高がやや不利だという話を耳にしていたが……やはり下馬評はあてにはならないものか。

 

「しかし……15分で3得点か」

「凄い奴がいたもんですね……荒木もテクニックを見せてくれたとはいえ、逢沢もしっかりシュートを決めてますし」

「ああ。それに、一番は不知火のフリーキックだな。ありゃ荒木が蹴らせたんだろうが、まさか無回転まで蹴れるとはな」

 

 あいつめ……自分でDFと言って、確かに想定以上に冴えわたった守備を見せてくれたが、あそこまで完璧なフリーキックをこの場で蹴れるとは。それに裏を突いた動きを見せた逢沢に合わせるようにして出した縦パスも精度が高かった。

 逆にこの3人の動きについていける様な、目立った選手と言えば……相手守備についていた日比野ぐらいか。あいつのフリーキックも中々の威力を持ってたし、それを簡単に止めて見せた不知火のディフェンス力もかなりのものだ。

 が、それ以外に突出選手は見られなかった。

 まぁ、この4人の選手を見ることができて良かったと思うべきか。

 

「他には――

 

 

 

 ――選抜された29人以外の選手たちは全員、翌日には帰っていくことになった。

 北は北海道。南は九州から集められた人材だけに、帰らされた人たちは悔しいだろうなぁ……1泊2日で実家に帰らされる気持ちと言ったら……

 

 選抜された29人。初日は宿の各部屋に荷物を移動して親睦を深めるという事をしたのだが、その部屋にいたのは世良と鬼丸だった。

 鬼丸はあんまり関わりが無かっただけに良いとして、世良かぁ。

 ……前の試合でかなりぶつかり合ったからあまり良い感情は持ってないだろうが、ここはさすがに世界を経験してきた世良だった。

 

「――僕は君が好きじゃない。だけど、君の実力は本物だ。……一緒にプレイできるのは光栄だよ。よろしく」

「お、おう……」

「あ、俺もよろしくな! お前さんにゃ期待してるぜ!」

「ぉおぅ……」

 

 鬼丸は見た目通りの好青年だとして、世良がなんかツンデレみたいなことになってるんだけど。

 これは驚きだぁ……男のツンデレなんて誰が萌えるんだろうか。私生活じゃストイックなんだろうか。

 しかし、発言のしかたが英語っぽいなぁ。最初に結論を持ってきて後ろに内容を付け加える。まぁ、実力は認めてるけど君の事は好きじゃないと言われるよりは耳当たりの良い感じするけどな。

 

「短い期間だけど、これから一緒にやってくんだ。よろしくな」

「おう!」

「ふん……」

 

 これはこれで不安なチームメートなんだが。

 それと、俺が知らない間に駆と日比野の二人がチームメートと仲良くなってたみたいだが、話を聞いてみると面倒な感じ。女子風呂と騙されて誘われたところには監督他数人が風呂に入っていた場面だったらしく、少し小言を言われてしまったらしい。

 傍から聞いたら完全に犯罪なんですが。

 駆はまだ見た目が可愛いからどうなのか分からないが、日比野の見た目で女子風呂の覗きはいかんでしょ。この見た目でこのたっぱ。完全に犯罪です。ありがとうございました、入り口はあちらですって言ったらさすがに怒られたけど場が盛り上がったのでよしとしよう。

 

 そんな馬鹿な話をしていたのが2日前で、今日も今日とて練習をしていた。

 確かに合宿と聞いていたが、かなりハードな練習が続いている。2日ともに実践形式での練習なだけあって濃密な時間を過ごすことができたのだが、全員を使いたいという理由で回しながら練習を続けていた俺たち。

 この二日間を通して思ったのが、俺の練習時間が周りの選手に比べて少ないという事。

 周りの選手に比べて練習時間が短いと、あまり俺って期待されてないんじゃっていう不安にかられてしまう。

 

 まぁ、それでも得られるものが多かったので良しとする。

 短い練習期間の中で気になった選手は二人。

 一人目が同じDFの島選手。日本中から集まった選手の中でも一番に注目している選手と言っても過言じゃないだろう。

 彼は千葉県、八千草高校2年生。名前が(しま)亮介(りょうすけ)

 最初一目見たときは変なDFをしているなと思っていたのだが、よくよく聞いてみると合気道をかじっているとか何とか。これは本人に聞いた話で、へぇそうなんだぁ程度の認識だったのだが、荒木先輩曰く、達人級の実力を持っているとのこと。

 で、変な事だと思っていたのが合気道だったと知ったのもその時で、まさかサッカーに武道を取り入れるなんてと新鮮な気持ちを抱いたのだった。

 

『嗜んでる』と言ってた島ェ……

 

 そこからはもう、島選手の事を暇さえあれば見続けていたのだ。

 なにせ、今回の俺はDF一本で練習に参加していたから、FWやMFのように実際に相対する機会が無かった。だから何とかして少しでも技術を吸収できればと思って彼のことを見続けたのだが、見過ぎたせいか少し嫌な表情を浮かべていたのには申し訳ない。

 

 それからもう一人FWで気になる人物が。

 FWの風巻選手だ。東京蹴球学園高校2年生のFW、風巻(かざまき)(りょう)。この選手、ロン毛イケメンさんなのだが、今まで見てきた選手の中でもトップに入るレベルでストイックにピッチを駆けまわっていた。

 それも、ただ走り回るだけでなく、攻撃はもちろんしっかりと守備にも貢献していた。

 うちの火野先輩と比べると体格は少し劣るものの、動き出しからのスピード、攻撃と防御の切り替え、決定力が巧かった。こんな選手がいる高校と全国で当たることを考えると厄介としか言いようがない。

 あのクラスの選手がゴロゴロいると考えると守備が難しくなるが、まぁ、今は代表に集中しよう。

 

「ヤッス! さすがだな! 俺がこんなに暇なのは久しぶりだぜ!」

「おいおい、そりゃ自分の高校じゃ攻められてるって聞こえるぜ?」

「はっはぁ! ま、俺が頑張ってるからな」

 

 そういって自慢げに腰に手を当てる遠野。

 学年は俺よりも一つ上だが、何故か親しい感じになってしまう彼。恐らく、このU-16で招集されたGKで一番巧い選手だろう。気迫こそ李先輩が勝っているものの、判断力と瞬発力。そして何より身長がでかい。

 俺も李先輩も180cmオーバーだが、遠野は195cmと言う長身。

 腕も長いし、瞬発力もある。貴様に重力は無いのかと聞きたくなる巨人だ。正直、こいつが味方GKで良かったとさえ思ってる。それだけのもの(・・)を奴は持っていた。

 日本代表ェ……なんて思ってた私を許してください。

 

「おーし起きろーガキどもー。今日はちょっと早いがこれであがってしっかり身体を休めろ。明日は午前中はアップだけにして午後は対外練習試合だ」

 

 と、監督の一言によって練習が切り上げられた。

 試合相手はアメリカらしい。正直、そんなことを言われても俺にはどれぐらいの実力なのか全く分からないのだが、周りの選手の反応を見る限り楽な相手らしい。が、監督曰くかなり厄介な相手らしい。

 今の日本はアメリカよりも格下らしい。

 まぁ、そう言われても試合をするだけだし、何とかなるでしょう。

 

 

 

 ――なんて、のほほんと考えてるのは俺だけなんだろうなぁと、監督から手渡されたユニフォームを見下ろしながら思うのであった。

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