俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第51話

 ユニフォームを渡された俺だったが、さすがに俺はスタメンではなく、控えでの選出だった。

 別にこの采配に不満なんて抱いてることもなく、練習試合なんだからいつも通りの動きでもしていればいいだろうと言う単純な考えのもと、のほほんとしていたのだが。

 自分の割り振られている部屋に戻った瞬間、世良に舌打ちをされてしまった。

 

「……なんで君がスタメンじゃないんだい?」

「いや、そんな事俺に言われても。気になるんだったら監督に聞けば良いじゃねぇか」

 

 眉間にしわを寄せて問いただしてくる世良。

 それを見て『こえぇ』とわざとらしく世良を見ている鬼丸に、世良の一睨みが炸裂した。

 

「それで、君は悔しくないのかい?」

「ただの練習試合だろ? それに、交代枠は9人まであるんだ。出れないなんて事はないんじゃないか」

「……へぇ。そういうことか」

 

 一体何がそういうことなのか教えて欲しい所だが、未だに厳しい表情をして考え事をしてそうな世良に直接聞くことはできなかった。

 とりあえず俺に対しての追求が無くなっただけ良しとしよう。

 

 その晩、普通にぐっすり睡眠をとって次の日。

 練習試合に向けてのアップを実施している最中に、今日の試合相手であるアメリカの選手たちがやってきたのだった。

 遠目でも分かるぐらいにアメリカンな人たち。というのが率直な感想だが、その実、彼らのフィジカルはかなりの物だった。

 日本人よりも圧倒的に広い肩幅に胸板。それは本当にサッカーをするための肉体なのだろうかと言わんばかりの筋肉が見受けられる。いやまぁ、それでプレスに対応してるんですと言われればそれまでなんだが。

 

 ──テクニックは今のところ分からないが、肉体的には問題なし。

 あとは試合を行っている最中の彼らの様子を見て、いけるかどうか判断するだけなのだが。そこは巧いこと島さんが相手を抑え、なおかつどれぐらいの動きができるか引き出してくるだろう。

 そう信じたい。

 ……まぁ、遠野もいるし、相手からゴールを決められること自体はないだろうと思っているが。

 

 そしていざ始まった試合。

 スタメンとして出ている中で、攻撃陣では世良が、守備陣では島さんと遠野の3人が予想通りの働きをしていた。まだ動きに固さが残っている中での動きゆえにやりにくそうではあるものの、そんな中でもしっかりと自分の動きができていた。

 

 アメリカンはアメリカンなんじゃぁ……

 

 今の感想は特に意味はない。

 アメリカの選手たちはガンガンとボールをもって攻め上がり、ゴールを脅かしていた。スタメンとして出ているFWは、攻撃的MFの世良を中心としているものの攻めあぐね、その間にボールを奪われて攻められるという形が出来上がってしまっていた。

 前半はアメリカ側に攻められ、ボールポゼッションも相手側有利の状態で折り返すことになったのだった。

 

「……お前ら、これで分かったか。アメリカは決して手を抜いて勝てる様な相手じゃねぇ。後半は前半みたいな事にならねぇように気張れ! いいな!」

「はい!!」

 

 と、いう事でそのまま後半。

 交代枠をガッツリ使っていくと言っていた監督の宣言通り、まずは5人の交代が決まった。後半開始と同時に俺は出場が決定。軽くアップをしておくことに。

 

「……やっと君が出るのか」

「あ? 世良か。監督が言ってた通りだろ? 別にそこまで心配する必要なんてなかったんだよ」

「ふん。……僕の足だけは引っ張らないでくれよ」

「お、おう」

 

 なんなんだ。

 ここ数日世良と一緒に過ごしているが、完全にツンデレのそれだった。

 いつからこんな性格に……ああ、この合宿で一緒になったときからこんな感じだったか。敵に回ると面倒だったが、これだと味方内でも面倒なんだが。勘弁してくれませんかね。

 

「よ! ヤス、お前にゃ期待してるぜ!」

「おう遠野。1対1で問題なさそうだったら抜かすから」

「おぉい!? 何言ってんだ! お前が止めろよ!」

「はいはい」

 

 他愛ない会話である。

 まだ駆も日比野も控えにいる状態だが、島さんもいるんだ。DFは問題ないだろう。後半からは荒木先輩も攻めに加わったんだから、攻撃陣も厚くなっている。欲を言えば、もう少しFWを補強してほしいところだが、俺がそれを言ったら面倒臭そうだから言わないが。

 後半開始。

 俺はいつも通りのDFに徹し、攻めてきたアメリカ選手のドリブルを止め、パスを遮り前線にパスが出せるときはドンドンと出していった。

 そもそもDFの俺にマークがつくこと自体あまりなく、自由に動いていたのだが、時間がたつごとに攻めに人数が掛かるようになってきた。

 

 が、それまでに日本も選手を変えて対応を変えていく。

 まずFWが変えられ、駆が出てきた。アメリカ選手は体格で劣っている駆の事を見て油断しているようで、俺が一気に出した縦パスに反応した荒木先輩がダイレクトプレーで駆にパス。

 それは完全にアメリカDFの裏を突く攻めになり、まず1点。

 そこで駆の存在に気を取られてしまったアメリカ守備陣に綻びが出てくるようになった。向こうの監督さんがサイドで身振り手振り交えて怒鳴り声を上げていたが、うちの桜井監督は一切の動きを見せない。

 選手に指示を出そうともしない態度に戸惑いを見せている選手が幾人か。

 それを全く気にさえしてないのが世良や荒木先輩。駆なんかは普通に荒木先輩に話を聞きに行っていたから、それはそれで凄いと思った。こいつぁ心臓に毛でも生えているのかと。

 ……ただまぁ、MFが試合の中心になって動いても問題ないだろうし、良いんじゃないかな(適当)

 

 ――駆が1点目を奪った後は日本の攻めが強まった。

 世良が個人技を魅せれば、それに対抗するように荒木先輩がドリブル突破でアメリカ側を脅かし。荒木先輩ばかりに気を取られていると、気づいたら裏どりをしようとする駆の存在に苛立ちを見せていた。

 俺は普通にDFをしているだけだったので何もないのだが。

 と、何ら変わらない動きをしているところに日比野が投入されることに。

 誰が変わるんだろうかと番号を見るとFWの一人が交代に。なんかこの流れ、江ノ高でも見たことがある感じがするんだが……?

 

「不知火。監督の指示で、お前はFWだって」

「ほぉ……はぁ……またか」

「は?」

「いや、なんでもない」

 

 日比野の言葉に諦め、ゆっくりと歩き出す。

 同じDFをしていた島さんからは不審な目で見られるし、今までFWをしていたのに交代で出ていった選手を見やると俺の事を睨んでいた。

 いや、別に俺からFWをしたいなんて監督に言ったことなんてないし。そもそも交代させられたのは君の実力不足か監督が十分だと判断するような何かをしたからなんじゃないかと。

 懇々と言い聞かせてやりたい。

 なんて呪詛に塗れた想いを抱いていたが、荒木先輩の不敵な笑みと駆のワクワクとしたような視線にやられてしまった。

 こんな感情を抱いてしまった俺が違うんだと。

 

「はぁ……」

 

 溜息を一つ。

 現状、1対0で日本が優勢。

 フリーキックから攻撃が再開されるという場面。

 

「ま、ここはヤスに蹴ってもらうとするかな」

「……ふん。せいぜい良いシュートをするんだな」

「はぁ……俺っすか」

 

 いきなりの大役が俺に回ってきてしまった。

 何も考えてなかった状態でFWのポジションまで行こうとしていたところで世良と荒木先輩に止められた俺氏。

 どうせだったらこっから先輩が蹴って俺にパスを出して、俺がヘッドでシュートを決めるってのが良い流れだと思うんですが、それを良しとしないのがこの二人だった。出来るんだったらやってみろっていうスタイルだろうか?

 

「ま、やってみますよ」

 

 チラと監督の様子を窺う。

 多少怪訝に思ってるぐらいで、俺がフリーキックを蹴る事自体には反対じゃないんだろうか。普通にMFの誰かが蹴るんだという固定観念を持っていてほしかったところだが、しょうがない。

 

 相手ゴールまで約30m。

 射程範囲に入っているのが面倒でたまらなかった。

 ……今回の相手GKはアメリカ人で、かなり体格も良いから、普通に蹴ってみようかな。

 

「康寛ぉ! いけぇ!!」

「頑張ってぇ!!」

 

 観客席から聞こえてきた黄色い歓声に、そっちをふと見やる。

 そこには二人の女子が。一人は奈々で、もう一人は会ったことのない女子だった。が、奈々と同じなでしこ選手という事もあって名前は知っていた。

 群咲(むらさき)舞衣(まい)。少し前に奈々に話を聞いたところ、奈々が今やっているポジションを狙っているという少女らしく、おちおちしてらんないと気張っていたのが印象として記憶に残っている。

 まぁ、なでしこに入るんだったら同じチームメンバーとして仲良くやりなさいなと思わないでもないんだが、そこは彼女たちの想いに委ねるしかないだろう。

 

「――しゃぁっ!!」

 

 息を整え、審判のホイッスルを聞いて走り出す。

 そのまま勢いを足に乗せ、振りぬいた右足から放たれたボールは、GKの手に触れられることなくゴールネットを貫いたのだった。

 これで2対0。

 ……普通にフリーキックが決まって驚きを隠せない俺。そして監督からの視線も強くなっているのに気づかないふりをする俺であった。

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