話数的には全然多くはありませんが、ここまでのご愛読ありがとうございます。
……打ち切りじゃないですよ?
U-16代表選手に決まったのは良いものの、それを聞いて湧いたのは同級生であり、それ以上に沸いたのがうちの家族であった。両親がそろって大はしゃぎも良い所である。まぁ、自分の息子が日本代表に選出されたと聞けば、そうなっても可笑しくないだろうが。
そもそも、今まで碌にサッカーなんてしてこなかった人間がいきなり代表に選ばれて不審に思わなかったんだろうか?
「不知火、代表に選ばれたってホントか!?」
「ああ、昨日決まったよ」
「しらぬーい! 俺だぁ、付き合ってくれっ!!」
「おう、下半身にぶら下がってるもん切り落としてから出直してきな。それでも断るが」
「ねねね、康寛君。今のうちに君のサイン貰っておいても良いかな」
「サイン? おいおい、書いたことなんて無いんだが。まぁ、良いぞ?」
「やった! ありがと!」
一部、おかしい連中がいたのには驚きだが……いやまぁ、喜んでくれるのは純粋に嬉しいんですけども。
自分的には日本代表に選出されたこと以上に、江ノ高が総体で負けてしまった事の方がでかかった。なにせ、俺が初めてサッカーを経験したところだ。悔しくないわけがない。
とりあえず、代表に選出された時点で自分にできる事は発揮してこようとは思っている。荒木先輩と駆も一緒に代表に選ばれたことだし、手を抜くつもりはない。そもそも手は抜かないが。
つい先日終了したばかりの代表合宿だが。
俺にとってかなり有意義な時間になったと記しておこう。
同じDFとして選出された島さんの動き、合気道の動きを見ることができたのが一番でかかった。嫌ぁな目で見られていたけども動きを
次いで世良と荒木先輩の動きを見れたこと。
特に世良の動きは前回の鎌学戦でしか見れなかったし、荒木先輩とはまた違ったテクを披露してくれるのがたまりませんなぁ。荒木先輩についてはいつも以上の動き、いつもと変わった動きをしてくれただけで満足です。
駆は、まぁ……あいつは嗅覚で動くタイプの人間だから俺が見ようと見まいと理解できん。どこにボールが飛んで行くかを見て、考え、反射的に身体を動かす。なんて超人的な動きをするわけではなく。本当に駆自身の嗅覚、感覚で動くもんだからトレースできないんや。
しょうがない。
しっかし……遠野が異常なまでのGK精神を見せてくれたのもまた一つの収穫だった。
俺たちにしてみれば、同じ代表招集組として安心できるGK。しかし、これがもし総体での試合になると非常に怖いGKだ。長身、反射神経の高さ、そして的確な判断能力がずば抜けている。
それだけを考慮すると、李先輩以上の怪物かもしれない。
ま、李先輩は気力ですべてをカバーするタイプの人間だ。故に実力以上の真価を発揮する怖い人という認識がある。だからこそ李先輩と遠野の二人がそろったときの動きってのは気になるとこと。
ま、今回李先輩は代表として招集されてなかったみたいだが。
――で、なんやかんやで始まった選手権、神奈川県予選。
正直、神奈川県予選で優勝することができた我が江ノ高にとって敵となるような相手は鎌学、葉蔭くらいだろうか。それ以外にもダークホースが出現するかもしれないけれども。
残念ながら初戦であたる相手はそういう実力ではなかったという話だ。
ちなみに初戦の相手は経政大付属湘南。日比野がいる湘南大が、日比野のフリーキック1点しか取れなかったらしい。特にFWの
……能力を見る限り、そこまでの人物とは思えない。それだけ人材が少なかったんだろうかと気が引けてしまうほどの感覚だ。
「くぅぅ……あいつ、目の前の相手に興味なしかよぉ!」
「俺らだって神奈川で優勝したのによぉ!!」
「ふ、2人とも……なんか悪役キャラっぽいよ」
まだ県の二次予選だというのに記者に取材されている秋本選手にうちの馬鹿二人(中塚・八雲)が嫉妬の魂をぶつけているが、取材ねぇ……変な事喋れないし、面倒なだけだと思うんだけどなぁ。
で、申し訳ないと思いつつ取材内容を聞いていたところ、打倒葉蔭、打倒鎌学と話すだけで、眼前の敵には興味がない模様。ホント、俺らが神奈川県で一回優勝したことを知ってるんだろうかというレベルだ。
――それを言ったらのびた君。
うちの荒木先輩も負けちゃいない。
「とりあえず、打倒レオナルド・シルバ?」
取材に対して笑顔で宣う荒木先輩の精神力も大したもんだが、いつも通りだな。
それを耳にしていたらしい秋本選手の顔が引きつっていたのも、偶然見てしまったのだった。
「あ、あいつ……どんだけ偉そうなんだよ」
「荒木よりヤスの方が目立ってるってのにな」
「うっせぇよっ!!」
この先輩方の絡みもいつも通りいつも通り。
笑いながら逃げる二人に、それを追いかける荒木先輩。馬鹿だなぁと俺も半笑いでそれをみていたのだが、取材の魔の手は俺と駆にも押し寄せていたのだった!
「君、不知火君だよね。初めまして、私、月間ユース&ハイスクールサッカーの谷本って言います。よろしくね」
「はぁ……初めまして、不知火です」
「それでなんだけど、まずは君も今回のU-16選出おめでとう。そして、いよいよ選手権なわけだけど、抱負を聞かせてもらっても良いかな?」
「あー……何ですかね。とりあえず、目の前の相手を一つ一つ下して、勝ちを積み重ねることができればと。そうじゃなければ、相手に失礼ですからね」
「なるほど。じゃあ、もう一つ。不知火君は経政大付属湘南を相手にどれぐらいの勝率だと考えてますか?」
はたと、おかしな質問に思考が止まる。
何を聞いてるんだろうか試合前に、なんて考えが視線に乗ってしまったんだろうか。目の前の女性記者の人が一瞬、たじろいだように見えたが、高校生相手にそんな感情を見せまいと頑張っていた。
できれば別の所で頑張ってほしかったが。
ジロリと女性記者の人を見ていたが、色んな所から視線を感じ、首に手を当てほぐすようにして周りの様子を確認。
今までふざけ合っていた先輩方はもちろんの事、奈々もこっちを見ているし。同じチームメイト。相手の秋本選手も真剣な眼差しをよこしてきてる。一番納得いかないのは、一番近くにいる駆がキラキラした眼で見上げてくる事だった。
犬かっ!
「百ですね。まず、負けること自体考えられません」
「へ、へぇぇ……これはまた大きくでたね。でも、相手にはU-18に出た経験もある秋本選手がいるんですが」
「そもそも、目の前の相手に集中しているかどうかも分からないですからね。加えて、俺がDFをする間は1点も与えないって自信を持ってますから。チームのためにも、代表に行くまでの間は全力で当たらせてもらいます」
「……なるほど、貴重な時間、ありがとうございます! 君とはまたどこかで会いそうな気がするから、その時はまたよろしくね」
「はい。ありがとうございました」
良い笑顔でお礼を述べてくれる女性。
が、すぐさまその矛先を駆に変えたようで、取材に慣れていない駆はあたふたしていた。ニヤニヤしながらその様子を見ていたのだが。
「おわ!?」
「おいヤスゥ! 言うじゃねぇか!」
「あの秋本って野郎の顔、面白かったぜ!」
後ろからの衝撃に思わず呻いてしまったが、この仲の良さ感が江ノ島クオリティ。
先輩方は笑ってるが、さっきの秋本選手の言葉に対する意趣返しでも何でもなく、今の江ノ高だったら普通に勝てると判断しただけだったんだが。
そもそも打倒葉蔭、鎌学と言ってる時点で江ノ高よりも下だという事を先輩方は理解しているだろうか。うちのチームは葉蔭も鎌学も、どちらのチームも下した上で神奈川県で優勝したんだから。
それを向こうの選手が理解していないというのは度し難い。
「まぁ、俺も事実を述べただけなので」
「はっはぁ! そんな自信満々なのは嫌いじゃないぜぇ!!」
「よっしゃぁっ! 俺たちも元気にあいつらぶっ飛ばすぞっ!!」
『おう!』
ま、まぁ……俺の取材に対する言葉で士気が上がったんなら良い事だと思っておこう。
俺、駆、そして荒木先輩の3人は代表に行ってしまうというところで、どうしてもこの選手権全試合に参加することはできないけれど。それまで、俺たちは1試合1試合を大事にしていこうと思う。
「さて、しっかり行きますか」
とりあえずは、経政大付属湘南。
開幕ダッシュを決めるために、失点0で行きたいところだ。