特に本編とは関係が無いんだ。飛ばしてくれても大丈夫だヨ。
日曜日? いつも通り投稿するぜよ。
つい先ほど行われた試合を録画したテープを再生。
テレビ中継のように綺麗に水平に撮ることはできなかったが、十分ピッチ全体を見る事ができる。
「流れるようなステップからシュート……完璧すぎる」
江ノ島高校対経政大付属湘南の試合は、思っていた以上に江ノ高勝利を予想している記者が多かった。
と言うのも、つい先日U-16に選出された選手を3人も擁しているというのも大きな要因の一つだが、何より不知火という選手の存在が一番だった。
――不知火康寛。
今まで一切の情報の無い、真っ白な選手。
ユースで活躍していたとか、有名チームに在籍しているとか。そういった経歴が一切無い、ある意味で異色の選手。逆に言えば、プロリーグで活躍しているような選手にある紆余曲折とした人生が無いようにも見える。
まるで、今まさに生まれ落ちたばかりの赤子のような。
「はぁ……こんな選手、どうすりゃ良いんだか」
例えば荒木。
彼も同じようにU-16に選出された経歴があるし、そこで逢沢傑とも一緒のピッチで活躍をしていた。が、そこから彼は何故か江ノ島高校に進学し、しばらく表舞台にその姿を見せなくなってしまった。
それは、ちょうど逢沢傑が事故で亡くなってしまった前ぐらいだろうか。
そして逢沢駆。
亡くなった逢沢傑の実の弟にして、同じサッカー選手としての道を歩んでいる。U-16に選出されたことも加味しても、ここまでのストーリーは中々ないだろう。
で、件の不知火に戻るが……
「何もない、か……ホント、どうすりゃ良いのやら」
「頭抱えて、どうしたんですか、先輩」
「ああ、西か……いや、次の記事の内容なんだが」
「高校サッカーの記事でしたっけ? 有名どころで行くと鎌学とか、葉蔭とか、最近話題の東京蹴球学園ですか?」
とまぁ、普通ならそうなんだよなぁ。
最近だと神奈川県予選を勝ち抜いて総体に出てはいたが、日本代表に選出されて総体の試合に出ていなかったから日の目には出てない。神奈川の中では異常なまでに注目されている選手の一人だが、まだまだ全国では有名と言うほどの選手ではないのだ。
「江ノ島高校だ」
「江ノ島高校? ……そう言えば、今年神奈川県予選で優勝したのって、そんな感じの名前だったような。もしかして、その高校ですか?」
「そうだ」
「うわぁ! 本当ですか!? 良いなぁ、僕も取材してみたいですよ!」
「……ならお前、俺と一緒に江ノ島高校に行くか?」
「……え? 良いんですか?」
ふと思いついたことをそのまま伝えると、驚いているのか、西はきょとんとした表情を晒している。
「俺だけだと真面目な事しか書けそうにないからな。ここは若い奴の風でも取り入れようってな」
「そ、それって僕が真面目じゃないって事ですかっ!?」
「ははっ、そりゃ自分の胸に手を当てて聞いてみれば良いんじゃないか?」
「そ、そんなぁ……」
「取りあえず、今選手権の真っただ中だが、もう少しすると代表の試合に行っちまうからな。早いうちにアポ取ってしまおう」
「あ、そう言えばそうですね。……あれ? その江ノ島高校からは誰選ばれてるんですか?」
「お前……」
さすがにここまで高校サッカーに疎い奴だとは思ってもなかった。
思わず頭を抱えてしまった俺は悪くない。それを不思議に思って首を傾げているこいつが全部悪いんだ!
「荒木竜一、逢沢駆、それと不知火康寛の3人だ」
「へぇぇ! 3人も代表に選出されるなんてすごいですね! えっと、荒木竜一は前にも出てたと思うんですけど、後の2人って……聞いたことないですね」
「逢沢駆は逢沢傑の弟って話だ」
「ああっ! あの逢沢選手の! ……で、不知火って子は」
「分からん」
「……へっ?」
むすっとした表情になっているのを自覚しながらも、ニヤついた表情をした西に苛立ちを隠さない。そのまま頭にチョップを一つ。結構強めに落としてやった。
「あいた!?」
「ばっか! そんなん分かってたら苦労してないわっ!」
「な、なら何が分からないんですか?」
「……不知火って奴は少し前から表舞台に出てきたんだ。これまでにどこかのクラブでサッカーをしていたって情報も無けりゃ、中学、小学の時にサッカー部に所属してたって話も聞かない。そんな奴がいきなり高校サッカーで、県予選とは言えいきなり台頭できると思うか?」
「あー……それは確かに」
「だから、これからお前と一緒に取材をさせてもらおうと思ってな」
「え? 今からですか?」
む、と腕時計を確認し、長針短針ともに6を指し示していたことに気が付いた。こんな時間まで集中していた自分に呆れるとともに、こいつが何故こんな時間まで居残りなんぞしていたのかが気になった。
「お前……まさか、ゲイか?」
「は!? いやいやいや、いきなり過ぎませんか!? 僕ノーマルですし!」
「そうか……良かった」
「そ、そんな風に思ってたんですか! た、確かに僕はなよなよしてるとは言われたことありますけど」
「あるんかい」
パシンと一つ、頭を叩く。
小気味良い音を響かせた西を無視し、スケジュールを確認する。
別にアポを取ってるわけでも無し、試合後で疲れてるであろう少年に鞭を打つ行為はさすがにできなかった。
「はぁぁ……また今度にするか」
「確か、1週間後に次の試合があるんじゃなかったでしたっけ?」
「ああ、そうだな。その前に何とか取材が出来れば良いんだが」
「そこは先輩の腕の見せ所ですよ!」
「うまい事言いやがって……」
江ノ高の監督は確か、二人いるんだったか。
一人はまだ若い先生で、もう一人が頑固一徹みたいな先生だって耳にしたが……代表を控えてる選手の取材なんて許してもらえるんだろうか。
「ま、当たるだけ当たってみるか」
「よっ! それでこそ先輩です!」
「……ふん!」
「あだっ!?」
何故今回、取材を受けてくださったんですか?
不知火
実のところ、取材を受けたことが無かったので受けてみようかと。これと言って特に深い理由は無いんですが。
幕内
いえいえ、お受けしていただいてありがとうございます。
それで何ですが、不知火選手はいつからサッカーをしているんですか?
不知火
高校に入学してからですね。同級生の逢沢駆選手が俺の事を誘ってくれて。それでサッカー部に入ろうと決めたんです。
幕内
高校から、ですか? 今までにどこかのクラブに所属していたとか、そういった事もなく……
不知火
そうですね。なので、ここまで成長できたのは監督の岩城先生のおかげですし、初心者の俺の事を暖かく迎え入れてくれた今のチームの仲間たちがいたからこそだと思ってます。
幕内
そうですか。ちなみにポジションは――
「はぁぁ……取材してきてなんだが、逆に謎が深まったなぁぁ……」
高校からサッカーを始めた奴に、そりゃ昔の情報なんてあるわけないよなぁ……それにしても大人びた奴だったな。あれだけ江ノ高で中心選手になってるんだったら、もう少し自分の実力を笠に着て威張ってそうな感じがあったんだが。
荒木君はいつも通り、お調子者って感じは出てた。
逢沢君は高校生になりたてって感じが抜けてなかった。
……こりゃ確かに江ノ高で中心選手になってもおかしくないな。一人だけ精神年齢が高い。さすがにチームを率いてるのは彼じゃなさそうだったな。サッカーを始めたばかりの初心者だからな。
「いやいや……あんなプレーを見た後でこの内容ってのもなぁ」
「先輩、これはこれで面白いんじゃないですか?」
「は?」
「だって、こんなに凄い才能を秘めた高校生が出てきたんですから、これからの日本のサッカー、どんどん盛り上がっていくんじゃないですか!? もしかしたら、不知火君がその時日本代表の中心選手になって活躍してるかも!」
目を輝かせて純粋なまでの想いを語る西。
普通だったらあり得ないと一笑して終わるだけだが、サッカー経験が1年も経ってない、本来なら初心者としてベンチ入りも難しいところ。それが、DFにFWをこなすだけの実力にまでなってるんだから。
……西みたいに純粋に考えられれば楽なんだが。
気楽そうな西を見てると、ちょっと苛立った。
「じゃ、後の編集はお前に任せる。よろしく」
「え……? って、えぇぇっ!? な、なんで僕がこれをっ!」
「今後の糧にできると思って励んでくれ! 俺は帰って酒でも飲むとするよ」
「ま、幕内さんの鬼ぃぃぃっ!!」
「はっはっは! 何とでも言ってくれたまえ!」
乱雑に渡した資料を胸に抱え、泣き言を喚きたてる西を無視して歩き出す。
さぁって、取りあえずつまみでも買って、缶ビール片手に仕事の疲れでも癒すとしますかね!