まさかドンピシャで元旦に当たるとは幸先良しです。
まさか俺に取材が来るなんて。
考えもしなかったことだが、この間試合をしたときついでに話を聞かれたし。日本代表に選出されたってのがやはり大きいか。
それにしてもあの幕内って記者の人、俺が高校からサッカーを始めたって言ったらすげぇ驚いてたな。まぁ、当然だろうけど。
圧勝で終わった試合の、その日は試合が終わってすぐに解散。全員疲れを癒すために家に帰ることになったのだが、翌日。
次の試合相手になる厚樹北高校についてのミーティングが行われたのだった。
奈々が実際に試合している厚樹北の様子をビデオ撮影した動画を見たが、鎌学の鷹匠選手や世良選手、葉蔭の飛鳥選手のように突出した能力の選手はいなかった。
が、改めて考えてみるとそれが普通なのだろう。
そうでもなけりゃ、あれ以上のレベルの人間がプロの世界にゴロゴロしているということだし。それは勘弁してほしいなぁ……
で、次の試合までの6日間については、今後俺たち3人がいなくなった時の事を考えての練習をするようだった。
で、試合形式は、その時のスタメンメンバーとベンチ入りメンバーに俺たち3人を加えての練習試合だった。
確かに俺、荒木先輩、それに駆の3人はスタメン、ベンチ入りのメンバーとしてやってきただけあって、それが一気に抜けてしまうのだからこれからの事が心配になっても仕方がない。
少し前に行われたばかりの総体での結果がそれを表しているし。
あの時江ノ高が破れた相手は、上記にあるような突出した選手を抱えている高校が相手で。と言う事は無く、ただ単純にチームの総合力の差で敗れてしまった形だった。
体格差で薫がやられ、足が速いだけだった中塚はテクニックでやられ、高さが取り柄として出場していた高瀬は、同じくらいの身長でよりDF力の高い選手に完全に静かにされてしまったという。
「俺、バンバン動き回っても良いんすよね?」
「はい。ただ、怪我だけはしない、させないように気を付けてくださいね? これから選手権だけでなく、君は日本代表として選出されているわけですから、最大限自分の体を労わると言う努力もしてください。良いですね?」
「分かりました。取りあえずまぁ……無理をしない程度に」
「お願いします」
と、いう事で久し振りの江ノ高内戦の始まりだ。
前回は俺のスタメン、ポジに関して怒りを覚えてしまった方々との戦いだったが、今回は総力戦。全員が全員、しっかりと試合に臨もうと考えているだろう。
さすがにスタメンとの試合に気後れしてる人がいるかもしれないが、それはそれ。もしかすると、ここでの活躍がスタメンに選ばれる切っ掛けになるかもしれないんだから、それを後ろ盾に頑張ってもらおう。
確証はないが、おそらくそうなるだろう。
……そう考えると、あの時辞めてしまった方々は勿体無い事をしたとしか思えんが、後の祭りか。
さて、対江ノ島スタメン組の陣容だが。
DFは俺、
守備的MFに浜先輩、桜井先輩。攻撃的MFに荒木先輩、遠藤先輩、それから元SCの中村
そしてGKは、なんと李先輩がこちら側になっていたのだ。
理由は特にないと岩城監督が言ってたが、これは完全にチームの実力の差を鑑みての事だろう。
これで全員のヤル気が上がってくれれば最善だという意図は透けて見えたが……
向こうのスタメンチームの采配だが、駆が抜けた穴に薫が入り、荒木先輩の穴は沢村先輩が埋める形をとっていた。俺のポジションには当然、海王寺先輩が入っており、堀川先輩とのコンビを成している。
キャプテンのポジには八雲が入っており、逆サイドに中塚がいるという面白い展開に。足の速いだけの中塚側から攻め入るか、独特な動きで翻弄してこない分八雲側から攻めようとするか。
ま、そこは荒木先輩がしっかりと考えてパスを出すだろう。
が、こっちが向こうの実力、性格を把握しているのと同様に、こちらの事もしっかりと把握しているはず。加えて、こっちのメンバーのほとんどがあまり試合経験の多くないメンバーだ。
それでも構わず俺はやるんですがね。
ピーーッ!!
試合開始のホイッスル。
厚樹北高校のミーティングの翌日、江ノ高内戦は開幕を告げたのだった。
「じゃ、予定通りいくぞ!」
「はぁい」
「て、てめぇ……なんて気の抜ける声を……!」
「まぁまぁ、いつも通りいつも通り」
「ははは……」
力無く笑みを浮かべる駆。
苛立った風に表情を歪める荒木先輩。
うむ、これがいつも通りの証ですわ。
やはりと言うか。スタメンとベンチ・ベンチ外のメンバーの実力は結構な差ができていた。経験の差が出るのは仕方ない事だが、俺たち3人がいない状態だと……試合にすらならないだろう。
勿論、スタメン側が圧倒する形で。
しかし、こちらのGKは李先輩だし、向こうの攻撃で注意すべきなのが長身を生かした攻撃を仕掛けてくるであろう高瀬の存在か。
火野先輩はフィジカルに注意しないといけないし、荒木先輩と付き合いの長いであろう織田先輩とマコ先輩は……どうすりゃ良いんだろうか。ま、後で対策を聞いておけば良いだろう。
「左サイドカバー!」
「おらおらおらおらぁ!!」
良い感じに中塚が足を生かして突撃してくる。
あいつの場合は足が速いだけで別段テクニックが高いわくじゃなく、むしろ下手と言っても過言じゃないクロスを上げてくる。故に中塚を集中的にマークする必要はないと思っている。
逆に、こういった場面においては、その近くでカバーに入っている選手へのパスコースを失くしてしまうのが一番。
「止める!」
「ぐ……まだまだぁっ!!」
「いや、ここまでだ」
「んなぁ……!?」
前にボールを運ぶことに集中していた中塚の目の前に出現。
一瞬で足元のボールを奪取し、荒木先輩にパス。
瞬間移動してきたように思っているかもしれないが、単純に後ろからマークしていただけ。錦織先輩が注意を引き付けてくれていたからこそできた芸当だ。
ま、あいつが予想以上に単純ってのもあるが。
荒木先輩がボールを持って上がろうとするが、しっかりと数人でマークに付き始めた。
自由に動かれては困る人物なだけあって、抜けなくマークされている。
「先輩っ!」
「……くそ!」
後ろから声をかけ、パスを受ける。
さすがに俺だってあれだけのマークをつけられるのは勘弁してもらいたい。中盤でパスを受けた俺だが、すぐに火野先輩が走り寄ってくる。が……
「しゃぁっ!」
「な……!?」
すぐに前線へロングパスを出す。
駆のマークには織田先輩と堀川先輩の二人がマークしているが、織田先輩では駆の俊足には追いつけないだろう。で、堀川先輩はお得意の必殺スライディングがあるが、どうなるだろうか。
一人前線を駆けあがる駆。
少し後ろから走り出し、援護しようとする工藤先輩。戦局が一気にこちら側に傾いたところで、紅林先輩が前に詰めだした。前後でプレッシャーを与えてボールを奪おうとしている。
ループシュートで上から狙うか、股抜きで下から狙うか。
とは言え、そこまでのボール捌きを駆が出来るのか。なんて問題もあるが……
「くっ……」
「よし!」
駆がバックパス。
ボールを受けたのは遠藤先輩。
あのタイミングだったらφトリックでも。と思ったかもしれないが、そもそも自分のチーム内で駆のフェイントの事を知らない人はいないだろうと判断したのかもしれない。
紅林先輩も、そのフェイントは把握してるだろうし。
「こっちだ!」
「いけ、不知火!」
中盤から飛び出した俺がパス要求。
荒木先輩は相変わらずプレスを受けており、パスを出す場所が見当たらない。かく言う俺も火野先輩からプレスを受けていたりするんだが、問題なくシュートを打てるが。
「くっそ……!!」
仕掛けてきた火野先輩の動きに合わせてボールを浮かせ、火野先輩の仕掛けを直接受ける。審判(岩城監督)の目には、俺の足に当たったように見えるだろう。
故に、足が痛いふりをしてファールをアピール。
それを見ていた審判は、笛を口に咥え――
ピィィ!!
――甲高い音を鳴らしたのだった。
「そ、そんな!?」
鳴らされた火野先輩はファールじゃないと訴えるものの、ニッコリと首を振り、否定する審判に一歩後ずさっていた。さすがにイエローカードが怖かったか。
距離にして約40mだろうか。
ゴールまでの距離を考えれば、ゴール前に詰めている味方に合わせるようなロングパスか、ショートで出すかの二択だろう。
が、工藤先輩は海王寺先輩よりも身長が低く、前線にはしっかりと人数をかけてきている。予想外のポジショニングをするであろう駆であっても、この人数差は厳しいだろう。
故に、俺はここから
「ふぅ……いくぞおらぁぁぁぁぁっ!!」
絶叫にも近い大声。
味方がゴール前からササッと避けていくのが見えた。
単に湘南の日比野を参考にしているだけなんだが。
十分に取った助走、からのシュート。
久し振りのキャノンシュート。勢いよく振り抜かれた右足から放たれたボールは真っ直ぐに白線を残して飛んでいく。一応、一番人が少ないコースを選んでのシュートだったが、コースにいた誰もが避けるような動きをしていた。
さすがにDFは当たりにくるだろうと思っていたが、反射的に避けたって感じがありありとする。
が、GKの紅林先輩はそうはいかない。
さすがにキーパーが自分の仕事を放棄するなんて事はしないだろう。ちなみにボールの軌道は、真っ直ぐ紅林先輩の胴辺りを目掛けて飛んで行ってる感じ。
日比野よりも強いシュートだけに、本物のシュートを受けたときに威力が低くて笑みがこぼれるとか。そこから芽生える友情みたいなものは……ないですよね、やりすぎましたごめんなさい。
「ぐっ……!? う、おぉぉぉぉっ!?」
獣のような叫び声。
バシンッ!
紅林先輩がボールを手で受け止めた瞬間に大きな音が聞こえてきた。シュートを受けるのにかなりの葛藤があったろうに、顔を歪めながらも真正面から両手でボールを受けに行くとは……
勢いを何とか殺そうとする紅林先輩だったが、何分日比野よりも威力が強いだけに、どうにか受け止めてやろうと躍起になっていたのかもしれないが、残念。
ピィィィ!!
「く、くっそ……!」
「そ、んな、馬鹿な……」
何とか両手で受け止め切った紅林先輩だったが、勢いを殺し切ることが出来ず、ギリギリボールはゴールの線を超えていた。つまり、俺のゴール。
それをただ呆然と見る事しかできないでいる全員。
……あれ? これ、単に俺が化け物みたいなフリーキックを公開しただけなんじゃ?
と思わないでもないが、ただ単に運よくフリーキックが出来ただけだと思っておこう。