俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第59話

 さて、出発の日である。

 両親揃って空港まで送ってくれたのだが、頑張ってとか、気張って来いよとか激励の言葉をいただいたのは良いのだが。その後にまじまじと2人の愛を見せつけられたのだった。つまり、衆人環視の場で抱き合う2人の様子に、何とか無関係を装ってその場を離れる事に専念したのだった。

 

 で、集合時間までには全員が集合完了し、最後に姿を現した桜井監督の号令のもと、飛行機に乗り込んだ。しかし……長距離の飛行だから大型。離着陸の時だけ微かに振動するものの、穏やかな時間を過ごすことができた。

 どれぐらい時差があるか事前に調べてきていたため、飛行機の中で就寝。この体になってから睡眠不足に悩まされることは無くなったし、思った通りの時間に寝れるし想定通りの時間に目を覚ますこともできるようになった。眠気に悩まされることがなくなって喜ばしいはずなんだが、布団の中で目を覚ます度に残念な気持ちになるのはなんでだろうか。

 

 到着。

 と、すぐに日本の報道陣の熱い出迎えを受けることになった。

 昔U-16に出場したことのある荒木先輩や、それ以外にも有名な高校に所属している選手が取材陣に囲まれ、なんてことは無く。その前に監督があの厳つい顔をさらに厳つくして取材陣を睨み付けて『選手の体調をお考え下さい。それからの取材でしたら、選手との相談の上受け付けようと思います』と一喝していたのだから驚きだ。

 もっと奔放な人だとばかり思っていたが。

 ……なんて思っていたが、後から聞いた話になるが、中には日本人の事を良く思ってない人もいるらしく、そういった人がいつ何をするか分からないがための行動だったらしい。よっぽどの事が起こることのない日本だ。平和ボケしてる、なんて話を耳にしていたが……まさか自分がそれを実感するような日が来るなんてなぁ。

 基本的に鉄壁のこの肉体を超えられるものはいるかっ!

 なんて厨二な事言ったところで怒られるだけだろうし、今日からしばらくの間はホテルでジッとしてるとしよう。

 

 ――2日間の現地練習。

 今回の大会を勝ち進んでいくと、日本のライバルである韓国と当たるだろうと監督が言っていた。まずは予選リーグを勝ち進む事が重要なわけで、対戦国はベトナム・キルギス・オーストラリアといった面々。

 日本を合わせ4チームの中で上位2チームに入った国が決勝トーナメントに進出することができるという寸法だ。事前情報ではそこまで強い相手ではないとのことだが、それでも油断することなく試合に挑みたい。

 もしそれで負けてしまったらただの慢心。もしくは単純に運が悪かったか、となるが……そういった運も絡んでくるから面白いスポーツなんだが。

 

「行った!」

「しゃぁっ!!」

「ぐっ!?」

 

 当たり前のように2日間は練習と休息に時間を費やした。

 前回の練習だけでは見ることのできなかった個人的な動きを見ることができて最高の時間を過ごすことができた。中でも同じDFの島選手の動きが一番の収穫だ。前も思ったことだが、FWのズボンに手を掛けて動きを止めることで審判からファールを喰らうことなく相手を止めることができるのだから最高だ。

 攻められてる時は、大抵の場合大人数で攻め込まれている。

 そこをカウンターすることができれば得点の機会を増やす事が出来るんだから良い事尽くし。後は上手く相手ゴールを奪う事ができれば最高の戦術になる。

 監督もそれを理解しているだろうが……実戦でできるかどうかに掛かっている。

 

 まぁ、大丈夫だろうが。

 

「しっかし……お前、いつ合気道なんて習ったんだよ」

「いえ、島さんの動きを参考にして」

「はぁ? ……前から思ってたんだが、俺の動き、"見て"たのか?」

「まぁ、練習の時から見てましたね。同じDFとして使える技術を盗んでいこうかなと」

「……はぁぁ」

 

 何故か盛大に溜息を吐かれた。

 彼は同じDFとして活躍する島選手。合気道の達人らしく、DFの動きとして合気道の技術を取り込んでいた。それも、審判に見えない位置で腕を使って相手の動きを阻害する事が出来るんだから、俺も使えないかなと思っていた。

 で、練習中は基本的に島さんの動きを見続けていた。

 そのおかげもあってか、少しは合気道の動きを出来るようになった。

 だが、そんな事する必要もなく肉体でガッチリDFすることができていた。だからあまり島さんの動きをする機会は無かったのだが、今回の練習で初めて披露したわけだ。日本人よりもフィジカル的に優れているであろう外国人を相手にするわけだから、使える技術は使っていこうかなと考えたわけだ。

 

「技術を盗むって……程度があるだろうが」

「え? まぁ、見たらできるんで」

「うっそだろ!?」

 

 ハハハ。

 そんな事言われても分からんよ。

 

 練習では良い感じに連携が取れるようになってきた日本代表勢。

 特に世良と荒木先輩の二人の動きが切れに切れてた。今までの動きの中でも特に足元の動きが細かく、1秒間に2~3回のボールタッチを魅せていた。いやぁ、良い動きを見させてもらいましたわ。

 世良は荒木先輩のように魅せるようなフェイントをするわけではないが、一定の場所に留まってパスやフェイント、視線で動作を予期させるような動きをしてからのパスなど、相手の考えを読んでいるかのような活躍ぶりだった。

 

 ――予選リーグも、世良と荒木先輩の独壇場だった。

 まだ動きの硬い味方FWに代わって荒木先輩がハットトリックを達成。世良は真ん中で荒木先輩にパスを出したり、前線へボールを出し、攻撃の手を緩めることなく相手を追い詰めていた。

 おかげで攻められること自体が少なく、試合中は楽をさせてもらった。

 DFは右サイドに俺、左サイドに島さんが入っている。江ノ高と同じような感じの采配。攻めに比重を置いているような感じだが、桜井監督の人となりを考えると納得できる。

 フリーキックでは俺に蹴らせてもらい、1点を奪っている。

 荒木先輩が蹴れば良いと思うのだが、何故か監督から俺が指名される。指名されたら蹴るしかないのだが、上手い具合にゴールに吸い込まれてくれるボールを見ると嬉しい気持ちになるのは正直なところだ。

 

「えー、7対0の大勝。しかも得点シーン以外にもファンタジックな見せ場が多く、U-16の予選リーグとしては異例の記者会見となったわけですが」

 

 で、何故か俺と荒木先輩。鬼丸の3人が記者会見の的になっていた。

 荒木先輩はハットトリックを決め、鬼丸は攻めの要となって多くの見せ場を作っていたから納得なんだが、何故俺までここに呼ばれてしまったんだろうか。しかも荒木先輩はこの雰囲気に慣れているのか携帯を見ている始末。

 どないせいっちゅうねん。

 俺よりも駆の方が多く走り回ってましたよぉ……と小声で言ってやりたくなった。

 

「それでは、DFとして無失点の一助となり、フリーキックでは豪快な得点を決めてくれた不知火くん。今大会の目標は何かありますか?」

「えっと……今回の試合については味方が大いに活躍してくれました。故に、僕は特に何もすることが無かったなと言うのが正直なところです。それで、今大会の目標は優勝です」

「ほぅ……では、日本はこの大会に優勝することができると?」

「はい。しっかり守ってしっかり攻める。それができるチームが勝てると考えています。このチームは、優勝します」

「ほほぅ。大きく出ましたね! では、次は――」

 

 何とか自分へのインタビューを乗り切ることができた。

 ホッとしている間に荒木先輩が発言。ずっと見ていた携帯のメールの内容は、江ノ高が大会を勝ち進んだという事実だった。携帯をずっと見ていたという態度が一転、チームの事を想う選手の一人になった瞬間だった。

 それも、この大会を優勝して日本に帰還するという自信も見せるパフォーマンスまで。

 

 ……まぁ、頑張るしかないかぁ。

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