俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第60話

 予選を順調に勝ち進んで本戦リーグ。

 日本を離れて早一か月が経つんじゃないかと思うものの、あくまでそれは体感時間。数週間も経ってないが、早くもホームシックを感じているんだろうか。

 

 なんていうものの、実際にはここでの生活に何ら不満があるわけではない。

 あると言えば、日本でできたことができなくなったという事だろうか。当たり前だが、さすがにテレビゲームの類は持ってきていないし、暇つぶしになるような物はトランプやらボードゲームと言った昔ながらの物に限られていた。

 それでも楽しく遊べているのは偏にチームメートの雰囲気が良いからだろう。

 中には世良とか世良とか、偏屈の塊みたいな男もいるが、それ以外のメンバーは基本的に気の良い奴らが多い。適当に過ごしているだけでも有意義に過ごせているから特に問題は無かったりする。

 まぁ……前世の取り柄の一つで、英語を話すことができたので会話に困ることは無かったが、それが原因で俺が通訳みたいな事をするはめになるとは思っても無かった。

 

「いやぁ、まさか不知火が英語話せるなんてな」

「まぁ、下手の横好きと言いますか」

「それにしたって流暢に話してたけどなぁ」

 

 何故か英語が話せるだけで話題の人になってしまう俺氏。

 まぁ、基本的に高校生で英語を普通に話せるってのも珍しいか。どうしても注目の的になってしまう。前世でも高校生で満足に英語を話せる奴はいなかったからしょうがないだろう。しかし、俺たちの目的はあくまでサッカーをしに来たのであって、俺が英語を話すのを見るため聞くための日程では無い事だけは強調しておこう。

 決勝リーグと言え、今まで戦った3チームの内1つは戦うかもしれない。

 というのも、決勝リーグで戦う相手は予選リーグ4組のうち上位2チームになった国々だ。つまり、4×2で8チームが決勝リーグに残っている。初戦から準々決勝、準決勝、決勝と3試合を行う事になるのだが、それに優勝するためにすべての国が総力を挙げて応援をする事態になっている。

 ――つまり、我が国を一番に!

 と考える輩も相応に存在するという事で、基本的にホテルの外には出ないようにと日本選手に厳命されているのだった。ま、数週間しかいない外国。それも命の危険性を訴えられれば、お土産を期待しているであろう子供も大人もすべからく黙り込むだろう。

 そこで一目を置かれてしまったのが俺、というわけだ。

 基本的に何も無ければ家を出ない。何もしない。それどころか動きたいとも思わない。と言うのが俺の信条の一つだったわけだけれども、高校生としてもう少し頑張ろうと思っているからこそ動いている感じだ。逆に言えばそれが無ければこんな事はしないのだが。

 

 決勝リーグを順調に勝ち進んでいく最中、日本は無失点のまま勝ち進んでいた。

 それでいて毎試合2点以上の得点を決めていくんだから世界中で話題になっていたらしい。中でも得点源になっている荒木先輩は話題の的になっていた。そして何故か俺も話に挙げられているのも気になるところ。

 別に俺としては普通に試合をしているだけなのだが……テレビや新聞で話題に上がっているのをホテルに宿泊している人から聞いたのだった。というか、最近になって握手やらサインやら求められるようになった。握手ですら気恥ずかしいが、サインなんて書いたことも無かったから苦労した。断ろうものなら悲しそうな表情をされるんだから書かざるを得ない状況に陥ってしまうのだが。

 

 で、一気に決勝まで駆け上がった日本チーム。

 相手は2失点で決勝まで勝ち上がってきた韓国。守備力、攻撃力ともに決勝での相手にふさわしいと言わんばかりだが、宿泊しているホテルで取ってあるスポーツ新聞には日本優勢と書いてあった。

 韓国側には江ノ高を苦しめたロングスローをしてきた金の姿もあったが、何よりもアジアのジダンと呼ばれる朴鐘玄(パクチョンヒョン)が一番の強敵であることは間違いなかった。それ以外にも機動力、守備力の高そうな選手や決定力のありそうな選手もいそうだったが、この2人を基本的に注意しておけば問題ないだろう。

 

「しかし、金の奴……スタメンじゃないんだな」

「まぁ、交代で入ってきたときスローインで投げてくる時は困りますけど、金以外にも戦力がいるってことじゃないですか?」

「なるほど。確かに、あいつがスローインの時に入ってくるってのは困りもんだな……」

 

 なんて話を荒木先輩や駆としていたが、その事を桜井監督に喋るとそれなりに対応が取れるようにしようと全員で情報を共有することに。30メートル以上のスローインは驚異的だと言うのが認知されているようで、DFの俺にしても仕事量が減る事を考えると非常にありがたい対応だった。

 

『さぁ、やってまいりました決勝戦! 日本対韓国の試合をお送りします! さて、今回日本代表に選出されているメンバーの中で特に注目すべき選手はMFの荒木選手でしょう。トリッキーなフェイントを駆使して韓国代表の選手を翻弄してほしいところです! そして、DFの要と言えばもちろんこの人不知火選手っ! 日本が未だに無失点でこの大会を勝ち進むことができているのはこの選手によるところが大きいでしょう!』

 

 どんな盛大な説明の仕方なんだ。

 どうして俺をそんなに持ち上げてしまうんだろうか。

 それで俺を標的に攻められても困るんだが、それだけの評価をされているという事なんだろう。出来ればゲームに登場することになったら高めの能力評価をしてほしいと願望だけは高く持っておこう。

 

 ――キックオフ。

 韓国側からのキックオフで始まったこの試合。無失点の日本に続いての低い失点率を誇っている韓国は、序盤は様子見でパス回しでもしてくるのかと思いきや、前半開始早々から強気の攻めを仕掛けてきた。

 仕掛けられる俺たちDFの気持ちを考慮してほしい所だが、しょうがない。

 予想以上に細かいパス繋ぎでFW陣を翻弄し、人数が多くなってくるとサイドチェンジをして横に縦にと揺さぶってこようとしてくる。そして、その動きにつられるように前線に動いてしまったちょっとした穴に、韓国選手がパスを流し込み、一気呵成に攻撃を仕掛けてきた。

 で、その攻撃のサイドにいたのは俺だった。

 味方も、まさか俺がここにいるからちょっと前に出ても大丈夫じゃね? なんて考えてなかっただろうな? それだったら俺に過剰労働と責務の押し付けとしてジュース一本の罰則を設けたいところ。

 

『さぁっ、早速韓国のエースストライカー洪正秀(ホンジュンス)と日本きってのDF、不知火康寛のマッチアップだぁ! ここを抜かれてしまうと一気に不利な状態になってしまうが、果たして!?』

 

 実況に良いように言われるが、今は目の前の選手に集中しよう。

 体格はそこまで大きくない。どころか、江ノ高の薫より少し大きいくらいだろうか。それでエースの看板を背負っていられるのだから凄まじい。確かに、その能力値は薫よりもかなり高い値でまとまっている。薫もまだまだ成長途中ではあるものの、同じ年ぐらいでここまでの差が出来るものなのだろうか。

 ……いや、俺はバグみたいな存在だから何も言えない。

 鋭い視線で俺を睨み付けてくるジュンス。ドリブルで抜こうとしているのか、それとも味方が上がるのを待っているのか。まぁ、どちらにせよ俺にしてみればここで守備している他出来る事は無いのだが。

 

 ジュンスの全体を隈なく見つめる。

 一つの動きに惑わされることが無いよう、全体を一つの動きとして見つめるように。両の瞳で全体を見ることが出来るように。すぐに、視界に映っているもの全てが背景のように、一枚の写真のように平面になった。

 ただひたすら、引き伸ばされたように時間が、体感速度が遅く感じるまで意識を全周に行き渡らせる。この時間、気付けば口元が開いている感覚がするのが難点だ。気でもやったように口を開いているもんだからテレビ映りは悪いだろうなぁ……ヤバイ(白目)

 

「……(クソッ)!」

『洪正秀、少し遅れて上がってきたMFにパスを出した! ここは慎重に動きたいという事でしょうか!』

 

 一切突撃をかまして来ようという感じを出さなかったなぁ……

 気付けば後ろを向いてボールを下げていたジュンスの様子を見ると、悪態をつくように苛立たし気な表情を見せてくれた。それに対してニコッとアルカイックスマイルでも浮かべえてやろうかと思ったが、時と場合を考えてやめておいた。

 それが原因で、本当の意味で怪我するレベルの故意による事故を未然に防ぐことができるんだから。日本人として最低限のマナーは守らないとなぁ。

 

 それからというものの、ジュンスにボールは渡るものの、俺が近づくとすぐにボールを味方にパスを出すという結果になってしまう。彼が自分から突撃をしてくることは一切なかったのだった。

 ……俺的には別にそれが楽で良いんだが、それほどまでに避けられてしまう原因があるのだろうかと謎に思ってしまったのだった。

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