俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

67 / 97
第61話

 さて、前半が終わったわけだが。

 日本と韓国は互いに無得点の状態で前半を折り返したのだった。ちなみに俺が守ってたサイドについては、ボールがあまり来なかった。途中から味方もそれに気づいていたのか、俺に構わず普通に他の場所を守る動きをしていて驚かされたが。

 俺が動くと、それに合わせてパスを出して徹底的にボールを奪われないようにするのだから驚いた。と言うか、俺ばかり警戒されている感じが凄い。そ、そこまで警戒されるようなことをした覚えはないでござんす(震え声)

 

 まるで俺を避けるようにパスを回していく。

 ボールを奪われないようポゼッション(ボールを支配・維持すること)しようとする動きは確かに今まで試合してきた国の中で一番の動きだった。特に、ここまで俺の周囲を避ける様な動きをしてくるチームも無かったから、すごく新鮮に感じてしまう。

 ……逆に、それが導火線に火をつけてしまったらしく荒木先輩の情熱がパトスを燃やしたように大変変態な事に。とまぁ、言葉遣いが変になってしまうぐらいキレッキレのフェイントで韓国側のDFを惑わしていた。一度の切り替えしだけでなく、またぎやエラシコを組み合わせたフェイントを使ってパスを出したり、相手の意表をつくような動きをしていたのが、人数をかけてDFをしていた韓国側は辛くも日本の猛攻を防いでいたのだった。

 

 ――前半の動きはかなり良かった。

 と、桜井監督は言っていたが、内容には納得できてなさそうな表情をしていた。この顔は練習中にもしていた表情だ。動きは良くても点数を取れてなかった時、大体こんな顔をしているのをみんなは知っていたからか、先の言葉を掛けられた俺たちの中で嬉しそうな表情をしている奴は一人もいなかった。

 

「良いか! あれだけ押しても決められないのは、お前らの気持ちがあいつらに負けてるからなんだよっ! 全身全霊かけて、あいつらに一泡吹かせに行くぞぉ!!」

『オォッ!!』

 

 後半も同じ布陣。

 前半と同じ勢いで攻める事が出来ればシュートを決める事が出来るだろうと、監督は言っていた。それと同時に、フリーキックは俺が蹴ると限定されたのも大きかった。絶対荒木先輩が不満そうに顔を歪めているだろうと思い、恐る恐る様子を窺ってみたものの……あまりそんな様子を見受けることはできなかった。

 ……これこそ嵐の前の静けさだろうか。

 駆に当たることも無く前を見据える先輩の様子を見て、そう思ってしまうのもしょうがない。

 世良が蹴るか先輩が蹴るか。っていう世界の中に俺みたいなサッカーを始めてそんなに経ってない、それこそぽっと出の後輩が指名されて嫌だと思うかと。

 

 そして後半。

 前半、ベンチで試合の動向を見守っていた駆がFWとして投入されることになった。

 ちなみに、全国から実力者を集っているこの面子の中で体格も小さく、突出した能力と言えばボールへの嗅覚。それなりのフェイントで食い込むことができたような感じの駆だが、世界を相手に試合をこなしてきたことで結構巧くなっていた。

 日本、それも高校サッカーだけでは経験することのできない雰囲気。

 それぞれの国からやってきて、国を背負ってサッカーに挑んでいるという気迫。

 中には強引にファールを狙って来ようとする奴もいたが、彼らの気迫を生で受け止めていた駆が、このメンバーの中で一番の伸びを見せていた。

 

 ……ま、それも能力値を見ることができる意味不明な特技を持ってる俺だからわかる事なんだが。もしかすれば監督もそれを感じ取っているかもしれない。だからこそここでの起用、って事なんだろうが。

 

『さぁっ! 後半戦のスタートです! 日本はFWの選手を入れ替えて来たようですね。日本代表として活躍を見せてきた逢沢傑選手の実の弟、逢沢駆選手だぁっ!!』

 

 実況ェ……事前に紹介文の許可を受けたんだろうか。

 さすがにあの事故から年月は経ってるし、傑さんの弟ってだけで結構な注目を浴びても可笑しくないだろうから、ここで慣れることができればとは思う。が、もう少しプライバシーと言うか、個人情報について留意してほしい。

 だがまぁ……変わりようのない真実だし、どんどんと注目度が上がっていくとどうしたって目につく項目だ。それも、駆がこれからサッカーを続けていくというのなら嫌でもくっついてくる内容だけに、慣れるしかないとアドバイスすることしか出来ないのも確かなことだった。

 

 日本のキックオフ。

 今大会を通してそれなりに得点を決めている駆だが、韓国側はそこまで駆を警戒していないようだった。ちなみに、FWのジュンスはずっと俺の事を警戒していてボールを持ってもドリブルで突っ込んできたことは一回も無い。

 ……何故そこまで俺を警戒してるんだ(白目)

 確かに、俺の横を抜こうものなら何とかしてでも止めに掛かるけれども。それでも一回ぐらいはチャレンジしてみるっていう精神で挑んできても良いんじゃない? 最低でもアジアのスポーツに関心のある人たちはこの試合を見ているわけだから、強い攻め気で魅せようって思わんのかね?

 まぁ……無理にとは言わんが。

 

 と、言うわけで、何とかして相手を突っ込ませるために簡単な挑発をしてみよう。いつだったか挑発をしてみたら突っ込んできてくれたことがあったような気もするし、取りあえず審判が見てない所で分かりにくい挑発をば。

 

「……はっ」

「……っ!」

 

 日本の攻撃が遮られ、カウンター攻撃を仕掛けてきた韓国。口角を吊り上げ、目の前のジュンスだけに見えるように嘲笑をしてみたのだが、それなりに効果があった感じだ。

 前半は基本的に無表情、というか、俺の所にまずあまり攻めて来なかったから面と面合わせることもなかったのだが。ほんのちょっとの嘲笑を見落とさなかったジュンスは、若い感情を爆発させたかのようにボールを蹴り出してきた。

 向こうの監督が手を振り上げている様子が端に見えた。

 フェイント、またぎで左右に揺さぶりながらじりじりと前進してくる。足を延ばしてもギリギリ届かない所でボールをキープしてるのがさすがと言ったところ。それでも強引に俺が斬り込もうとすると、足首を鋭く動かし距離を取って様子を見てくる始末。

 冷静なのか熱くなってるのかわからないが、言えることが一つだけ。最初ボールを受け取った位置からあまり前に進んでいないというところだ。

 

「……くっ!」

 

 最終的には後ろから迫っていた味方にバックパス。

 大分日本サイドに敵味方が集まってきてるし、それを考慮して立て直しを図ろうとしたのだろうが、少しパスが長いなぁ……

 

「よしっ!」

개 새끼(くそったれ)!!」

『おぉっと!? FWの逢沢選手がここまで下がってきていた! しかしながら今のパスカットは韓国側も想像していなかったでしょう! そこから、バックパスで不知火選手へ。そして日本の攻めの要と言えばこの人! 荒木選手にボールが渡ったぞぉっ!!』

 

 自陣に戻ろうとしたジュンスは、ほんの少しだけこっちを見ては悔しそうに顔を歪めていた。ホント、さっきから悔しそうな表情しか見れてないんだが、もっと楽しそうにしてた方が人生楽しいぞ?(煽り)

 日本代表の攻めはシンプルだ。いつも通り、荒木先輩と世良を中心にして攻め上がるスタイル。守備的MFには佐伯もいるし、攻撃陣のための布陣は完璧に整っている。

 特に荒木先輩と駆のラインが凄く、裏に抜け出そうとする駆に合わせて多種多様なパスで韓国DF陣を翻弄する2人の姿に実況も興奮気味に会場を盛り上げている。

 

 ――が、得点には至らない。

 荒木先輩と世良がミドルから狙うとGKがそれを阻み、駆が飛び出そうとすると最後の最後でしっかりとGKとDFが対応してくる。特に、林東国(イムドンク)の存在が大きかった。

 『消防士』の異名を持っているらしい彼は、フィジカルも強い上に素早い動きでシュートを阻む動きをしてくる。間合いの取り方が何といっても巧い。シュートを打とうとするときにはしっかりとプレッシャーを仕掛けてくるものだから、日本代表の選手はゴールを決めきれないでいた。

 でもまぁ、俺みたいに厨二病みたいな異名じゃなくて良かったなぁ。消防士……日のない所に煙は立たないってのを表してるんだろうっ!? なんだよ鉄壁のDFって。一回でも抜かれたときの皆のがっかりした表情を見るかもしれないという状況に追い込んで何が楽しいんだ!

 ……とまぁ、愚痴をぶつけてみるが、日本対韓国の試合は全く動いてない。

 駆が何とか動き回ってDFを攪乱しようとしているが、そこまで効果が出ているように見られない。ミドルもGKのナイスセーブで止められてるし。このまま千日手で試合終わったりしないよなぁ……

 なんて考えていた矢先の事だった。

 

 ――ピィィィッ!!

 

『おぉっと!? 韓国、これは痛い位置でのファールですねぇ! しかし、ここで止めていなければゴールが脅かされる展開になっていたでしょう! ……おっと、さすがに足に行っていた事もあってかイエローカードが出ていますね。さて、このフリーキックのチャンス! 日本は誰をキッカーとしてくるでしょうか!?』

 

 そんな実況の声を効きながら俺は一歩、また一歩と歩みを進めていく。

 まさか俺がフリーキックを蹴ろうとは思っても無いだろうが、残念ながら俺なのだよ。残念、というか……普通に考えたら軸として動いている荒木先輩に蹴って欲しいんだが。

 

『おっと! ここで不知火選手がボールの前まで来ました! これは……? なんと不知火選手、フリーキックはすべて決めているという圧倒的な決定力を持っているとのことです! 韓国の選手にしてみればまさか、と言った気持ちでしょう!』

 

 だから……俺をそこまで持ち上げるのは止めてくれと何回も言ってるじゃないか!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。