俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第70話

 前半は30分を過ぎようとしてる所だが、いまだ両チームとも無得点のまま試合は進行していた。

 江ノ高は駆を中心として荒木先輩や高瀬、薫が何度となく攻めているが、その度に国松選手を中心として、佐伯やらがDFに奔走し、いまだ無失点に抑えているのだった。

 対して鎌学はと言うと。

 言わずもがな鷹匠先輩がガンガン攻め上がってくるのを俺が基本的に抑え、他の選手については堀川先輩や織田先輩が中心となって攻撃を止めていた。時たまに佐伯や世良から飛び出るミドルやらロングがゴールを脅かしてはいたが、何とか弾き飛ばしていた。

 

 均衡が保たれたまま後半に行くのかと思われたこの試合。

 サイドからドリブルで駆け上がりシュートを放った薫の攻撃が防がれ、すぐさまGKがDFに渡したボールは佐伯へ。そして一気に鷹匠先輩へとカウンター気味にロングパスが蹴られたのであった。

 佐伯から直接鷹匠さんへパスが出るのは3度目ぐらいだろうか。

 2回目の攻めと同じように両サイドのMFと共に攻め上がってくる鷹匠さん。サイドの二人は堀川先輩と、すぐさま戻ってDFの働きをしてくれる織田先輩に任せ、俺は鷹匠さんにマンマーク。

 先ほどと同じように俺がパスをカットするか。

 それともその前に鷹匠さんがサイドを上がっているMFの選手にパスを出すのか。が、どちらの二人もマークをされていて、虚を突くようなパスでもない限り普通のパスはカットするだろう。

 俺が江ノ高所属だからとかそんな理由ではなく、誰しもが考える通常のパスコースであれば、頑張って足を延ばせばパスカットできるからな。

 

『――佐伯選手の大きなパスが一気に前線にいる鷹匠選手のもとへと伸びていく! しかし不知火選手もついているが、どのような攻めをみせるのか!』

「……ッ!」

 

 一度目のように後ろにジャンプしてボールを受けるのか?

 それならある程度ボールの位置を予測できるし、そのまま奪い取ってカウンターに繋げることもできる。それを鷹匠さんも分かってると思うが……

 

「っしゃぁ!」

「はっ!?」

『おぉっと!? 鷹匠選手、ヘッドでサイドに大きくパスだぁっ! それにしても何という体幹の強さでしょうか! 空中戦を制したのは鷹匠選手ぅ!』

 

 いやいや……

 俺も固定観念を抱いてたのかもしれないけど、それにしたってヘッドでサイドに展開するなんて思いもしなかった。だって鷹匠さんだぜ? この人だったら一人でドリブルして点を奪いに来ると思うじゃん?

 慌ててサイドを見るが、堀川先輩がギリギリで追いつけなさそう。

 俺は変わらず鷹匠さんをマークしているが、鷹匠さんに折り返してシュートを撃つのだろうか。俺を警戒しているのであれば、このままサイドにシュートを撃たせるんじゃなかろうか、なんて疑惑が湧き出てくる。

 

『右サイドから早瀬選手が上がってくる! 江ノ高は織田選手が対応しているが、止めることができないまま攻め込まれているぞぉ!? 中央には鷹匠選手がいるが、不知火選手がそれを見ている! さぁ、鎌学はどうやって攻略の鍵を見出すのかぁっ!!』

 

 アジア大会でされたことだが、俺がいない所から攻めるってのが一番の攻略方法なんだろうか。俺にしてみれば、試合に出ているのに一切ボールに触れることができなくなるってのは精神的に不安になる。

 だって、試合に出たのにボールに触らないんだぜ?

 一体全体俺はどこの初心者だよって話だ。守備はまぁ、よしとしても攻撃に一切参加できない選手ほどお荷物なものはないんじゃない? なんて考えてしまうんだが、実際どうなんだろう。

 プロで『そんな奴いらないネ!』なんて言われたら速攻契約解消、棒読みのあざっしたーを浴びせて家でふて寝する自信がある。

 

 しかし、サイドから上がってくるMFの選手に織田先輩も対応しきれてない。

 それを見てオフサイドにならない程度に上がる鷹匠さんの対応をしつつ、全体を見渡す。何度かカウンター気味のパスを出したものの、得点に繋げる事の出来ないままでいる駆は凄く悔しそうな表情をしている。

 忌まわしき世良は何を考えているのか知らないが、余裕そうな顔をしている。

 まだお互いに無得点のまま前半を折り返しそうだというのに余裕な奴だ。少し腹が立つ。

 

 ――江ノ高陣地の深くまでドリブルで攻め上がった早瀬選手は、一旦ボールを落ち着かせた。一旦、と言ってもほんの少しの時間だけ。すぐにクロスを上げた。

 

『クロスが上がった! ボールの行方はやはりゴール前にいる鷹匠選手……いや!? このクロスは鷹匠選手を超えて生島選手に渡ったぁ!』

「なっ!?」

 

 逆サイドから上がってきていたMFの生島選手にパスが通った。

 堀川先輩がついているものの、織田先輩と同様に勢いを止めることができないでいる様子。俺にできることは、鷹匠さんにパスが出たら勢いよくクリアする事だけ。いやまぁ、他にもあるかもしれないけど、さすがに他の人に鷹匠さんの相手をしてもらうってのは骨が折れるだろうから、最終的にはやっぱり俺が相手するほかない。

 ゴールラインぎりぎりまで上がったところで切り返し。

 

「殺す殺す殺す!!」

「ぁあっ!!」

「そ、そんなっ!?」

 

 そこを狙って、ペナルティエリア外で堀川先輩がスライディングをしたものの、ここ一番の集中力をもって切り抜けてきた生島選手。正直、強引にサイドから切り崩してくるとは思っても無かった。

 一切合切の攻めを中央のライン……トマホークで攻めてくるとしか。

 そこからグラウンダー気味の低いパスが、早い弾道で飛び出した。斜め後ろに蹴られたボールは、鷹匠さんの事を知らないとばかりに飛んで行く。何とか対応しようにも、前に出すぎてしまった。

 もしかするとそれを狙っていたんだろうか。俺が動きにくくなるように、鷹匠さんが俺にプレスをかけてくるし、審判に見えないところでガンガン体を押し当ててくる。俺がこの程度のプレスで倒れない事を知っての事か何なのか。

 

『パスは、エリア内で待っている鷹匠選手ではなく……世良選手が走り込んでいるぅ! 完全にフリーの状態だぁ!?』

「……ここ、だっ!」

「く……っそ!」

 

 俺がいる所から逆サイド、ゴールネットの左上隅に、世良が放ったシュートは糸を引くように突き刺さった。

 ――試合が動いた。

 それも、鎌学にしてやられた形だ。韓国にもやられた事だが、俺が関与しないエリアでボールを回してゴールまで持っていけば、確かに俺はボールに触れない。が……悔しい事に、鎌学の選手の方がまだ地力が高い感じか。

 うーむ、俺が対応されてるってのが何気に嬉しいのやら悲しいのやら。

 なんて思ってたら一人、うちの選手の様子がおかしくなった。

 まぁ、言わずもがな駆の事なんだが。様子がおかしい、というよりは人格が変わったような喋り方になるし、サッカーのスタイルも全く違うものになる。二重人格とでも言えばいいのか。

 

 前半も残り10分程度。

 しかし、駆が今みたいな状態になったときには何かが起きるってはいつものこと。さて、何を見せてくれるのやら。

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