俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第78話

 いやぁ、紅白戦は盛り上がったものだ。

 あの試合があった次の日も同じように紅白戦を行うと言われ、今度はDFとして動くことになった俺氏。DFだとさすがにFWのように縦横無尽に動き回ることができないのは残念だが、折角のチートボディを生かしてそれなり(・・・・)に走り回って守備に徹した。

 そもそも試合が始まる前に岩城監督にそういう指示を受けていたから、と言えばそれまでなのだが……FWの時は自由に、けれども止まってる時間は少なく。今回DFとしては出来る限り失点に繋がりそうな攻撃の芽を積極的に潰すようにと言われていた。

 そのかいもあって、試合終了時には3対1と言う結果で終えることができた。

 相手には駆、荒木先輩、それに織田先輩と、レギュラー陣の中でも攻撃の要になる人はゴソッと相手チームに振り分けられていたのだが、後半俺の守備範囲外から攻める動きからの失点を除いてほぼすべてシャットダウンできたのだった。

 ちなみに3点のうち1点は俺がフリーキックで決めたものだ。

 世良や荒木先輩の蹴り方を参考にしてきたんだが、監督特製DVDを見てからは巻く(・・)ような蹴り方を意識して蹴るようにしている。日比野のキャノンシュートでも良いのだが、そもそも味方同士での試合だというのにレギュラーメンバーが減ってしまうなんて恐ろしい事になりかねん。

 ……今の俺が本気で蹴ったとしたら、完全に凶器になるだろうなぁ。もし蹴る機会があったとしても、絶対にグラウンダーでしか蹴れないな。もし顔に当たったとして、むち打ち程度で済めば良い。

 

 ――そんなこんなで練習を積み重ねていく俺たち。

 選手権の初戦は元日の翌日。その直前である元日の早朝、俺たち江ノ高サッカー部のメンバーは全員そろって地元の神社に優勝祈願のために初詣に行くことになっていた。

 

 

 

 で、初詣に行く早朝、何故か俺は群咲と二人で江ノ高サッカー部の集合場所に自転車で向かっていた。なんだこのシチュエーションはと内心ドキドキしつつ、まさか神社まで自転車で行くことになるとは。冬真っ盛りのこの時期、自転車で感じる風はいつも以上に寒いはずだが、それを感じるほどの余裕がない。

 会話をするだけで白い息が出ていくなか、集合場所に付いた俺たちだが辺りに先輩方の姿は見えなかった。それどころか薫や高瀬の一年組もいないんだから様子がおかしい。

 ……おい、マジで、二人きりの時間を延ばすのだけは止めてくれ。

 

「あれ……確か、ここ集合場所だったよね」

「ああ、ここであってるはずだ」

「あれぇ……みんなまだ来てないのかな」

 

 なんて無邪気に周囲を見渡してる群咲だが、少し気配を探ってみればすぐ近くに多くの気配が隠れている。

 早朝の時間帯。まだ日が昇ってない事もあってか辺りは薄暗い。これだったら人数が多くても巧く隠れられるだろうが……こんな事考えそうな人と言えば、荒木先輩かマコ先輩あたりだろう。ワンチャン火野先輩って可能性もあるが。

 お願いだ……! どんだけ大声だしても良いからこの空気を壊してくれ……っ!

 

「ぅぅ……うがぁぁぁああぁっ!?」

「きゃぁっ!?」

「……えぇぇ……何やってんすか、海王寺先輩……」

 

 後ろで何とも言えないような表情をしている荒木先輩以外は同じように苦笑いを浮かべている。両手で頭を掻きむしっている先輩の様子は、完全に狂ってるようにしか見えなかった。しかも何か小声でぶつぶつ呟いてるし。

 何を考えてるんだろうかと耳を傾けてみれば『リア充撲滅なぜ俺に彼女が出来ないんだ畜生可愛い女子と一緒に初詣になんか来やがってぇぇぇぬぁあぁぁ……』と怨嗟の念を口にしていた。

 ……別に、恋人彼女の関係じゃないんだが、声をかけられるような雰囲気じゃないのは確かだった。

 

 どうやら、俺以外の1年生は全員先輩方に驚かされたらしい。

 一番驚いていたのは駆だったらしいが、高瀬はまぁ……なんとなく予想はつくものの、薫まで驚かされていたとは。いくら隠れやすい環境とはいえ容赦がない。

 

 ――まぁ、一番驚いたのが駆だとしても、一番苦労したのは驚かされて不機嫌になってしまった群咲の機嫌を取ることになった俺に違いないと、憤慨しつつ意味のない自慢をしてみるのだった。

 

 

 

 新年を迎える深夜0時ではなく、初詣に来るために早朝に神社を訪れた俺たちだが、地元とはいえそれなりの参拝客で境内は賑わっていた。神社の中で賑わうってのもおかしな表現かもしれないが、今年一年の運気を占おうとした結果の御神籤の紙の多くが紐に結ばれていた。

 参拝の前にくじを引きたいとごねる荒木先輩を宥めようとしたものの、ぶーたれる荒木先輩を止めることができず参拝前に御神籤を引くことに。あぁ流されてしまったと何故か申し訳ない気持ちを抱きつつ、百円支払って運命のくじ引き。

 にやにやしながら覗き込んでくる荒木先輩に苛立ちつつオープン・ザ・御神籤。堂々の大吉。悔しそうな表情を浮かべる荒木先輩を見て、天罰でもあれば良いのにと怨嗟の念を送ってみる。

 

「どれどれ……んなぁっ!?」

「なんです? ……嗚呼、大凶とはまた何とも」

 

 愕然とした表情をする荒木先輩にいい気味だと笑うものの、試合中にケガだけはしないでくれと内心冷や冷やする。逆に俺の大吉はあれだ。前に脇をやられたからその代わりに運が良くなるって寸法だろう。

 ほんと、良くなりますよね?

 それから新年早々からバナナの皮を踏んで滑って転んでしまう高瀬。「あいたっ!?」と尻もちをつき、ギャグ漫画から出てきたのかと言わんばかり声を漏らして皆の笑いを誘っていたが「お、俺は何も見ていない……何も見てないんだぁっ!!」と見ざる聞かざると化してしまったキャプテンと、何気に個性的な人が多すぎる。

 

 ――その後は監督たちの誘導のもと恙無(つつがな)く初詣は進んでいったが、さて今年の目標はどうしたもんか……安易ではあるものの無病息災でいきたいところだが、サッカー部として来てるから選手権優勝とか、DFとしてMVPに選出されたら面白いなとか考えてしまう。

 

「ねね、ヤスはどんな事お祈りしたの?」

「ん? いや、優勝できれば良いかなって」

「え、思ったより淡泊」

「や……さすがに荒木先輩みたいに大胆なことは言わねぇよ」

 

 大会MVPに得点王、そして優勝とすべてを詰め込んだお祈りというか宣言してたからなぁ……何気にそれをなせるだけの実力が伴ってるってのが怖いところ。できるだけ後ろからパス出すんで、ドリブル突破頑張ってください。

 

「ヤスだったらもっと凄い事できそうだけどなぁ」

「凄いって……例えば?」

「そうだなぁ……U-20の日本代表に選ばれるかも!」

「いやいや、そりゃもうお祈りするとかってレベル超えてるでしょ」

「例えばって言ってるじゃん、ブーブー!」

 

 ブーブーて……ちょっと頬を膨らませて抗議されても可愛いだけなんですが。

 ぽこぽこと叩いてくる群咲をあしらいつつ、考える。そういや選手権だけじゃなくて日本代表もあるかもしれないなぁと。何気に俺がMVPだったから、またお声をかけていただけるかもしれないし、その心構えだけしておけばいいだろう。

 

 ……しかし、さすがに16歳でU-20は無いんじゃないかなぁ。

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