俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第08話

『2対1ぃっ! FC逢沢のゴールでSCを1点差に突き放したぁっ!』

 

 駆のゴールによってFCは一点のリードを得ることが出来た。

 しかし……あのボールへの嗅覚、とでも言えば良いんだろうか?

 どこへ飛ぶかなんて分かるはずのないボールの行方に、一番近くの相手ディフェンダーではなく、それよりも先に反応していたのが駆だった。とても普通の反応速度ではない。まるで未来予知のレベル。

 

 後半が始まって約10分。

 相手のキックオフからゲームが開始された。

 

『あぁっと、SCここで交代だ。4番不動に代わって12番吉岡丈二3年生!』

 

 が、始まってすぐにSCは二人目の交代枠を使ってきた。

 さっき駆のマークに付いていた先輩だ。恐らく、一瞬駆のマークを外してしまったがために失点してしまった、という一つのミスを許せなかったのだろう。いやぁ、厳しい監督ですなぁ。

 

 さて、始まってすぐ沢村先輩のマークに付いたマコ先輩だったが、ボールはそのままパスされてしまう。そこでボールを奪ったのが的場だった。ドリブルしようとしていた所の隙を突いた形だ。

 ボールだけを狙った綺麗なスライディングだ。

 

 そのままドリブル。スピードに乗った走りをしていて、ボールを奪った相手を置き去りにしてしまった。そして詰め寄ってきた相手をシザースで抜き去った。

 ……ちなみに、見取り稽古は今も平常運行している。うまい奴からフェイントを覚えて、それ以外の奴の同じようで違う(・・・・・・・)フェイントを記憶する。

 癖も覚えられそうだから、その人によって違う人の癖を使ったり……そうやって相手の事を攪乱するのって、楽しいじゃない?

 

 的場からマコ先輩、中塚へと渡ったボールはそのままクロスとなって上げられた。適当に上げられたそれは、ファーサイドの駆の元へと丁度よく落ちていき、ダイレクトで右足!

 しかし、これはキーパーが右腕で弾き、点々と転がるところを火野先輩が詰めたのだが、そこで織田先輩が先にボールを奪ってしまう。

 

「これは、さすがに戻らないといけないか」

 

 まだ誰も動いてない中、俺は一気に自陣へと走り出す。

 

「戻れ! ボールが上がってくるぞ!」

「お、おう!」

 

 俺の掛け声に戻り始めるディフェンダー陣。

 そして、動き出した瞬間に蹴りあげられたボールは、そのままのっぽ君へと。そのまま相手フォワードにヘッドでパス。長身が良い具合に生きており、ディフェンダーがいるのも構わずパスを出せているのを見ると、非常に羨ましくなるが……高すぎるってのも難だな(嫉妬心)

 一応、俺も身長高いし? 180はあるし?(対抗心)

 

 相手フォワードは中塚が上がりすぎていて空いていたスペース、サイドをどんどん上がっていく。ファール覚悟で中塚がスライディングを仕掛けるが、その前にボールを上げられてしまった。

 その先で待っていたのは、いつの間にかゴール前まで来ていたのっぽ君。紅林先輩が後ろから体を抑えに行くが……なんとその長身を生かしたヘッドをせず、足でバックパス。

 そこに走り込んでいた織田先輩がそのままダイレクトシュート。

 一瞬遅れて駆が防ごうとスライディングを仕掛けていたが、残念ながらシュートを許してしまい、一点のリードは振り出しに戻されてしまった。

 

『ゴォォォル! 後半20分で、SC織田が決めたぁ!』

「くっそ……もう少し早かったら!」

「ナイスファイトだったぞ、逢沢!」

 

 いつの間にか戻っていた駆だが、本当にどこにボールが来るのかわかってるように動いている……さすがに感覚までは習得することはできないようで、各個人個人の動きを見てはどこに行くかを予想する事しかできない俺よりも格段に速い動き出しだ。

 これは、相手にいなくてよかったと思ってしまう。ホント……SCとFCの二つが一つのチームになったら更に良いチームになるんだろうけどなぁ。

 

「6番、桜井に代わって10番荒木竜一!」

「……え?」

 

 荒木って……確か、太ってた人だったって記憶がある、んだが。

 

 目の前にいるのは、痩せて、イケメンですって面ぁしてやがる男。

 たぶん、前に俺が見たのは別の人で、同姓同名の人に違いないとしか思えないような人だった。それぐらい全く輪郭から何まで違う存在になっている。一体何があったら、いや……どんな運動をしたらここまで痩せることができるのだろうか? 確か、前回見かけたときからまだ一か月も経ってなかったと思うんだけど。

 

「お前が未経験者の不知火か?」

「はぁ……初めまして?」

「いや、マジで初心者かって思った動きだったぜ! これからよろしく頼むぜ?」

「はい、こちらこそ」

「なんかそっけねぇなぁ……」

 

 初めて見かけたとき、結構ふくよかな人だなと思ったが、それでも結構動けそうな人だとは思っていた。いや、動きというより、ボール捌きと言ったほうが正しいか。さすがに脂肪で動けない感じがするし。

 しかし、思ってもなかった味方の登場に高揚を隠せていない様子の駆を見かけ、苦笑してしまう。確かに俺も連携に絡めるような人を求めてはいたが、そこまであからさまに喜んでいる様子を見ると、尻尾を振っている子犬のような幻覚を重ねてしまう。

 

 キックオフ。

 駆がボールを蹴り出し、マコ先輩がすぐに荒木先輩にパスをした。

 そこにすぐマークをしてきたのは沢村先輩だった。何か、二人の間で会話を交わしたようだったが、すぐにフェイントを使いつつショートパスを交えて難なく躱していった。

 その後も一人躱し、二人のマークがついたところでヒールでバックパス。マコ先輩にボールを戻したのだった。

 

 いやぁ……久しぶりに良いもんを見た感じ。(少し前に奈々のフェイントを見ておいてこの発言である。)

 どれぐらいの間サッカーをしていたのか分からないし、練習をしていないのかもわからないが、明らかに奈々よりも周囲を見渡せているし、足業……ボールタッチが違う。

 なんでこんなにサッカーが上手いのに一時期でも辞めてしまったのだろうかと思ってしまうが、それは個人の都合もあるだろう。しかし、太っていたときと性格を考えるに、SCみたいに厳格なチームでは個の力を発揮できないだろうってことはよくわかる。この人の性格上無理だったんだろう。

 それはともかく、男子でここまで上手いって人は初めてだし、ここぞとばかりにスキルを見取り稽古していく。荒木先輩も先輩で、相手の裏をかこうとしていることもあって、見せていない技をどんどん見せては相手を躱していくから面白い。面白いほどに俺のスキルも上がっていく。……俺、サッカーでプロを目指すんだ(白目)

 

 荒木先輩が手を挙げた。

 親指と小指で形作られたそれは、確かに前にグラウンドで練習したときに見た連携のそれだった。それを見た駆は、少し動揺しつつも火野先輩と話していたようだった。

 

 これは、俺の出番は無いだろうな……

 

 マコ先輩が持ってたボールはいつの間にか荒木先輩にわたっており、丁度審判が荒木先輩の後ろあたりに来る形になった。最前線にいた駆が、荒木先輩がボールを蹴るというタイミングで走り出し、マークに付いている織田先輩の意識を持って行った。

 相手チームの中でも観察力、察する能力に秀でていることもあり、あの人の意識を引けたのは大きい。その隙に、荒木先輩がボールを蹴った。スピンが掛けられたそれは、駆が何するでもなく地面に落ちた瞬間に軌道が変わり、ゴールネットへと突き刺さった。

 相手キーパーは、ちょうど駆が対角線上にあってボールが見えなかったのだろう。軌道が変わったことも相まって、完全にオフサイドでノーゴールだと思って安心しきっている。

 

『ご、ゴール! ゴールです! 一体何が起きたのかぁ! これはオフサイドではなかったのかぁ!?』

 

 相手監督の怒鳴り声、観客のざわめき。色んなどよめきが起きているが、そんな事よりも、今目の前で起こった一連の動作……これが荒木竜一。

 

 この人がいれば……このチームは、FCはSCに勝てる。そんな期待を抱いたのだった。

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