俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第83話

 前半も残り7分。

 いまだ0対0のまま試合は進んでいる。

 四日市の攻撃を俺と李先輩が主体となって止めているのと同じように、江ノ高の攻撃もすべて遠野がシャットダウンしてしまっていた。中にはゴールが決まってもおかしくないようなシュートが何本かあったんだが、遠野の驚異的な反射神経と運動神経の良さに(ことごと)く止められ、弾き出されてしまっていた。

 まぁ、さすがに俺が攻撃に参加することがなかったので本当に全員のシュートを止めることができるのかと問われれば不明と答えさせてもらう。だって、実際に相手にしたことがないんだもの。

 ……代表の時、練習で何度か付き合ったことはあるが、その時よりもうまくなってるだろう。が、俺も技術的に進歩していると自負している。

 と言うか、今の江ノ高メンバー全員の能力と四日市を比べると、全体的に江ノ高が高い。数値的には四日市の選手に全く負けてないのだが……やはり遠野一人の存在がでかい。あまりにシュートを止めるもんだから皆の気持ちが落ち込み始めてるってのもあるんだろう。

 とは言っても、体力には限りはあるだろうし、何度もきわどい攻撃を止めていることもあって大分精神力もすり切れて切れてはいると思うが……代表に選出されて試合をこなしてるだけあって精神もタフだなんて言わないだろうな?

 

『おぉっとぉぉ!? スルーだぁっ! 逢沢、絶好のチャンスでパスをスルーし……荒木だぁ!! 荒木が待っている! そのまま……ダイレクトォッ!!』

「おおおぉぉっ!!」

 

 中央でボールを持っていた織田先輩がキープしたままドリブル。

 そのままペナルティーエリア付近までドリブルして、そこでシュートをすると思わせDFの視線を引き付けてから、後ろにいたキャプテン沢村先輩にバックパス。まるで後頭部に目でもあるのかってぐらい正確なパスをしっかりと足元に収めたキャプテンは、少しドリブルしてからヒールパス。

 滅多に見ないキャプテンのカッコいい姿に江ノ高メンバーは騒然としていた。

 勿論、観戦に来ている江ノ高女子の皆のハートに響いたんじゃなかろうかってぐらいにはカッコいい姿だ。

 

 閑話休題。

 とにかく、それぐらいキャプテンがヒールパスをするってのが珍しいって事を肝に銘じてもらいたい。なんだかんだ綺麗にヒールパスを出した先には駆の姿が。しかし、キャプテンがパスを出した事にいち早く反応して駆を視界に収めている遠野も遠野で凄まじい。

 このままダイレクトでシュートするのかと思いきや、直情傾向らしからぬ駆の選択。まさかのシュートモーションでのスルーパス。思いっ切りボールを空振りしたのかと思いきや、その先で待っていたのは荒木先輩だった。

 まさか逆サイドまで引っ張られるとは思ってなかっただろう遠野は何とか食いつかんとしているが、その前に荒木先輩はシュート体勢に入っていた。遠野が何とか動きだしたところで容赦ないダイレクトシュート。

 今まで見てきた荒木先輩のシュートの中でもかなり精密なシュートだった。

 ポストギリギリを狙ったコースだがしっかりと回転がかけられたボール。多分、ポールに当たってもゴールの中に入っていくような回転なんだろう。ダイレクトで蹴ってるのにそんな芸当ができるなんてなぁ……

 

『さすがの守護神遠野も荒木のシュートは止められないか! これで江ノ高先制点――』

「させるかぁぁっ!!」

 

 瞬間、目を大きく見開いた遠野が目いっぱい力を込めて横にジャンプした。

 その手は大きく広げられており、パンチングで弾き出そうとしていないのだけは分かった。が、どうやって……

 

「おらぁぁっ!!」

「なっ!?」

 

 大きく伸ばされた手の先。中指と薬指が触れた程度、一瞬の接触でどうにかなるほど威力の弱いシュートじゃない。

 だが、遠野はそのシュートに指先が触れた瞬間にスナップを効かせるように指先を折りたたんだ。そのちょっとした動作で、シュートコースが微妙にずれた。それだけだったら回転がかかったボールはポストにぶつかって入るのかと思ったのだが、なんとボールはゴールの白線を超えることなく、ボールにかかっている回転量のせいで逆側のポストまで飛んでいき、今度は上に打ち上がったのだった。

 

「は……?」

『と、止めた止めたぁぁ!! まさに守護神! 遠野、絶体絶命と言わんばかりのシュートを止めました!』

「あれを……止める……?」

 

 反対側のポストに当たって跳ね上がったボールを遠野がしっかりとキャッチし、江ノ高の攻撃は終了となった。今度は四日市の攻撃となるわけだが、俺と今の李先輩がいる限りなんとでもなりそうなもんだが……

 問題は攻撃陣か。

 あれだけ策を凝らした攻撃を仕掛けたっていうのに、その最たる攻撃で決められなかったのだから精神的なダメージは大きいだろう。

 取りあえず前半はお互いに無失点のまま、試合の動きはなく終了した。が、後半からと言っても、どう攻略しようかが悩みどころであることには変わりない。

 

「――あのスルーパスは最高だった。ただ、それを決められなかった俺がわりぃんだ……っ!」

「荒木さん……」

 

 珍しいぐらいに荒木先輩が項垂れている。

 前半が終わり、無失点のまま試合を折り返せたことに少しばかり安堵感を抱いているDF陣とは違い、何度も得点チャンスがあったのに1点も決められなかった攻撃陣はかなり落ち込んでいた。

 そりゃまぁ、自信満々で蹴ったシュートがまさか止められるんだから攻撃陣としては唖然としただろうけども。

 どれだけ揺さぶっても付いてくるGKで、しかもしっかりとボールを止めてくる相手だけに、攻めるのを戸惑っているのかもしれないが……いや、もう、ガンガン攻めるしか無いんじゃないですかね。

 

「……監督! 不知火を、FWに回してください!」

「李君? ……いや、それはできない。今はまだ選手を変える段階ではないんだ」

「……そうですか」

 

 まさかの李先輩の挙手からの提案。

 確かに今日の李先輩の動きを考えたら俺がFWに回って攻撃に加わった方が早く得点できるのかもしれない。だが、それを監督が止めた。まだ、と言う単語に引っかかりは覚えたものの、監督の言う事に従うしかなかった。

 まぁ、俺がDFとしている限り点数を決められることは早々ないだろうが。GKも李先輩だし、俺と堀川先輩と3人でゴールは守りましょう! ぐらいの熱血系で頑張ろうと思う。

 うん。取りあえずゴールを無失点のまま守ってれば攻撃陣が何とかしてくれるだろう。

 

 それぐらい適当な考えで後半に入ったのだった。




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