前半は共に無失点のまま後半へと進んでいる。
シュート数にして前半江ノ高5本。四日市が1本と言う内実になっているものの、江ノ高は1点もシュートを決められなかった。これには攻撃陣の中でも中心選手として活躍していると言っても過言じゃない荒木先輩の精神が折れかけたのだった。
『さぁ、後半が始まりました! 前半ではチャンスをものに出来なかった江ノ高ではありますが、後半、その教訓を生かしてどのような攻略を見せてくれるんでしょうか!』
皆が前向きになっている中、一人ナーバスさを醸し出している荒木先輩。いやぁ、確かに前半の攻撃の中で一番決めていてもおかしくなかったシュートを止められてるんだから。
とは言え、そんなシュートを奇跡的に止めるGKなんてこの先何人も、何回も出逢うだろう。もし荒木先輩がこの先サッカーを続けるのであればの話だが。
……しかし、このまま陰気な感じをまとったまま試合を続けられても困るの一言である。
「荒木先輩」
「ん、なんだ、しらぬっでぇっ!? 何しやがる!?」
「あ、いや、辛気臭い顔でしてたんで」
「はぁっ!?」
バシンと一発背中を張り手。
チートな能力を抑えつつ、それでいて気を注入することができる程度にがっつり張り手をした訳だけれども。思いのほか威力の高い音が鳴って俺自身も驚いている。
でもまぁ、これで気合が入れば良いだろう。
前半の結果を引きずられて困るのは前線で動くFWと攻撃の要になるMF達だ。最終的には攻め込まれる隙になるからDFも困るっちゃ困るんだが。
……俺が気合一発張り手をしたものの、最初はぼうっとしたようにつっ立っている荒木先輩の横を若宮選手がドリブル突破。そのまま加速し始めたのを切っ掛けに、四日市の選手がどんどんと攻め上がり始めた。
四日市全員足が速い。
江ノ高メンバーもなんとか戻ろうと走っているものの、ドリブルをしている若宮選手よりも少し遅いかもしれない。
「不知火、堀川は前に出るな!」
「えっ……でも」
指示を出してきた李先輩を振り返る。
気迫の籠もった表情で俺たちを見つめる李先輩。
正直、李先輩って厳つい顔つきをしてるから結構怖い。が、何とかしてでも点をやらんと言わんばかりの表情に、俺と堀川先輩は無言で従うのであった。
その間、荒木先輩をドリブルで突破した若宮選手がパス。
横を走ってる駒崎選手がトラップするかと思いきや、これをスルーしてサイドを上がっている1年生でスタメンの当真選手がボールを受けてオーバーラップ。
駒崎選手に気が取られていた火野先輩が慌ててカバーに向かうが、ドリブルをしている事を感じさせない俊足さで真っ直ぐ上がっていく。
「意地でも止めてやらぁ!!」
『火野、捨て身のタックル! しかし一瞬の差で当真のクロスが上がったぁ!! ボールがやや精度を欠き、エリア内ギリギリに! そこに合わせて斉藤が飛び込む!』
李先輩が飛び出そうとしているが、そこは俺の守備範囲内。
先輩を視線で制し、一足に走り込む。
「もらった……!?」
「させねぇっ!」
『おぉっと! あわや江ノ高の失点かと言うところでこの男! 不知火がしっかりとクリアしました! かなりの距離があったように思いますが、まさに不知火と言ったところでしょうか!』
それで済むのか実況よ。
自分でやっておいと何だが、数mは軽く飛んだような気がする。むしろ跳んだかもしれん。人間離れの身体能力で済めばそれで良いのだが……昔よく見てた動画サイトで纏めとか作られないだろうな。
「ナイスガッツ」
「あざっす!」
李先輩に褒められたのも束の間、スローインは四日市から。
先ほどとは逆サイドからの攻撃になるが、先ほどの事もあってか単調にクロスを上げては来ずに、ゆったりと全体を見渡しながらボールを保持し始めた。
後半に入ったものの、まだ試合が動いていないだけにそれなりに焦って攻撃してくるかと思いきや、さすがのカウンター型四日市と言うべきか。そこまでの焦りを感じさせない。
GKが遠野と言うだけでかなりの自信になっているのだろう。
まさか遠野に守備の全てを任せているわけではないんだろうが、やはり遠野の存在は大きかった。
「くっ……!?」
「上がれぇぇ!」
『少しトラップが大きくなってしまったところを狙い、不知火が斉藤からボールを奪ったぁ!! 江ノ高、逆にカウンターだ!』
中間よりも少し前、攻撃的な位置を取っていた荒木先輩にパスを出す。
ふわりと浮かせるようなクロスを足元で綺麗にトラップした荒木先輩は、持ち前の技術を生かしてそのままドリブルしていくかと思いきや、まさかの駆にパス。
しかし、何か感じるものがあったのか、駆はすぐさま荒木先輩にボールをリターンしたのだった。
「ちょ……!? くそっ!」
ボールを受けた荒木先輩は、またしても横にパス。
それを受けたのはマコ先輩だったが、マコ先輩もまた同じようにすぐさまワンツー。……やっぱり前半最後に魅せたギリギリのシュートを止められたのが精神的にでかかったか。
まさか荒木先輩がマイナス思考に囚われるとは思わなかったが、一度サッカーを諦めてぶよんぶよんになっていた頃の先輩を思い出すと、実際、精神的に弱い所があるのだろう。
太りやすい体質も影響し……てないか、さすがに関係ないだろう。多分。
またまた駆にパスを出す先輩だったが、すぐさまリターンする駆。
これで3度目のパス拒否を喰らわされた先輩。これには3度目の仏は無かった先輩は苛立ちを表情に出していたが、その直前から駆の雰囲気が変わっていた。
いやぁ……さすがにあれだけ不甲斐ない姿を晒したせいか、駆の内なる人格が激オコぷんぷん丸らしい。
そんな駆の表情を見て一瞬硬直したところを狙われたものの、ボールを浮かせ、そのままタックルを躱して前進。
「上がれ上がれぇぇ!!」
『ようやく動いた荒木っ! 中盤でもたついたようにも見えましたが、見違えるようなドリブルでぐんぐんと敵陣に
江ノ高のポゼッションが全体的に敵陣よりになっていく。
荒木先輩一人の戦意が高揚するだけで江ノ高の攻撃陣は一気に意気高揚状態に。全員がゴールを目指して敵陣を駆け上がっていく。
足の速さは四日市には負けていても、何としてでもゴールしようという気持ちは全く負けていない。シュートは数。質も大事だけど、それ以上にシュートを打たないとまず始まらないってのが江ノ高の攻撃の特徴的なところだ。
全員が全員、目に力が籠もっている。
『出たぁぁ!! 伝家の宝刀スルーパス! 四日市DFの穴を、糸を通すような鋭さ、正確さで敵陣を貫くっ! これを受けて逢沢がゴール前に迫る! 一対一になるか!?』
「来いやぁ!!」
試合の展開が熱い。
これぞ荒木先輩の真骨頂からの駆の飛び出し。GKとの一騎打ち。
これで盛り上がらないわけがない。
……が、正直に言わせてもらおう。
一対一で駆が遠野に勝てる確率が低い。夜の練習でもかなりのスピードで駆の技術も上がってきているとは思うのだが、それでも今の遠野には優っていない。
『出たぁ!!
「そいつの弱点は……研究済み……っ!?」
『き、決まったぁぁっ!! 難攻不落だった四日市GK遠野の壁を越えて、今、江ノ高が先制点!! 逢沢の個人技が冴え渡るぅっ!!』
「な……なんだ……今のは!?」
――なんて思ってたんだが、まさかまさかの駆の勝ち。
ここに来て新技を使ってくるとは考えすらしなかっただろう。
φトリックも、エボリューションもどちらも研究してきていたようだが、3つ目のトリックを出されちゃいくら遠野でも対応出来なかったようだ。
いやぁ……正直鳥肌もんですわ。
やるやるとは思ってたが、ここに来て一度も試合で試したことの無い技を決めるとは。ストロングハートここに極まれりだな。
『さぁ、先制点を決めた江ノ高! 後半はまだ25分残っています! これからどのように組み立てていくのか!』
次話からの更新について、活動報告を見てほしいんじゃ(´・ω・`)