俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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 なんやかんやリアルの仕事しつつ出張したりしてたら半年以上経ってた……まだ覚えてる人とかいんのかなとか不安になりつつも投稿してみる。それでも、何気に今でも感想が届いたりするのはとても嬉しい次第です。ありがたや。

 誤字脱字報告、お待ちしております。


第88話

 ついに追いつかれてしまった。

 というのは少々おかしいかもしれない。何せ、この試合の中においてはほとんどの時間において江ノ高が攻めていたのだから。ずっと攻めていたのは江ノ高。しかし、数少ない攻撃において活路を見出し、同点に追い詰められてしまった。まだ時間はあるが、相手が遠野だということもあり、江ノ高メンバーの表情は硬くなっている。

 特に、堀川先輩なんかは顔面蒼白といってもいいぐらいに真っ青だ。

 

「先輩、気にせずいきましょっ!」

「う、うん……でも」

「でももかかしもないっすよ。俺たちは勝負事をしてるんです。相手がPKを決めてきたとしても、そりゃもう、仕方ないんです。俺たちだって全力ですけど、向こうも全力でやってるんですから。切り替えていきましょ!」

「……うん」

 

 まだ不安そうな表情をしている先輩に、さもありなんと一人納得する。

 同点に追いつかれてしまった今、ここで堀川先輩に崩れられてしまうのは江ノ高にとっては非常に痛いのは目に見えている。ただでさえもう交代枠を使っているのに、ここでまた交代となるのはキツイし、何よりキレッキレのスライディングで相手選手の攻めを脅かせるような堀川先輩の替わりになるような選手はいないのだ。

 

「何だったら、全部俺に回しても良いですよ」

「え?」

「俺が、やり返すって言ってるんすよ! だから、先輩は安心して俺にボールを回してください。適当にボールを上げてくれれば、そこに走っていくんで」

「は、ふふ……わかったよ。なんとか頑張ってみる」

 

 暗い顔をしていた堀川先輩だったが、やっとのことで笑みを浮かべてくれた。それが張り付いただけの笑みだとしても、さっきまでの暗い雰囲気でいられるよりかはましだった。

 スポーツの世界なんて、いつ何が起ころうたって不思議じゃない。そこまで実力差があるとは思えないが、マイアミの奇跡だったあるし、ロスタイムだってあるんだ。まだまだ時間はある。……だからといって慌ててないわけじゃないが。

 今までの江ノ高の攻めは遠野にシャットアウトされてしまったわけだが、そのほとんど……と言うか、全部俺が直接シュートを放ってたわけではないし、まだチャンスはある。こうやって俺が言うのも変な気分になるが、まだ俺の本気を見せちゃいないんだ(白目)

 

「しゃぁっ!! しまって行こぉぜっ!!」

『さぁ! 同点弾を決められてしまった江ノ高ですが、これからどう打開していくのか! 守護神遠野の守りを超え、得点を決めることが出来るのでしょうかっ!?』

 

 さて、江ノ高からのキックオフ。

 流れは完全に四日市の方にあるといっても過言じゃない空気だが、何とかしてその流れをこっちに持ってくるしかない。そうなると、やはりここでどうにか1点取っておきたいんだが……

 まずはバックパス。

 ボールを受けた荒木先輩は、そのままボールを俺の足元に返してきた。さすがにここでのワンツーは想定してなかったんだが? と思いつつ荒木先輩を見ると、口角を吊り上げるように笑みを浮かべていた。

 ……つまり、このまま俺一人ドリブルで突破してみせろと?

 

 ――良いだろう。やってやらぁ……

 

『さぁ、不知火選手にボールが渡り……なんと、そのまま前を向いてドリブルだぁ!! 静名学園との試合で見せた脅威の足技をここでも魅せてくれるのかっ!?』

 

 上げる上げる。

 鰻登りどころか登竜門を登り切って竜に化身した鯉みたいな勢いで俺のことを持ち上げてくる。とりあえず問題になるのが四日市のディフェンスの壁の厚さだよなぁ……(ゼロ)トップなんて言われるぐらいまでFWが下がってることだな。

 つまり、俺はそれだけ多くの人数を相手にドリブルを仕掛けることになるってこった。……無理難題すぎひん? 

 

 しかし、もしかしたら俺が一人でドリブルを仕掛ける事に対して憤慨を覚えて突撃してくる相手選手がいるんだったら事は楽に運ぶ。まぁ、それも最初の一人二人までが限度だろうけど。

 あとは警戒してプレスをかけてくる相手の裏をかいてパスで攪乱して攻めるのもありだが……まず一人目。

 

『中央を突破していこうとする不知火選手を止めようと若宮選手が果敢に仕掛けようとするが、ここは緩急をつけたドリブルであっさり突破! 真っすぐゴールを目指して進んでいくっ!』

「相手は不知火だ! 一人で突っ込むんじゃない!」

 

 めんどくさい。

 常に相手チームが連携してかかってくるようになったのはメンドクサイの一言だ。さっきFWになったときはまだここまでの警戒心を抱いてなかったのに、同点になって希望が出来たからこそ警戒しているんだろうか。

 何にせよ、この包囲網を突破しないことには前には進めない。

 

 ……とりあえず、サイドにボールを蹴って様子を見よう。

 

『あっと、ここは無理をせず左サイドにボールを出しました! 不知火選手が真ん中にいることで四日市高校の選手は若干中央に寄っているように見受けられます。左サイドを逢沢選手が悠々と上がっていく!』

 

 俺に意識が集中していた四日市選手は慌てて駆のマークに付こうとするが、一足遅いとばかりにMFラインを突破する。中央には俺がいるものの、数人のDFがマークに付いている状態だ。しかし、逆サイドでは薫も上がっているが、そこまでマークは厳しくない。

 

『φトリックだぁっ! 逢沢選手、ここでDFを一気に突破っ!!』

「おぁっ!!」

「何っ!?」

 

 ペナルティエリアに入ったばかりの駆だが、DFを躱してすぐにシュート体勢を取っていた。これにはさすがに遠野も驚いただろう。今まで何度シュートしようが弾いてきたのを目にしていたんだ。まさかなんの捻りもないド直球で来るとは思ってもなかっただろう。

 

『逢沢選手、ここでシュートォ!! ……が、これは大きく枠を外れて――』

 

 直感的に走り出した。

 あれだけ鉄壁の守りを見せていた遠野を相手にストレート一本勝負ってのは些か熱が入りすぎている。だから俺は、ただ自分の直感だけを頼りに勢いよく飛びあがった。

 

「おぉぉっ!!」

「なっ!?」

『な、なんと不知火選手が飛び上がったぁぁっ!!』

 

 中々の速度で飛んでくるボール。

 駆が蹴った位置から目測で1秒にも満たない時間でここまで到達するだろうボールだが、直感に従っただけあってジャストタイミングで飛び上がっていたらしい。しかも、周りのDFが誰も対応できないぐらいの高さ。

 弓なりにしならせた体。目の前に迫りつつあるボール目掛けて一気に頭を振り下ろした。

 

「ぉあぁっ!!」

「ぐぅっ!?」

『なな、なんと不知火選手、逢沢選手のシュート性のボールをそのままヘッドで合わせたぁ!!』

 

 あまりのボールの勢いに脳みそを直接揺らされたような感じがしたが、負けじと頭を振り下ろした。ただ真っすぐ頭を振り下ろすだけでは枠の右側へと逸れていきそうだったため、若干斜め左に叩きつけるような感じ。

 ドゴッと大きな音を立てたボールは真っすぐゴールへ向かって飛んでいく。

 遠野もすぐさま反応して腕を動かしていたが、途轍もない速度で飛んで行ったボールには指を触れる事も出来ずただ見送るしかなかった。あそこでミスシュートを蹴ったと勘違いさせるようなパスを出す五感には驚きを隠せない。

 その五感も本当に感じて蹴ったものなのかどうかも後で聞かないとわからないし、いざそうだと耳にしてもホントの事だと信じられるとは思えない。こうして自分で考えをまとめておいてなんだが、ほんと、チートって怖い。主人公補正なるものがあるんだったら俺にも分けて欲しいくらいだが……

 

 バス!! シュゥゥゥ……

 ネットに突き刺さったボールはネットとの摩擦音を奏でている。まさかのヘッドに口を開けて呆けている遠野を見て、思わず左手を高く突き上げた。

 

『ゴ、ゴォォォォオオオオルッ!! な、なんという衝撃的なゴールでしょうか! シュートのように思えた逢沢選手のボールを、まさかヘッドで合わせるという荒業にはさすがの守護神、遠野選手も反応できなかったぁっ!!』

「うぉぉっ! なんだよ今のシュート!」

「さっすがっ!! ほんと意味わかんねぇ奴だなおいっ!!」

「あたっ、いで、いでっす。……あざっす」

 

 後半も30分に差し掛かろうとしているところでのシュートは値千金と言ったところだろうか。四日市にPKでゴールを決められてからは遠野の守備力の高さに暗い雰囲気を漂わせていた江ノ高メンバーだったが、これで士気も向上したはず。

 ……しかし、面と向かって褒められてるかどうか微妙な言葉が多かったが、それでも照れるものは照れる。

 

 ――さて、これから四日市はどう反撃してくるだろうか。

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